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有馬 次宗 (裏)    07.14.2007


 「あ…も……だめっ!!」

激しく腰を打ちつけながら次宗さんは休む間も与えずあたしを攻める。

あたしは、思わず彼の背中に廻した手に力を入れて爪を立ててしまう。

指先を這わせる度に、硬い筋肉質の体中に走った蚯蚓腫れのような刀傷跡の感触を感じる。

これも…道場でついたのかな?

痛そう…。

いつかだったか弟の惟宗さんが、次宗さんは有馬流の道場では二番目に強い、と言っていた。

ゆとりのある笑顔の下の、負けず嫌いで正義感の強い人間性は一緒に居ればすぐ分かる。

きっと武人として、幾つもの戦いを経たに違いない。

あたしは快感で朦朧とした頭の中でそんな事を考えていた。

お互いの汗でべっとりと吸い付く素肌を。

熱く重なる呼吸を。

お互いの鼓動を胸に感じながら、あたしはつかの間の幸せを感じていた。

けれど。

今日は、何かが違った。

直感で、分かった。

次宗さんは、いつもより時間をかけて一つ一つの行為を確認するようにあたしの体を堪能しているようで。

そう確信したのは、彼のこの一言だった。

「お前の中で…果てたい……。…いいか?」

あたしの髪に顔を埋めながら、次宗さんは哀願した。

どんな事があっても避妊処理を欠かさなかった次宗さんが、だ。

抱かれながら、あたしはぼんやりと考えた。

今日は本当にどうしたんだろう?

あたしが無言でいると、彼はそのまま体を大きく硬直させ、そして吐息を吐きながら弛緩した。

その瞬間、あたしの中で熱いものが弾けた。

それは長いことあたしの奥で逆流して…。

 

 

 

「ありがとう。」

呟くような小声が聞こえたと思ったら、暖かいものが一滴ポタリと上から落ちてきてあたしの頬を掠った。

「…え?」

汗か涙か。

それが何であるか確認する前に、彼は頭をあたしの黒い髪に埋めてしまう。

ぎゅっと抱き寄せて。

そして一言呟いた。

「木蘭…お前を愛している。」

心の臓が、口から飛び出すのではないかと思った。

「え?次宗…さん?」

アイシテ・・・ル?

胸の中で、彼の言葉を反芻した。

次宗さんはあたしの髪の毛に熱い口付けを這わせながら、もう一度呟いた。

「愛している。……お前は…俺の事をどう思っている?」

唐突な質問に、あたしは戸惑いながら。

でも、はっきりと。

「木蘭も、次宗さんに始めてお会いした日から慕っておりました。」

ついに長いこと内に秘めていた想いを告げることが出来た。

「そうか…良かった…。」

大きくついた溜息があたしの首筋に生暖かくかかる。

彼がどんな顔をしているのか見たくて、横を向こうとすると。

「暫くこのままでいてくれ…。」

あたしの髪の毛に顔を埋めたまま次宗さんは切ない声で頼んだ。

「お前が…俺の息子とそう変わらない歳なのも知っている。…いい歳こいて歳若いお前に熱を上げている愚か者だという事も知っている。だが…。今の問題が片 付いたら…俺が松田屋の主人に話してお前の借金のカタをつけよう。その為だったら何でもするつもりだ。だから…俺の所に来い。いいな?」

まだあたしの中に入ったままの彼はぴったりと体を密着させ、あたしを強く掻き抱いたまま微動だにせず耳元で熱く囁いた。

今の問題……?

どういう意味なんだろう…?

あたしは、何か引っかかりを感じながらも、それ以上の喜びに押しつぶされそうになりながら返事をした。

「はい。」

その言葉を聞いて、彼はやっと顔を上げてくれた。

印をつけるかの如く、あたしの唇に熱い接吻を落とす。

あたしたちは、舌を絡ませながら暫しお互いの味を味わった。

唇が離れると。

次宗さんは至極真面目な顔であたしに問うた。

「お前の髪を一房くれないか。守り代わりに持つ事にする。」

あたしの髪を一房手に取って、愛しそうに口付けた。

「髪?守り?何で?今日の次宗様ちょっと変だよ?」

と心配声のあたしを無視して。

次宗さんは再びあたしの中の熱い自身を動かし始めた。



 

長いようで、短い夜だった。

 
沼地の湿風    07.14.2007

沼地の湿風 
 




 金、紫、緑のビーズが飛び交う喧噪の中。
色取り取りのデザインの御輿と、美しく着飾った人々が目の前を踊りながら通り過ぎていく様を見つめながら。
マルディ・グラ。
人込みの中で一際目立つ、美しい二人。
手には紙コップ。
その中の泡だった琥珀色の液体。
深みのある青い両目を細め、今風の、無造作に立ち上げられた黄褐色の髪の毛先で遊びながら、美しい男は隣の褐色の肌をした美少女に微笑みかける。
「どうだい、随分と変わっただろう?ハンナ、君が居た頃にはこんな祭りがあったのかい?」
ハンナと呼ばれた女は声の主の方に振り向きもせず、ただ、小さく首を振りながら口元を少しだけ引き上げて、引きつった笑みを浮かべる。
それでも。
整った顔立ちは神秘的な美しさを秘めていた。
「また…戻ってきたなんてね。」
「何年ぶりだろうね。」
「…さあ?」
「何百年ぶり、と言った方がいいのかな?」
男はハハハと笑いながら、こちらに向かってくるビーズを力いっぱい投げ返した。
「君は目立つみたいだね。君に向かって御輿の上の男たちがもう首にかけられない程のビーズを投げてくるよ。そろそろ、ここを離れてどこかへ行こうか?」
気遣わしげに彼女の肩をそっと抱くと、彼は彼女を守るように人垣を掻き分けて喧噪から離れた。
彼女はパレードの間中、ずっと考えていた。
この、全ての始まりを。
 
 
 

 ハンナは走っていた。
泥まみれになり、時には食料や馬を盗み、人の目を欺き、餓死しそうになりながらも、ルイジアナの、この沼地が広がる森を何日も素足で駆け抜けた。
胸の中には、たった一つの望み。
生き延びて北へ行く事。
北へ行けば、人間として、人間らしい自由が手に入ると信じて。
昼間はビクビクしながら身を隠し。
夜は足音を立てないように気をつけながら暗い闇の中を移動して。
隠れ馬車に乗り込み。
時には非情な輩に騙され、望まない男の相手をしながらも。
彼女は北を目指した。
クワドルーン。
大プランテーションの主である白い父親と、混血の黒い母の血を引いて、彼女は幼い頃から神秘的な美しさを漂わせていた美女だった。
その血のお陰で、読み書きも習う事が出来た。
過酷な労働に耐えながらも、教養を身に着け利口な少女に育った。
それでも。
ここにいれば一生身分は同じ。
差別を受け、虐待に耐え、辛い想いを抱えながら生きて行かなければならない。
親しかった友人、仲間との別れ。
貧しいけれど優しかった黒い祖父母を置いていくのは辛かった。
一人で逃げ出すのは、体の震えが止まらないほど恐ろしかった。
けれど。
彼女は自由が欲しかった。
 
 
 南を駆け抜け。
東のアンダーグラウンドを通り。
ハンナはどうにか生き延びた。
東には、心優しい人たちが大勢居て。
彼女のような人間を、屋根裏に何日も匿ってくれた。
 
 
 でもある日。
とうとう彼女は捕まった。
南からの逃亡者。
その罪は重い。
体中が腫上がるまで、白い手で拷問を受け。
体中の感覚が無くなるまで、屈辱を受け。
浅黒い肌に幾つもの鞭の痕が残り。
苦しみに耐えながら。
それでも、彼女は生き延びたかった。


 死にかけていた彼女を、この男が助けてくれた。
縄で縛られ、街で晒し者となっていた彼女の口に。
そっと一切れの干し肉を押し込んだ。
「これを食べて元気になったら、ドミニク・ケンドリックを探しにおいで。シカゴで有名な酒造店を営んでいるから。」
上品な身なりと、洒落た帽子の下から覗く青い瞳が印象的で。
何事も無かったかの如く、その男はステッキを振り回しながら待ち合わせた馬車に乗り込み、さっさとその場から姿を消した。
もう何日も食べ物を口にしていなかった彼女は、その固くて不味い干し肉をそのまま飲み下した。
 
 
 
 不思議な事に気付いた。
逃亡者への罰は、死。
昨夜人前で喉を裂かれて死んだはずなのに。
彼女は街のはずれに重ねられた躯の中で、目を覚ました。
彼女の体は。
つけられた体中の傷痕も。
裂かれた喉も。
そればかりか、幼い頃つけた膝の傷痕も。
全てすっかり消えていた。
気力を振り絞り。
蝿と鼠が漂う腐臭の山を掻き分け。
そこから再度逃げ出した。

 
 
 

 フリーウェイを走らせながら隣の男、ドミニクは元気に鼻歌を吹きながらラジオのチャンネルを弄っている。
彼が探しているのは今話題のポップを流すロックステーション。
ハンナは彼がチャンネルを変える度に耳に響く雑音に整った眉を顰めていた。
「あの時、俺が助けなかったらハンナは死んでいたんだ。」
突然。
ポツリとドミニクが呟いた。
「そうね。」
ハンナは小さく頷く。
この男は。
彼女が彼を探し出して以来、彼女を放さず。
ずっと行動を共にしていた。
一箇所に留まると、老いがない彼らを周囲の者は奇異の目で見てくる。
だから。
何度も何度も場所を移動し。
何度も何度も身分を変えながら。
彼女たちは生き続けた。


 白い男と黒い女。
美しい二人。
ベッドの上で。
彼は良く口にする。
「俺はね。ずーっと運命を共に出来そうな人間を探していたんだ。生に対して執着心がある、美しい女を。もう、この六百年近い時の中を。」
何故、彼女なのか。
彼が、人魚の肉を与えた時。
彼女の人生は終わった。
その辛い人生から解き放つ事が許されて。
けれども。
彼女が、人魚の肉を食べた時。
彼女の人生は始まった。
それは、終わりを知らない新しいゲームで。
そして、それは悲しみの始まりでもあった。
「あの時の君の瞳が…無視出来なかった。不思議だね、何百何千と罪人を目にしてきたのに。死に掛けた女達を見て来たのに、君だけは助けなければと思った。 土と埃と、血に塗れた君を無視できなかったんだ。…今はもう、俺は君なしではやっていけない。お願いだから、俺を置いていかないでね…。」
運転席から助手席に向かって手探りで彼女の手を取って。
口元に引き寄せて、口付ける。
しかし、彼女は嘲笑う。
「どうやって逃げるの?死ぬ事も出来ないのに。」
彼の手を握りながら。
ふと考える。
そう、死ぬ事は無い。
どんなにもがいても足掻いても。
それでも、二度と歳を重ねる事のない体。
どんなにもがいても足掻いても。
朽ちる事のない、この命。
どんなにもがいても足掻いても。
逃げれば、地の果てまでも追いかけてくるこの男。
自由を手にして。
使い切れないほどの財を有し。
それでも。
この運命から逃れたいと願う自分が居て。
そっと口にする。
「私はずっと…。」
逃亡者。




 
東に向かってフリーウェイを走る車窓から、生温い風が入り込んできた。




何百年か前に彼女の頬を掠った湿風だった。



Behind these silver eyes Ⅱ




 「相変わらず変態オヤジだな、鷹男は!」
佐々木翠は赤いアンダーウェア姿になると、俺の注文に文句をつけた。
「何がだ。顔がサルのように赤いぞ」

ホテルの翠の部屋になだれ込むと、俺達は荒々しくお互いが身に着けていた物を剥ぎ取った。
お互い下着姿になると、俺は以前のように
「ベッドの上で足を開き、俺に見せろ」
と命じた。

佐々木翠は長い足をベルベッドのシーツカバーの上に投げ出し、焦らすように赤い下着を脱ぎ去る。
ピンク色の花弁が顔を覗かせた。
「もう充分に潤っているようだな。触れ」
俺はベッド横に立ち、彼女が細い指をその花園に這わせるのを見つめる。
俺に見せるために、花弁の亀裂を左右に広げる。
潤っているそこは、それだけでクチャリ、と淫らな音をたてる。
「っふ……っ」
次に、上の方の堅くなっている蕾を中指で上下に擦った。
「んあっ………」
小さくブルッと彼女の体が震える。
彼女の指は、暫くそこに集中していた。
「俺の事を考えながら、そこに触れていたのか?」
俺は穿いていた下着を取り去り、はちきれんばかりの分身を握る。
「………。そ、そうだよっ……んんっ…」
中指だけだったものが、人差し指と2本で小さな蕾を摘んでいる。
そして、撫ぜ続けている。

彼女の花園から溢れ出している蜜を味わいたい、という衝動を理性で抑える。
が、手の中のモノは素直に反応を示す。
「……あんたもそうやって…触ってたのかよ。亀頭…濡れてんぞ……」

ああ。忘れていた。
これだ。
この女は俺に従うだけじゃない。

ただでは、起きない。

忘れていたな。
この感覚。

俺はベッド上の彼女の横に移動し、彼女の頬にピタピタと火照った肉棒を擦りつける。
俺の先端から出る露が、彼女の頬を濡らした。
「これが欲しいか?」
濡れた頬に柔らかな先端を押し付け、更に透明な滴を塗りつける。
翠が喉を鳴らした。
「欲しい……」
彼女は自身に触れながら、懇願するような唸り声を出す。
「まだだ」
俺はキングサイズのベッドの上の背もたれの前に座った。
「ここへ来い」
翠は指を濡れた場所から抜き取り、膝を突いて俺の前へ素直に移動した。
向き合っている状態から彼女の体を反転させ、両膝の下から腕を伸ばし抱えあげる。
胡坐を掻いた俺の上に、まるで赤子が小水をする時ような格好で佐々木翠が納まった。
「なっ……なんだよ、この体勢はっ!!」
思い切りM字に開かれた足に、彼女が腕の中で暴れる。
「俺もお前も、お前が良く見えるだろう」
彼女を押さえつけながら膝下の腕を伸ばし、無防備に曝け出された花園へ指を這わせた。
チュプッと、いい音が鳴る。
「ああっ!!た、鷹男!」
自慰で充分に濡れそぼっているその場所は、俺の指を難なく受け入れる。

彼女の尻に密着している分身は、その中に入りたくて堅く張り詰めたままだ。

だが、まだ駄目だ。
時間をかけて、味わうとするか。

「はああああっ………そこは、やめっ…」
「やめてもらいたいのか?こんなに濡れて淫らな音を立てているのにか?」
「んあっ……ぁあっ…」
左手で上の方の固くて小さな蕾を弄り、右手の中指を蜜壷の奥深くに突き刺す。
そして、そのまま出し入れを繰り返す。
「こんな……体勢……はずかっ……うあああっ」
翠は頭を仰け反らせ、俺の指に反応している。
両手は、俺の膝についたままだ。
その手に力が入り、爪を立てる。
「どうした?出したいのか?出せ。俺に見せろ」

俺は執拗に、彼女が反応する場所を攻めた。
「ふっ……ああっ……っ……いやだっ」

彼女は我慢をしているようだ。
女の絶頂は失禁と感覚が似ている。

「何が嫌なんだ?俺に止めてと請えば、やめてやる」
言いながら、指をパラパラと動かし続ける。
クチャクチャと淫らな音は、更に粘着質なものになっていく。
「やめ……んな。んああっ……あっ……あっ……あっ……」
そろそろ、だな。
強く彼女の反応する場所を指で弄る。
「あ、あ、ああああああ!!!!」
ぶるっ、と大きく翠の体が跳ね上がった。
同時に、俺の手と足にぶわっと飛沫が跳ね上がる。

「まだ、終わりじゃないぞ」
彼女の体が弛緩するのを見届けると、俺は彼女を膝で抱え、疼いていた塊で一気に貫いた。

「うあぁぁぁぁっっっ」
俺に串刺しにされた翠は、声を上げ堅く締め付けた。
「うっ………」
千切れそうなその熱さと狭さに、不本意ながら声が漏れる。
「俺が……見えるか?」
彼女の膝を抱えてゆっくりと上げ下げしながら、肩越しに繋がれているその場所に視線を落とす。
「んっ……見え……るっ…あっ…」
「どうだ?……俺に……っ…貫かれている気分は?」
「すっげ……ああっ…ん……サイコ……っあああ!」
彼女の言葉を聞いて、一段と強く突き上げる。
「もう……ここに……俺以外の奴は入れるな……いいな?」
「はあっ……ば……か……ああっ……当たり……前だっ……」
訊ねながら、ピストン運動を速める。
「その代わり………こいつは………お前のもの……だ」
俺は激しく突き上げ続けた。
クチャクチャとした愛液の混ざり合った淫らな音が、広い部屋の中に響き渡る。

限界が、近い。
「あああっ……鷹男っ……俺……また……あああああっ」
翠の声が朦朧とした意識の中で聞こえた。
「くっ……翠!……翠!!ああっ」
俺も自身を解放する。
4年分の想いを、注ぎ込む。
彼女の中を、熱く満たした。


栓をしていたものを抜き去ると、白濁した液が彼女から溢れ出した。
太ももを伝い、俺の足に零れる。
そのあまりの量に、我ながら驚いた。
盛りのついた10代の若造か、俺は。
自嘲気味にそれを眺める。

「いいのか?」
タオルで自身と俺を拭いながら、翠が訪ねた。
「避妊の事か?構わない。お前はもう俺のものだ。違うか?」
銀の瞳の主は、俺を不思議そうに眺める。
「いいのか?」
「同じ質問を繰り返すな。今になって気が変わった、と言っても遅いぞ。俺の中では決定事項だ」
はっはっはっは、と色気の無い笑い声が響き渡る。
「気なんて変わってねえよ。でも、あんたの変わりようにびびっただけだ。言っとっけど、あんたも俺のもんだって、忘れんなよ」
言いながら、佐々木翠はタオルで拭き取った場所に再び舌を這わせた。
俺を見上げながら、魅惑的に彼女の2つのシルバーが輝く。
「忘れるか。お前の帰る場所は、これから俺のいる場所だけだ」

俺は彼女の与える快感に身を委ねた。







 誰かがカーテンを開けたらしい。

俺は隙間から零れ入った朝の光で目が覚めた。
上下アンダーウェア姿の翠は、ベッドの横で手を組んで俺を見下ろしていた。
そこで昨夜の甘美な夢が現実だったと思い出す。

「何時だ?」
「8時。門田社長はご出勤のお時間だろ?」
確か10時に会議があったはずだ。
ぼんやりとその会議の議題について考えを巡らせていると、翠が突然腹を抱えて笑い出した。
「つーかあんたの寝起き初めて見るぜ。……ってか、前は夜ヤッたらとっとと俺を追い出してたよな」
俺は体を起こし、乱れきった髪を後ろへ撫で付ける。

10時、か。
あと1時間は、余裕が有る。

「ここ10年以上、どの女とも朝を迎えていない。厳密に言うと、学生の時以来だな」
「俺が10年ぶりにお前の寝顔を見た女か。嬉しいぜ」
翠は馬鹿正直に、満面の笑みを俺に向ける。

朝の太陽の光と交差するそれは、あまりにも眩しい。
俺はそんな彼女を引っ張り、ベッドに押し倒した。
「性的興奮を高める薬が必要か、もっとお前に証明する必要があるらしいな」
彼女に覆いかぶさり耳朶を齧りながら、囁く。



一晩などでは、到底足りない。

4年も俺を待たせたこの魅力的な女には

一生かけて、その存在の価値と必要性を証明する必要がありそうだ。




このシルバーアイズの裏に隠された女の……佐々木翠という人間の価値を。


 
<完>




あとがき:(文字反転してくださ
このお話はとある読者様の「鷹×翠が読みたい!」とのリクエストにおこたえして一気に書き上げた、もう1つのエンディングです。やっぱ短編って...楽だわぁ。鷹男ファンの皆様に喜んでいただけたら幸いです!
仁神堂XXX    07.16.2007
仁神堂X”



 「今回は…これだけでは済まないかもしれませんよ…?」
「やめないで…。」

私はベッドの横で複雑な表情をしている仁神堂の首にまわした手に力を入れて、引き戻した。
また、激しいキス。
最初に舌を差し入れてきたのは仁神堂で、私の口腔内をゆっくりと弄った。

(この男は、どんな体をしているのだろう?)
歯の裏を優しく舐められると、下半身の疼きが一段と増した。

キスをしながら、仁神堂はキングサイズのベッドの上に移動した。
左手が服の上から私の腹部や太もも、腰あたりを撫で回す。
常に私の痛んだ足首に負担がかからないよう、配慮してくれていた。

「不快ならば、いつでもやめますので…。」

耳元でそう熱い吐息交じりに告げた後、仁神堂の舌は私の耳朶を軽く舐めた。
耳は私の感じやすいスポットの一つだ。
それをいとも容易く探し当て、ぴちゃぴちゃと音を立てながら執拗なほど舐め回す。

「あっ……。」
不覚にも、快感の喘ぎ声が私の口から漏れた。
「耳が…いいのですか?」

低い声で訊ねてくる仁神堂を押し離して、Tシャツを脱がせる。
暇な時ワークアウトをしているらしい彼の体は、しなやかな筋肉が適度についた無駄のない綺麗な体をしていた。
彼の上半身に手を這わせる。
首筋から両手を這わせて鎖骨に触れて、胸筋のあたりを親指でなぞりながらわき腹を擽った。
仁神堂はビクッと体を震わせる。
私の手を優しく離した後上に乗っかって、今度は私のトレーナーを脱がせた。
下着を着けていないので形良く上を向いた白い乳房が露になった。
仁神堂の茶色の瞳が、それを暫く見つめる。

「あまり…見ないで頂戴。」
何故か気恥ずかしくなって胸を隠す。
「綺麗ですよ。」
言いながら、私の腕を解いて顔を胸に近づけた。
「あ…あぁッ…。」

片手で柔らかな乳房を揉みしだき、もう片方の乳房を軽く下の方から舐めあげる。
舌で頂を口に含み、チュッ、と音をたてて吸った。
その音が卑猥で、乳首が硬くエレクトする。
私は上半身を少し起こして、仁神堂の首筋にキスの雨を降らせた。

反対側の胸に舌を移動させながら、仁神堂の手はいつの間にか私の普段着のパンツズボンの中に侵入し、柔毛の上あたりを撫でていた。

ゆっくりと、しかし戸惑っているかのように指がその下を探索しようとしているのがわかった。

だが突然、その手が止まる。
胸の谷間から顔を上げて、仁神堂は私を直視した。
「…社長、避妊具は持っておられますね?」
「え?も、もちろんよ。」

私は快感の世界から引き戻された。
いつ岸さんが来てもいいように、ベッドの横の棚の中に常備してあった。
ああ、そういえば、岸さん…。
「…その棚の中にあるわ。」

仁神堂は体を離しベッドからいったん降りて、棚の中からコンドームを一つ取った。
上半身裸の仁神堂の姿は本当に美しい。

ベッドの脇から私達は情熱的にお互いの体を見つめあった。
「それを…脱いで頂戴。」
掠れた声で、仁神堂に命令した。
彼の穿いているスウェットパンツの前は既に欲望が膨張していた。
(やっぱり、人間なのね。このロボット男も……。)
「フフフッ…。」
いきり立った仁神堂を見て何故かおかしくなり、忍び笑いを漏らした。
仁神堂は再度私の上に跨り、方眉を上げながら
「…ご自分でお試しなされたらいかがでしょうか、社長。」
と言って、私の手を彼のウエストあたりに導いた。
私はわざと焦らして布の上から太ももの裏や内股をさするように撫でた。
仁神堂は目を瞑っている。
そして、おずおずと、躊躇いながら彼の中心部へ手を這わせた。

そこはもう形が分かるほど、硬くて熱く脈打っていた。

薄い布地の上から人差し指と中指を使って、つーっとその形を辿った。
仁神堂はまだ目を閉じたまま、深く吐息を吐く。
私はそれ以上待てなくて、彼のスウェットパンツを下に穿いていたトランクスごと引き下ろした。

形の良い、いきり立った仁神堂の男が飛び出した。
その熱く固くなったものの先端には既に透明の小さな雫が浮かんでいた。
そこにおずおずと人差し指を当てて、先端の柔らかい部分全体に塗り付ける。
そして、優しく竿の部分を握って、上下に擦った。

「………。」

長い睫毛に縁取られた茶色の目が細められながら見下ろされ、私の髪の毛を撫でる。
私は右手で擦りつけながら左手で柔らかい胞子袋を手のひらで包み、おずおずと口を先端の割れ目につけた。
チロチロと舐めてみる。
「…っつ…。」
ビクン、と体を震わせ、仁神堂が小さく声を漏らした。
見上げると、再び目を閉じて上を向いている。
(やったわ、この冷徹男が感じているわ!)

なぜだか清々しい征服感が私の心を満たしていく。
一番先端の小さな穴からはまた小粒大の透明な雫が出てきた。
私は試しに先端だけ口に含んだ。
「社長…次は、貴女の番ですよ…。」
先っぽをすこし吸っただけなのに、仁神堂は私の肩を押し離した。
「えっ…?」

頭を上げて仁神堂を見つめた。
一瞬今日は無駄毛の処理が甘いかも知れないし、シルクのランジェリーではなくて木綿の下着を穿いていた事を思い出して戸惑ったが、そんな私をよそに仁神堂は腰を屈めて私のジャージに手をかけ、一気に脱がしてしまった。

下半身に空気が触れた。

「……美しいです。」
何故か英語で小さく呟いて、私の首筋あたりを連続的に口付けた。
「あっ…ん…。」
仁神堂の手が綺麗にへこんだお腹を伝って柔毛を弄った。
指が一本、私の中に侵入して真珠を擦る。
「いやっ・・・ああっ・・・あ・・・。」
既に熱く湿っている花弁を確認するかのように左右に押し広げながらも、仁神堂は真珠を執拗に攻める。
時間をかけてそこを苛めた後、私の髪に一つ軽くキスしてから体を下のほうへ移動させ、今度は私の両足を
M字型に開いた。
「ちょッ…まッ…ぁぁぁぁ…。」

蜜で溢れた花園に顔を近づけて、ゆっくりと襞を舐め上げてきた。
言葉にならない快感が体中を駆け巡る。
何度も上下に舐めた後、そこに軽く暖かい息を吹きかけた。
そして、舌を禁断の洞窟に差し入れる。
親指は蜜をすくって再度私の真珠に擦りつけていた。

「うッ…あ…。」
暫くそこを探索した後、仁神堂はグッと私の腰を持ち上げた。
「あっ、駄目!そこは……。」
との私の抗議の声を完全に無視して、お尻の隠花にぺロリと舌を這わせた。
羞恥心で私の顔が赤くなる。
そんな私に気付いているのかいないのか、執拗に舌で弄び続けた。

「ああん…っあ…あああああ!!」
もう、限界だった。
私は電流が走ったように大きく体を震わせる。

絶頂に達してしまった。

仁神堂は、私がいったのを確認すると、花園から溢れ出た蜜を綺麗に舌で舐め上げてくれた。
 
「…用意はいいですね?」

仁神堂はベッド横に置いたコンドームに手を伸ばした。
素早く装着すると、私をうつ伏せにして腰を持ち上げ、後ろから時間をかけながら入ってきた。
「あ……。」

仁神堂で満たされると、咽から声が漏れた。
優しく、ゆっくりと動かす。
残念な事に彼がどんな顔をしているのか皆目見当がつかない。
「はあ…はあ…はあっ……。」
パンッ、パンッ、パンッと腰が前後に打ち付けられるたびに、彼の袋が私の花園を柔らかく包み込み、敏感な真珠にぶつかる。

仁神堂の動きは徐々に早くなっていった。

強弱をつけて突き上げられるたびに、喘ぎ声がでる。
遠雷が押し寄せてくるのを感じた。
「イヤッ、ああ……あっあっあぁぁぁ……。」
あまりの快感に絶頂に達した私を見届けてから、
「……いきますよ……。」
と仁神堂も深く腰を突き上げて大きく自身を奮わせた。




外は雪なのかもしれない。

冷え込んできたわなどと思いながらも、その後私の意識は一日の過労と疲労のせいで途絶えた。


聖夜を共にした男がいつ家に帰ったのかも知らない。

足首の袋に入った氷は既に解けていた。


ただ、朝起きたらベッドの脇にひとつ、エメラルドグリーンの小さな箱が置いてあった。

その小箱を開くと。
ティフ〇ニー製の小さな雫のネックレスが、素朴な輝きで私を迎えてくれた。





サンタクロースからの、クリスマスプレゼントだった。







仁神堂シリーズの次話へ戻られる方はココをクリック
落陽の紅葉 弐    07.17.2007
 一月後の夜。

本当にその日は、雲ひとつ無く星空が眩しいほど輝いていた、穏やかな夜だった。

ただ、それだけ鮮明に覚えている。

置屋の裏の厠で用を足した紅葉は、信じられない物…いや、者を見た。

置屋の屋根に。
満月を背に、黒装束姿の男が腕を組んでこちらを見下ろしていたのである。

目が合ったと思った瞬間。

「あ」
と声を出す間も無く、瞬きをする間も無く。


気づくと、紅葉の意識は闇の中へ埋もれていった…。





 何かを焼いている匂いで目が覚めた。
紅葉は体を起こし、辺りを見回す。
「どこ……ここは?」
女たちが忙しなく動き回っている置屋に居たはずの自分が、こんな…こんな囲炉裏しか無い殺風景で薄汚い小屋の中に居る。
障子戸やあちこち破れ、隙間風が吹き込んでくる。
体の掛かっている布団も、襤褸を縫い合わせたような薄手のもの。

私は……いや、あたしはどこに?

記憶の糸を手繰り寄せる。

確かあの満月の晩。

揚屋にて自分を待つ客のところへ赴く準備をする前に立ち寄った厠で……。


がらり、と障子戸が開いた。
「っ!!」
声にならない声が出る。
心の臓が口から飛び出るかと思うくらい、紅葉の体は大きく反応する。

今まで見た事も無いほど汚らしい、全身濃紺色の野良着姿の男が、何かの物体を手に掴んで戸口に立っていた。

咄嗟に、あの黒装束の盗賊の姿とだぶる。
「なっ……何者なの、あんたは?ここは…どこ?」
あまりの恐怖と驚きで、体に力が入らない。
紅葉は後ろ手で後退しながら、小屋に入ってきた男を睨み付けた。

紅葉に必死の問いには答えず、手に持っていたものをゴロリと彼女の方へ放ると、
「食うか」
と低い声で呟く。

紅葉は自分の足元に転がった物体を一瞥して、口を押さえた。
首の無い、恐らく血抜きされたらしい兎の胴体だ。
その哀しい動物の残骸から意図的に目を逸らし、草鞋を脱ぎ始めた男を凝視する。
「も、もし……あんたがおかしな事したら……し、舌を噛み切って死んでやるからっ」
着物の袂を手繰り寄せ、自分が襦袢一枚しか身に着けていないという事実に気づく。

男は紅葉の言葉を無視して、囲炉裏の前に腰をおろすと手早く火をつけた。

「し、質問に答えて欲しいんですけどっ。こ、ここは何処ですか?」
訊ねながら、紅葉は男を観察する。
「山の中の、庵だ」
男はそう短く答えると、ほっ被りを脱ぎ去る。
後ろで括ってある長い髪がはらりと舞った。

紅葉は息を飲んだ。

男がこちらを振り向いたからだ。

無精髭の男は。
女の紅葉が思わず目が離せなくなるほど、美しい顔立ちをしていた。

癖のついた流れるような長髪と大きく弧を描いた眉、そしてどこか哀しそうな眼が印象的だ。

紅葉はかつて客の男の一人が話をしてくれた『風姿花伝』を書き残した役者の男をふと思い出した。
絶世の美男だった彼は、時の将軍足利義満の前で仮面を被り、能を舞い、その仮面を取り去った瞬間、義光はその少年に恋したという。
その少年の名は、夜叉。
後年、世阿弥と名乗る男である。

紅葉はまるで、自分がその将軍にでもなったかのような錯覚に陥った。

「山?山って何処の?あたし、置屋で……」
「戻りたいのか?」
静かな声で、男は問うた。
炎に照らされた美しい顔が、青白く映る。
「も……」
戻りたくは、無い。
禿として働き始めた頃から、梅山という巨大な鳥かごから抜け出す事を夢見てきたのだ。
何度も脱走を試み、引き戻され、その都度借金が増し、冷たい罰と折檻を受けた。

彼女ら遊女がその鳥かごから逃げ出せる唯一の手段が、身請けである。
「戻りたくは、無いわ」
口から明確な意思を持った言葉が、吐き出される。
「ならば、良い」
男はそう相槌を打ちながら、再び薪をくべる。
「あんたは、誰?」
紅葉はそろそろと囲炉裏の方へ移動した。
まだ冬に入っていないのだが、蟋蟀の無く秋の夜は襦袢一枚の女の体には少し肌寒く感じる。
男は暫く口を噤み、そして片方の口角を上げ皮肉な笑みを浮かべ素っ気無く答えた。
「名など持たぬ」
なっ……。
「名前が無いなんておかしいじゃない?あんた人からなんて呼ばれてるの?名無しの権兵衛さん?」
男は肩を竦めるだけである。
「何の用があって、あたしをこの山に連れて来たの?」
紅葉は苛立ちながら、訊ねる。
「依頼だ」
依頼?
男の言葉に紅葉が眉を顰める。
「依頼って...誰の?」
鉄製の鍋を囲炉裏の中央に置きながら、竹に入った水と腰の皮袋から穀物らしき何かを取り出し、中に入れる。
と、男が立ち上がった。
何かされるのでは、と紅葉の体が一瞬硬直する。
が、男は先ほど放った獣の亡骸を拾い上げ、紅葉の問いに答えぬまま小屋から出て行ってしまった。



男が変わり果てた姿となった獣の小さな塊を外から持って戻ってくる
頃には、部屋中に充満する美味しそうな匂いを放ちながら鍋がコトコトと音を立てていた。
外は夕暮れ時のようだ。
橙色の太陽が部屋を照らしている。
獣肉を鍋の中に放った後、男は無言でまた小屋の外に出て行ってしまった。
しばらくすると、外で薪を割っている音が聞こえてきた。

目が覚めてからずっと力の入らなかった体を起こしてみる。
少し貧血気味になったが、何とか立ち上がれた。
寝ていた布団の隣には何故か地味な女物の着物が一式畳んで置いてあったので、躊躇無く袖を通してみる。

一体自分はどれだけこの小屋に居たのだろう?
どうしてここに居るのだろう?
依頼とは何なのだろう?
ふらふらしたが、何とか木戸まで辿り着いた。
ひょっこりと顔だけ外に出してみる。

男は、戸口を出てすぐの場所で作業をしていた。

夕焼け空の下、引き締まった筋肉を膨張させながら斧を振り下ろしていた。

腕を振り下ろすたびに、汗が飛び散る。

なのに表情一つ変えない。

その姿がなぜだかとても美しくて、紅葉はしばし男を見つめた。


「あ。」
こちらの視線に気がついて、男がふと顔を上げた。
が、また何事も無かったかのように視線を戻し、紅葉の存在を無視しながら薪割り作業を続けた。
「あのー。」
恐る恐る声をかけてみた。
男は顔も上げずに斧を振り下ろす。
見事に薪は真っ二つに割れた。

「あの、鍋が煮えたんじゃないかと思うんですけど。」
男は黙ったままだ。
暫く待ってみても、返事が無い。

なんなんだ、この男。

「勝手に食べちゃいますよー。」
紅葉は肩を竦めると、そう断ってから竈の方へ引き返した。
美味しそうな音を立てている鍋の中には獣の肉と何かの草が入った雑炊が炊かれていた。
だがどこを探しても、茶碗と箸が見当たらない。
途方にくれていると、程なくして男は薪を一杯抱えて小屋に戻ってきた。

それを部屋の隅の置いてから、竈の前に座る。
そしてどこから持ってきたのか、茶碗と箸を差し出してきた。




二人は無言で鍋を食べた。


A.S.A.P.    07.19.2007
仁神堂番外編『A.S.A.P.』



 Call me A.S.A.P.
~N~

「Call me As Soon As Possible(今すぐ私に電話を下さい)」
そのメモを専属のSPから手渡された私は、食後のカクテルワイン片手に談笑していた知人に会釈をして席を立ち、この短いメッセージの送り主に電話をかけてみた。

急いでかけ直したにもかかわらず、携帯は留守番電話サービスに接続されてしまった。

仕方がないので、今日一緒にディナーを楽しんだ古い友人に別れを告げ、私はメモの送り主の待つ私のコンドへ急いで向かった。






 デスクで書類の山に目を通しながら、慣れた手つきで署名をしていた彼女は、俺の一言でパッと顔を上げた。

「本当に?楽しみだわ」
俺達を取り巻くオーラが、一瞬閃光が走ったように煌めく。
彼女が滅多に見せない大きなスマイルを俺に向けたからだ。

いや。
正確に言うと、俺に向けた笑みだったが、俺への笑みではなかった。
それが他の男への笑みだと分かっているので、身体が僅かに硬直する。
「お食事は、ロッカフェラーセンター横のフレンチフュージョンの......」
「ルークレアーね」
「はい。午後8時に予約を入れておきました」
「仁神堂、有難う」
彼女は顔に笑みを称えたまま、俺から書類に視線を戻す。
社内では、未だ俺を苗字で呼ぶ英恵は
「今夜は遅くなるかもしれないわ。お話は.........後で」
と俺に伝える。

後で、とは『家で』という意味だ。
「畏まりました」
俺は湧き上がる感情を抑えるため顔を伏せ、軽く一礼する。

俺が踵を返し社長室から出て行くまで、彼女の口元に浮かんでいた笑みは消えなかったようだ。


 彼女の笑みがどうしても気になった俺は、自分のオフィスに戻り今夜の社長の相手の情報を収集した。
國本家と門田家とは家族ぐるみの付き合いがあるようだが、ざっと目を通した門田鷹男の経歴と彼の写真を見て、思わず顔がこわばる。

そのエキゾチックで力強い外見のみならず、英恵が好みそうな自信と魅力に溢れた男だ。

眼鏡の縁を押さえながら、考える。
何ヶ月もかけ、強敵に思えた岸氏から辛抱と忍耐で英恵を奪い得た。
彼女と安定した生活を送ろうと思っていた矢先、好からぬ人間が現れて全てを無にして欲しくなかった。

とりあえず、様子を見るとするか。

俺はデスクの上の書類を片し、久々に戻った本社で山積みとなっている仕事に取り掛かるべく、腰を上げた。






 ミーティングも兼ねたディナーでこんなに楽しんだのも、久しぶりだった。

BREEZEインターナショナルIncをアメリカで立ち上げ、その経営手管と広報術で日本生まれのブランド名を全世界に知らしめ、その地位をこの数年でゆるぎない確固たるものした私の古い友人は、私が最後に見たときとさほど変わらない魅力的な容貌のまま、お互いの共通した友人知人の話、会社経営についてなど、気兼ねない思い出話に花を咲かせた。

「紅が英恵さんのご活躍ぶりを聞いたらきっと驚きますよ」
「鷹男さんこそ。人を滅多に褒めない『あの』祖父が、鷹男さんの経営手管に舌を巻いておりましたわ。学生の頃KUNIMOTOに引き抜いておけば良かった、としきりに後悔していますもの」
「あの頃の私は、体力だけが取り得の若造でしたからね」
彼のお父様が祖父と親しい上、私と彼の異母弟が同じインターに通っていたせいもあり、私は彼、門田鷹男氏とは幼少の頃から家族ぐるみで親しい付き合いをしていた。

「まさか鷹男さんと、このNYでお仕事をご一緒するとは思いもしませんでしたわ。祖父に連絡を入れたら、とても喜んでおりました」
目の前の魅力的な紳士は、思い出よりも幾分厳しさの混じった笑顔で私に返す。
「まさか商品を共同開発するとは思わなかったようで、私の父も驚いていましたよ」
「でしょうね」
私もつられて笑顔になる。
「おきれいになられましたね。英恵さんに最後にお会いしたのは確か…」
「私がインターを卒業した年ですよね。鷹男さんはまだ大学に行ってらっしゃったから」
「そうでした」

まだ彼が、独身だと聞いていた。
ここ数年間NYの社交界で浮名を流してはいるという噂は、たまに耳にするけれど。

この魅力的な男性を落とせる女の人は、まだいないのかしら?

私だって仁神堂……いえ、浬(かいり)さえ傍に居なかったら、きっと彼の魅力に参っていたかもしれない。
そんな不実な考えが私の頭を過ぎり、苦笑する。

浬。

恋人の名前を頭の中で再度反駁する。

彼と結ばれてから数ヶ月。
やっと下の名前で呼び合っても不快ではなくなった。
私達としては、大きな進歩だ。
未だに秘書としての癖がプライベートでも抜けないのか、日本語での会話になると浬の言葉は途端に堅苦しくなる。

でも、もう慣れっこだった。

「何か良いお話でもあったのですか?口元が緩んでいらっしゃる」
観察眼鋭そうな黒い双眸を前に、私は肩を竦めながら言い訳する。
「最近犬を飼い始めて……とても利口な犬なんですよ」
「犬を、ですか?……どのような犬を?」
「えっと……ドーベルマン……のミックスで…」
「ドーベルマンは私も好きです。犬を飼うのは良い事です。彼らは飼い主に忠実で賢く、その上癒しを与えてくれる。毎日忙しくストレスを強いられている貴女には、必要な存在でしょう」
「ええ。癒されていますわ。鷹男さんはペットは?」

咄嗟についた嘘だったが、浬を犬に例えた自分が可笑しかった。

「犬はいません。獰猛な鷹……のような奴を一匹飼っているのでね」
「鷹を?」
「鳶(とんび)が鷹を産むという諺がありますが、4年で鳶が鷹になりましたよ」
「鳶が鷹に?鳶はタカ科ですわよね?それにニューヨーク州で鷹はペットとして合法的に飼えるのかしら?」
小首を傾げる私を見て、鷹男さんはくっくっくと心地よい低い忍び笑いをもらしながら続ける。
「いえ。違法ですよ。鷹のような野生の猫(ワイルドキャット)、と言っておきましょう」
「鷹のような猫……。きっと狙った獲物は逃さない利口な猫なんでしょうね」
「感情的で、時に飼い主に噛み付いたりする小生意気な奴ですが、自分を見ているようで不本意ながら手放せない存在になってしまいました」
ペットの猫に鷹男さんも癒されているのかしら。
彼の目元が優しい曲線を描いている。
「今度お時間があったら、是非とも拝見してみたいわ」
「貴女の犬も、お時間があればそのうちお目にかかりたい」
恋人を犬に例えてしまった自分に呆れ、心の中で浬に謝罪しながらも、私と話題を合わせてくれている目の前の友人と他愛ない会話で盛り上がる。

鷹男さんと談笑しながら、家で待つ恋人に想いをめぐらせていた矢先。

私は
Call me A.S.A.P.
と走り書きされたメモを受け取った。






 ブロードウェイの歩道から、私のコンドのある階を見上げた。
部屋の電気がまだついている。
SPに誘導されてリモをおりると、幾重ものゲートセキュリティーを抜けエレベーターに乗り込んだ。
最上階の自室でエレベーターのドアが開く。

「浬」
恋人はリビングで本を読んでいた。

私の姿を確認すると静かに顔を上げ
「おかえり」
と低い声で迎える。
「どうしたのかしら?『今すぐ電話しろ』なんてメモを受け取ったのに、浬、あなた電話に出なかったじゃない」
私は自分で着ていたスーツジャケットを脱ぎ、クロゼットに仕舞いこむ。


実際のところ、私は焦って家路についた。
突然浬から連絡が入るとすれば、十中八九会社についてだからだ。
そのうえ、A.S.A.P.(今すぐに)なんて文字がついていれば、何か大変な事があったに違いない。

株価に関連した事か、商品に問題があってマスコミが何かを取り上げたのか、人事関係か、はたまた東京本社で...いや、祖父に何か起きたのか。
「何か……あったの?私、これからオフィスに行く用意をした方が良いのかしら?」
マイナス思考のまま息咳切らせて帰宅した私を見て、落ち着き払った浬は笑みこそ浮かべはしなかったものの、その端整な顔の筋肉を少し緩めた。

彼はブックマークを挟み、パタンと本を閉じてカウチの前のテーブルに置いた。
そして、色が読めない事務的な声音で私に告げる。
「英恵の帰宅があまりにも遅かったので、門田様には申し訳無いと思ったのですが帰宅を促す連絡を入れただけです」

帰宅を促す連絡?
キョトンとしている私を見て、浬は眼鏡の位置を直す。
リラックスした家着を着ているのに、彼はいつも隙が無い。
シャワーを浴びたのか、髪の毛は少し濡れていた。

「それなら……別に緊急な用事は……無かったのね?」
脱力してそのままカウチに崩れ落ちそうになる私を、浬は立ち上がりながら支えた。

彼の逞しい腕に捕らえられた刹那、ふわりと石鹸と彼の愛用するコロンが混じった清潔な匂いが鼻を掠める。
浬の、仁神堂の甘い香り。

「まあ緊急…ではありませんが、もう午前2時近くです。仕事とは言え、こんな時間まで男性と2人きりで過ごされるのは、どうかと思います」
耳元で囁かれて、私の胸がひとりでに打つ速さを増す。

いつもより言葉が攻撃的な彼に、何故か動揺する。
まさか、怒っている?

「電話しても、貴方は出なかったわ」
『電話に出てしまったら、英恵は俺に色々と言い訳をして彼と一晩飲み明かしていたかもしれないし、こんなに早く俺の元へ戻ってきてくれなかっただろうから』
日本語から咄嗟に英語に切り替えて、感情を抑えた声音で浬は私の質問に答える。
「門田氏は魅力的な紳士な上、独身です」
また堅苦しい日本語に戻った彼に、私は落ち着きを取り戻し安堵の笑顔を向けた。
「鷹男さんは、古い友人よ。貴方も知っているでしょう?」
「男として...自分の縄張りを主張するのはごく自然な現象だと私は思いますが?」
まるで他人事か、第三者にでもなったかのように浬は言葉を足す。

つまり彼は、帰宅の遅い私を心配してくれていた。
不機嫌なのは、昔馴染みの友人とはいえ私が男の人とこんな時間まで出かけていたから。

そのシンプルな事実が、私は嬉しかった。

「それとも、私が感情や欲求を持った一人の男だという事実をお忘れですか?」
「忘れてなんかいないわ」
私は背伸びをして、背の高い恋人の唇にひとつキスを落とす。
「A.S.A.P.」
浬は情熱的な眼差しを私に向けながらも、小さく小首を傾げる。
焦らしているときの、彼の癖。

「浬が……貴方が欲しいわ。A.S.A.P.で」
私の恋人は、両手でそっと私の顔を包む。
色素の薄い瞳の中に、私の姿が映し出される。
「それでは…寝室に参りましょうか。……今すぐに」

As soon as possible





硝子細工のような茶色の双眸が閉じられて、私は彼のその静かで落ち着いた、心地よい温もりに包まれた。









この社長VS鷹男の鷹×翠バージョンも近日公開予定です!

FORTUNATE:フォーチュネート




 「あのね。あたし、子供が欲しいの。」
その一言が、俺の脳天を直撃した。
「だから、ね。早乙女君に種を提供してもらおうと思って。」
種??
俺は種馬なんだろうか?
「仕事以外で早乙女はやめてください。」
俺は努めて冷静な声を出した。
「わかった。じゃあ、今から晃(ひかる)君って呼ぶから・・・。」
そう言いながらかほりさんは無邪気に俺をキングサイズのベッドの上に押し倒した。

 俺は父親の口利きで、大学の小遣い稼ぎ兼社会学習も兼ねて知り合いが経営するインテリアデザイン会社にアルバイトとして雇ってもらっている。
働き始めて2ヶ月目のある日。
会社の社員でキャリアウーマンとして有名な坂本かほりさんに口説かれた。
歳の差8歳。
最初は、彼女みたいな年上の美人が本気で俺に興味を持っているという事実が信じられなかった。
「あたしね、子供が欲しいの。」
そう。この一言を聞くまでは。
「だって、あたしの知ってる男の中で彼女がいなくて、ちょっとトロくて、頼らなくても放って置いても全然大丈夫で、どう転んだって養育権を主張したり逆セクハラで裁判所に訴えたりしないハンサム君って君だけなんだもん。」
「…はあ。」
グサグサグサ。
はい。全部本当です。かほりさんは俺の性格を随分知ってるようだ。でもそこまで言われてハンサムと付け足されてもあまり嬉しくなかった。

「それに、あたし好みの綺麗な顔してるし。」
仰向けに寝かされた俺はTシャツを着たまま、かほりさんにされるがままになっていた。
ジーンズのジッパーが長い爪でジリジリと下ろされていく。

「顔の割には女性経験少ないし。大人しくていい子だし。…支配しちゃいたくなるタイプなんだもん♪」
こっちは脱がされてるっていうのに、かほりさんは仕事着のスーツのままだ。
化粧も完璧。
ジャケットまで着ている。
仕事が終わり、俺は今日も誘われるがままかほりさんのマンションに寄った。
関係を持ってからもう何度目かの逢瀬。

「あっ…っか、かほりさん!」
俺のジーンズを膝くらいまで引き下ろすと、青い綿のトランクスの上からかほりさんはそっと俺自身に触れた。
「あーあ、あたし柔らかいのが好きなのに、もう晃(ひかる)君のここは固くなっちゃってるっ。」
俺が反応しちゃってるのがさもいけないかの様にかほりさんは非難の声を浴びせる。
「え、ご、ゴメンなさい。」
って、自分は何も悪くないのについ謝ってしまう。

かほりさんは反応するまえのあそこの暖かくて柔らかい感覚が好きらしくって、終わった後も、俺が寝ている時ですら触ってくる。
こればっかりは男の生理現象で、彼女の滑らかな手で撫でられたり握られたりすると、意思に反して俺のアレも反応してしまうのだ。

「しょうがない。一回出してあげる。」
そう言うと、かほりさんはトランクスも引き下ろした。
「あ。」
下半身にすうっと風が当たる。

かほりさんは俺の両足を持ち上げて、ジーンズとトランクスを脱がせた。
上はTシャツで、下は真っ裸という間抜けな格好。
俺の膝をM字型に折り曲げると、かほりさんはベッドの端から、その長い睫毛に縁取られた大きな瞳で俺の体をジッと眺めた。

「かほりさん…なんか、恥ずかしいんですけど…。」
俺は何故だか急に羞恥心を感じて、無駄だと分かっていても、隠しきれないほど大きくなった自身を手で覆ってみる。
「うわあっ、晃君超エッチだよ。」
俺の手を優しく退けると、かほりさんは人差し指でチョン、と先端に触れた。

「…っあ…。」
生で触られて俺はブルッと体を震わせる。
俺が反応しているのを楽しんでいるのか、かほりさんは人差し指で円を描き出した。

「…かほりさん…。」
もっと触って欲しくって、俺は彼女の名前を呼ぶ。
「あのね。晃君のが今まで見た中で一番綺麗なんだよ。毛も薄いし、晃君のおちんちんって大きいし皮が無いでしょ。だから、すっごく形が良い。」
おちんちん…。
彼女の上品で形良い唇から零れたその卑猥な言葉が何故か俺の欲情をそそった。
そう。俺は海外で生まれた。
だから、生まれた時に包茎手術をしてあって皮が余っていないのだ。

そうっとかほりさんの手が俺の竿を握った。
「今日は何をしよっかな♪」
茶目っ気のある笑顔で微笑むとかほりさんは手の中の俺を強弱をつけて軽く揉みだした。
「うっ…かほ…りさん…ずるいっ……。」
体の神経全部がそこに集中してきている。

俺は、俺ばっかりこんな目にあっているのがいささか不公平な気がして彼女を非難した。
俺だってかほりさんの細くて白い体が見たい。
大きめの柔らかい胸に触りたい。
三角地帯に隠された秘花の熱さ感じたい。

「晃君は確か内股のあたりが弱いんだったよね。」
俺の抗議を無視して、かほりさんは片方の手で内股を撫でだした。
「っ…。」
悪戯な手は時間をかけてゆっくり、そろそろと上の方へ登っていく。
「あんっ…ぅ…。」
指が俺の袋の裏を軽くくすぐった。
いつの間にベッドの上に移動したのか、かほりさんは俺の股の間にいた。

無防備に広げられた足を更に大きく広げさせられる。
うわあっ、恥ずかしい…。
「晃君のおちんちんの下のボールって、精がぎっしり詰まってるって感じ。」
言いながら袋の皺をひとつひとつ確認して伸ばすように五本の指を駆使して撫ぜる。
「やっ…かほりさんっ…。」
片手は竿を。もう片方は俺の袋を執拗に愛撫しながらかほりさんは天使のような笑顔を浮かべ、小首を傾げる。

「晃君はどうやってイキたい?」
「く…あん……かほり…さ…んと一緒がいい…です。」
喘ぎの混じった途切れ途切れの言葉で返事を返した。
「最初は、駄目。いい子だったら2回目に入れさせてあげる。」
「ああっ!」
かほりさんは少し激しく、竿の手を上下に摩った。

「あ…ううっ…。」
気持ちがいいけれど、このままイキたくない。
下の分身はそんな意思に反してどんどん膨れ上がる。
「…?」
ふと突然、俺の下半身が解放された。
「あ、そうだ。晃君にこれ買ってみたんだけど。」
思いついたように、かほりさんはベッドから降りて引き出しの中から何かを取り出した。

人差し指と中指に挟んで振って見せる。
「…何ですか、それは…?」
目の悪い俺は眼鏡無しでは見えなくて、目を細める。
それでも、良く見えない。
「何でしょうね?」

フフフ、と含み笑いが聞こえたかと思ったら、今度はガサガサッと音がした。包みのプラスチックを開けているらしい。
放置された自身が空しい。
俺は突然虚無感を感じて味気なく思いながら自分の怒張した部分に手を這わせた。
強弱をつけながら上下に擦る。

「あらあら。晃君、あたしがちょっと目を離した隙に独りエッチしてるの??」
俺の目の前に影が出来た。
かほりさんが瑞々しいその唇でキスしてきたからだ。
「ん…かほりさん。」
果実のような甘さと弾力を、味わう。俺は堪らなくなって舌をこじ入れた。
暫くお互いの口腔内を隅々まで堪能した。

「ホント、全くもって君は掘り出し物だわ。」
切なそうに呟くかほりさんが欲しくて、彼女を引き寄せようとする。
「うわっ!」
と、その時。俺の尻に冷たい感触がした。
弾みで、自身の手の動きを止めてしまう。
「しーっ。落ち着いて。ただのローションだから。」
(嘘だろ??)
と俺の理性が叫んだ。
確かに。
塗られている場所は俺が今まで誰にも触らせた事のない秘所だった。

俺の、隠花。蕾。窄み。菊花。
かほりさんは体を離して再び俺の足元へ移動した。
俺の脚を再び広げる。
「たっぷりと塗ってあげるからね。」
かほりさんは俺の小さな穴付近をマッサージし始めた。
「……ちょっ…かほっ…ああ!!」
声が出る。
かほりさんの指は円を描きながら小さく窄まったその付近のマッサージを続けた。
禁断の場所を触られているという羞恥心とそれに反する快感で、体がブルっと震えた。

「だんだん柔らかくなってきた。」
つぷっ、と彼女の指が浅く侵入した。
「!!」
突然の異物感に、力を入れてしまう。
「コラッ。締め付けないの!!リラックスリラックス。」

入り口奥付近にもローションをたっぷりつけながら、指はそろそろと中に入っていく。
「い…痛っ!!」
「男なら我慢我慢。すぐに快感になるんだからね。」
かほりさんは俺を安心させる為か、俺の頭を撫でながら額に小さく唇を落とした。

俺は目を瞑って歯を食いしばった。
辛い部分を通り越すと、するりと奥まで入った。
「入ったよ。結構素質あるんじゃない、晃君?」
なんか…すっごい違和感だ…。
俺の体の中にかほりさんの指が入っているという事実に、何故か興奮が高まった。
指が中で動く。
俺の体の奥を探っているようだ。
同時に、俺の分身を口に含まれた。
「ひゃっ!かほりさんっっ!!」
これは、不意打ちだった。
後ろは指で弄られ、前は口で遊ばれている。
「あ…あんっ……く…!!」
かほりさんは絶妙な舌使いで僕を攻めた。
「君は隠花の喜びを分かってるみたいね。やっぱりあたしが目をつけただけあるわ。」

俺は彼女の巧みな技術に、ただ体を悶えさせる事しか出来なかった。
そして、その瞬間は訪れた。
「かほっ……さん…で…出ちゃう…い……いく…かも……。」
かほりさんの大きな瞳が、俺を優しく見つめた。
強く吸っていた口を離して、
「イってもいいよ。」
と言った。
「あっ…あっ…あっ…かほりさん!!ああああ!!!」
ドピュッ、と勢いよく俺の先端から熱い迸りが飛び散った。
俺の飛沫の欠片がかほりさんの顔に点々とかかる。
そんな事には動じず、かほりさんは目の前で俺が何度も噴出している様を満足気に眺めた。

「いっぱい出たね♪」
俺が出し終わるのを確認すると、かほりさんは腹筋とTシャツの上に広がった白い欲望を手で掬って舐めだした。
綺麗に拭い去ってくれる。

その間、彼女の指はまだ俺の中に入ったままだった。

「やっぱりちっちゃい晃君がいいな。」
暫く経って。
出し終わって後片付けを終えたかほりさんは、小さく収縮した俺を玩具の如く弄んでいた。
「かほりさん…。」
体を重ねる毎に、俺の中でかほりさんへの想いが募る。

 今まで、女性経験が無かったわけでは無いけれど、そんなに豊富と言える程でも無かった。
付き合った子が年下が多かったせいか、俺が女の子をリードしていた。
そう、かほりさんに会うまでは。
彼女は主導権を握りたがる。俺は素直に彼女のいう事を聞いた。

体を重ねる毎に、自分の知られざる快楽スポットを発掘され、開発される。
彼女の小悪魔的な美貌が堪らなく俺の欲情をそそった。
これが恋愛感情と言えるのかは分からない。
ただ、なんとなく、彼女になら何をされても良かった。

 会社でのかほりさんはいつも他人行儀で俺に接して、仕事関係の会話以外は一切してくれない。
他の男性社員やクライアントには笑顔を見せるのに、俺には視線すら合わせてくれなかった。
俺はたとえそれが仕事用のスマイルだと分かっていても、羨ましくて悔しかった。

だからそんな時、独り優越感に浸る為、ベッドの上で悶える彼女の姿を思い浮かべて空想の世界に浸る。
彼らの知らない彼女のスーツの下の、白い肢体を思い出すのだ。

 「じゃあ、これも入るかなぁ?」
僕を正気にさせる一言が降ってきた。
言いながらかほりさんが取り出したのは、細めの男性器を模った奇妙な突起の付いているアナルプラグだった。
暫くふにゃふにゃの俺で遊んでいたかほりさんはそれに飽きたのか、新たなアイデアが沸いたのか、手の物を振って小さく呟いた。

その横には何の為にかガムテープが置いてある。
「えっ…。」
細いといってもそれはかほりさんの指の一回りも大きい。
それに、ガムテープなんて…何の為に?
「そ、それは…ちょっと…。」
青くなって怖気づいた俺を見て、かほりさんは小さく「しょうがないなぁ」と呟いた。
「晃君、あたしの事どう思ってるの?」
聞きながら、かほりさんはスーツのジャケットを脱いだ。
「は?」
どきっ。
どうって、どういう意味で彼女は聞いているんだろう?
「だから、あたしの事ただの仕事場での先輩として見ているのか…。」
ブラウスのボタンを一つ一つ外していく。
「それとも、ただのセフレとして見ているのか…。」
黒いレースのブラが顔を覗かせた。細みな身体の上の白くて豊満な胸が、動くたびに優雅に揺れる。

「それとも、それ以上に好意をもってくれているのか…。」
ストン、と音を立ててスカートが下ろされた。
ストッキングを脱ぐとブラジャーとお揃いの黒いTバックのトンガが姿を現した。
丸く円を描いた丸出しの尻を見て、俺の分身へ血液が一気に逆流する。
「あらあら。今さっき出したばかりなのに、もう回復してるわ。」
一つに束ねられていた長い髪の毛を、フワリと解く。一瞬にして広がる花の香りが俺を酔わせた。
俺は魔術にかかったように彼女の瞳から目が離せない。

口辺に小さな微笑をたたえながらかほりさんは俺のTシャツを脱がせた。
「ねえ…どうなの?」
人差し指で露になった俺の乳首を撫でる。
「…あ…。」
敏感な場所を弄られてビクリ、と体が硬直した。
「あたしの事、好きなのかな?」
言いながらかほりさんは、焦らすように時間をかけてブラジャーを脱いだ。
後ろのホックを外したとたん、ブルン、と開放された胸が露出する。
先端が桃色に色づいている豊かな胸が近づいてきた。

触れたい。味わいたい。感じたい。
「かほりさん…。」
俺はその瑞々しい先端を味わいたくて、上体を起こした。
「あ……ん。」
俺が頂を咥えると、かほりさんが色っぽい声を出した。
吸ったり舐めたりして、刺激を与える。
空いている両手は、彼女のわき腹や半剥き出し状態の桃尻を行き来して、トンガに手をかけようとした。

「まだ駄目よ。」
かろうじて彼女の三角地帯を覆っている小さな布の塊に手をかけた途端、彼女は身を捩って俺から離れた。ベッドから降りてしまう。

「え…かほり…さん??」
きっと俺が物足りない寂しげな顔をしていたのだろう。
彼女は俺を慰めるように髪の毛を撫でた。
「そんな顔しないの、晃君。後で好きなようにさせてあげるから、ちょっとうつ伏せになって膝を立てて頂戴…。」
彼女は再び傍らに置いてあったアナルプラグを手に持った。
「まじ…ですか?」
聞き返しながら、うつ伏せになる。

彼女が再び俺の隠花にローションを塗りだしたので、俺は少し青くなった。
考える暇も無く、その時は来た。
「くわっ!あ…ああああ!!!!」
俺の蕾の入り口にそれが宛がわれた。
同時に、硬質な感触と、先ほどより激しい異物感と痛みが俺を襲う。
小さな襞を広げながら、それを強引に奥に挿れられる。
先ほどまで膨張しかけていた俺の男が萎え始めた。
「うう…くぅっ…。」
だが、思ったよりも蕾への痛みは短かった。
深々と差し込まれると、絶妙な位置に突起が当たって突然快感に変わったのだ。

かほりさんは俺の中でそれをグリグリと動かした。
「あ…あ…ふぁ…あっ……!」
恥ずかしい喘ぎが俺の口から零れる。
「すごーい、色っぽいよ、晃君!」
嬉しそうな声を上げると、彼女は何かで――恐らく、先ほどのガムテープか何かを尻の上から貼って――俺の尻のプラグを固定した。

「は…か、か、かほり…さん?」
いつの間にか全裸になっていたかほりさんは、うつ伏せの俺の目の前で四つん這いになってその白桃を突き出してきた。小さく窄まった隠花と、パックリと口を開けた花園が俺の目の前にある。

「晃君、舐めて…。」
愛しそうな声が聞こえた。
もう既に蜜が溢れている花園に俺は夢中でしゃぶりついた。
両手で尻を押し広げて、花弁を全開にする。
舌を差し入れたり指で糸を引く蜜を味わう。
彼女に、感じてもらいたい。
他の男には与える事の出来ない喜びを、分け与えてあげたい。

「あんっ…ふ……晃君…そこっ……!」
自分の後ろをプラグでせめられながら、前でかほりさんを征服する。
ふと考えて、俺のあそこが再びむくむくと頭をもたげてきた。
「もっと…お願いよ…。」
かほりさんは積極的になって、花園を俺の鼻先に擦り付ける。
「は…あんん…かほりさん…。」
ぴちゃぴちゃと音を立てて、俺は蜜を絡めとった。
禁断の小穴に尖らせた舌を差し入れたり、小さな真珠の粒を転がしたりした。

「ああん…もう…あっ…入って……いい…わよ…。」
小刻みに体を震わせていたかほりさんは、くるりと仰向けになって俺とベッドの間に滑り込んできた。
知らない間に怒張していた俺の先端から先走りの汁がとろりと零れている。
俺の先端全体にその透明な汁を塗りつけると、かほりさんは優しく俺を導いた。

「か…かほり…さ……。」
彼女の中は熱くて締まっていた。
彼女を征服したい。
俺は腰を動かした。
腰を動かす度に、後ろのアナルプラグが不安定になってこぼれ出そうになる。
それでもそれは俺の体の奥の快感スポットを刺激し続けていた。
「かほり…さんも…感じて……。」
かほりさんにも感じてもらいたいと、俺は神経全てを繋がれた一箇所に集中させた。

「あ…ふっ…あん……あん…晃君っ…!!」
ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てながら、俺は腰を彼女に打ち付け続けた。
どれ位経ったか分からない。
だが、その時は来た。
ぐわっと下から波が押し上げてきた。

「来て!!晃く……ん!!」
「あっ…かほりさんっ…来るっ…イキそ……ああああああ!!!」
後ろと前、両方から得る物凄い快感で、俺は2度目だというのにあっけなく達してしまった。

それは大量に出されたせいか、俺達の結合部から溢れ出た。
俺は強くかほりさんを抱きしめた。
ドクンドクンと早鐘を打つ彼女の鼓動が、俺の鼓動と重なった。

 「プラグが入ったままじゃない?」
果てた後、俺は呼吸を整える為に暫くかほりさんの上に乗っていた。
かほりさんが身を起こしガムテープを剥がして俺からアナルプラグを抜き取る。
「晃君のお尻ってエッチ。あたしってすっごい尻フェチなんだ。」
言いながら、ウェットティッシュで赤ちゃんのように俺の性器をテキパキと拭き始める。
俺は、生だししちゃったんだよなあ~、とか思いながら快楽の余韻でぼーっとしていた。

「じゃ、あたしは今からお風呂に入ってくるから、ここで大人しく待っててね。あ、家に帰るんだったらそれでもいいけど。」
綺麗に片付けを済ますと、彼女は俺に軽くキスしてからバスローブを羽織ってベッドから這い出た。



そのまま部屋に残っているのも何だったので、俺はメモだけ残してかほりさんの部屋を後にした。
人気の無い裏通りをトロトロと歩く。
歩きながら、俺は自分の中の、彼女への不可解な愛情をどうすればいいのか思案していた。

明かに年上のかほりさんに俺は振り回されている。
彼女の仕掛けてくる遊びにはまり込んでいる。
でも、彼女の相手が俺一人である限りそれでも良かった。
彼女が自分の人生にいるだけで幸運(fotrunate)なのだ。
彼女の今を独占できるだけで、満足なのだから。
ぐたぐた考えるのはやめよう。
そう思ったら、夜風がやけに気持ちよく感じられた。




<完>
Eternally    07.24.2007
(このお話は『仁神堂シリーズ』番外編『A.S.A.P.』の鷹男サイドの続きになっています。詳しいお話が分からない場合は、『A.S.A.P.』をお読み下さい)


Eternally


 肩を、叩かれた。
「こんな所で寝るな」
俺を起こしたこのホテルの部屋の主は、不機嫌そうなおっかない顔で着ていたスーツを脱いでいく。
「ん……あ……なんだ。帰ったのか」
時計を見た。
午前2時ちょい過ぎ。
「古い知人と会食があってな。勉強をしていたようだな」
俺が読んでいた『ビジネス英会話入門』のテキストを取り上げて、小馬鹿にしたような、呆れたような声音で俺を茶化す。
「そうだよ。悪いかっ。俺はあんたら兄弟みてーに英語環境で育ってないESL(English as a Second Language)なんだよ!」
「せいぜい頑張ってみる事だ」
ポイッて教科書を俺の頭越しに放り投げたその時。
ちょこっとだけ女の匂いが……上品な香水の匂いが鼻を掠めた。

眠気が一気に覚める。

「鷹男あんた……その知人って、女?」
鷹男は全裸になって、バスローブを羽織る。
「ああ。親父が世話になった方のお孫さんだ。紅と同じ学校にも通っていた」
キッチンへ向かい、ミネラルウォーターのボトルを掴むと、鷹男は一気にそれを煽った。
「じゃあ、紅も知ってんのか?」
「紅の方が、俺よりも彼女と親しい」
「ふうん……」
水を飲み一息つくと、鷹男は本棚から日本の経済雑誌を一冊掴んで俺に放り投げる。
咄嗟にそれをキャッチした俺に、
「KUNIMOTOの特集ページを開いてみろ」
と指示した。
俺は言われるまま、手の中の雑誌を開いた。

KUNIMOTOはもちろん俺でも知っている。
いや、日本人で
SO〇YやPANA〇ONICと並ぶ世界の家電メーカー名を知らない人はいないんじゃないかと思う。
現にうちの家のテレビはKUNIMOTOのものだ。

「その女性と会食してきた。羨ましいか」
ペットボトルを片手に、カウチに深く腰掛けた鷹男は、俺の反応を楽しそうに待っている。
その雑誌の特集インタビューに載っている写真の美人は、20代後半…だろうか。
さくらさんのような上品さと清潔さに加え、知的さと内に秘めた何か……鷹男も持ってる人の上に立つ人間独自の、崇高さみたいな人を惹き付ける力強い何かを纏っていた。
「結構……好み、かも」
とかつい口走っちまう。
「鷹男まさかあんた………この美人と?」

俺、浮気された……とか?

思ってから、腹の底からムカムカ感が込み上げてきた。
ついこの間、
「俺はお前のものだ」
とか言ってたくせに、何だよこいつは。
パタンって雑誌を閉じて、テーブルに放った。
顔を上げたら、
「くっくっくっく」
て鷹男が俺を見て笑ってた。
「んだよっ。何笑ってんだ、好色男!スケベ親父!」
俺は思いっきり眉間に皺寄せて、腕を組んだ。
「気分がいいと思ってな。お前もそういう心配をするとは」
「自分の男が他の女の匂いプンプンさせてたら、誰だって疑うだろ?シャワー浴びてさっさと寝ろよ」
「そうだな」
鷹男は頷きながら、ペットボトルの中の液体を飲み干し腰を上げた。
「お前は、ああいう女性が好みか?」
バスルームへと続くドアに手をかけた所で、鷹男が俺を振り返る。
「ああいう女って、あんたの浮気相手の女社長か?ああっ、胸でけえし、美人だし、上品そうだし、俺の好みだよっ」
悪いか、と言わんばかりの態度で言い返す。
鷹男は何も言わないまま、バスルームに姿を消した。
俺は鷹男が置いていった、空のペットボトルを思いっきり奴が消えたドアに投げつけた。




 そして、その事を猛烈に後悔した。
一度眠っていたところを起こされた上、
俺は手首を縛られ、ベッドに括り付けられ、目の前の男の好きなようにされていた。
鷹男は、そのギリシャ彫刻みたいな……俺のダチの男モデルなんかより鍛えられた肉体を、惜しげもなく晒して俺の悶える様を楽しんでる。
鷹男の指が、俺の花芯を執拗に弄る。
「んんっっ……」
「もうこんなに濡れているぞ?」
くちゅくちゅと音を立てながら、俺の中に指を突き立てる。
「やっ……鷹男っ……やめろって!うあぁっ!!」
鷹男が俺のケツを持ち上げた。
脚をジタバタさせても手遅れだった。
全開に開かされたそこに顔を埋められ、ぬるっと生温く一舐めされる。
「あああ!!んんっ……ぁあっ」
鷹男の舌が、俺の花園の花弁に沿って移動する。
ゆっくりと下から上へ。
上の方の小さな鈴のような蕾を発見すると、暫くそこで時間をかける。
「うあっ……そこはっ……んっ……」
「もっと、声を聞かせろ…」
鷹男が一瞬顔を上げて俺を見る。
「良い……匂いだ」
「ああっ……俺……やばっ……はあああんっ!」
俺を苛む舌は、容易に離れてはくれなかった。
鷹男が熟知している、俺のスポットを容赦なく弄られて。
上下左右に転がされて、頭の中がどんどんと霧がかかったみたいに霞んでいく。
「鷹男っ……ずりーぞっ!!ああっ……ちょっと待っ……うああああああっ!!!」


目の前の霧が真っ白になり、火花が飛んだような気がした。



 俺がイッたのを確認すると、鷹男はまだ肩で息をしている俺の腕の拘束を解いた。
「……そうだな。今夜はお前に選択権をやろう」
ベッド横で腰に手を当てて立ち尽くす鷹男は、いきり立つソレを恥かしげも無く俺に晒しながら、偉そうにそう言い放った。
「へえ。俺の希望が通るのか?」
俺が疑いの目を向けると、鷹男がにやっと口を引き上げる。
あ、やっぱ何か有る。
「いつも俺なりにお前の融通を利かせているつもりなのだが?」
「融通もクソもねえだろっ。いっつも変な体位とか俺に強要する癖に」
「そうだったか?」
鷹男の大きな手が、俺の胸を包んだ。
巨体がベッドの上に移動して、俺の上に乗る。
筋肉の隆起した脚が、俺の脚の間を割って入った。
「たまにはこういうのも……普通に交わるのも、いいと思わないか?」
もう片方の胸の先っぽを、口に含む。
「んっ......ああっ……」
やばい。
胸の愛撫だけでまた下肢が蕩けそうになる。
鷹男の舌も指も、奴の経験を物語ってる。
女の感じるツボを、確実に押さえてる。
「さ……さくらさんには優しくしたんだろ?俺にもたまには……あぁっ」
俺の語尾が消される。
胸の頂の鷹男の舌が、吸い付いたり転がしたりして巧みに動くから。
「さくらとのセックスは、退屈だった。優しくしてやったが……お前との方が……っ…」
鷹男が身体を一瞬だけ硬直させる。
俺が奴の熱い塊に触れたから。
先端の柔らかい所から滲み出ている汁を、人差し指ですくって傘になっている部分に塗りたくる。

これが、欲しい。
鷹男が、欲しい。

分かっている。
一緒になってから数日置きに身体を重ねるようになって、鷹男の好みや性癖も、もう充分に知り尽くした。
4年前に知らなかった発見も、幾つかあった。
それに。
ずーっと昔にさくらさんが言っていた「優しい鷹男」は、本物の鷹男じゃねえ、っていうのもとっくに分かってた。
本物の鷹男は、サドッ気があって、命令しなれてて、自分本位で、新しい事(っつーか体位とか前戯とか)が好きで、けど何気にちゃんと俺の事気遣ってくれてるって事も知ってる。

「ふあっ……ああっ!」
そんな事をぼんやりと考えてたら、鷹男が俺の花園を熱い棒を持って擦り付けてきた。
「これが、欲しいか?」
張り出した柔らかい部分が、俺の小さな芽の部分を焦らすように突付く。
欲しい。
俺は無言で首を縦に振った。
俺の首筋に顔を埋めていた鷹男が、耳元で再度囁く。
「欲しいか?」
訊ねながら、先端を少しだけ入り口にあてる。
「ほ…ほしいっ」
俺が耐え切れなくて哀願すると、俺の顔を包みながら鷹男がキスしてきた。
同時に、ゆっくりと、中に入ってくる。

もしかして、正常位って超久しぶり……かも。

俺の頭の横に腕をつきながら、鷹男が俺の唇を貪る。
奥まで入れると、またゆっくりと腰を引いた。

堪らない。

俺は脚を鷹男の腰に絡ませ、奴を引き戻す。
鷹男はそんな俺の反応を楽しむように、またゆっくりと腰を動かす。
「そう急かすな……」
耳のふちを舐めてなぞりながら、俺の奥深くに入り込む。
「んんっ……ぁ」
全部きっちりと入れ込むと、同じように腰を引く。

そんな事を繰り返していると、鷹男はだんだんと速さを増していった。

「んあっ……ああっ…あっ……んんっ」
鷹男の身体が徐々に汗ばんでいく。
くちゃっくちゃっと繋がっている部分から卑猥な音が聞こえる。
「お前の中はっ……相変わらず……キツイ……な」
息も切れ切れの鷹男の唸るような声が、耳元で聞こえた。

「ふっ…くあっ…あっあっ…!」
「……っつ……」
鷹男の堪えているらしき呻きと荒い息が耳を掠る。

ゆっくりだった腰の動きは、どんどんと速まる。


「いくぞっ……くぅっ……!」
鷹男が天井を仰いだ。
男らしい端麗な顔の眉根を寄せて。

最後に大きく突き上げられて、俺もまた目の前が真っ白になった。

スコールのように、俺の中で幾万もの熱い滴が一気に注がれるのを感じながら。

「愛している」
って優しい囁きが耳元で聞こえたような気がした。





 「これでも、まだ女が欲しいか?女とは、俺とのような快感は得られないぞ」
「はあ?」
鷹男はしばらくの間、俺と繋がっていた部分から溢れ出てくる自分の白い液体を眺めながら、満足気に呟いた。

もう、朝の5時だ。
朝日が昇ってる。
そして俺は、猛烈に眠かった。

「俺は自分の立場を明確にしただけだ」
「あんたの立場?」

俺と自分の後始末を終えると、鷹男は気だるそうに布団の中に入ってくる。
俺は鷹男の腕の中に納まって、奴の体温と匂いに包まれ、その優しく打つ鼓動に耳を傾けていた。

「英恵さんは、ただの古い知人だ。自分の女がその知人に興味を示しているとは、男としてプライドが許さない上、とても心外だ」
「心外って、てめえが好みかって聞いてきたんだろ」
鷹男が口に拳を置いて一つあくびをする。
「そこで否定すべきだったな。どうやら、俺とお前は女の好みがあまり合わないようだ」
「合わない?」
「お前はさくらや英恵さんのような、知的で清楚な女性が好みのようだが……ああ、胸のでかい、とも言っておこうか。だが、俺は、この胸もケツも無い、細い身体と小生意気な瞳で充分間に合っている」
鷹男が俺の頭の天辺にキスしてきた。
「お前はずっと俺のものだ。他の人間にうつつを抜かす時間など永遠に与えるつもりは無い。覚えておけ」
「うつつを抜かすも何も、俺に拒否権なんてねえんだろ?」
「無い。お前は俺の......飼い猫だ。いや、鷹になった鳶とでも言っておこうか」
そこで鷹男は何かを思い出したようにフッと噴き出した。
「わけわかんね」
いい加減、寝かせてくれよと言わんばかりに俺は鷹男の腕に顔を埋める。
鷹男は俺を引き寄せながら、小さく囁いた。
「休暇を、とる事にした。再来月7年ぶりにグァテマラのレインフォレストにでも行こうと思う」
「休暇?!レインフォレストって...ジャングル?!」
俺はその言葉に驚いて,眠いながらも顔を上げる。
だって、
根っからの仕事人間の鷹男が、仕事を放って休暇を取るなんて信じられなかったから。
しかも、グアテマラの熱帯雨林。
何故にグアテマラ?
「昔そこで...ナイフと水筒だけ持って数日間サバイバルをした事があってな。ヘリコプターからスカイダイビングをして、着地地点から人が住む集落地を目指すというものだった。なかなかな経験だったぞ」
俺の頭の中の疑問を読み取ったかのように、鷹男は説明した。
悔しい事にこいつは、いつも俺の言葉や行動を先に読み取りやがる。
でも、何故にサバイバル?
なんだ、甘やかされて悠々とした生活送ってきただけのお坊ちゃんじゃねえのか、鷹男は。
……いや。
かなりの負けず嫌い(悔しい事に俺以上に)な上、鷹男は根っからのチャレンジャーだ。
ファイターだ。
それに、休暇だからってダラダラ意味も無くハワイとかビーチでバカンスや観光ってタイプじゃないのは、確かだ。

それにしても、グアテマラのジャングルでサバイバルかよ。
また俺の知らない鷹男の新たな面が、垣間見えた気がした。
俺を鋼のような身体で熱く包むこの男について、もっと知りたい。
この男から色々学んで吸収したい。

それまで、ぜってー離してやんねえからな。
覚えとけっ。

「俺も行っていいか?サバイバル、してみてえ」
「そう来ると思った。蟻や虫を食いながら何日もの間生活が出来るか?」
虫.........。
「虫やそれらの幼虫は食物の無いレインフォレストで生き残る為の良い蛋白源になる。慣れればそんなに苦にはならない」
鷹男が俺の好奇心を試すかのごとく続ける。
一瞬躊躇ったけど、
「おう。食ってやろーじゃんっ」
とニヤリと笑ってやった。
「お前はやはり、俺が認めた女だな」
そう返すと、鷹男は安心したのか口元を緩める。

「他の人間が好みなどと、俺の前で軽々しく言うな…」
小さく唸るように俺に素早く耳打ちすると、
鷹男はそのまま目を閉じた。

いつの間にか、俺を包んでいる男の寝息が規則正しいものへと変わっていく。
鷹男の体温と鼓動に心地よさを覚えながら、俺もそのまま深い眠りについた。





3時間後。
朝8時。

「お前はナポレオンか!」
と突っ込みたくなるのを押さえて。

たった3時間しか寝てないのにすっきり顔で目覚めて支度をし、秘書とSPを伴って部屋を出て行った鷹男を、俺は眠気まなこでホテルから送り出した。




一言:バカップル誕生。鷹男さんから漂った香水の匂いは、恐らく別れ際ハグ(HUG)した時についたものでしょう。......と作者は推定。
登場人物紹介    07.24.2007
<登場人物>


國本英恵(くにもとはなえ)

KUNIMOTOグループUSA社長。この話の主人公。冷静沈着クールな女…のはずが、仁神堂に関する事となると感情的、優柔不断女になってしまう(本人談)。20代後半。

仁神堂浬(にがみどうかいり)

感情を顔に出さない社長専属の有能秘書。実は作者もびっくりのすごい学歴を持っている(何故に秘書?)。33歳独身。

岸洋平(きしようへい)

英恵の彼氏。日本食チェーンレストランを持つカリフォルニア在住の実業家。結構遊び人で陽気な男…らしい。

國本敬一郎(くにもとけいいちろう)

KUNIMOTOグループの会長。英恵の祖父。70過ぎでスノーボードを経験してしまうらしい凄い御仁。

國本慈英

社長の弟。詳しくは番外編『天然記念男』参照。電気オタクだが、姉思いの良い弟。

寺内祥子

仁神堂の昔の女。有名女優。離婚暦2回らしい。仁神堂に未練たらたら??詳しくは番外編『甘い罠』参照

弘美

社長の友人。不動産王と結婚したNY郊外に住む有閑マダム。


未年の朝 INDEX    07.29.2007
未年の朝 INDEX




未年の朝(長編)



ふつーのOL増子明日香22歳は、ある日突然江戸初期へタイムトリップしてしまった!!とある侍に 拾われた明日香だけど…。シリアスな時代物ではありません。R18の、和風ラブコメです。時代考証等あやふやで適当なので、シリアスな時代ものがお好きな方はお引き帰しくだされ。



第一部

とりあえず、再掲載。ちょこちょこ書き足してみました♪

1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 10 / 11 / 12 / 13




第二部


足りない脳みそをフル活用して知恵絞って書いてます。

 

1 / 2  / 3 / 4 / 5 / 6←UP


 



明日香&一馬さんに50の質問』


 



未年の朝 1    07.29.2007
“未年の朝”

 
 足が、つった。

水が、器官に入り込む。
バシャバシャと抵抗してみたけれど、
重く体は底にひきつけられて
息が、出来ない…。
苦しくて、苦しくて。
 
好き勝手に生きてきた二十二年。
お父さん、お母さん、先逝く不幸をお許し下さい。



ああ……



もう、死ぬんだろうなあ…




なんて考えていたら、体がだんだん楽になってきた…。
 
 













 
 「大丈夫か?」
男の声が遠いどこからか聞こえてきた。
温い。
ここは天国?
天国って、こんなに温くって気持ちいいものなの?

このまま寝ていたい。
なのに何かがあたしを起こそうとしている。

重い目蓋をゆっくりと開けてみた……。
 
「あ、あ、あ、あ、あ、あんた誰???」

目を覚ますとあたしは全裸で、これまた裸の男の人の膝の上に収まっていた。
川原で焚き木の火がパチパチとはねている傍らで男に抱き込まれ、
大きなブランケットのような布地に包まっている。

傍から見ると、人気のないとこでキャンプファイヤーしてる(ヌード)カップル…?

あたしは男の顔をまじまじと見つめた。
おでこから片目を通って頬にかけてざっくりと傷跡がある、隻眼の、
渋くてかっこいいけど少し怖そうな顔をした男だった。
そいつの意志の強そうな視線とぶつかる。

「はっ!!な、なんであたし裸なの???」
あたしは裸だったのを思い出し、慌てて男の胸から飛び退いた。
ついでに包まれてた布を男から瞬時に奪い取って、体を隠す。

男はふんどし姿だった。

って、えええ??
ふんどしィ~~~~~?????


「な、な、な、な、何なんですか、それ???」
あたしは男のふんどしを指差す。
心臓がバクバク鳴ってる。

「っていうか、あなた誰ですか?あ、怪しいですね。警察呼びますよ。
ここで何してるんですか?なんであたし裸なんですか?なんであなた…ふ、ふんどしなんですか。」
男はぽりぽりと頭を掻きながら(しかも男なのに、一つに束ねたポニーテール!!)、
ふんどし姿で立ち上がった。
傍に落ちていた服を手に取る。

「質問は一つずつにしてくれ。俺はそこの川で溺れていたお前を助けただけだ。命の恩人に礼を言うのはお前の方だろう?」

川で溺れて…?
ああ、そういえば家の帰り道、
考え事があって近所の川の流れを橋の上から見てたら、誰かが背中をポンって…。

「突き飛ばされた…?」
顔から血の気が引いていく。
男は無言でちょっと汚い着物に袖を通した。

「着物?????!!!!!!」

男は帯を結びながら明らかに不快そうな顔をした。
「お前こそ誰だ?溺れて気でも違ったか?」
「気なんか違ってません!!あたしは増子明日香二十二歳です!!」

男は腰に刀までさしちゃってサムライ気分である。
この人、俳優?
それとも時代劇オタク?
いや、今日はハロウィーンだったっけ?

「増子明日香…女の癖に苗字があるとは…。武家の娘か?何故入水自殺をしようとしたんだ?」
頭が混乱してクラクラしているあたしに「自殺」の言葉だけはしっかり聞こえた。
「自殺なんてしようとしてません!!誰かに突き飛ばされたら足がつって溺れちゃったんです!!」
と、強く言い返した。

でも、あれ?
そういえばあたしが見下ろしていた橋もないし、
整備されたコンクリの道路も雑草の生えた地面に変わっている。

…おかしいぞ??

「俺は、天羽一馬(あもうかずま)という。」
「ここは、何処??」
あたしは不安になって辺りをきょろきょろ見回した。
見慣れたものは何一つ無い。

「…江戸だが…?」

ちょ~っと待った!!
これはドッ●リカメラ??
この役者さんかな~り演技が上手だわ。

それらしい言葉で喋っちゃって。
「あははははは。」
あたしは可笑しくなって笑い出した。
一馬と名乗った男は訝しげな顔をする。

「…何が可笑しい?」
「だあ~って、江戸って徳川一家が牛耳ってた時代でしょ?とっくに終わったわよ。」

男の目がキラリ、と光る。
「終わった、だと?昨年公方さま…家康殿は豊臣秀頼を倒された。今は徳川天下の時代だぞ?」
「でも…。」
と言いかけた言葉を遮るように突然、ぐううぅぅ~~、とあたしのおなかが鳴った。
あたしは慌ててお腹を押さえる。

それを聞いた一馬の怖くて厳しかった表情が、一瞬にして柔和になった。
「腹が減ったのなら、すぐ傍だ。家へ来い。食べながらお前の事情を話せ。」
そう言い放つとあたしの着ていた、まだ濡れているチビTとジーンズを拾ってすたすたと背を向けて歩き出した。

あたしも裸にボロ布、という恥ずかしいかっこのまま早足で歩く彼を追いかけた…。
 


あたしがタイムトリップしてしまった!!
と実感したのは、彼の家に行くまで通りすがりのひとたちと町並みを見てからだった。
っつーか、全然違う!!
服装も、建物も、風景も全然違う!!!

これって、夢じゃなくって?
ほっぺたをつねってみる。
……痛い。


あたしは、あたしは、本当にタイムトリップしてしまったのぉぉぉぉ??

 

 彼の家は町(っていうか、村?)のはずれのぼろっちい掘っ立て小屋のような所だった。
なんていうか、真ん中にぽつんと囲炉裏があって、箪笥があって、
本当にそれだけの質素な所だった。

「女物はないのでな。お前の着ていた衣は濡れていて乾いておらん。暫くの間これでも羽織っておけ。」
と自分のらしき着物を投げてよこした。
そのまま囲炉裏の前にどすん、と座る。

「ありがとう。」
と言ったはいいけど、着方、分からないんですけど…。
温泉の浴衣と一緒だよね?

と、とりあえず彼が背を向けて囲炉裏の火を熾してる間に、素早く着た。

「粥しかないが、それでいいか?」
こちらを振り向いた彼は硬直する。
「お前…それでは死人だぞ?合わせが反対だ。相当甘やかされて育ったんだろうな。着方も知らんとは。こっちへ来い。」

「え?ち、違うの?」
彼の前で立ち止まると。
ふしだらけの手を伸ばしてきて、いきなり帯を解いた。

はらり、と前がはだける。
あたし下は裸…。

「な、何するんですか!!」
そう言って着物の前を慌てて押さえた。

「お前の裸はもうさっき見た。何を今更恥ずかしがっておるのだ。」
有無を言わせずあたしをくるりと後ろに振り向かせて、手早く帯を締めてくれた。
ほお~っと安堵の吐息を漏らしたあたしの顔をちらり、と見て
「悪いがそんな貧弱な体では俺は欲情などせんぞ。」
冷たく言い放って再び体を囲炉裏に向けた。
む、むっか~~~っ。
ただ見しやがって!!
後姿のお侍さんを睨みつける。
と、またあたしのおなかがきゅるるるる~~と主張した。
はあ~っ。
おなか減った。
ムカつくけど、空腹には勝てない。
色気より食い気!
顔を引きつらせたまま、あたしはちょこん、と隣に座る。
彼はお粥をお茶碗に盛って無言で手渡してきた。

「美味しい!!」
一口食べると、さっぱりとした旨みが口に広がった。
「そうか。口に合ってよかった。」
案外人懐こそうな笑みを浮かべて、お侍さんもお粥に口をつけた。
 
食事中。
あたしはこの天羽一馬ってお侍さんに事の成り行きを説明してみた。

あたしを助けてくれて親切にしてくれているから、きっと現代に戻る手伝いをしてくれるかもしれないと思ったからだった。

「むう…。」
事情を説明し終えると、案の定彼は難しい顔をして暫く考え込んだ。
そりゃあ理解に苦しむわな。
あたしだっていまいち分かってないもん。


「お前が、ここから来たのでないのは分かる。馬の毛のような茶色い髪をしているし、溺れていた時は奇抜な身なりをしていたし、意味は大体分かるが難解な言葉をたまに吐くしな。」
茶色い髪って、染めてるもん。
奇抜な身なりはチビTにジーパンの事?

難解な言葉って…現代語なんですけど…。
とあたしは心の中で突っ込んだ。


彼は暫く腕を組んだまま考え込んだ。
「丁度いい。面倒見てやるから、元いた所に戻れるまでここで奉公しろ。」
「奉公?」
って、何すりゃいいわけ?
「俺の身の回りの世話をすればいい。炊事洗濯諸々だ。」
そう言うなり、普段は傷跡があって怖そうな顔に飛びっきりの笑顔を浮かべてあたしを見つめた。
「そうだな、食事が済んだら俺は裏で暫く素振りをする。それが終わったら体を拭いてくれ。」
さらりと言い放つと、もう一杯粥を口に運んだ。
 
天羽一馬。
二十代半ば。
この界隈では有名な剣豪(後から聞いた話)。

武士とかひとんちに何とか流って剣術を教えて生活している…らしい。
たまに命がけの果し合いなんかも…するらしい。
それで生活が出来ちゃうらしい、不思議な職業であーる。
 

仕事をする、と言った彼は、小屋の裏で一人素振りを始めた。

あたしも外に出てそれをじーっと眺める。
「なんで素振りなんてしてるの?」
はあはあと息を切らしながら彼はあたしを顧みた。
「明後日大事な試合があるのでな。少しでも慣らしておかねばならぬ。」

闇夜の下白銀に光る真剣を、何度も振り下ろしている一馬は凛々しい。
刀を振り下ろすごとに汗がポタポタと地面に振りかかる。


その姿をぼんやり見つめながら、あたしは考えていた。
なんでこんな時代に来ちゃったんだろう?
これは夢じゃない…よね?
ほっぺたを抓ってみてもやっぱり痛い。

あーあ、同僚の細田さんはあたしが明日出社してない事に気づくかなぁ?
毎日彼の笑顔を見るのが楽しみだったのにぃ。
あたしがあの時代から消えても…何かが変わるのだろうか?

もう、戻れなかったら?

考えただけで、涙が出てきた。
目の前の男の姿がぼやける。

何気なく横を向いて着物の袖で涙を拭った。


すると、ぽん、とあたしの頭にごつごつとした手が置かれた。
頭上から声が降ってくる。
「何をめそめそしておる?泣いてたって何も起きんぞ。ほら、帰るぞ。」
あたしは一馬に強引に腕を掴まれ引き摺られながら、小屋に戻った。
 




 「えええええええ????何をしろって?」
あたしは思わず声をあげてしまう。
目の前に出されたのは、水がはってある桶と手拭。

「お前俺に奉公するんだろ?これで俺の体を拭け。」
「お風呂に入ればいいじゃない!!!」

一馬は怪訝そうな顔をする。
「風呂だと?そんな贅沢は出来ん。」
「じゃあ、あたしを拾った川に行けば?」
「ああ言えばこう言う女だな。川の水は夜冷たい。大事な試合前に風邪をひいたらどうするのだ?」
一馬はそこでニヤリと微笑む。
「お前を今ここで外へ放り出しても構わんのだぞ?こんな夜中に行くあてはあるのか?」

あたしは深いため息をついた。
行くとこなんて、ない。
知ってて、こいつわざと言ってる。
意地悪だ。

……まあ、お祖父ちゃんの背中を洗った事もあるし体を拭くぐらい、大したことなどない…けど。

あたしはふと、上半身裸の彼を見上げた。
適度に日に焼けてて、健康的で、細身なのに無駄な贅肉ひとつなく引き締まっている。
いい体を…していると思う。
っつーか、若い女の子の目には毒ってもんでしょ。

真っ赤に顔が火照った。

「これをつければ良いだろう。」
一馬はあたしの頭に空手拭を巻きつけた。
目隠しをされる。
これなら、まあいいかな。

ふう~。
行くとこないし、やるっきゃないかぁ。

「よしっ、じゃあ拭くから背中出して!!!」
あたしは掛け声をかけた。
 


どうやらタイムトリップしてしまったらしいあたしは、この天羽一馬とかいうエロ侍に拾われてしまった。
 


そして、あたしの波乱万丈の一生が始まる…。
 


未年の朝 2    07.29.2007
 
 
 あたしが手拭を桶の水に漬けている間、一馬はごそごそと何かをしていた。

「擦るよ~。」
ごしごしと、目隠ししながらも丁寧に背中付近から擦る。
手拭越しに、蚯蚓腫れのような痕が幾つかあるのを感じた。
「痛そうな傷跡があるよ。」
「それは、この間の練習試合の時に負ったものだ。大した怪我ではない。」
「ふうん。」

傷を優しく撫でたら、一馬が少し動いた。
「あっ。」
弾みで肩付近を拭いていた手拭が、するりと落っこちてしまった。
思わずキャッチしようとして手を伸ばすと、とある異物に軽く触れてしまった。

「お前…今どこを触った?」
思わず手を引っ込めようとすると、一馬はあたしの手首を掴んだ。
「ししししし知りません!!」
感触からして、褌越しにアレに触れてしまったらしい。

いつの間に褌姿になったの????

っつーか、ちょっと…熱かった…?

「丁度いい。そこも拭け。」
「はあああああああああああああああああああああああ????????」
「見えないのだから、構わないだろう?」

この人、あたしを試してる!!
絶対試してる!!


「嫌です。そこなら自分で出来るでしょう?手が届かないのは背中だけじゃん!!」
「ならば、ここから出て行くか?俺に奉公するんじゃなかったのか?」
「むうぅ。だからって、こんなセクハラじみたこと、嫌です!!」
「せくはら、とは何だ?どうでもいいが、奉公するということは賃金の引き換えに主人に尽くす、という事だ。お前の時代がどうなのかは知らんが、それも出来ないようではここで生きていくのは難しいぞ。」
意地悪い返事が返ってきた。
あたしが弱者なのを知ってて言っているんだ。


「それに、減るものでもないだろう?」
「うっ。」
確かに、減るもんじゃない。
それに昔おじいちゃんのお風呂の世話をしてあげた。
それと同じと思えば、大したことない…。

「だあああああああ!!!もう!!」
気合を入れるとあたしは聞いた。
「じゃあ、どうすりゃいいわけ?」
「俺が仰向けになってやるから、足の先から拭いて行け。」
相も変わらず命令口調だ。
「へいへい。畏まりましたよーだ。」

あたしは奴の足を拭きながら思った。
やっぱこの時代って、お風呂とか貴重なのかな??
この一馬って男は、貧乏そうな所に住んでるのに、全然貧乏そうに見えない。
なんか、命令しなれてるし。

っつーかそれよりも、家に帰りたい。
どうやったら家に帰れるんだろう?

「また考え事をしているな。力が入っておらんぞ。」
だあ、もう、いちいち煩いな、この人は。
「わーったわーった。」
今度はゴシゴシと擦る。
言われた通り力を入れてあげますよー。

だんだんと上の方へ移動していった。

筋肉が盛り上がっている腿の所までくると、流石にあたしも緊張してきた。
目隠ししてて見えないけど、そこの存在を意識してしまう。

「あのー、褌(ふんどし)。」
「褌が何だ?」
「褌の上から拭いていいの?」
「何馬鹿をいっておる?それでは意味が無いではないか。」
一馬がまたごそごそと身動きした。
褌を脱いでいるようだ。


「さあ、やれ。案ずるな。変化があってもお前には手を出さん。」
変化ってそんな事言われても…。
ドキドキする。

そりゃ、男性経験が無いわけではないけれど、
彼氏でもない赤の他人の…あの…そこを触るのって、かなーり勇気が入る。
風俗で働いたこともないし…。

あたしは、おずおずとそこに手拭を置いた。
手拭越しに熱を感じるのに、柔らかい。
柔らかいのに、大きい。

サッと上を拭いた。
「終わりっ。」
と言ってパッと手を離そうとしたあたしの腕を彼が掴む。
「ふざけているのか?自分の仕事を何だと思っている?」
「わーったわよ!!」
ムキなったあたしは、再びそこに手を置いた。
心なしか、少し硬くなり始めているそれを左手で持った。
上下にササッと拭くと、ビクンと一気にそれの体積が増した。

あたしはちょっとビビッた。

「顔が赤いぞ。」
この男、善人ぶってるけど性格が悪い。
あたしは固くなり始めている袋とその辺りも、優しく包むように拭いてあげた。
触る度に、びくびくとそれは硬くなっているようだ。
「自分こそ感じてるくせに…。」
ボソッと溢すと、自分からやれと命令したくせに一馬は突然あたしを強く押しのけた。
「分かった。もうやらなくても良い。お前は役目を果たした。」

何?
逆切れされたの?
む、むっか~っ!!!

怒った声で強引にあたしから手拭を奪い取ると、着物を羽織る音と桶を掴む音がした。
そして、どすどすと足音を立てて外へ出て行ってしまった……。

 

「一体、なんなのよっ?」
茫然と、あたしはその場に座り込んだ。
目隠しを取って、薄暗い畳の上に仰向けになる。

今日は半日色々な事があった。
川で溺れて死にそうになって、それからこのエロ侍に拾われて、奉公する事になって…。
ふうーっと溜息をつくと、一日の疲れが一気にあたしを襲う。

瞼が重く感じられた。
「ふわーっ。ねむっ…。」
あたしはひとつ欠伸をした。そしてそのまま一気に眠りに落ちた。
 



 「一体何なのだ、あの娘は?!」
桶の水を捨てた一馬は小屋の前の切り株に腰を下ろした。
「非常に奇妙な娘を救ってしまった。」

今日、川沿いを歩いていたら、女のどざえもんを見つけたと思って近寄ってみた。
女はまだ息をしていた。
当然の如く、奇妙な衣を着ていたその女を助けた。

先の時代から来たという、馬の毛のように茶色い髪、不思議な身なりと言葉の娘。
実の所、元々粉黛臭い楼閣の女たちには興味も無いし、武者修行をしていて長い間女を抱いていなかった。
良い欲求の捌け口と暇つぶしなるという下心もあって、身寄りのないその女を連れてきたのだ。

一馬ははだけた襦袢から覗く熱を持った自分の分身を眺める。
あのまま続けさせても良かったが、歯止めが利かなくなりそうだったので止めさせた。
躊躇い無く、既に女の手で熱くなっていたそれに手を添えた。

思い出すのは、今日助けたときに見た、あの女の傷ひとつ無い裸体。
太くたぎった自身を握って上下に動かす。

「…ッ…。」
白いうなじ、桃色に色づいた大きめな胸の頂。
細くて柔らかい腿の辺りを思い出しただけで、彼の男は達しそうになる。
事実、あの女の濡れた体を拭っていた時、凍える身体を温めていた時、何度欲望のまま抱こうと思った事か。
流石に意識の無い女を抱いても面白くも何とも無い。
が、それ位昼間の彼はギリギリの所にいた。

白い乳房が自分の胸に重なっていた温かみ。
柔らかい桃尻が彼の膝に乗っていた時の感触。

久々に嗅ぐ、春の花のような女の匂い。
先端が濡れてきた。
はあはあと荒い息をたてながら、一馬の手の動きは速くなってく。
その時が来るのを感じた。

「ぁあっ…。」
ビクン、と大きくそれが跳ね上がった瞬間、先端から白い欲望が飛び散った。
闇夜に空を切ってそれは大量に放出される。
本当に何ヶ月ぶりかの自慰行為。
最後の一滴まで出し切ると、一馬は手拭で自身を拭った。


 小屋に戻ってきたとき、女は無防備な姿で寝入っていた。
一馬は暫く彼女を眺めると、そのまま隣に横たわって眠りについた。




 
 何かがあたしを力強く抱いていた。暑苦しくて、目を覚ます。
「ちょっと、離して!!」
あたしはすっぽり一馬の腕の中にいた。
いくら動こうとしても、腕を離してくれない。
渋々抵抗するのを諦めて、彼の顔を眺めた。

そういえばこの男の顔…。

顔半分に大きな太刀傷が入っている。
その傷は片目を通っていて恐らく潰れたか何かで開けられないらしい。
と、いう事は片目だけで生活してるのかぁ。

あたしは片目を瞑ってみる。
半分の世界。
「なーんか変なの。」
片方ずつの目を開けたり閉じたり、パチクリパチクリとバカな事をやっていたら一馬が目を開けた。

「……何をやっておる?」
げっ。
起きやがった。起きて欲しいときに起きないで、
何でこんな時にタイミング良く起きるわけ、こいつは?
「何でもないよっ。っつーか離してくんない?」
あたしは一馬の逞しい二の腕を押しのけた。
ああ、開放感!!

「今日は町まで行くぞ。知り合いの所から女物の着物を譲ってもらう。
 生憎うちには俺の物しかないのでな。」
伸びをしているあたしを見つめながら仰向けに寝返った一馬は、そっけなく言い放つ。
「だが、その前にもう少し寝かせろ…。」
再び目を瞑って彼は寝息をたて始めた。
 


 江戸時代。

一馬は徳川が天下を取って間もないって言ってた…。
っつー事は江戸初期、よね?

あたしは顔が洗いたくなって、フラフラと外に出た。
ううっ。
寒い。
ホ〇カイロが欲しい。
小屋の前で、井戸を発見した。
でも、使い方が解らなかった。

「うーん…。」
寝ている一馬を起こすのも可哀想だし、あたしが溺れていた川まで行ってみるか。
あたしは昨日来た道を逆に歩きだした。
今の東京からはかけ離れた、田舎町のような殺風景な風景。

途中百姓か商人のような人達何人かとすれ違ったが、どの人もあたしを奇妙な目で見て通っていく。
「何かあたし、変なのかな?」
どうやら通り行く人たちは、あたしの茶色い髪の毛を見つめているようだ。
この時代にはカラーとかないもんねぇ。
皆黒々とした髪の毛だ。

その上男の人の殆どは時代劇で見る、青々と頭の上を剃った髪型をしている。
時代劇を見るといつも笑っちゃう、あの髪型である。
そういえば、一馬は頭のてっぺんを剃っていなかった。
だから、片目なのに抵抗感がないのかも。

「あんたらこそ変な髪形だよ~。」
と小声で言ってやった。

昨日あたしが溺れた川は、一馬の小屋から徒歩十分弱の所にあった。
川縁まで来て、しゃがみ込む。

「また溺れてみたら帰れるかな?」
一馬から与えられた草履を脱いでちょこっと水に足を入れてみた。
「つ、つめたっ。」
これ、氷水みたいじゃんっ。
思いっきり後ずさる。

「あっ!!」
後退した瞬間、小石につまづいて派手に尻餅をつきそうになった。
グラッと傾く景色。

次に来るだろう衝撃を覚悟した。

「あれっ?」
痛くないぞ???
体が後ろに倒れそうになるのを何かが止めた。
「またも入水自殺か?」
タンゴか何かを踊っているカップルのような、バラを加えたら様なっちゃう体勢のまま、あたしは男の顔を見上げた。

「天羽一馬…。」
傷の走った隻眼があたしを見下ろしている。
「主人に向かって呼び捨てとはふてぶてしい女だな。まあ、許してやろう。こんな所で何をしておる?」
「何って、井戸の使い方が分からなかったから顔を洗いに――。」
「顔を洗いにわざわざ川まで来たのか?」
呆れた顔で一馬はあたしの言葉を遮った。

よく見ると、髪の毛をひとつに結っていない。豊かで真っ直ぐの黒髪が肩に垂れていた。
もしかして、起きて髪を結う時間もなく、あたしを探しに来てくれた…とか?
あたしは体を起こして一馬をジーっと見る。
彼は驚いたように片眉を上げた。

「どうした?」
肩にかかった黒髪を一房掴んで引っ張った。
「いや、頭のてっぺん剃ってないなぁーっと思って。」
「月代の事か?」
「そうそう、あの、奇妙な髪形。」
「痣隠しだ。母親が俺を孕んでいた時火事を見たので、生まれながらにして赤い痣が頭にある。」
いいながら一馬は髪の毛をかき集め、一つに結んだ。
そして、強引にあたしの腕を掴んで引っ張った。

「痛っ。」
「今から町へ行くぞ。それから……これからは、どこかに行くのであれば、一言俺に告げてからにしろ。」
あたしは、一馬に引き摺られるように歩き出した。
 

 城下町のとある呉服屋に連れて行かれた。
一馬はどうやらそこの主人と知り合いらしく一言で話をつけると、
あたしは奥のほうに案内された。
二、三着シンプルで可愛らしい柄の着物を貰った。
ついでに、女物の着物を着せてもらう。
髪の毛も結ってもらった。


四十がらみの、小太りの主と会話をしている一馬は、奥から出てきたあたしをチラリと見て、視線を逸らした。
えええっ??
ちょっとこの時代風にお洒落したのに、お兄さんそれだけですかい?


まあ、色仕掛けなんてしても意味無いか…。
それより、成人式以来の着物だぜい!!
でも、なんか帯がきつくて苦しい…。
気分はフランスの社交界デビューのお姫様の気分だわ。
コルセット着てる感じ……って、着た事無いけど。
ご飯食べたら吐きそう…。

でも着せてもらったので、今更そんな文句も言えない。
苦しみを億尾にも出さず、あたしは一馬に駆け寄って耳打ちした。
「ねえねえ、なんでただで小袖がもらえるの?」
「前にここの主の娘が悪漢に襲われたのを助けた。それ以来、世話になっている。」
小声で返してきた一馬は、主人に礼を言って、足早に店を出た。

「もう一つ寄る所がある。」
見慣れない珍しいものばかりできょろきょろしているあたしの手をしっかりと握って引っ張りながら、一馬は大股で江戸の町を闊歩した。


 また一悶着ありそうな予感がするのは、あたしの気のせいなのかなぁ…。
 
未年の朝 3    07.30.2007


 「悪いが、もう一つ寄る所がある。」
一馬は、砥ぎ師の所へ刀を取りに行かなければならないと言う。
試合とやらの為に、頼んで砥いで貰っていた刀を取りに行くのだそうだ。
もちろんあたしに選択肢はなくって、言われるままにつれて来られた。


目的の砥ぎ師の店は、普通の刀屋さんの様に、色々な刀が置いてあった。
「俺は中に入ってここの主人と話をしてくるが、お前はここでまっておれ。」
とあたしに言い残して、自分はさっさと店の奥に入っていってしまった。

店内にはあたしと、無数の刀と、店番をしている頭の悪そうで無愛想な男しかいなかった。
何気なくを装って刀を一本手にとって見る。
重たい。
「落とさないでおくれよ。」
アニメのキャラのような、鼻を抓んだような笑っちゃう声で店番の男があたしに注意する。
あたしの一挙一動を、店番は明らかに盗人でも見るような目つきで見つめ続けた。
こんなもん、使い方もわからないっちゅーの!
高そうだけど、価値すらもわからないんですけど。

「らっしゃい。」
この堅苦しい沈黙がいつまで続くのかと思っていたら、店に一人お客さんがふらりと入ってきた。

何気なくそのお客さんに目を向けて、あたしは固まった。

現代で言ったらジャニ系。
この時代で言ったら色男(?)でちょっと陰のある美青年だったからだ。

しかも、誰かによく似ていた。
「細田さん!!」
あたしが大声を上げたんで、男がびっくりしてこちらを振り返る。
同僚の細田さんにそっくりな男は、怪訝そうに眉間に皺を寄せてあたしを顧みた。
「あの、どちら様でしょうか?」
この柔らかい物腰に言い方、低い声音までクリソツ!!
「増子(ますこ)ですよ~。細田さんもこの世界に来ちゃったんですか?」
あたしは男に駆け寄った。
「何でロン毛になっちゃってるんですか?」
一馬のように、ポニーテールをしている。
色素が薄いらしく、髪は陽に照らされると茶色に透けそうな色をしていた。
カラーリングとか無いこの時代には、ちょっと珍しい毛色なんじゃないかな。

「あの、誰かと勘違いなさってるんじゃないでしょうか。私は細田という姓では御座いません。」
冷たく言い放った直後、突然クリソツ男は体を硬直させ顔を更に強張らせた。
「暫くの間、普通に刀を見るふりをしていて下さい。」
「はあ?」
あたしは意味が分からず素っ頓狂な声を出す。
「早くっ。」
「はあ…。」
急かされて言われた通りに刀を見る振りをした。
暫くすると、店の前をとある金持ちそうな侍が通った。

その侍が角に曲がって姿が見えなくなるのを確認すると、細田さんクリソツ男はその侍を追っているのか、サッサとそいつが向かった方向へ歩き出した。
え?
もう行っちゃうの?
ちょっと話をしたかったのに?
「ちょっ、待ってよ!!!」
あたしは一馬の事なんかすっかり忘れて、細田さんをちょこちょこと追った。
着物は歩幅が狭くて歩きずらい。
しかも細田さんは思ったよりも凄い速さで歩いている。

ああっ、イライラする!!

あたしは、着物の裾をガッと開いて、素足をむき出したまま走った。
ひたすら追った。
通行人はそんなお下品に走るあたしを見つめている。
そんなのにはお構いなく、あたしは走った。

「細田さーん!!あれ?」
さっきまですぐ前を歩いていたのに、一瞬にして彼の姿が見えなくなった。
「細田――。」
と、名前を大声で呼ぼうとして、どこからともなく延びた腕に引っ張られる。
人通りの無い民家の裏通りに引き込まれた。

「シーッ。静かに!!貴女は僕を誰かと勘違いしているみたいですね。」
力強く抱き寄せられて、耳元で囁くように言われた。

間近で見ると、やっぱりすこーしだけ違うような…。

でも、綺麗に整った顔をした美人さんだわっ。
あ、男の人に美人はないか…。

「あの、本当に細田さんじゃないんですか?」
彼はあたしを胸に抱き寄せながらも、張り詰めた神経を集中させてある一点を見つめていた。
細田さんクリソツ男は、あたしなんて眼中なしで独り言を呟く。
「出会い茶屋に入って行ったか…。」
うーむと暫く考え深げに唸った。
わけが分からずキョロキョロしているあたしに
「お嬢さん、ちょっと失礼。」
と断ってあたしの顎をクイッと持ち上げた。


「ええっ?」


驚く暇も与えず、キスされた!!!



ほ、細田さんそっくりの、え、江戸時代の人にキスされた!!!


いや、それだけじゃなくって、何か苦酸っぱい液体が流し込まれた。
え?
と思う前に、あたしはその怪しげなものを飲み込んでしまった。

ひえぇぇぇぇ~~!!
なんか苦いし不味いし、毒だったらどうしよ??

「ちょっ、何飲ませたのよ、あんた!!!!!!」
突き飛ばそうとしたけど、更に力強く抱き込まれた。
「時期にわかりますよ。それより、丁度いいので少し付き合ってもらいましょうか?」
そっくりさんは天使のような笑みを浮かべ、あたしを抱くようにして裏道から表通りに出た。


「あれ?あれれ?」
あたしが変化に気づいたのは、歩いて数歩経った頃だ。

グニャリとなって足に力が出ない!!!

「そろそろ効いて来たみたいですね。思ったより早いな。」
「あんたあたしに何したのよ!!」
「時期に消えますから。命に関わるものではないので安心してください。」
「時期にじゃ遅い!!今何とかしてよ~~!!」
歩けなくなったあたしは、ヒョイッと抱き上げられた。
「なななな、何お姫様抱っこしてるの??下ろして!!」
「しーっ、静かに。すぐ降ろしてあげますから。」
 

お姫様抱っこされたまま連れて来られたのは、蓮の池が見える宿屋みたいな所の部屋一室。
一馬の小屋よりは数倍綺麗な畳張りの、旅館を思わせるような小部屋だった。

なのに、不思議な事に部屋の中央にぽつんと布団が敷いてある。

この男、あたしに何飲ませた…の?
体の力のみならず、なんか感覚すらおかしくなって来た気がした。

細田さんそっくり男は、そのままあたしを仰向けに布団の上に寝かせて、自分は障子一枚先の隣の部屋の動向に耳を澄ませていた。

「貴女がいたお陰で汚い屋根裏や床下に潜まずとも、隣の部屋を確保出来た。感謝いたしますね。」
あれ?
このクリソツ男がダブって見える…まじヤバっ……。

「あっあっああ!!松本様…もっと指を…!」
「嗚呼、彦太郎!!いいぞっ…くはっ!!」

目は回るけどあたしの耳は正常らしくって、隣の部屋から男の人二人の喘ぎ声がしっかり聞こえた。
って、はあ!?
お、男ぉ???
な、なんであたし生ポルノ(しかも男同士)聞いてるの!!!

あ、でも歴史の先生がこの時代お侍さん同士の男色は普通だったって言ってたような。
って違-うっ!!
そうじゃなくって、あたしはどうなっちゃうの?

やがて男同士の喘ぎ声は絶叫となり、そして途絶えた。

隣が静かになると、細田さんのそっくりさんは、思案した顔のまま独り言を呟いた。
「彦太郎…やはり蔵番の彦太郎が犯人でしたか…。」
彼の声と共に、がさがさと衣擦れの音がした。
それにしても、何の薬を飲まされたの?
意識ははっきりしてるのに体中の感覚がおかしくなっている。
と、するっと体から何かが抜けた音がした。

えっ?

胴体を縛っていた苦しみがなくなる。
それって…。

脱がされてる!!!!!!!


「そんな怖い顔しなくても大丈夫ですよ。もう僕の仕事は終わりましたから、付き合わせたお詫びをします。」
お、お詫び?!
そんなのいらない。
っつーかこの変な薬何とかして!!
大声をだしたかったけど、終に声が出なくなった。

やばっ!増子明日香二十二歳、貞操の危機!!!!!!!!!!




 奴が飲ませたのはただの薬じゃなかった。
頭はハッキリしてるのに、体が言う事を聞かない。
彼は手馴れた感じで素早くあたしの帯を取って、着物の前を開けた。

暴れたくても四肢が動かない。
叫びたくても声が出ない。

「そんな怯えなくても大丈夫ですよ。すぐに快感に変わりますから。」
言いながら指であたしの両胸の先を弄りだした。
「あっ。」
え!?
何これ??
「ん…あ…あ…。」
胸を触られただけでこんな気持ちいいのなんか初めて…。
声が出ないから、口から勝手に漏れる喘ぎ声が響く。
胸の先が硬くなっていく。

「ね?感じるでしょう?この薬は良く効きますから。」
さらりと言いのけた後、男は今度は舌であたしの頂を舐めた。
「ああんっ…。」
喘ぎ声しか出ない。そんな自分が恥ずかしい。
男は構わず巧みに舌を使って口の中で転がしたり、吸ったり、
軽く歯を立てたりして刺激を与えてくる。
あたしの下半身がむずむずしてきた。
「力を抜いてください。」
余裕の声で、あたしの着ていた着物を脱がせにかかる。
そういえば、今日はノーパンで…ってこの時代の人はパンツなんて穿かないんだったわ。
さっき着替えた時に下に穿いていた下着を取り上げられちゃったし…。

ひゃっ。
男はあたしの両足首を持った。
股を大きく開かせる。
すっと空気があたしの花弁を撫でた。
整った顔があたしを覗き込む。
まだダブって見えるけど…。
うわぁ~、恥ずかしい~~~。
大好きな細田さんに見られてるみたいで、何故だか緊張する。
「顔が赤いですね 。初めてですか?最近の江戸の町娘は早熟だと聞いたのですが…。」
言いながら、視線をあたしのあそこに移す。

「桃色に色づいて…綺麗ですよ。それに、もう濡れています。」
そっと、指があたしのあそこの花びらをなぞった。
「あんっ!!!」
ビクッと体が震える。
やっぱこの薬は普通じゃない!!
「まだちょっと触れただけです。次は、指を入れますからね。」
そろそろと、焦れながら指が一本あたしの蜜壺に侵入した。
「あ…はあ…ん。」
やだ、変な声が出ちゃう。

指は探索するように中でかき回される。
くちゅくちゅと卑猥な音が聞こえた。
「すごく濡れてますよ…。どうやら、初めてではないみたいですね。それなら安心です。」
何が安心なのよ~。
「もう一本、入れてみましょうか。」
「…はあっ。」
もう一本指が侵入したのを感じた。
あたしの足を全開に開いて、二本の指で奥を弄りだす。
彼の唇はあたしの胸の先を刺激してくるし、片方の手はアソコを攻めてくる。
やがて彼は体を下の方へ移動させた。
空いている手で腰を押し上げる。
あたしの花弁は、彼の目の前の位置だ。

「熟れた果実のようです…。」
二本の指が入ったまま、彼は舌を伸ばしてあたしの花びらの芽をつんつん、と突付いてきた。
「あん…や…や…っ。」
やめて、と言いたいのに声が出ない。
「や?止めて欲しいのですか?こんなに感じているのに?」
意地の悪い声が返ってきた。
指の動きが激しくなる。
「もっと味わってみたいです…。」
ああっ!!
もう気持ち良すぎて何が何だか分からなくなってる…。
びちゃびちゃ音を立ててあたしのあそこを舐められると、軽く芽を吸われると、体がびくびくと反応した。
もう、やばっ…指と舌だけで…いっちゃいそう…。

「は…あっ!!!」
突然、体に電流のような快感が走った。
何かが勢いよく迸る。
男は瞬時に指を抜き、顔を上げ黙ってあたしがイクのを見つめた。
「あ…あ…あぁ…。」
体がまだぶるぶると震えている。
失禁、かと思った。
布団や自分の腿が濡れているのを感じたからだ。
でも、違う。
あたしは人生で初めて、潮を噴いた…らしい。

男は、予め布団の隣に用意されていた柔らかい紙で濡れた自分の腕やあたしの腿辺りを優しく拭くと、落ち着いた声で言った。
「艶かしい姿ですね。…この薬は利くでしょう?せっかくだから私も楽しんでいいでしょうか、鳶色の髪のお嬢さん?」
男はあたしの膝を再度持ち上げようとした。

ええっ??まさか…?

嗚呼、神様!!
いくらこいつがちょっといい男だからって、でもやっぱり細田さんじゃないから出来ません!!
っつーかしたくないです!!
助けて!!!
ヘルプミー!!!


あたしの頭の叫び声と、ガラっと回廊側の障子が開いたのは同時だった。
「どなたか存じませぬが、主人の断り無く人の奉公人を手をだすのは今すぐ止めて頂きたい。いや、その前に他人の奉公人を許可無く連れ去った罪は重いですぞ。」
ああ、姿はここから見えないけど、この声…神様ありがとう!!

天羽一馬が駆けつけて来てくれたのだ。
緊張が解けたせいか、目が滲んで来た。
涙がはらりとこぼれる。
男は持っていたあたしの足を下ろして立ち上がり、スッと一馬に向き直った。 

「僕は神保与左衛門といいます。…あなたは、隻眼の天羽一馬とお見受けしますが。」
「何故俺の名を知っている?如何にも俺は神雷流天羽一馬だ。」
「あなたは江戸では有名ですから。彼女はあなたの奉公人だったのですか。珍しい鳶色の髪を持ったなかなかいい女ですねえ。」
明らかに不機嫌を露にした一馬の低い声音にも動じず、神保どらえもん何とか(名前難しくて忘れた)はけたけたと笑い出す。

一馬はハッと息を呑んだ。
あたしが泣いているのに気づいたようだ。

「明日香、大丈夫か?」
カチッと音がした。
一馬が刀に手をかけたらしい。
「まさかとは思うが、人の奉公人に手をつけたのではあるまいな?」
「あはははは。今これからそれを楽しもうとしていたのですが、貴方に邪魔をされました。どうしますか?今、その刀を抜いて僕を切るおつもりですか?」
「それは、お前次第だが?」

どうやら二人は一線触発状態で対峙しているようだ。
「貴方が噂どおりの剣豪ならば是非腕を試してみたい所ですが、場所が場所なのでね。またお会いした時に腕試しを頼みますよ。失礼!!!」
わざと一馬の潰れている左目に向かって何かがヒュッと投げられた。

一馬がそれを避けたのと、蓮池の方面の障子から風が吹き込んできたのは同時だった。

神保なんとかって男はもうその場に居なかった。
目にも留まらぬ速さで開けっ放しの障子戸から出て行ったらしい。

「忍びか…。逃げ足の速い訳だ。」
一馬は柱に刺さっている手裏剣を手に取って暫く見つめた後、懐にそれをしまってあたしの所にやって来た。
パサリ、とあたしが着ていた着物を裸の体にかけてくれた。
「何をされた?大丈夫か?」
心配そうな声が降って来る。
 

 タイムトリップ二日目にしてこんなになってる自分が情けなくって、帰りたくって。
あたしの目はまた涙で霞み出した。


 
未年の朝 4    07.30.2007


 「いつまでそこで寝転がっている?後でたっぷり訳を聞いてやるから…行くぞ。」
無愛想な声。
返事をしたかったけど、体が動かないんだって!!
…それに、声も。
あたしはひたすら頭を振った。

口をパクパクさせているあたしを見て一馬も異変に気づいたらしい。
眉根を寄せる。
「薬を飲まされたのか?体が動かんのか?」
あたしは頭を縦にフリフリする。
「口を開けてみろ。」
あたしの顎を掴んで口を無理やり開けさせられた。

そしてそのまま一馬の視線は布団の隣に移動する。
あたしの愛液を拭った紙屑を一つつまみあげた。
「舌が紫紺に染まっている…。察するに紫躰止湯を飲まされたようだな。毒ではないし、時期解けるであろうが…。本当に何もされなかったのか?」
何もって…。
最後までは行かなかったけど…。

「陵辱されたのか?」
陵辱…ってちょっと言い方悪いけど…。
あたしは頭を横にフリフリした。
一馬は突然バッ、とあたしの体にかけてくれた着物が剥がした。

ええっ??
何で??
あたしまた裸?!
一馬はあたしに覆いかぶさる。
え?え?え??
隻眼が目の前にある。
傷が走った顔は結構男前で、あたしの心臓はドクン、と大きく鳴った。
「これはいわゆる媚薬で…。」
言いながらあたしの首筋に荒々しく口付けをして来る。

「…あっ。」
身体がビクッと震えた。
また快感の波があたしを襲う。
一馬は首筋に吸い付きながらも、あたしの右胸を大きな手のひらで包んでもみだした。
男っぽくて不器用な愛撫だ。
「こうやって愛撫を与えると通常の何倍も、過剰に快感を与える…。」
手のひらの親指があたしの先っぽを刺激した。
「んっ…。」
皺が寄って硬く張り詰めるのを感じた。
股の間が火照りだす。
なんでだろう?
さっきと違って…嫌じゃない。
一馬なら…いいかも…なんて。

「相当腕の立つ薬師でないと作れん高度の媚薬だ。」
そう言い放った後、一馬は突然身を離した。
へ??
あたし今ちょっとその気になり始めてた…のに???
恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。
な、なーんだ。一馬はあたしに説明してくれてただけなのね。
それなのにあたしったら…。恥~~~~っ!!

一馬は手早くあたしに襦袢…だっけ?
白いこの時代の下着用着物を着せて、抱き起こした。
「薬の事は案ずるな。すぐ解けるであろう。さっさと帰るぞ。」
軽々とあたしを背負うと、怒ったような声音で一馬はあたしを連れて帰った。
 


 「全く、とんだ娘を奉公人として雇ってしまったものだ。」
小屋に戻った途端あたしに聞こえるように、嫌味を言ってきやがった。
一馬におぶられながら帰路につく途中、石のようだった体と声は戻った。
股の間の火照りもなくなった。
あたしを布団の上に寝かせた後、一馬は一人囲炉裏に向かって夕飯を作っていた。

「だってあの男の人、あたしの知り合いに似てたんだもーん!!で、ちょっと話をしようと思ったら変な薬飲まされてあんな所に連れて行かれて…。」
「あの通りをお前は知っていたのか?あそこは不忍池と言ってあのような出会茶屋が軒を連ねておる。蓮池鑑賞と称して部屋を借り、男女が…その…。」
言葉を濁す一馬を無視してあたしは考え込んだ。

「出会い茶屋…?」
そういや、あの男もそんな事言ってたなぁ。
それって、今で言うラブホの事?
あたしは一馬を見つめる。
「一馬は行った事あるの?」
横目でチラリとあたしを見て、彼は視線を逸らした。
「昔ある。」

おおっ?
照れてるのか?
微妙に彼の顔が赤い。
「あの男も…お前の貧弱な体に興味を持つとは、不憫だな。」
一馬はまた嫌味の如くボソリ、と呟いた。
「は?何?何か言った??」
「空耳だ、何でもない。ほら、飯を盛ったぞ。食え。」
布団の上で寝転がってるあたしに、芋粥らしきものが盛られた茶碗が差し出された。

芋粥は淡白な味だったけど、美味しかった。
 


 「なんでついて来るのよ!!」
食後、あたしは用を足したくなって一馬に断り、ふらふらと小屋の離れにある厠に向かった。
この時代の物でどうしても耐えられないものがあるとしたら、それは厠だった。
どうやら肥料になるらしくって、決まった日に人が来て何処かへ持っていく。
けど…汚い!!
不衛生!!
臭い!!
現代の水洗トイレが懐かしい~~~。

「で、なんであんたが付いて来るの?」
「たまたま俺も厠にいきたかっただけだ。」
この男は便所にまで付いて来た!!
あたしはもう既に信用されて無い?
「お前は、目を光らせていないとふらふらと何をしでかすかわからん。」
一馬はあたしが用を足すまでずーっと外で待っていた。

この日はあたしが寝静まるまで、一馬の厳しい監視下に置かれたのは、いうまでもない…。
 


 「足をあげろ。」
はい?
今何て?
困った顔をしているあたしも何のその。一馬はあたしの膝頭を押し上げる。
え?
あれっ?あたしいつの間に脱がされたわけ???
それに、何故かまた目隠しをされている。
きっと、無防備に剥き出されたあたしの下半身を一馬は眺めているに違いない。

「ひゃっ。」
熱い何かがあたしの花園に押し当てられた。
くちゅくちゅと生々しい音を立てながらそれはあたしの花弁の上を滑る。
それは…指よりも太くて、丸くて、熱くて、滑らかな物体。
「あんっ。」
何度か花弁を上下した後、その熱い塊はあたしの敏感な芽を擦った。
ブルッと下半身が震える。

「ふっ…あ…!」
ちょん、ちょん、と突付いたり、強く押し当てられるだけであたしの蜜壺の奥が疼く。
「あの男もお前にこうやって触れたのか?」
は?
あの男?
あの男って…?
彼は熱い塊をあたしの入り口に軽くあてがう。
「…っ。」
大きな彼の先っぽを埋めただけなのに、あたしはそれだけで体が震えてしまった。
繋がろうとしているその一箇所が燃える様に火照る。
もっと…欲しいな…なんて。
「入れて欲しいのか?」
低い一馬の声にあたしは夢中で頭を縦に振る。
「あっあっあ!!!」
互いの蜜がぬるぬると交じり合って、案外大きめの熱い塊はスムーズに入る。
彼はゆっくりと時間をかけて狭い蜜壺に深く腰を沈めていった。

「ん…。」
あたしの中が固い彼で満たされていく。
「…全部入った。動くぞ。」
彼で一杯になると、一馬は今度腰を引いた。
「いやんっ!!はあっ…!」
男っぽく、荒々しく出し入れされる。ぴちゃぴちゃと卑猥な音をたてながら擦られる。
目隠しをされている為、一馬がどんな顔をしているのかは、解らない。
分かるのは、激しく腰を打ち付けてくる感触と、息遣い。
「あ…あ…あ…あんっ!!!」
「っく…はっ…!」
大きくあたしの足を広げて、足首を荒れた手で強く掴む。
突き上げられる度に、奥に丸め先端が当たるのを感じた。

「あ…ん…ん…ふっ…!!」
「はあ…はあ…はあ…。」
静寂の中で響く荒い息遣いと喘ぎ声。
性器から洩れる卑猥な音。
「ハンッ…あ…もう…駄目・・・!」
だんだんとピストン運動は激しくなっていって…。
「…出すぞっ。」
苦しそうな声が上から降ってきた、と思ったら体の奥が暖かさで満たされた。
大きかった塊が、ゆっくりとあたしの中で小さく収縮していくのを感じる。
「一馬…。」
男が果てたのを感じると、あたしは胸を上下させながら彼の名前を呼んだ。
「……。」
返事がない。

あれ?あたしは不思議に思って、もう一度彼の名前を呼んでみる。
「一馬?」
「なんでしょうか?」
あれ?
喋り方が違うぞ?
あたしは不思議に思って目隠しを取り去った。
「へ?」
素っ頓狂な声が出た。

一馬だと思っていた男は、神保どらえもん(与左衛門の間違い)だった。
って……。
あれ?あれ?
「楽しませてもらいましたよ、鳶色の髪のお嬢さん♪」
女のような綺麗な顔でどらえもん君は微笑む。
あたしったら、あたしったら、一馬じゃなくって、この人と…?
「ぎゃああああああああ~~~~~~~~~~!!!!!!」
ムンクの叫びのような形相で、あたしは大声をだした。
 


 
 「ハッ。」
小鳥のさえずりと、小屋の小窓から零れ入る朝日で目が覚めた。
「夢…?」
夢…だったの?きゃあ~~~~~!!!
あたしの顔がリンゴのように真っ赤に火照る。
恥ずかしい~~~!!!
あたしったら、なーんて破廉恥な夢をみてしまっていたのぉ!!!

やけに生々しくて、リアルで…。
もしかして、もしかして…。
「あたし欲求不満?」
そりゃあ、彼氏いない暦二年。
尼のような生活暦も二年。
あそこにクモの巣がはってるんじゃ、って噂も二年。
同僚の細田さんへの片思い暦一年だもん。
「ふあ~~~~~。」
あたしは伸びをしながら大きく欠伸をした。

「あれっ?」
隣に一馬がいないのに気づいた。
その代わり、布団の隣には紙が一枚置いてあった。
置手紙なのか?
「何じゃこりゃ?」
あたしはそれを手にとってみた。
習字の如く墨で何か書いてある。
書いてあるけど、
「読めないよぉ~~~!!!」
ミミズの這ったような難解な漢字がずらずら並べてあって、
あたしには解読不可能であった。
あの男は馬鹿か!!!
こんなん現代文字じゃないから、読めないっつの!!

と、その時。
ガラっと小屋の木戸が開いた。
「あらっ?」
野菜が入った籠をかかえながらあたし位か、それよりちょっと若そうな女の人が戸口付近に立っていた。
ってか…可愛いタイプの女の人。
彼女は上品に微笑みながらこちらを見る。

「起きたのですか?」
「起きたのです。」

ハッ。
日本語が変。
「じゃないっ、今起きました…けど…。」
あなた誰ですか?
あたしは訝しげな目つきで彼女を見つめる。
「天羽様に頼まれまして来ました、お鈴と申します。」
「はあ…今日は。増子明日香と言います。」
あたしは、一応頭を下げて自己紹介してみた。
「あのぉ、一馬は一体どこにいっちゃったんですか?」
頭をぽりぽりかきながら、あたしは聞いてみる。

お鈴さんは籠を下げて小屋の中に入り、キビキビと動きながらあたしの布団を片付け始めた。
「あれ?ご存知ないのですか?今日天羽様は中山流の田代与太郎様との果し合いなんですよ。」
は、果たし合いぃ???
何かそう言えば試合がどうたらこうたらって…。
この時代の果し合いって…それって下手すりゃ死んじゃうんじゃないの?
まあ、たった二日お世話になっただけだけど、まだ昨日助けて貰ったお礼もいってない。

……っつーか、マジで??

「お顔が青いですよ。大丈夫です、天羽様はとてもお強い方ですので。」
布団を畳み終えると、彼女は袖を紐で縛って小屋の中央でボケーっと突っ立っているあたしに向き直った。

「天羽様は有馬流の師範、有馬守宗貞様の道場を破られた唯一の方なんですよ。有馬守様は有馬流の正統後継者で、四人の息子さん達と江戸で道場を営みながら将軍様に剣術の指南をなさっている名門なんです。その名門家を破った程剣の腕は確かですから、田代様のような雑魚など……。」
雑魚って、お姉さん…。
幸せそうに、うっとり顔で彼女は語る。
はっはーん、この娘一馬の事が好きなのね。
そんなの女の勘ですぐ分かるのさっ。

「果し合いは夕刻との事ですし、いつ天羽様がお戻りになられるかは解りません。それより、これから明日香様にお教えすることが多々ありますので、どうぞこちらへ。」
お教え??
何か教えるの?
お鈴さんはあたしの腕を引っ張る。
「今日、天羽様がお戻りになられるまでに、私めが明日香様に炊事洗濯諸々をお教えするよう言い付かりました。まずは、ご自分でで着付けが出来る様になりましょう。」
お鈴さんはにっこり笑った。

そうだ、忘れてたけどあたしは一馬に奉公してたんだ。
炊事洗濯かぁ…めんどくさ。
「あのぉ…お手柔らかにお願いします。」
「もちろんですわ!」

 あたしは、この日一日お鈴さんのスパルタレッスンを受け、奉公人としての基本(?)を無理やり叩き込まれたのであった。

未年の朝 5    07.30.2007


 その日の夜。
スパルタレッスンを受けたあたしはへとへとになったまま囲炉裏の前で料理を作らされてた。

「あああ~~~明日香さん、そんなにかき混ぜてたら大根の形が崩れてしまいます!!」
「え?」
マッハでかき混ぜてたら、大根鍋はグチャグチャドロドロに変化していた。
「お粥でしょ、芋粥でしょ、山菜鍋でしょ。もー、毎日毎日鍋か粥で飽きたよ~!!グラタン食べたいよぉ~!!カレーライスが恋しいよぉ~~!!」

「ぐら…たん?何ですかそれは。いいですか、鍋が飽きたなんて罰当たりな事いうのではありません。これでも贅沢なんですよ!!ああ、もう大根がこんなになってしまって!!」
あたしが半泣きになってもお鈴さんは動じない。
こんなやりとりが一日中続いた。



 「帰ったぞ。」
突然ガラリと木戸が開いた。
一馬が帰ってきたらしい。
「天羽様♪」
ドン、とあたしを押しのけてお鈴さんは戸口に向かう。
「お早いお帰りで!!!」
「あ~一馬かぁ。お帰り。」
突き飛ばされて思いっきり前のめりにズッコケタあたしは、鼻頭を真っ赤にしながら振り向く。

一馬は果し合いがあったにしては、普通な感じだった。
戻ってきたって事は…勝ったんだよね?
「お疲れ様でした。そして、おめでとうございます。」
お鈴さんはそつ無くサササッと、一馬が羽織を脱ぐのを手伝う。

おめでとう…って、やっぱ勝ったんだ。
そうだよね、じゃなきゃ帰ってこないだろうし。

「ああ、お鈴さん。有難う。この馬鹿奉公人に基本を叩き込むのは大変だったであろう?今日はもうお帰りになってお休み下さい。これは少しの謝礼ですが。」
一馬は礼を言いながら、お鈴さんの手を取ってなにやらお金らしき物を渡していた。

「…ハイ。」
お鈴さんは下を向きながら、心なしか寂しげな声で返事をした。
っつーか、一馬!!
あんたこの人があんたに惚れてるって気づいてないの???
「あの、明日香様はまだ完璧に仕事をこなせるようになった訳ではありません。もし一馬さまさえ宜しければ時間を見つけて、定期的にここに来て指導しても宜しいでしょうか?」
おずおずと、躊躇いがちにお鈴さんは問う。

「そうだな。この馬鹿が一日で全てを覚えるのは不可能であろうし、
 もしお鈴さんさえ構わないのなら是非お願いしたいのだが。」
キラリ、とお鈴さんの目が輝いた。

「もちろんですわ!!天羽様。いつでもお呼びくださいな。」
一馬はお鈴さんの肩に手を置いた。
なんかこの二人って、隣同士にいると華があってお似合いだ…。
「夜も遅いので、送りましょう。」
と、一馬はお鈴さんを促し二人は小屋から出て行った。




 「あのねえ、そんなに馬鹿馬鹿言わないでよね!!」
暫くたって戻ってきた一馬は、何も言わず無言であたしが作った料理に手を付けた。
「不味い。」
一口食べた後、思いっきり眉を顰めて茶碗を置く。
「文句言うなら食うな!!ったく、朝起きたら居ないし、置手紙だって漢字難しくって読めないし、お鈴さんのレッスンは訳わかんないし。だいたいこんなご飯炊飯器さえありゃあ三十分で炊けんのにさあ…。んで、今日の果し合いはどうだったの?」
「あんな口先だけの男が俺を倒せる筈がないだろう。」
自意識過剰なのか、冗談で言っているのか、真顔の一馬からは何も読み取れない。
あははは、とあたしは笑いながら冗談交じりに聞いてみた。

「ははは、あっさり殺しちゃったりなんかしてないでしょうね?」
まさか…ねえ?
「そうだ。一振りで終わった。」
「はっ???」
ま、マジ??
この人、人を殺めちゃったの???

それなのに、なんて平然とした顔してるの???

「ホントに…死んじゃったの?」
「でなければ、俺が殺されていた。それが、果し合いだ。」
一馬はあたしの不味いご飯に食欲が失せたらしく、そのままゴロリと横になった。
「信じらんない信じらんない信じらんない!!!!!あんた人の命を何だと思ってんのよ!!!」
一馬は仰向けのまま、手を頭の後ろで組む。
あたし、殺人者と今、話してんの???
「お前は人の命の何を知っている?」
「何を知ってるって…。」
言われても…。
答えらんないよ…。
でも。
「人は殺しちゃ駄目なんだよ」
「お前の時代は人を殺めたりせんのか?」
一馬は訊ねながら目を瞑る。
「そりゃあ、殺人とかはあるけど…人を殺したら罰せられるのよ。だから、むやみやたらに人を殺したりしないの。誰も、刀なんて物騒なもの持ち歩いてないし、そんなのに頼らなくても安全だから…。」
「お前の時代がどうなのかは、知らん。この江戸でも人を殺めれば罰せられる。東西合戦以来の浪人が江戸に流れ、秩序を乱してはいるが、幕府より一応の御触れは出ておる。だが、果し合いは別だ。
双方とも、命を落とす危険を承知しておるからな。それより……お前の時代は誰も帯刀しておらんのか。…それは…いい時代というのか?」

独り言のように、一馬は小さく自問自答した。
あたしは、何も答えなかった。
暫く、一馬は目を閉じたまま、無言だった。
沈黙が、あたしたちを包む。

一馬は寝たものと思って、あたしは不味いと言われた鍋(しょうがないのであたしが一人で食べた)や食器を片付けようと、腰を上げた。


「どこへ行く?」
ハシッと、一馬の食器に手を伸ばしたあたしの腕が掴まれた。
「きゃあっ!!」
がっちゃーん、と食器を火の消えかけた囲炉裏に落としてしまう。
そのまま腕を強く引かれた。
ほんの一秒の出来事なのに、気づいたらあたしは一馬に組み伏せられてた。

えっえっえ???

「人を殺める度に女を抱きたくなる。」
何だってぇ~~~~?????
「なななな何言ってんの?!おかしいよそれ!お酒でも飲んできたの?決闘の時頭でも打たれたの?それとも、おかしくなったの????」
あたしは逃げようと、一馬の腕の中で暴れる。
なのに、暴れれば暴れるほど彼の背中にまわされた腕は逃すまいと、きつくなる。

「俺は至って素面だ。」
「ちょっ、まって、一馬らしくないって!!何で、どうして?あたしの貧弱な体じゃあ欲情しないんじゃなかったの?!!」
「そんな事も言ったな。」
「言った!!絶対言った!!!」
「今宵はお前の体で我慢だ。」


我慢って…あたしの意思はどうなるんじゃあぁぁ~~!!!


あれよあれよという間に、あたしは襦袢姿になっていた。
ちょっと怖かった。
見慣れ始めた一馬の顔が、熱を持った吐息が、不器用にあたしの首筋に絡みつく。

っつーかこれって、
「正夢…。」

「案ずるな。優しくしてやる。」
一馬はあたしの首を上下に舐めながら、襦袢の下に手を入れた。
太ももの上を撫で回す。
「あ…っ。」
太ももの内側を触れられると、体が弓なりに仰け反った。

ちょーっとまった、あたしの理性!!!

一馬はあたしのお祖父ちゃんのお祖父ちゃんのお祖父ちゃんのお祖父ちゃんのずーっと前の時代の人で、あたしという人間を一人作り出すには千人以上の人間が過去に関わってるから、もしかしたら一馬もあたしの遠い親戚だったりしたりして、そんなんだったら近親相姦になるわけで、ああ、でも遠い親戚だったら……。

「…って、ああん!!」
「何をブツブツ言っておる?」
襦袢の中の手が、下着をつけてないあたしの茂みを弄った。
あたしの顔の目の前で、切れ長の隻眼が口元の不敵な笑みと共に少し歪む。

「…遠い親戚だったら…?」
何、言ってるんだろうあたし……。
呪縛にかかったみたく、あたしは一馬の瞳から目を逸らす事が出来なかった。
「少し黙れ。」
荒々しく、口を塞がれた。
「ン…くっ…。」

無理やり硬く結ばれたあたしの唇をこじ開けて、一馬のねっとりとした舌が侵入してくる。
舌があたしの舌に絡んでくると、口腔内を舐めまわされると、自分の舌も反応してしまう。
「か…ず……まっ…。ひゃっ!!!」
茂みを探検していた指が一本、そっと閉じた花弁の上の方に侵入した。
指は円を描くようになぞりながら花弁の中の芽を探し当てる。
「あんっ!!!!」
「ここか。もっと足を開いてくれ。」
一馬は言いながらあたしの足を開かせる。
襦袢は既に半分はだけていた。

コリコリとあたしの真珠のような小さな粒の芽を、左右に動かす。
「ああ!!…ん…ちょっ…あん!!ずるい、あたしばっかり!!」
コリコリされる度に、あたしはエッチな声が出た。

一馬はあたしにキスをするのをやめて、空いた方の手であたしの襦袢を脱がしにかかる。
彼が体を離した隙を見て、あたしも手を伸ばして彼の着物の帯を解きにかかった。

「積極的な女だ。生娘ではないらしいな。」
「生娘?残念でした。処女じゃないですよ~。」
体を起こして上目遣いに一馬を見つめながら、あたしは彼の着物と襦袢を脱がせた。
一馬は初日に見た褌姿になる。
小さな刀傷がある、無駄の無い筋肉が引き締まった体は、少し汗ばんでいた。

同じ褌姿でも、褌に包まれてるあれの大きさは全然違った。
「……あ。」
あたしは、彼の体を洗っていたときの、あの滑らかな感触と熱さと太さをおもいだして、
顔が真っ赤になった。
「お前はどうしたいのだ?」
褌姿で膝立ちの一馬はあたしを見下ろす。
不敵な笑みが顔に浮かんでいた。
「どうしたいって…。」

決まってるじゃん。
「言わなければわからんぞ。見たいのか?」
その言葉にボッとあたしの顔が一気に火照る。ついでに下半身も熱く感じた。
「見たい…です。」
ニヤリと笑みを溢しながら、一馬は褌を解きにかかった。
スルリスルリと時間をかけて長い褌を解いていく。

思わず、喉が鳴った。
「すごっ……。」
触った事はあるけど、今まで見た事がなかった一馬の男は、
肌の色より色素が幾分濃い目で、大きくて、天を向いて硬く反り立っていた。

ぜんぜん…現代の男の人のと変わんないじゃん…。

ボーっとそれに見惚れながらも、あたしはおずおずと熱い塊に触れようと手を伸ばした。

「まだ駄目だ。」
「えっ…?」
伸ばした腕をまた掴まれて、今度はクルリとうつ伏せに寝かされる。
あたしの体に纏わり着いていた襦袢を後ろから抱き抱えられながら脱がされて、
そのまま膝を立てさせられる。
え…ていうか、後ろから丸見え…?
「あふっ…んん…。」
一馬の両手が後ろから回されて、あたしの胸を揉みだした。

仄かに淡く色づいたあたしの両方の胸の頂を、がさつな男の指で抓まれる。
同時に首の後ろに情熱的なキスを繰り返す。
「ああんっ…!」
動く度にお尻の上あたりに、覆いかぶさった一馬の体の硬く火照った中心が当たる。
すっごく…気持ちいい。
あたしのあそこがうずうずしてきた。
しつこく胸に刺激を与えていた両手は、あたしの横腹を摩りながら突き出されたお尻の上に到達した。
軽く左右に広げられる。

「えっえっ…?!」
ちょっと待って!!
「…案ずるなと言ったであろう。」
一馬はあたしの耳元で小さく呟くと、体を下のほうへ移動させた。

案ずるな…かぁ。
でも、確かに一馬の声音は、心なしか安心する。

「いやぁぁん!!」
そんな事をぼんやりと考えていたら、あたしの剥き出しの花園が開かれて生ぬるい感触がした。
一馬がもう蜜が滴っているそこを、ぺろりと一舐めしてきた。
「いい声だ。」
舌は何度か花園全体を上下に軽く舐め上げた後、さっき指で触れられた真珠の粒を見つけだして、さっきよりも少し膨張し始めたそこを舌先で突付いてきた。
「うわぁっ…あんっ…あ…!」
指でコリコリされるのとはまた違った快感に、体の力が抜けそうになる。

舌が上下左右に真珠を転がす度に、喘ぎ声が漏れる。
「あんっ…ふ…あっ!!」
もう…ちょっとやばい…かも。
……とか思っていたら、一馬もそれを察したのか、ふと顔を離す。
「凄く…濡れているな。」
何秒か見つめてから、顔を寄せて舌をあたしの蜜壺に移動させた。
一馬は舌を尖らせて小さな穴に入れ込む。
彼の鼻先は、心なしかあたしの…あの、後ろの隠花の辺りにあたってる…。

一馬はわざと顔を擦り付けた。
「あ…か…かずっ…そこ…っや……っ!!」
蜜壺に差し込まれた舌は容赦なくあたしの蜜を舐め取っているようだ。
蜜を味わいながらもチロチロと一馬の花園探索は続く。
「ひゃんっ!!」
お尻が左右に広げられた。終に隠花の周りに暖かい湿り気を感じる。
小さく窄んだ部分を丁寧に舌先味わいながら、指で花弁をなぞる。

「う…ん…ああ…。」
こいつ…実は超テクニシャン…かも……。
恥ずかしさと、快感がごちゃ混ぜになってて、言葉が出なかった。



あたしの長い夜はまだまだ続くのであった…。



未年の朝 6    07.30.2007


 後ろの蕾を舐められるなんて、すっごい恥ずかしい行為なのに、
気づいたら羞恥心もなく喘いでいる自分がいた。
「んんっ…クッ…。」
花弁をなぞっていた一馬の指があたしの蜜壺につぷりと入れられた。
そのまま荒々しく奥へゆっくり入っていく。
「はっ…やん!!」
思わず、キュッと力を込めて一馬の指を締め付けてしまう。
一馬の指はあたしの中で円を描くようにかき回された。

「あ…あんん…ふっ…。」
もじもじと、お尻を動かす。
なのに指は執拗にあたしの蜜をかき混ぜた。
「そろそろ、いいだろう。」
小さく呟いた一馬は、顔と指をあたしのお尻の谷間から離した。
体を起こしてそのまま熱い塊をあたしの入り口に宛がう。

「用意はいいな?」
「…うん。」
熱くて丸いモノが、微かに蜜の滴る壺に埋め込まれた。
「あ…。」
と、その時。
 


異変が起きた。

 
 


言葉では説明できない。
 
 


息が苦しくて、目の前が真っ暗になった。
 


 
苦しい。
体中が、熱い。
死ぬほど熱い…。
丁度、酸欠状態…みたいな、そんな感じ。
「か…ず………。」
体全部がブルブルと痙攣を起こす。

 
 
 


 
やば…。息が…できな……。


体が…破裂…しそ……。

 
 
 
 
「明日香!!!!どうしたのだ、明日香!!!!」

 
 




 
ああ、一馬の声が聞こえる…。





たすけ………。

 
 
 
 
 
 
 
「行くな!!!」
がしっ、と腕が掴まれる。
思いっきり抱きしめられた。

 
 
 





 
 
あ、一馬がたすけてくれた…の?

 
 
 
ゼエゼエと肩で息をしながらも、あたしの意識はそこで途絶えた。

 
 
 
 
 
 






 
 「だから言わねぇこっちゃねーんだよ。」
「お主が試せと言ったのであろう?」
「まさかお前が本気にするとは思ってなかったからな。可哀想に、この娘に無茶させやがって!!」
「こいつが言っている先の時代から来たという話が事実かどうか知りたかったのだ。だが…これで確かになったな。」
あれ?
会話が聞こえる。
誰かいるのかな?
「かず…ま?…誰か居るの??」
あたしは、のっそりと体を起こした。

外はまだ暗い。
夜は更けてないみたい…。
「イタタタタ…。」
体中が変な感じに痺れてる。
「起きたのか!!」
囲炉裏を囲んでいた一馬がこちらに向き直った。
気のせいか、ちょっと心配そうな顔をしてる。
「気を失ったまま一刻ほど起きなかったので心配したぞ。大丈夫であったか!!??」
大丈夫?
え?
……ってどういう事?
そういえばあたしさっきまで一馬と……。
「ハッ。」
恐る恐る視線を落とす。
「きゃあぁぁぁ~~~~っ!!!」
あたし裸じゃ~ん!!!
しかも胸丸見えで……。

ガバッと布団を引き上げて胸を隠す。
顔はきっと真っ赤だ。
「どどどどうなってんの?」
あたしにはわけわかめ状態だった。
一馬はあたしの傍まで来て胡坐をかく。
「まず、お前に謝らなければならぬ。実はお前の、先の時代から来たという話をずっと疑っていた。だが、これで多少なりとも信用出来るようになった。」
「はあ?」
何言ってんの?
っつーか説明した筈だよね?
信じてなかった…の?

茫然としているあたしの視界にもう一人の人物が映った。
つるッぱげででっかい図体の、お坊さんみたいな格好している青年だった。
青年は愛嬌のある顔で一馬の短くて不器用な言葉を付け足すかように説明する。

「つまりだな、一馬はお嬢さんの話が本当かどうか知りたかった。今日、果し合いの前にこいつが俺んとこの寺に来たもんだからちょっくら話をしたんだ。んで、お嬢さんの話を聞いた。あ、俺はこいつとはいわゆる幼馴染の腐れ縁でね、道弦というんだ。まあ、俺の事はいいとして……。常識で考えりゃあ先の時代の者が今の時代の者と交わったらどうなると思う?子でも孕んだりしたら歴史が滅茶苦茶になっちまうだろう?まずその前に先の時代から来た女とやらと交わる事が出来るのか。その話が本当か俺が証明して来いって言ったら、この男本当に試したらしくって、さっき血相変えて俺ン所に来たって訳。なんせお嬢さんの体が一瞬消えかけたらしい。」

「………はぁ?」
ちょっと待って。
あたし今起きたばっかで頭が働いてないみたい。
でも、何て言った?
あたしの体が消えかかったって???

困った顔をしているあたしを見て道弦さんはそうだなぁ、と呟きながら続けた。

「分かりやすく言うとだな、%#○の時一馬の○#*@をお嬢さんの&%$に☆◎#&としたらだな…って、おいおい!!!!」
一馬の白銀の冷たそうな刃が道弦さんの目と鼻の先で光っていた。
「もうよい。喋り過ぎだ、黙っていろ。」
少し顔を赤くしながら一馬は道弦さんの言葉を制した。

刀を鞘に戻して床に置く。
ゴホン、と咳払いしてあたしに向き直った。
「まあ、そういう事だ。お前を試す為とはいえ、苦しませた事は詫びる。」
一馬はあたしに頭を下げた。
えっ…じゃあ、あれって…。
あたし、ただ単に試されてただけなの?
なのにあたしったら結構その気になっちゃってて…。

……なんか弄ばれたみたいでショック……かも。

「だが、お前の体が一瞬消えかけたのには本当に驚いた。」
切なそうな隻眼があたしの視線とぶつかる。
なんで…本気じゃなかったのにそんな表情するの…?
「体は大丈夫か?」
一馬はあたしの髪の毛を撫でる。優しさが辛い…。
「ちょっと痺れた感じ…。」
一馬の顔を見て、胸が、きゅんとした。
な、何あたし乙女チックでセンチメンタルな気分になってんのさっ。

「だああああああ!!!!!!!」
あたしは気合の掛け声をかける。
「…大丈夫か?気を違ったか??」
心配そうに顔を覗き込む一馬の後ろではっはっはと道弦さんは笑っている。
「平気平気!!なんかちょっとストレス解消。ははははっ。」
でも、一馬とならやっていいかもとか思ってたのは確かじゃん。
中●生日記の純情ティーンネイジャーの生徒じゃぁあるまいし、
こんな事で悩んであたしったら…。
はははは。

「すと…れす?何だそれは?やはり頭をどうかしたようだな。ああ、それは元からだが…兎に角俺がついていてやるから今夜は体を休めて寝ろ。」
一馬はあたしを寝かしつけると、再び道弦さんに向き直った。
あたしは、ぼんやりと朽ちかけた古汚い天井を見つめながら考えた。

一馬は、あの時あたしの体が消えかけた、って言ってた。
それは…元の時代に帰れるって事?
それとも、あたしの存在自体がこの世の中から消えてなくなっちゃうって事なのかな?

あの時……。

ボッとあたしの顔が真っ赤になる。
みみみ見ちゃったし、見られちゃった。
それに、触らせちゃったし、それ以上の事もされたし、エッチな声で喘いじゃったし……。

ちらり、と背を向けている一馬に目をやる。
道弦さんと酒を酌み交わして飲んでいる一馬の様子はいつもと全然変わらなかった。
なんでこいつはこんな普通にしてるわけ?
あたしなんて思い出しただけで…。
ぼぼぼっと顔が真っ赤に火照る。
「なんかやっぱ腹立つ。」
あたしは小さく呟くと、顔が見られないように寝返りを打った。

古いけど暖かい布団があたしを優しく包んでくれた。
 
 


「まさかお前の顔が青くなる所を死ぬ前に拝む事ができるなんてなぁ。」
はっはっは、と巨体坊主は豪快に体を揺らしながら笑う。
「そんなに可笑しいか。お前がやれと言った事を実行したまでだ。
 それに、お前もあの場にいれば度肝を抜かされていたぞ。」
至極真面目な顔で一馬は杯を口に運ぶ。

「いやいや、他人の色事を覗く趣味はねぇよ。髪が馬みてぇな色だし突然叫んだりと少々変わってはいるが、いい女だな。抱けないなんてもったいねぇ話だ。ま、お前は昔っからそういう男女の戯事に関しては結構割り切れるみたいだがな。」
「………そうでもないぞ。」
無表情で呟く一馬を見やりほーう、と垂れ気味の両眉をあげて唸る。

「お前が珍しいな。武者修行とやらで長い間女を抱いてないのが祟ったか?ふんっ。まあいいけどよ、それより……。」
空になった杯に酒を汲みながら、道弦は体を寄せて声を潜めた。
「今回中山流の田代与太郎に勝った事でお前の名は全国に知れ渡るだろうが…どこかの藩に仕官するつもりはねぇのか?」
一馬は仕官、と言う言葉を聞いてピクリ、と酒を飲みかけたまま動きを止める。

「幾つか話はあるが…。」
何事もなかったかのようにグイッと飲み干すと、杯を置いた。
「朧月藩の藩主が、俺を神雷流の剣術お披露目という名目で城に呼んで来た。何処かの誰かに仕える気は更々無いが、今回は藩主直々の要望らしく行くべきかどうか迷っておる。…道弦、お前はどう思う?」

道弦も一気に飲み干して杯を置いた。
よいしょ、と巨体を起こした。
「さあな。それはお前の考える事だ。幕府の為に人生を捧げるもよし。
 己の信念に基づいてひたすら剣の道を追及するもよし。」
一馬は苦笑しながら道弦を顧みる。
「お前…俺と大して歳が変わらんのに悟ったような口をきくな。」

道弦は身支度を整えながら、横目で部屋の隅で寝ている明日香に視線を送る。
「物心ついた時から仏さんに仕えてるんだから当たり前だ。格の違いだよ、格の。で、この娘さんの事はどうするんだ?このままここに置いとくのか?」
「それは…分からん。」
「なんだか久々に面白れぇ事が起きそうだな。ま、また何かあったら俺んとこに来いや。」
意味有りげな笑みをこぼすとそう言い残して、巨体坊主はのそのそと戸口から出て行った。




 「寝たふりをするのはよせ。」
ギクッ!!!
ば、ばれた?
「お前がずっと聞き耳を立てていた事くらい分からんでどうする。」
気づいてたならそのままそっとそっとしてくれって感じ。
「…だってなかなか寝付けないんだもーん。」

あたしは、一馬に背を向けたまま答える。
「…悪かった。」
えっ?
なになに突然??
「…先程の事でお前を傷つけたのなら謝る。あれは、ただの戯れと思って忘れてくれ。」
静かな声が狭い小屋の中に響く。

戯れ…かあ。
あたしの方は結構本気だったなんて、言えない…。
「う、ううん、別にいいよっ。これであたしが元居た時代に帰れるかもしれないって分かったし。」
シーン。
返事がない。あれっ?

顔を見たいけど、今寝返り打ったらなんかちょっとワザとらしいし。
どうしよう…何か喋った方がいいのかな?
とか思ってたら、一馬がちょっと間をおいて口を開いた。
「…お前は元居た所に帰りたいと思っているのだったな。」

がさっという音が聞こえて振り向いたら、一馬は刀を持って戸口に向かっていた。
「お前が苦しむ所を見たくは無いが、あれが本当にお前の元居た時代に帰る方法なのであれば、いつでも言え。手伝ってやる。よいな。」

一馬がガラっと戸を開けると、冷たい夜風が吹き込んできた。

「もう夜明けが近い。お前の一日は長かったのだから明日はゆっくり休め。俺は酔いを冷ましに素振りでもしてくる。」
そう言って真冬だっつーのに、一馬は薄着のまま外に行ってしまった。
 
そのうち、あたしもうとうとし始めて気づいたら深い眠りに落ちていた。


 
未年の朝 7    07.31.2007


 あれから一ヶ月近く経った。
あたしと一馬はあの事には触れないまま何となく毎日を過ごした。
相変わらずあたしは奉公人として、お鈴さんに定期的に来てもらい色々な事を習っている。
一馬は昼間剣術を教えにどっかへ行っていて、夕方にならないと帰って来ない。

 そうそう、変わった事といえば、一馬が田代なんとかって奴に打ち勝ったその日から、怪しくてむさ苦しい浪人っぽい侍たちがうちを訪れるようになった事だ。
ついさっきも外を掃いていたら(嫌々ながら…でも一馬の命令)、
「失礼。神雷流天羽一馬殿はおいでか?」
と超きったない格好のおっさんがやって来た。
「一馬はどっか行ってるみたいですけど…。あなた誰ですか??」
おっさんの方に向き直った瞬間、異臭が鼻を突いた。
うわっ!!
超くっさーい!!!

一体この人どれくらいの間お風呂に入っていないんだろう?
男の人は丁寧に頭を下げて名乗った。
「私は肥後から参りました坂本栄之助と申す者ですが、全国に名高い剣客、天羽一馬殿と是非お手合わせを願いたく参りました。…失礼ですが、貴方は一馬殿の奥方であろうか?」

はい??
今なんて??
「お、奥方ぁ???違います違います!!あたしはただ彼に奉公してるだけなんですけど…。」
勘違いされちゃぁ、困る!

「あの、ですね。はるばる遠くからお越しなのに悪いんですけどぉ~、
 一馬はどなたとも剣を交える気はないって言ってるんで、本当にご苦労ですけどお引き取りください。」

一馬は、誰か来ても戦うつもりは一切ない、と。
お引取り願うようにとあたしに散々注意していた。
事実、このおっさんで十何人目なんだろ??
「そうですか。分かりました。」
おっさんは残念そうに表情を翳らせ、渋々踵を返して行った。
 
 


 この一ヶ月。あたしは色々考えていた。
元の時代には帰りたいけど、もしあの方法が間違っていて、この世の中から消える事になってしまったら…??
それを考えるとどうしても怖気づいちゃうのだ。

それより、認めたくないけど…
一馬との生活が結構楽しくなってきたっていうのも原因だったりする。

一馬の事を意識しちゃっている…みたい。
一馬は何を考えているんだろう?
あれ以来、いつも通りに憎まれ口を叩いたりはするけど、あたしには触れてこない。
あたしは結構、あの時の事を考えちゃうのに…。

股の間が火照りだす。
「あーやばいやばい。あたしったら欲求不満だわ。」
慌てて頭の中で沸き立ちそうになった妄想を、取り消す。
「何が不満だって?」
「ぎゃっ。」
箒で地面を掃いているあたしの真後ろで、涼しい声がした。
「なんだ?」
「ああ…一馬。吃驚させないでよ!!」
「お前は隙がありすぎる。」
そういい捨てると、すたすたと小屋の中に入っていった。

「また変なおっさんが一馬と一本願いたいとか言って今さっき訪ねてきたよ。」
あたしも一馬の後を追って中に入る。
「そうか…。放っておけ。」
一馬は羽織を脱ぐと、あたしに笹の葉に包まれたものを手渡した。
「なにこれ?」
「町で売っていたので買ってきた。団子だ。美味いぞ。」
「まじっ、団子?」
開けてみると、みたらし団子らしきものが3本入っていた。
「超うれしーっ!!ありがと、一馬!!!」

早速一本頬張ってみる。如何にも手作りの、優しい味がした。
「うみゃい…。」
嗚呼、団子って時を越えても同じ味なのねぇ…。
ほんのり幸せ気分でいるあたしに、一馬は囲炉裏の火を起こしながら声をかけた。
「実は明後日からここを暫く離れるが、お前は独りでここの番が出来るか?」
「えっ?」
は?何突然?どっか行くの???
「んっあっんっん…。」
サ●エさん状態。団子を頬張りすぎて喋れない。

「朧月藩へ行く。」
朧月藩??
あの、現代でも観光名所で有名な朧月城があるとこ??
「藩主に呼ばれてな。」
藩主?
って事は城に行くの?!
「行きたい!!!!」
団子を飲み下したあたしは、大声で言った。
「行きたい行きたい行きたい!!!行ってみたーい!!!」

一馬は振り向いて、明らかに不快そうな顔をした。
「馬鹿を言うな。ついて来てどうする?遊びに行くのではないぞ。」
「そんな事分かってるって。城に行ってみたいの!!」
江戸時代の朧月城。
超行ってみたい。
「駄目だ。」
一馬はにべもない。
「朧月城ってね、あたしの時代にもまだあるんだよ!!行った事ないけど、行って見たい!!!」
あたしも引き下がらなかった。
「女の行く場所ではない。」
女の行く場所ではないですと??
なにそれ、男女差別?男尊女卑??
その冷たい一言にあたしはぶっ切れた。
「ちょーっと待ったぁぁぁ!!!」
「何だ?」
刀の手入れを始めた一馬は、背後の怒りの炎メラメラのあたしに気づかず続ける。
「はっきり言おう。お前が来ても足手まといになるだけだ。俺は剣術お披露目という名目で呼ばれている。来るのは武家の侍達だけだ。」
くうっ…ストライクショットだわ。

足手まといとまで言われちゃあたしのプライドが許さん!!!
まあ元からプライドもクソもないけどさ。
「じゃあ、男の格好する!!」
咄嗟に、そんな言葉が口から突いて出た。
そうだよ。
いい考えじゃん。
うん、それがいい♪
「一馬の従者とか何とかになればいいんじゃん♪」
ゆっくりと、無言で一馬は振り返る。

その顔は、怒っているっていうより、呆れていた。
「お前…そこまでして行きたい所なのか?」
「あったりきしゃりき。こんな小屋に毎日篭ってたくないもん。」
これは本音。
お城に行ってみたい!!
「……勝手にしろ。俺は知らんぞ。」
一馬は低く言い放つとまた刀の手入れを続けた。
 



 最近気づいた事があった。
あたしの爪が伸びないのだ。
爪だけじゃない。
髪の毛も。
いつもだったら一ヶ月経ったらプリン状態の髪の根元も全然そんな様子を見せない。
この時代に鏡なんてものは無くって
(あるのかも知んないけど、そんなもの一馬が持ってると思う??)、
いつも顔を洗うとき桶にはった水を鏡代わりにして自分の顔をチェックする。
丁度成長が止まったみたいな感じ。
有るのは食欲だけ。
あ、性欲も(自爆!)。

その事を裁縫を教えてくれていたお鈴さんに言ったら、
「気のせいですよ。」
と一笑された。
「でも、あれも来ないの。」
「あれ?あれとは何でしょうか?」
っつーかこの時代は、何ていうんだろう??

「生理。」
「せいり?」
「ほら、月経?うーんと、女の子の日…っていうの??」
言いづらいじゃん…。
一馬には言えないし、お鈴さん分かってくれよプリーズ!!!
「ええええええ!!!!!!!」
お鈴さんはやけにオーバーリアクションで驚く。
「あ、あ、明日香さまいつの間に一馬様と…そんな仲に……。明日香さまのお腹に、私の一馬様のお子が……嗚呼、なんて事!!!!」

「はあ??」
お子って…大いなる勘違いっすよ、お姉さん。
「大体、あの一馬様が若い女の方を奉公人として連れて来た事自体間違っていたのですわ!!あの、あの、分別があって、お強くて、素敵な一馬様に限ってそんな事…。ああああ~~~~!!」

お鈴さんはあたしの目の前でさめざめと泣き出した。
をいをい。
一馬って分別があって素敵だったのか??
お鈴さんのビジョンではなんかすっごい美化されてるよ。
確かに…まあカッコイイかなってとこはあるけど…。

「いや、そうじゃなくて…一馬とは何にもないけど、ただそれが来ないの。」
いや、正確には何かあったけど、でも何も無かったわけで…。
「本当でございますか?」
「本当です。」
ぼろぼろと大粒の涙を流していたお鈴さんがころっと一転して、笑顔になった。

「良かったわ。そうですわよね~。私の一馬様が奉公人などに手を出すはずがないですわよね~。」
何気に「私の」を強調してるわ、お鈴さんたら。
もしかしてあたし密かにライバル視されてる??
「そうだよ~。お鈴さんの一馬があたしなんかにねえ。はははははっ。」
あたしも「お鈴さん」を何気に強調する。

「良かった。」
お鈴さんは小さく呟くとホッと溜息をついた。
あ、やっぱ一馬の事本気なんだ…。
「お鈴さん…一馬の事好きなんだね。」
なんか恋する乙女って感じだわ。
「ええ。明日香さまには打ち明けますけど…初めて一馬様とお会いした時からずっとお慕いしております。」
顔を真っ赤にしながら、お鈴さんはきっぱりと言った。

「ふうん…。ねえねえお鈴さん、前から聞きたかったんだけど、
 一馬って何であんなに強いの??っていうか戦ったとこ見たことないけどさ、なんか変な人たちが一馬と一本手合わせしたいっていっぱい来るんだよ。」
「えっ。明日香様…一馬様がどんな御方かも知らないで奉公してらっしゃるの??」

お鈴さんは目をまんまるくしてあたしを顧みた。
「だって、一馬って自分の事全然話さないんだもん。」
教えてって言って教えてくれるようなタイプじゃないっしょ、彼は。
うーん、と唸りながらお鈴さんは顎に白い手を置いた。

「私の知ってる限りでは…一馬様は元々何処か地方の郷士のご嫡男で、何故だか分かりませんけど…多分恐らく先の東西合戦が原因で…
 今は家督を捨て全国を放浪しながら気ままに過ごしていらっしゃるみたいですわ。剣術は…この間も申し上げましたけど、
 あの有馬一門を倒してから名前があがって有名になったようですけど。」

一馬にも色々過去があるのねぇ。
「で、お鈴さんはどうして一馬に会ったの??痛!!!」
ブス。
針があたしの指に突き刺さった。
もうさっきからこんな感じ。

お鈴さんの真似してあたしも雑巾を縫っていたんだけど、思いっきり指先をぶっ刺してしまった。
手縫いなんて中学の家庭科以来。
しかも超嫌いだった。
糸がつっている不細工な雑巾を眺めながらお鈴さんは、クスっと笑い答える。

「実は弟が一馬様に剣を習っているんですよ。うちは…貧しい商家なんですけど、剣を覚えるに越した事はないからと…。一馬様は武家のみならず、貧しい子供達にも無償で剣術を教えて下さっているんですよ。」

弟…ねえ。
あ、そうだ。
そんな事より聞こうと思ってた事あったんだ。
お鈴さんは器用に指先を動かしながら、針をちくちくと縫っている。
「そうそう、お鈴さん。あたしに男の着物を貸してくれないかな?」
あたしはただのボロ布の塊となった雑巾をついに投げ捨てた。
なんでミシンがないのよぉ~~~。
お鈴さんは再び手を止める。
「え?男物をですか??いいですけど、でも、何のために?」
「あたしが着るの。」
「明日香さまが?」

訳が分からないって顔でお鈴さんはあたしを見た。
「一馬について朧月城へ行くんだ。」
「朧月城??一馬様…まさか仕官するおつもりなのかしら…?」
小首を捻ってお鈴さんは独り言の様に呟く。
「仕官?剣術お披露目って言ってたよ。ま、どっちでもいいけど、あたしはお城を見てみたいだけなんだけど。」
あたしはニッコリお鈴さんに微笑んだ。
本当に、その時はそれだけだと思っていた。
まさかあーんな事やこーんな事が起きるなんて夢にも思ってなかった。
 
 


 出発の前の晩。
あたしは一馬の目の前でミニファッションショーをした。
男物の着物を着て、袴をはく。
なんか気分は、侍。
「どうどう、イケてるっしょ??」
あたしはくるりと回って見せた。
旅支度をしていた一馬は呆れた顔で見下ろす。

「イケテルとはなんだ??どうでも良いが一体お前はどこからその着物を仕入れてきたんだ?」
「お鈴さんから借りたの。弟さんのだって。」
一馬は腕を組んで暫くあたしを眺めた。
「蘭丸のか。しょうがないが、これを貸してやろう。これなら軽いしお前でも持てる。」
そう言って一馬は、家の奥から埃の被った木刀を一本取り出してきた。
うわあ。
木刀だ、木刀!!!
かーっちょいい!!!
「でもホントは真剣がいいんだけど。」
ボソッと呟いてみる。

一馬は聞こえなかったみたいで続ける。
「大体おなごが男の格好や木刀を好むなんて聞いたことがないぞ。
いいか、忘れるなよ。お前は俺の従者だ。間違っても変な事に巻き込まれるな。」
「メーン、ドーウ、コテ!!!ああ、竹刀じゃないんだ、剣道と違うのね。とりゃあぁぁぁ~~~~っ。」
あたしは嬉しくってぶんぶんと木刀を振り回した。
その間も一馬は懸命に何かを話している。
ふと、一振りした木刀が止まった。
あれ?
動かん。

「お前は人の話を聞いているのか??」
片手で易々と一馬はあたしの木刀を止めた。
「ほげ?」
もう片方の手で力強く抱き寄せられる。
おかげで間抜けな声が出た。
2秒位?
時が止まったみたい。
「ちょっちょっちょっちょ、何すんのよ!!」
慌ててあたしは一馬を押し離す。
一馬は頬っぺたを吊り上げて、にやっと微笑んだ。

「こうでもしないとお前は人の話をきかんからな。」
「は、は、は、はあ?」
ああ~~、駄目だ。
間抜けな声がでちゃう。
「さっさと支度をして寝ろ。明日は早いからな。」
あたしの頭をくしゃくしゃと撫でると、さっさと一馬は自分の布団を敷きだした。
つーか何考えてんの、この男は???
ちょっとドキドキしちゃってるあたしに比べてなんか余裕って感じだし。
もう全くわけわかめ。


一ヶ月振りに一馬に触れた場所が熱い…。
あたしはへなへなとその場にへたれこんだ。


未年の朝 8    07.31.2007


 朧月藩の朧月城。
現代じゃあ東京から車で2、3時間なんだけど、この時代は歩きで宿場とかいう休憩所を幾つか越して、やっと辿り着く距離だった。

城は建てられたばかりなのか、白く光っていて、
現代のものを写真で見るより(って行った事ないので)綺麗な感じ。

この藩主の細川政光って人が、一馬の剣術『神雷流』を見たいと言ってきたそうだ。
っていうか、そっち系の知識全く皆無のあたしには、その神雷流ってのが一体何なのか未だもって分からないんだけど、どうやら一馬が編み出した流派だそうな。
 


 「天羽殿ですな、よくおいでくださいました。長旅ご苦労。」
城門で暫く待っていたら、将軍の従者らしき小奇麗な格好をしたお侍さんがわざわざ門まで迎えに来てくれた。
一馬は予めもっていた、飛脚から受け取った藩主からの手紙をその男の人にみせた。
男の人はそれを一瞥すると、そのままあたし達を城の中に入れて、
「本丸表」とかいう大名様がパンピー達と謁見する部屋へ通した。
 

藩主はTVでよく見る癖のありそうないかつい爺さんか、はたまたバカ殿様みたいな頭の悪そうな奴だろうとのあたしの想像を裏切って、30代位の思ったより普通の若い男の人だった。
あたしは一馬の共の者らしく、彼の横に侍ってずっと大人しくしていた。
つーか男装してるもんで、胸を潰したサラシがきつい…。

「天羽殿、よくいらした。貴方の噂はたまに耳にする。」
奥に鎮座しているお殿様は、一馬にそう一言声をかけた。

一馬はこういう事が嫌いらしくって、いつもの怖そうな無表情で
「それはかたじけない。」
と短く返した。
「旅はどうだった?」
とか
「有馬道場をどうやって破った?」
などの長々としたつまらない社交辞令は果てしなく続く。
その度に一馬は頭を伏せたまま、完結明瞭な返事で終わらせていた。
おいおい、言葉のキャッチボールってもんがなってないっすよ。
などと思っていたら、やっと本題に入ってくれた。

「さて、全国でも名高い剣客…今まで無敗という天羽殿の提唱する神雷流という流派について聞きたいのだが…。さて、それはどんなものかな?」
あたしは頭を伏せながらチラリ、と隣の一馬を見た。
一馬も頭を下げたまま、低く呟くように答える。
「それは、言葉で表わすには難しいので、体で表現するのが一番分かりやすいと思いますが…あえていうならば、無駄な太刀は打ち込まずほとんど一撃で相手を倒す簡素な剣術です。」
お殿様は愉快そうに微笑んだ。
「剣術の無駄を省いた流派かね?それは楽しみだ。実は今から中庭で実践演習をしてもらおうと思っているのだが、その前にこの天羽殿とふたりで話がしてみたい。悪いが皆の者席を外してもらえんか?」

ま、マジ?
あたし一人でどうしろっつーの?

突然、不安が押し寄せてきた。
そんなあたしの不安を読み取ったのか一馬はあたしの耳に顔を寄せて
「案ずるな、どうせ仕官かなんかの話だろ。すぐ終わる。中庭で俺を待ってろ。」
と小さな声で言った。
この部屋に居た従者数名と、一馬の付き人のあたしは、
何故か部屋を追い出され、そのまま整備された中庭に通された。
 


 
 中庭には、素振りをしているお侍さんが何人もいた。
一馬はこの人達相手に戦うのかなぁ?
お殿様は一馬は無敗って言っていた。
ってか、負けた事無かったんだ…。すごっ。
だからいつもあんな偉そうなのかも。
「ま、どうでもいいけど目立たないように隅っこの方へ行こっと。」
あたしはそそくさと傍にある桜の木の陰に隠れた。

ここなら威圧的な侍のおっさん達と距離が保てる。
だって殆ど皆、一馬の従者(=下級武士)って事で、あからさまに下卑た視線をあたしに送って来るし。
「エッチそうな目であたしや一馬を見てきたおっさんも居たしね~。
 そっち系なのかな??」
とブツブツ独り事を呟いていた。

と、突然。
「おい、おまえ!」
何処からか甲高い声が降ってきた。
は?
何か聞こえた?
「お前だよ、そこの馬の尻尾みたいな髪のお・ま・え!!」
どうやら声は木の上から聞こえるようだぞ?
高めの声は明かに、まだ成長を遂げていない少年のもの。
あたしは、上を向いた。

「頭が悪そうな奴だな~。やっと俺様に気づいたか!」
木の上には、年齢が15、6の少年が座っていた。
顔は良く見えないけど、服装と口調だけでなんかお坊ちゃまって感じ。
「あんた何、失礼よ!!」
と言いそうになって、慌てて口調を直す。
あたしは今日は男装していたんだった。

男言葉、男言葉。
「うるさい、何か用か!!」
少年はスタッと地面に着陸して、あたしの目の前に立つ。
背丈はあたしと同じくらい。
顔は美少年系の、可愛い感じだった。
「俺に偉そうな口を利くな、貧乏侍の子の癖に。見ない顔だな、何処から来た?」
少年はマジマジとあたしの顔を覗きこむ。
っつーかあたしが、貧乏侍の子ですって???

このガキ何様!!!
「ご主人様(一馬の事)がここの藩主様に呼ばれて江戸から付き添って来ただけだよ。っつーか君こそ偉そうな口を利くね。」
少年は一瞬きょとんとしてから、プッと噴出す。
「お前、喋り方が変…。」
どきっ。
あ、あたしの男言葉変なのか?!
「そ、そうかなぁ~?江戸ではこれが普通なのに。それより、何か用?」
少年は腕を組んで、あたしの全身を上から下まで舐めるように見回した。
「お前、名前は?」

名前!!

名前なんて考えてなかった…。
咄嗟の事に、口が勝手に動いていた。
「ま、増子(ますこ)太郎っていうんだ。」

増子太郎!!!
よりにもよって、太郎!!
なんて情けない名前なんだぁぁぁぁぁ~~~っ!!
もっと気の利いた名前思いつかなかったのか、あたし!!!

「ふうん、太郎。お前さ、ちょっと俺に付き合えよ。」
少年は命令しなれているらしくって、可愛い顔に似合わず強引だった。
有無を言わせずあたしの腕を引っ張る。
「はあ?駄目だよ、僕のご主人様が剣術をお披露目するんだから、何処にも行けないよ。」
「すぐに戻ってくるって約束するからさ。お前にちょっと見せたいものがある。」
少年は、あたしを引っ張ってさっきお殿様が居た城よりも小さめな城のような建物にあたしを案内した。
 
この少年はここでは身分が高いらしくって、大人の侍達はすれ違う度に頭を下げていく。
少年はそんな大人をシカトして通り過ぎて行った。
お城の中の回廊を付き抜け、ある部屋の前で立ち止まると彼は
「この部屋を覗いてごらん。」

と不敵な笑みを溢しながらあたしに命令した。
「何?何があるの?」
あたしも不思議に思って聞いてみる。
「いいから、早くっ!」
急かされたあたしは、ガラガラガラっとゆっくり襖戸を開けてみた。


「!!!??????」
バタンッ。


と今度はちょっぱや(超早く)で閉める。
っつーか、今のって……。
や、や、やばいモノも見てしまった!!!!
いや、これは見てはいけないものなのでは???
少年はニヤニヤしている。
「あれ、皆俺の従者なんだ。」
少年は得意気に言う。

あたしが見たもの、それは酒池肉林の現場だった!!!!

酒を片手に、大の男と女十何人が、今で言う乱交パーティーをしていた。
「俺がやれって命じたんだよ。君も混じってみる??」
少年は悪びれもなく、あたしに聞いてくる。
「いや…結構です…。」

あたしは、何となく嫌な予感がして一応断っておいた。
少年は再び襖を開けながら、あたしに続ける。
「そうそう、言い忘れてたけど、俺は細川政輝っていうんだ。
 ちなみに君のご主人様とやらを招待したのは俺の父上だから。」
政輝はそう言ってあたしの腕を引っ張る。
やっぱこのガキ普通じゃなかった。
大名の息子。
…偉そうな筈だわ…。

「いや、いいよっ。ぼ、ぼ、僕はご主人様の試合を見ないとっ。」
嗚呼、あたしって何でいつもこんなんに巻き込まれちゃうんだろ??
少年はふうん、と呟いてあたしを省みた。

「これって命令だからね。嫌なら、切腹してもらうしかないかな~。」
まじっすか??
切腹なんて痛そうじゃん。
ってそんな問題じゃなくって、このガキまじで言ってんの?!
こんな時代の、こんな所で死にたくねー!!!!
青くなったあたしなんて眼中なしに、
「ほらほら、入るよ。」
と、このクソガキ政輝はあたしの腕を引っ張りながら
乱交パーティー会場(部屋?)に無理やり引き入れた。
 

政輝はあたしを引き連れて部屋を横切り、
奥の特等席に座って、男や女が入り混じってやっているのを満足気に眺めていた。
あたしは、彼らが発する喘ぎ声や唸りだけでも恥ずかしくって、顔が上げられないのに。
「ほら、見てみて。」
と政輝は酒を飲みながら指をさす。
「あの、大男の相手をしているのが俺の妻だよ。」
平然とした声で政輝は言った。
「妻?!」
ってあんた幾つよ!!!!
まだガキじゃんっ。
あたしは彼がさす指の先を渋々見た。
明かに彼より年上の、20代位のなかなか美人な女性が、苦しそうに声を上げながら大男の相手をしていた。
っつーかこの時代の早婚はともかく、大名の妻とかって大奥とかにいて姿を見せたりしないんじゃなかったの?

でも、こいつはまだ大名じゃないし。
うーん、よくわからん…。
「君…奥さんが他の男の相手をしてても構わないの?」
あたしは薦められるままにお酒を口にした。
下手に断ったらまた切腹とか言われかねないしね。
「別に。あの女は父上が勝手に決めた妻だし、俺、彼女みたいな女には興味沸かないし。」
「え?あんな美人なのに?」
「じゃあ、お前が相手にしてあげたら?」
はあ?

「いや…遠慮しておくよ。」
政輝は整った顔をあたしに向けて、長くて濃い睫毛に縁取られた黒々とした瞳であたしを凝視する。
「お前、貧乏侍だけど女の経験はあるのか?」
貧乏侍ってのは余計だよ、クソガキ。
っていう罵声は心の奥底に閉まっておいて、あたしも政輝に視線を向けた。
「ええ?!も、も、もちろんあるさっ。」

大嘘。

あたし女だもん。そんなのあるか!!
「ふうん、じゃあ、男とは?」
男としかやったことないです、ハイ。
あたしが沈黙していると、政輝はへえ、と呟き口角を引き上げて不敵な笑みを溢した。
「経験ないんだ。じゃあ、俺と試してみる?」
爆弾発言!!!!!

な、な、な、何ですとぉぉ~~~!!!

「俺、いつも年上の大人が相手で同年代の奴との経験が無いんだ。
 お前なら、やってあげてもいいぞ。」
こいつ、完璧あたしが男だと思ってる!!しかも15、6歳位の!!!!
ってか、こーんな美少年で、大名の息子で、女が選り取り緑なのに……。
男色家なの???
何故に???

「俺を喜ばせてごらんよ。」
ごらんよって……このませガキ、最初からそれが目的であたしを誘ったんだ。


ど、ど、どうしよ一馬ぁぁぁ~~~!!!



増子明日香22歳、タイムトリップ二度目(今度は男装中で下手すりゃ切腹になりかねない)の貞操の危機!!!!!


未年の朝 9    07.31.2007
何となく、理解できた。
育った環境の周りは男ばっかだし、思春期とも言えるこの時期の若者としてあり余る性的欲求の捌け口の対象も、女が居なければ男となってしまうだろうという事実は。

だがしかーし。
それとこれとは別問題。
なんであたしなわけ?


「お前も用意をしろよ。」
あたしが独り言を呟いている間も政輝は、侍従の者に着ていた羽織やら足袋やらを脱がせさせていた。
真っ白な襦袢姿になると、政輝はあたしの腕を掴みそのまま部屋の奥の襖戸を開けて隣の部屋へとあたしを誘った。

そこは部屋中金箔が張り巡らせられていて、金色に光る部屋だった。
豪奢な布団が中央に敷いてある。
「うわっ…。」
金閣寺じゃあるまいし、何このギラギラした(悪趣味な)部屋は!!!!
っつーかそれよりも!!

どうやったらこのシチュエーションから逃れられるの???
このまま男の振りをしてさっさと乗り切る?
いや、それはどう考えても無理くさい。
なら、素直にあたしが女だって白状したらどうなるだろ?
また…切腹とか言われそう…。

「何怖い顔してるんだよ?」
政輝はちゃっかり布団の中に入っていた。
「お前、緊張してるのか?」
してるよ!!
「ほ、ほんとに君を喜ばす事が出来たら僕はご主人様の所に戻っていいんだね?」
っつーか、君の子守なんてしたくないのだよ、政輝くん。

「へえ、自信あるんだ。」
フウン、と方眉を上げて政輝は呟く。
どんなに偉そうでも、ただのクソガキ。
あたしにはまだ触れてこないし、自分はさっさと布団の中に入っちゃってるし。
こういう僕ちゃん男って、あたしの予想ではきっと従者に奉仕させたりして、自分から相手には奉仕しないんじゃないかな?

なんていうあたしも、そんな経験ないけどさ…。
だあっ、もう、どうにでもなれ!!!!!
「失礼します。」
と言ってあたしは、布団の上掛けを捲し上げた。
そのまま、布団の脇から仰向けの政輝にキスする。
一瞬、一馬の顔が頭に浮かんだ。

ゴメン、一馬…。

って何であたし一馬に謝ってるんだろ?
別に一馬とどうこうって関係じゃないじゃん。
そう、別に言い訳じゃない。
このクソガキにお姉さんが礼儀ってもんを教えてあげてるだけなんだから!!
ああ、でもやっぱし言い訳にしか聞こえない…。

それより、主導権握るのってあたしの人生初めて…。
いくら最近欲求不満だからって、やっぱこんな年下じゃあちょっと興味が沸かないんだよね。
顔は、まあ上の上の上だし、あと10年位したらいい男になるかもしれないけど……。
なんて、あぁぁぁぁ~~~もう!!!
ゴチャゴチャ思ってても始まらない!!
もうなるようになるさ!!!

「ん……。」
あたしは、キスを繰り返しながら政輝の白い襦袢の合わせに手を滑り込ます。
まだ筋肉の発達していない少年の形跡を残した体は、敏感な所を撫でられる度にピクリ、と反応した。
「お前、さっきと違って自信満々じゃないか…。あっ!」
襦袢の帯を解いて露になった白い肌の平らな胸の上を舐めながら、
絹で出来た褌の上を手で触ってあげた。
そんなに大きくは無い少年の、自己主張を始めているその部分
を布の上から優しく上下に擦ってあげる。

「……っぁ…。」
色っぽい声を出しながら政輝は体を反らす。
もどかしいと思いながら褌を解いて脱がせると、紅潮しながら固く反り返っている少年の男が姿を現した。
「舐めてもいいぞ…。」
唸るような声で政輝の指示が出る。
へいへい。
お望みの通りに。
っつーか一馬ですら口でしてあげた事ないのに…。

はあ~~~~~っ。
深い溜息をつきながら恐る恐る少年のものを口に含んだ。
しょっぱくて苦い味が微かにした。
最初は、先端の歪に出た所を舌でなぞったり突付いたりして遊ぶ。
「…ぅっ…。」
政輝は気持ちがいいらしくって、いちいち反応している。

そのままあたしは、口や舌を使って強弱をつけながら吸い上げた。
口から溢れる唾液や政輝の先端からの液でヌルヌルさせながら、根元は手で握って刺激を与える。
多分、あたしの人生でこの時程さっさと終わらせたかった事はないとおもう。
きっと風俗嬢ってこんな気分なんだろーな。
「…ぅあっ…あっ…あんっ…。」
さっきまであんなに威勢が良かった政輝は、今は色っぽい声を出して悶えている。

そのギャップが、何となく、ちょっとだけ、可愛いかな、とも思った。
口と手の動きを早めると、政輝の陰嚢が僅かに収縮して、竿ががビクンと跳ね上がった。
「あっ…来るっ……うわあぁっっ!!!」
えっ?
まじっ???
って思った瞬間、条件反射で口を離してしまった。
おかげで、政輝の先端から飛び出した生暖かくて白い欲望が思いっきり顔にかかってしまった。
が、が、顔射っすか…。
顔にべっとりついたそれをどうすればいいのか分からなくて、あたしは暫くその場に固まった。

「ぷぷぷっ。お前、変な顔してる。ほら、部屋の奥に水桶と手拭と花紙があるだろう。お前の顔のものを拭いたら俺のも拭え。」
拭えって、君。
自分で拭えんのかぁぁ!!!
ってな事は胸の内に秘めておいて、
「へいへい。」
と言って手拭を水で浸して絞って顔を拭く。

自分の始末が終わると、今度は少年の小さく収縮したそれを拭いてあげた。
っつーか何でこんな事あたししてるんだろ…。
これって完璧、子守???
何か考えるとすっげー惨め。
政輝は裸のまま偉そうに横たわり、無言で暫くあたしを観察していた。
と、ふと政輝が呟いた。
「次は、お前の尻を出せ。」

は??
今なんて???

「まだ終わっていないんだぞ。」
「い、い、いや、だってクソガキ…じゃなくて、政輝…殿…様?き、君はお疲れだろ?ぼ、ぼ、僕は本当にご主人様の所に戻らないとっ。」
こうなったら、逃げるが勝ちといわんばかりに、
あたしは立ち上がってクルリと踵を返そうとした。
「待てっ。」
バッターンッ。
はしっ、と履いている袴の裾を掴まれてあたしは無様にこけてしまった。

そのまま政輝はあたしの体の上をよじ登る。
「俺のいう事が聞けないのか?切腹だぞ?」
脅しとも、冗談ともとれる自嘲気味な笑みを浮かべながら、政輝はにじり寄った。
少年ながらも強い握力で肩を抑えてあたしを仰向けにする。
「??!!…何だこれは?」
あたしの懐に手を差し入れてきた政輝は、サラシを巻いた胸の谷間を発見して素っ頓狂な声を出した。
その直後、思いっきり股間をまさぐられる。
ちょっ…!!!!

「無い!!!!!…太郎……お前………女子なのか?」
ああ、どうしよ~~~~~っ!!!!

もう切腹だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……(←エコ~)。

と思った瞬間。

「マッサテ~ルサァァ~~マ♪」
とやけに陽気な声が聞こえた。
嗚呼、神様!!!
何だか分からないけど兎に角あたしを助けてくれたのね!!!
サンキュー(×100)!!
とか思っていたら、ガラガラガラっ、と乱交パーティー会場側の襖度が勢いよく開いた。
同時に、あたしと政輝は振り向く。

っつーかあたしは目を疑った。
そこには、提灯パンツみたいなでかパンツに、先っちょのとがったとんがりブーツを履き、ピエロみたいなヒラヒラな襞の寄った円形の布を首周りに被った赤ら顔で赤毛の変なガイジンが立っていたからだ。
「ドミンゴ。」
あたしの上に圧し掛かった格好の政輝は、小声でその奇抜な格好のガイジンの名前を呟く。

ど、ど、ドミンゴ??
フラミンゴ???
「オオ~ウッ。マサテルサマ、ハダカね~。オトリコミシツレーね。でもワタシマサテルサマ用事アリマ~スッ。」
「殿、失礼しましたぁぁぁ~~っ。止めようとしたのですが、どうしても緊急だと言って言う事を聞かなくて…はあっ!!!」
ドミンゴと呼ばれた男を止めようと後を追ってきたのか、侍従らしき侍はこの赤毛の乱入者に肘撃ちくらってあっけなくその場に崩れ落ちた。
「皆ワタシのジャマするね~。ケパサ??」
ケパサ(何事?)って、おっさん、あたしが知りたい…。

ゴホンッ、と政輝は咳払いをすると、あたしから離れて白い襦袢に袖を通す。
裸でも(あそこは半分勃ってたけど…これは見て見ぬ振り//////)、
その姿はどこか気品があって気高いオーラに包まれていた。
「で、ドミンゴは急いで俺の所に来て何の用だ?」
襦袢を着終えると、政輝は胡坐をかいて布団の上に座りさっきとはまた態度をコロリと一転させて厳しい顔つきでドミンゴと呼ばれた男の人に向き直った。

っつーか、あたしはどうすればいいんすか?
そろそろとこの場から逃げ出そうとすると、
「太郎。お前には聞くことがあるから、まだここにいろ。」
と感情の無い一言が降りかかった。
あたしはしょうがないので部屋の隅っこで体育座りをしながら様子を見守った。

「ホウコクでぇーす。今日ワタシコウザンデ指揮シテタネ。ソシタラ、ギンがタクサン発掘サレタネ。」
「それは真か!!」
パッと政輝の顔が輝いた。
「ソレデ、アンドレアンドレ、急いでホウコク、ココ来タネ~。」
ギン…銀?
鉱山??
そういえば、現代でも朧月城の名物は確か銀細工だったような…。
「ならば、すぐにでも幕府に報告をしなければいけないだろうね。」
小さな声で政輝は呟く。
っていうか、その前に!!

何故にこいつが指揮してんの?

こいつの父親は何してるの??

ちょっと待った。
今更だけど、思い出した。
細川政輝って名前、むかーし昔学校で読んだ歴史の教科書に載ってたような…。
詳しくは忘れちゃったけど、小さい頃から天童って崇められてて藩内で数々の改革と偉業をこなして、後に江戸時代きっての名君とか呼ばれて朧月藩を幕末まで栄えさえた……。
みたいな事が書いてあったような…。

部屋の中央で偉そうに胡坐をかいているクソガキの、
色白の整った顔をジロジロと見つめてみた。
このませ(エロ)ガキが、天童ぅぅ???

想像つかね~っ!!!
「イヤ、チョットマッタね。もう少しギントッテカラ、バクフにホウコクするイイオモウ。」
ドミンゴは両手を大げさに振って否定した。
政輝は顎に手を置いて
「そうだな…。」
と考えている。
でも。
あたしは聞いてしまった。

ドミンゴとかいうこの男が小声で素早く
『このガキは頭が切れるから用心用心。』
と呟いているのを!!!
何で分かったかって?
実は小学生の頃、父親の仕事の赴任先のメキシコに住んでいた事があったから。
だから、使ってないからもう殆ど忘れちゃったけど、大学もスペイン語学科だったし、今の会社も語学が役立てられる貿易関係。
その上、このラテン系のノリのメデタイ性格もそこで培われたってワケなのだっ。
あたしってば、意外な所で役に立ちそう…?

この朧月藩が幕府の命を受けて鉱山技術をスペインから学んでいるという事を、まだこの時は知らなかったんだけど…。



 
 
~その頃の一馬さん~


 カキーンッ、と剣のぶつかり合う音。
相手の太刀を一振りで払い落とす。
「ま、参りましたっ。」
相手の刀は数歩先に落ちていて、気づいたら一馬の剣が喉元で閃いていた。
「あの馬鹿は一体何処へ行ったのだ?」
藩主の仕官の話をやんわりと断った一馬は、ほどなくしてから神雷流の流儀を見せる為、明日香が待っている中庭にやってきた。

藩主や幕府のお偉い方を前に剣術の説明をし、実演していていながらも、見物人の中にいるはずの明日香を目の端で探していた。
しかし。
あの茶色い髪なら目立つはずなのに、何処にも見つからない。
あいつの事だから、また何かに巻き込まれた可能性は充分にある。
ふらふらと興味の引かれるまま城内を歩き回って迷子になったのかもしれない。

いちいち、手のかかる女だ。
放っておけばいい。
理性が静かに告げる。

最初から関わらなければ良かったのだ。
この間何が起きたか覚えているだろう?
抱く事の出来ない女を傍に置いておくつもりか?
一体いつまでこんな茶番を続けているつもりだ?
相手は得体の知れない女だぞ。

……だが。
そんな事は既に百も承知であった。

最近、手放せない理由がだんだんと自分でも分かってきたのである。
奉公人としては全く持って役に立っていないのに、気づくとあの女の一挙一動を目で追っているのだ。
茶色の髪から目を逸らす事が出来ない。
姿が見えないと不安を感じる。
「馬鹿者は案外俺なのかもしれんな…。」
早く終わらせてあいつを探しにいかなければ、と思いながら一馬は大名も含めた見物人に説明を続けた。

未年の朝 10    07.31.2007


 「ねえ…。」
ドミンゴとかいう妖しげな赤ら顔男が去った後。
あたしは目の前の少年に声をかけた。
「あのさ、あたっ…じゃない、ぼ、僕が言うのも何なんだけど…あの外人の事信用しない方がいいんじゃない?」
「……。」
斜め前で胡坐をかいて布団の上に座っている政輝は無言のままだ。

その横顔からは何も読み取れない。
「だってさ、何か怪しい事口にしていたよ。もしかしたら、君を騙そうとか…。」
「お前は誰だ?」
政輝はあたしを睨みつけるように振り向く。

あ。
そうだった。
さっきあたしの正体がばれちゃったんだ。
「う…僕…じゃない、あたしは増子明日香って言って…。」
「あすか??何で男の格好をしているんだ?そっちこそ俺を騙そうとしていたみたいだね?何処から送られた?お前は本当は俺を殺そうとしている刺客ではないのか?」
質問が矢継ぎ早に飛んでくる。

殺そうって…被害妄想つよいよ~~。
そんな訳ないじゃん、と言おうとしたけれど。
彼の物凄い剣幕に、
「うっ…。」
と言葉を詰まらせながら、
「えっと…男の格好は、一馬…天羽一馬について朧月城を見てみてかったからで、別に誰も騙そうと思っていたわけじゃなくって…。」

しどろもどろのあたしを、明らかに信用していない顔で政輝は、
「その、天羽一馬という男と本当に知り合いなのだろうな?嘘だったら…切腹の覚悟をしておいたほうがいいかもね。」
と冷たく言い放つ。
そして、あたしの腕を取って立ち上がった。

「ええ?!何処に行くの??」
「もちろん、君のお師匠様の所に決まっているだろう?」
言いながら、あたしを掴んでいる腕に力を入れる。
っつーか、腕痛い!!!
なんて力なのよ!
あたしは半ば引きずられるようにして、この黄金の部屋を出た。
 


あたしを引っ張りながら先を歩いている政輝がポツリと聞いてきた。
「…どうしてお前はドミンゴが怪しいと思う?」
は?
「え?それは…あたしちょっとだけならスペイン語解るし。彼が独り言言ってるの聞こえちゃって…。」
また訝しげな表情で政輝は振り向く。

「奴の言葉が分かるだと??ドミンゴ以外は皆母国語しか喋れないから、普通はオランダ語の通訳を通してオランダ語で会話をしているんだ。オランダ語を通さずに…何故奴らの言葉が分かる??それこそ妖しいなっ。」

や、ややこしい…。
つまり、日本語→オランダ語→スペイン語→オランダ語→日本語になってるわけね?
そ、れ、よ、り!!!
親切にドミンゴを信用するなって教えてやったのに、このあたしを怪しいとおっしゃいますか…。

だああぁぁぁ~~~!
さっきから黙って聞いてりゃ何なの!!
まるであたしが超危険人物みたいじゃないよ(←ちょっと逆切れモードに入った明日香さん)!!!

「ふざけんなぁっ!!!!」

あたしは大声を出して奴が握っていた腕を思いっきり振り払った。

「あのねえ、男装して、あんたを騙したのは悪かったけど、元はと言えばあんたが中庭からあたしを連れ去ったのが原因で、こっちは別にあんたのお守なんてしたくなかったのよっ!!人がわざわざ親切にあのドミンゴって奴は怪しいって忠告してやってんだから、真面目に聞け、このバカ殿ォォ!!!!」

はーっ!
スッキリした。
ふふんっと斜め45度から政輝を見下ろすと。
甘やかされて育ったお坊ちゃんは怒鳴られたり叱られたりするのに慣れていないのか、両こぶしを硬く握って目に涙を溜めてあたしを睨んでいた。

「お、お前こそ!!俺にそんな口を利いていいと思っているのか!!俺を騙した罪は重いぞ!!!」
「ハイハイ、また切腹っつってあたしを脅かそうってんでしょ??あんたね、これから人の上に立って民を指導しようってモンが、その柱となる民衆の命を大切にしないなんて、冗談じゃ済まされないわよっ。いつか天罰が起きるんだから!!!そんなんじゃね、朧月藩はすぐに百姓一揆とか起きちゃって滅びるわよっ。いい、人の命や人生ってーのはねぇ、あんた一人が勝手に左右していいもんじゃあないの。人の命を尊ばない王が統治する国がすぐに滅びるってーのはどの時代も同じなんだから!!!!」

ビシッと。
指差して彼にそう言い放つと。
あたしは半泣きの政輝を置いてスタスタと中庭に向かって歩き出した。
「お、お前こそ何様のつもりなんだっ。そんな事、お、俺が知らないとでも思っているのか?」
あたしはシカトして中庭を目指す。
もう、後ろでブツブツ言っている政輝なんて眼中に無かった。
広い敷地を歩いていると。
人だかりが見えた。
見物人は侍の格好をした人たちが殆どで。
きっと輪の中に一馬がいるはずだ。
あたしはルンルン気分♪で政輝を置いてそっちに向かって走り出した。

 



 輪の中心で一人の侍相手に、木刀一本で相手の攻撃をスルリスルリとかわしたり
払ったりしているのは、やはり一馬で。
「ほう~っ。」
何故だか安堵の溜息があたしの口から零れ出た。
人垣を掻き分けて、ひょっこり覗くと。
無表情な隻眼が、チラとこちらを見た。
あたしは思わず手を振った。

気のせいか、少しだけ。
強張っていた一馬の顔が緩んだ感じで。
そのままあたしが気づく程度に小さく頷くと、
視線を相手に戻してまた攻撃をかわしながら説明しだした。
キョロキョロして政輝を探すと、従者を侍らし、日傘と扇子を持たせ、
偉そうに踏ん反り返りながら父親の隣にちゃっかりと座っていた。
 
 
暫く経って。
人垣の外で一人座って待っていると、ポンっと頭を叩かれた。
「何処へ行っていた?」
顔を上げると、一馬があたしを見下ろしていた。
「案じたぞ。お前の事だからまた何処かへフラフラと行ったまま、迷子にでもなったのかとは思っていたが。」
「う…っ。まあ…そんなもん…。」
実は我侭お坊ちゃまのお守をさせられて一発抜いてました、なんて口が裂けても言えない。
あたしが目を逸らしながら俯いていると。
「探す手間が省けて良かった。」
と言いながらドカッと隣に腰を下ろした。
「あのぉ~~。剣術お披露目は??もう、終わったの?」
そういえば、いつの間にか人だかりは無くなっていた。
「ああ。帰るぞ。」
と一馬が呟いたのと、
「お前が天羽一馬か。有名な剣豪だけあって見事な太刀裁きだった。楽しませてもらったよ。」
との声が後ろから聞こえたのは同時だった。

ゲ…。
このませた声。

「政輝!」
あたしは慌てて後ろを振り向く。
つーか、半分も一馬の剣術を見てないくせに良く言うぜっ。
一馬は、名前を聞いて、サッと両手両膝をついて頭を下げた。
げっ。
あの一馬がこのクソガキに頭下げてる…。
こいつやっぱ偉いんだ…。
今更悟ったあたし。

「……恐縮でございます。」
「はっはっは。顔を上げてよ。君の従者君は偉そうに俺を呼び捨てにしている事だしさ。」
嫌味な笑いを浮かべながら、政輝は続ける。

「単刀直入に言わせてもらうよ。さっきこの…太郎だっけか、明日香だっけか…まあ、名前なんてどうでも良いや、このおなごにお世話になったよ。何やら訳があって男子の格好をしているようだけれど…。大いに気に入った。俺の側室にしても良いか、どうやら雇い主らしい君に聞いてみようと思って。」

「……。」
「はあ?!!」

無言の一馬に、思わず裏返った声を出してしまった、あたし。
だって、何このバカ言い出してるの??!!

「政輝っ!!あんたバッカじゃないの??何突然言い出してんのよっっっ。ずえーーーーーーーーっっったいイ・ヤ・ダ!!!そんな、一夫多妻制なんて大反対だしっ。一馬も、こんなクソガキのいう事本気にしなくていいからねっ。さっ、さっさと帰ろっ。ねっ。」

「うるさいなあ…。お前には聞いていないよ。俺は、この一馬って男から聞きたいんだ。」
両膝をつけたまま、俯いて一言も発しない一馬。
一応あたしの雇い人だし、こいつが「ハイ」って言えば、あたしはこのクソガキの側室になっちゃう…んだよね?
死んでも、嫌だ…。

「こいつが…。」
頭を下げながら一馬はポツリポツリと言葉を発する。

「こいつが何処で、女子だと悟ったのかは存じませんが…馬鹿で、態度がでかくて、全く持って役に立たない女です。気に入っていただけて、真に光栄でございますが…。」

しつれーな(怒)。
ちょっとは役に立ってますよーだっ。
あたしは眉間に皺を寄せながら、隣で腕を組んで一馬の言葉を待つ。
政輝も、女の子みたいな整った顔で一馬を見下ろしていた。


「こいつは、私の妻ですので諦めて頂きたい。」


「はっ?」
「何っ?」
ば、ば、ば、ば、ば、爆弾発言!!!!

し、し、し、し、心臓がバクバク鳴り出した!!!
こ、これって、プロポーズ??

とか一人で舞い上がりそうになっていると。
一馬は、政輝に気づかれないようにあたしの袴の裾を引っ張った。
え?
ああ…。
「俺に合わせろ。」
小声で指示が出た。
な、な~んだっ。
ははっ(←まだちょっと動揺中)。

「そ、そうなのっ。あたしたち、夫婦の仲なのよっ。きょ、今日も夫の一馬の事が心配でついてきちゃったっ。ねーーーっ?」
あたしはそう言いながら、一馬に抱きつく。
「……そ、そういう事なので…。」
ぎこちない演技をしながらも。
あたしたちはラブラブモードを政輝に見せ付けた。
政輝は。
冷たい目であたし達を見下ろしながら、ゆっくりと口を開く。
「そうか。それならば、あの、金の部屋で俺を喜ば―――。」
「だああああああああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」
ストーップ!!
それは一馬の前では禁句っしょ??

「おっ、お腹が痛いっ。か、一馬!!!き、昨日食べた茸が当たったみたいっ。ううっ…痛いよ~~~っ。家に帰ろうよ~~~っ。」
あたしは泣きながら(半分本物の涙)、一馬に訴える。
「と、妻が申しておりますので、今日はこの辺でお暇しようと思っております。殿の申し出は、そういう事で諦め願います。」
一馬は、ヘナヘナの(もちろん、演技)あたしをお姫様抱っこで抱えると、政輝に一礼して立ち去ろうとした。


「ちょっと待ってよ。」
背を向けた一馬に声がかかる。
あたしは、一馬の腕越しに政輝を顧みた。
「俺には、スペイン人の技術者の言葉を訳せる人間が必要なんだ。
 だから、彼女にはまた登城して貰うかもしれないから。覚えておいてねっ。」
感情を押し殺した声で政輝は言い放ち。
あたしと目が合うと不適な笑みを浮かべながら、
『あ・き・ら・め・な・い・よ』
と、口だけ動かしてフフンっとせせら笑った。
 
 



 「殿と何があった?」
城から立ち去ると。
あたしの目の前をスタスタと歩いていた一馬は、開口一番に聞いてきた。

「え?いや…別に…。」
言葉を濁すあたしをチラリと見る隻眼が、夕陽に照らされて眩しい。
「そうとう気に入られたみたいだが?」
「うん…何でだろうね?スペイン語が話せるからじゃない?」
ってそれだけじゃないと思うけどさ。
それは禁句禁句。
「すぺいん…?異国の言葉か?お前は異国の言葉が分かるのか?」
ちょっと驚いた顔で、背の高い一馬は立ち止まってあたしを見下ろす。
「ん…。小さい頃住んでたんだ。」
小声で答えながら、一馬の横を通り過ぎる。
「お前は…不思議な女だな…。」
そう言うと。
一馬は後ろから肩の上に手を廻し、思いっきりあたしを抱きしめた。

え…。

「うろちょろするな。こっちが迷惑だ。」
首筋に熱い吐息がかかる。
また、あたしの心臓がバクバク鳴り出して…。
「ど、どうすたの、かじゅま(一馬)??」
嗚呼っ。
緊張して思いっきり噛んでしまった(何弁?)!!!
「どうもしない。お前が心配をかけるのが悪い。」
大根の入った籠を抱えたお百姓さんがうちらをジロジロ見つめながら通り過ぎた。
うおぉぉ~~見た目はラブラブカップルじゃんっっ!!!
しかも男同士の!!

だけど。
熱い抱擁はそんなに長くはなくって…。
「何突っ立ってるんだ。行くぞ。」
何秒かたつと、彼の腕が離れた。
石のように体の硬直したあたしは、その場に立ち尽くしてしまって暫く足が動かなかった。
 
未年の朝 11    07.31.2007


 行
きもそうだったけれど、帰りもあたし達は宿場に泊まる事にした。
宿場はいわゆる旅館みたいな所で、食事と宿を旅人に提供してくれる。
この宿にはお風呂があって、あたしは部屋に付いた途端喜々として風呂場へ向かった。
それはいわゆる五右衛門風呂で、そのまま釜茹でになっている超あっついお風呂。
いつも井戸の水で体を拭く程度だったあたしに、超久しぶりのお風呂は体を温め癒してくれた。
「あ~気持ちよかった。やっぱお風呂がないと生きてけないわ。」

濡れた髪の毛を結い上げて部屋に戻ると。
がらっ。
「あ。………ごめん、お取り込み中??」
ってあたしもここに泊まってんのになんで遠慮しなきゃならないんだっつの!!

目を向けた先には、さっきあたし達にご飯を盛っていた飯盛り女が一馬の首にしな垂れかかっていた。
一馬はあたしを一瞥して、一杯杯を口にする。
「悪いが、連れが戻ってきた。嫉妬深い性質なのでな。出て行ったほうが無難だぞ。」
そうクールに、首に纏わり付いていた女に告げた。
女は残念そうな顔をして、サラシをつけずに男物の着物を着ているあたしを上から下までジロジロ見つめて部屋から出て行ってしまった。

「な、何だったの今の??」
あたしは混乱顔で一馬の隣に腰を下ろす。
「商売の一つだ。ああやって宿泊客を相手にしている。」
「ふうん…。」
あたしが居なかったら一馬は相手にしていたのだろうか?
ちょこっと考えてしまう。
ポリポリと頭を掻きながら、あたしは空ろに一馬の前のお盆に視線を彷徨わせた。
煮魚のつまみに、美味しそうなお酒が乗っている。
食欲をそそるいい匂い。
「あっ、あたしもお酒飲みたい。今までカクテルとかしか飲んだことないんだよね。」
空いていた杯に熱燗に入ったお酒を注ぐと、あたしはぐいっと一気に飲み干した。
うっひゃあ~。
あたしにはアルコール度強すぎ!!
それでも、おつまみとよく合うお酒は美味しかった。
一馬は黙ってあたしを眺めていたけど、暫くして口を開いた。

「朧月城での事だが…。」
「ふぇ?」
酒のつまみを頬張っていたあたしは、突然一馬が口を開いたのでちょっとビビッて彼を見る。
「若殿は何故お前を側室にと所望した?」
若殿??
…馬鹿殿政輝の事?
「知らない。そんなのこっちが聞きたい位だよ。」
ホントに、大迷惑なんだけど。
「では、何故お前が女だと分かった?言ったのか?」
「ん…まあ…そんな感じ。」
「……曖昧な返事だな。」
っつーかこの質問の山は何??

「一馬酔ってる?」
お盆を見ると、もうすでに三本も空の熱燗の容器が畳の上に転がっていた。
あたしがお風呂に入っている間に飲んじまったんすかい??
「たったこれだけで酔ったりはせん。…それより。」
一馬は腰をあげた。
「俺も風呂に入ってくる。」
冷たく言い放って、さっさと部屋から出て行ってしまった。

 
 「わけわかめ…。」
何だったんだろう、今の?
あたしは存外美味しいおつまみを頬張りながらお酒を何本か空けると、ほろ酔い気分で二つ敷かれている布団の一つの上に大の字に横たわった。
元々表情が乏しい上寡黙な男だから、何考えてるのかさっぱり分からない。
嫉妬??
まさかねぇ。
でもちょっとは心配してくれてたみたい。

それよりも。
今日は本当に凄い日だった。
クソガキのせいであたしの一日が滅茶苦茶になってしまったけれど。

でも。
一馬の『妻』発言にはマジでビビッた。
何でそんな事言ったんだろ?
まあ、もちろんあたしが政輝の事嫌がっていたのは顔見れば、一目瞭然だったのかもしんないけれど…。
ふあ…。
ねむ…。
悶々と考えていたあたしは、そのまま気づかないうちに眠りに落ちた。

 


 
 「おい。」
一馬は声をかけてみた。
涎を垂らしながら布団の上で寝ている女はビクともしない。
「……。相変わらず色気が無いな。そんな格好をしていると風邪を引くぞ。」
「ん…。」

肩を掴んで揺り起こそうとしても、寝返りを打って体勢を変えただけである。
「本当に…。」
世話のかかる女だ。
最近口癖になった言葉を吐くと、一馬は彼女を抱きかかえた。
片手で彼女を抱きながら、もう片方の手で上掛けを捲る。
「かず…ま…。」
布団の上に下ろそうとすると、明日香の腕が彼の首に絡みついた。

「…な、何だ?」
んんっと唸りながら、明日香は一馬を引き寄せて布団に横たわる。
「かず…ま…あったかい…。」
明日香は目を覚ましたらしい。
物凄い至近距離で一馬を見つめてきたその目はトロンとしていて、
顔は赤く蒸気している。
「お前、酔っているな。」
訝しげな顔で一馬は見下ろしながら、首に巻きついている女の腕を解いた。

「はああ??酔ってなんか全然いましぇ~~~~んっ!!!」
明日香は元気良く返事をしたかと思うと、今度は一馬の袂をグッと掴んで睨みつける。
ちっ。
一馬は忌々しげに舌打ちした。
酔っ払いの相手をするつもりなど、更々無かった。
できれば今夜は、一人静かに酒でも煽っていたい気分だった。
「あんたこそ、酔っ払ってんでしょお???」
明日香は先ほどの風呂で湿り気を帯びた髪を振り払いながら、一馬に接近する。
やばいな…。

明日香の汗ばんだ胸元を見下ろして、一馬は一人ごちた。
サラシが巻かれていないそれは、寝返りによって大きく肌蹴けて豊かな胸を半分露出させている。
そのうえ、花のようなしっとりとした女の芳香が辺りに漂う。
「一体ねぇ~、あたしがどんな気分だったと思っているのよぉ~~~。
 あの、クソガキ政輝のお守をさせられてた時ぃ~~~!!!!」
言いながら、掴んでいる一馬の袂をグイっと引っ張る。

「いいから、もう寝ろ。」
一馬は彼女の手首を掴んだ。
相当、酔っているな。
横目でちらりと膳を見ると、一馬が頼んだつまみと酒が全て綺麗に無くなっていた。

「ね~む~く~ない!!ったく。あのクソガキ口癖みたいに切腹切腹って、生意気なのよ~。マセてるし、乱交パーティーなんてしちゃってるし、あ~んな趣味の悪い金色の部屋作っちゃうし、あたしの顔にかけるし。ああああ~~むっかつくぅ~~~!!!」

布団の隣に胡坐を掻いて座り直しながら明日香の戯事を聞き流していた一馬は、
ある一言にピクリと反応した。
「顔にかける?どういう意味だ?」

「そう、顔にかけやがったのよ!!!だあって、あのクソガキを喜ばせないと一馬んとこ返してくれないとか言うし、切腹とか脅すし、しょーがないから明日香さん一発抜いてやったんだから!!!なのに、なのに、顔射なんてしやがって。あたし、あたし、今まで誰にもされた事ないんだからぁぁぁ!!!」

言いながら、明日香は突然布団の上に顔を伏せて泣き出した。
一馬は聞きながら、自分の眉間の皺がどんどん深くなっていっている事に気付いていなかった。
「お前…お守とは、そういう事をしていたのか?」
低くて感情の抑えた声が零れ出る。
「さ・せ・ら・れ・て・たの!!!」
「それで…女子と知られたのだな。それから、何があった?政輝殿はお前を抱いたのか?」

心なしか、彼女の手首を掴んでいる手に力が入った。

俺は一体何に動揺しているのだ?

全く持って大人気ない。
それに、先の時代から来たというこの女を抱くのは不可能な筈だった。
少なくとも、自分では無理だった。
そう分かっていながらも聞かないではいられなかった。

「あ~んなクソガキが抱くわけ無いじゃ~~んっっ!!!言ったでしょ、フェラしてあげただけ!!!」
明日香は伏せていた顔を上げて、再び半酔いの眼で一馬を見上げる。
「ふぇ…ら?何だそれは?」
不機嫌な声で呟く一馬の掴んでいた手を振り解いて、明日香は半身を起こして隣で胡坐座りの一馬の、寝巻き用の襦袢の裾に手を這わせた。
「?!な、何をしている?!」

険しかった表情が、一瞬にして驚きの入ったものに変化する。
明日香は遠慮無しに一馬の褌の暖かい塊に手を触れた。
前垂れと前袋を横に除けて、彼のモノを取り出した。
「…っ!!!!」

明日香は無言で彼の男を上下に摩りだす。
「ま、待て!!別に俺は何も実演しろとは……オイ!」
一馬の焦りを含んだ言葉も、その作業に熱中しだした明日香には届かない。
彼女のたどたどしいながらも絶妙な愛撫で、すぐに一馬の男は熱を帯び固くなった。
天を仰いで反り返った彼のモノを、花のような唇に含む。
「……うっ。」
吸い付かれながら舌先で鈴口をなぞられると、思わず不覚ながら一馬の口から小さな喘ぎが漏れた。

このように、女に奉仕させたのはいつが最後だったであろうか?
商売女以外の女子にここを触らせるのは、初めてだった。
一馬の手は思わず、前かがみになっている明日香の着物の袂に手を差し入れそうになる。
が、ギリギリの所で理性がそれを止めた。
相手は酔っている。
酔っている女相手に何を本気になっているんだ?

どうせなら、素面の明日香を抱いた方がましであろう?
いや、この女を抱く事は出来ない。
……ならば、俺は何をしたいのだ?
ギリッと、一馬は奥歯を噛み締めた。
そんな一馬の葛藤などお構い無しに。
明日香は相変わらず真剣な表情のまま、
喉の奥の方まで大きめの一馬の男を咥えて、味わっている。

「……っ。…どこでそのような技を覚えた…?」
このような快楽をあの若殿にも与えたのかと思うと、一馬の胸の奥底に不快な靄が広がった。
俺は、一体何を考えている?
彼女の手は怒張した自身のみならず、その下の陰嚢まで弄り始めた。

「…そこも、舐めてみろ。」
あまりの気持ち良さに、思わず指示を出してしまう。
明日香は無言で舌をチロチロさせて太い竿を下りながら一馬の袋を、
その表面の皺を伸ばすように舐めていく。
一馬は時折、苦悶の声を漏らした。

彼女は時々しゃっくりを繰り返しながらも、彼の男に執拗なほど快感を与え続けていた。
この女を抱く事が出来ないという事実に多少落胆しながらも、一馬は彼女の与える快楽に身を委ねた。



宿屋の客は皆寝静まったらしい。
梟の不気味な鳴き声が外から聞こえるな、などと朦朧とした意識の元漠然と考えていると。

その時は来た。

急いで明日香の小さい肩を掴んで押し放そうとした。
「明日香っ、放せ!」
切羽詰った一馬の声が聞こえたのか聞こえなかったのか。
一向に口での愛撫を止めない明日香は、その一声に反応するが如く更に深く彼を咥えこんだ。
「……つっ。」

どくどくと。
一馬の欲望が開放されて明日香の口の中に飛び散る。

「ん……。」
長い間このように口で慰めてもらった事がなかったそれは。
大量に噴出されて明日香の口に流れ込んだ。
明日香はどのような表情をして一馬の情熱を味わっているのだろうか。
だが、俯いている上半渇きの茶色い髪に隠され、その顔は見えなかった。

全て出し終える。
やっと小花のような口から開放され、明日香の顔を覗きこむと。
彼女はむせながら苦悶の表情をしていた。

細い肩に触れると、体が小刻みに震えてるのが分かった。
「無理なら飲むな。出せっ。」
まさか全て飲み下すとは思っていなかった一馬は、心配になって明日香の顎を持ち上げ、口元に手を出した。
よく見ると、涙目になりながらも全て飲み干したようだった。

一馬は無言で明日香の体を優しく抱いてやる。
腕の中の女は俯いたまま、まだ体を震わせていた。
「どうした?」
不思議に思った一馬は声をかけた。
「ん………っ。」
明日香は手で口を覆うと、思いっきり顔を歪めた。
「かず…ま……。キモイ……。ごめっ…やばっっ!!!!」
「なっ!!」

 








 
 
ピィィーーーーーーーーーッ。

(注:非情に見苦しい映像となっておりますので、作者の都合と主人公増子明日香の強い要望によりカットさせていただきます。)






 
 
 
 

 
 
 
 「ええ!!!何かあったの?全然覚えてなーい!!!っていうか、何であたし違う着物着てんの?」

翌朝目が覚めて。
あの後綺麗に後始末をさせられ、もう一度風呂に入り直すハメになった一馬は、苛々しながら明日香を叩き起こした。
「覚えておらんだと?」
無邪気な明日香を見て、苛々しながら聞き返す。
「昨夜自分が何をしたか覚えているか?」
との一馬の問いに、いつもの寝起きのボケ面で答えた明日香の声を聞いて。
ピキピキピキッと血管の切れる音に加え、彼の眉間の皺がより一層深くなった。
「覚えておらんのなら、良い。」
一馬は、不機嫌な顔で支度を始めた。
昨夜彼女によって汚された着物(一馬自身が手洗いしたらしい)を明日香に放って投げる。

冷たく一言。
「お前が持って帰れ。」
全ては酔いの勢いで、何一つ覚えていない明日香は二日酔いで頭痛を感じながらも、のろのろと身支度を整えた。


家に辿り着くまで、どうして一馬が始終無言で不機嫌だったのか
皆目見当のつかなかった明日香さんでした。

未年の朝 12    07.31.2007


 一馬の汚らしい小屋に戻ってきて数日が経ったある日、道弦さんがふらりと立ち寄った。
生憎、一馬は仕事に出ていて居なかったので、あたしは彼にあがってもらいお茶を出した。
あたしは、お鈴さんのスパルタレッスン+一馬の毎日のお小言のお陰で、火の起こし方を完璧にマスターした。
まあ、勇者的にに言うとレベルが三つくらい上がったのだ。
道弦さんはあたしが差し出したお茶を一口飲むと、まずかったのか顔を顰めながら一つ咳払いをした。

「一馬からきいたんだけど、お前ら夫婦になったんだってな。」
ヴヴヴヴヴヴッ!!
優雅に飲もうと思っていたお茶が口じゃなくて鼻に入ってしまった。
は、鼻の器官が痛ひ…。

「もう殿様に言っちまったんだろ?床を共にしてなくて言っちまったんならしょうがねえよな。」
慌てて手拭いで鼻を押さえて苦しんでいるあたしに構わず、道弦さんは続ける。
「朧月藩の出来事も、全部聞いたんだが…というか無理やり俺が奴から聞きだしたんだが、明日香さん、あんたも大変だったんだな。あそこの藩の若殿の噂は俺もかねがね聞いてたんだが…。」

「でも、道弦さん。めおと…夫婦って結婚式とかしなきゃなれないんじゃないの?あたしのいた時代では…」
「結婚?祝言の事か?ああ、あんなもん中級以上の武士のしきたりであって、一馬はそういう事気にしないんじゃねえのか?」

あたしは鼻を押さえながら、眉を顰めた。
「じゃあ、周りに公言してれば夫婦なの?」
「ああ、そうだ。だが、子を授けるのが夫婦になる本来の目的だからな。お前ら、まぐわえないんだったな。」

ま、まぐわう…?!
なんてレトロな言葉。

確かに、あたしは一馬とは出来なかった。
その時の事を思って、顔が火照る。
今でも時々、あのときの事を思い出すとあたしの体がやばいほど欲求不満モードに突入しちゃうのだ。
子供を作るのがこの時代の夫婦の本来の目的なら、一馬はあたしと夫婦だなんて言っちゃって良かったのだろうか?
一馬は子供とか、欲しくないのかな?

「まあかりそめの夫婦だから、その必要はねえのかもな。一馬は一馬なりにお前の事気遣ってやってんじゃねえのかな。」
「気遣うっていったって、あたしまだ奉公人扱いだよ。」
そう。
帰ってきてからもあたしの立場(=奉公人)と扱いはぜんっぜん変わっていなかった。
むしろ、仕事の量が増えたような…。
あたしが抗議すると、道弦さんはお茶を置いて胡坐の体勢から膝をたてて腕を置いた。

目を細める。
「あいつは知らねぇんだよ。夫婦とか、家族ってモンを。」
その言葉に、今度はあたしが眉を顰めた。
「え?だって、どっか田舎の方の郷士の息子なんでしょう?」
ってか、そんなような事お鈴さんが言っていたような…。

「息子というより、天羽家の養子なんだが。あいつの両親は有名な反幕組織に入っていたらしくて、流石の俺もそこらへん突っ込んで聞いても詳しくは教えてもらえてないんだが…兎に角、父親は打ち首で、母親は島流しを逃れる為に頭丸めてどっかの寺に入ったんだが、奴はその直前に遠い親戚だった天羽家に引き取られたらしい。」

「ふうん…。でも、天羽家の養子だったんなら、両親が居ないよりいいんじゃないの?…あ。」
そういえば、家督を捨てた、とか何とかお鈴さんが言っていたのを思い出した。

「それがなぁ。俺が初めて奴に会った時…もう十数年も前の話だが…あいつの家の近所の寺に俺も預けられてて、俺の師匠が営む寺子屋に奴も来てて知り合ったんだが、そん時のあいつは、今みてぇに無口だったのには変わりねえんだが、絶えず体に痣や傷痕があったんだよ。それも、剣術の稽古で出来たとは思えねぇ場所… 足や手首や…喉周りにな。」

あたしは、息を飲んだ。
思ったより結構ハードな生活を送ってきたらしい一馬に、言葉が無かった。
しーん、と重苦しい空気が暫くこの部屋を包んだ。
どたどたどたどた……という騒音が小屋の外から聞こえてくるまでは。
「俺の言った事、誰にも言うなよ。特に、あいつには。あいつが言い出すまではな。」
と、小屋の戸が開く直前、道弦さんは素早く小声であたしに注意した。
 
 
「明日香さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
がらがらっ!
と物凄い勢いで戸が開いたかと思うと、お鈴さんが息せき切りながら駆け込んできた。
「酷いですわ酷いですわ酷いですわ!!!一馬様とは何も無いって仰っていたのにぃ!!」
「ぐぇっ。」
いきなり胸倉をつかまれて、しかも華奢そうな体からは
想像もつかないような凄い力であたしは揺さぶられた。

「噂を聞きましたわ!!!私と一馬様の事を応援してくれるって言ってたじゃないですか!!なのに、なのに…夫婦になっただなんて!裏切りですわ!ふえええええええええんっ!!!!」
揺さぶったと思ったら、突然あたしを突き飛ばして泣き崩れた。
やれやれ、また説明しなきゃならないのか。
ヒキガエルの如く無様に畳に叩きつけられたあたしは、その体勢のまま大きく溜息をついた。
 
 


 そんなドタバタがあった夜、道場から帰ってきた一馬は
あたしを発見した川原付近で打ち上げ花火が見れるから、と言ってあたしを外に連れ出した。
朧月藩から帰ってきても、一馬は相変わらず、あたしを奉公人扱い…
いや馬鹿扱いしているし、変わった所は一切無いみたいだった。

ただ、噂が先走りしているというか、恐らく流したのは道弦さんだと思うんだけど、あたしと一馬が夫婦になったいう噂がかなーりの勢いで広まってて、どっかのお百姓さんが親切に蓮根やら大根やらの根菜セットをお祝いに持ってきてくれたり、今も川原に行く途中一馬は知り合いらしき人に声をかけられて何かを貰っていた。
丁重に頭を下げて「金一封」と書かれたそれを懐にしまうと、一馬は何事も無かったかのようにあたしの腕を引いて人込みの川原に連れて行った。

「道場で教えている奴だ。」
いつもお喋りなあたしが大人しいのに気づいたのか、一馬は土手に腰を下ろすと、あたしに持ってきた握り飯を差し出した。

実はあたしはずーっと考えていた。
一馬の過去の事、あたしたちの現在の事、そして、あたし自身の未来の事。

たまーにマジでセンチメンタルになる時がある。
あたしは、本当にもといた時代に帰れるのか、とか考え出すと止まらない。

いつもがっつきで、胃袋がいくつあっても足りないあたしが首を振って握り飯を拒否すると、一馬は凄く驚いたらしく
「風邪でもひいたのか?」
とあたしの額に手を当ててきた。

覗き込んできた一馬の隻眼に、トクトクと血液を押し出す速さが増して大きく響きだす。
あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
なに緊張してんだ、あたし。
「だあああああっ違う!」
と、おもわず一馬の手を振り払ってしまった。
一馬は訝しげに、だけど心なしか心配そうな顔つきであたしを見つめてる。

「あああああもう、見ないで見ないで!」
耐え切れずシッシッ、とハエの如く手で追い払う素振りをしてあたしは慌てて顔を逸らした。
人込みをそれとなく眺める。
あたしから目を逸らし、ド●ベンのキャラの誰かさんみたく、何かの草花を口に含みながら一馬も人込みに目をやった。

「夫婦の件についてお前が腹を立てているのならば…俺はここまで大事にするつもりは無かった。」
道弦に言ったのが間違いだった、と付け加える。
「他の藩の藩主だとしても、あいつは殿だ。あの発言が偽りだと知れればすぐお縄だ。下手すりゃ打ち首になる可能性がある。それはお前も免れたいだろう?」

お縄。
打ち首。
あまりにもサラリと言ってのける一馬に頭が来た。
っつーか、何、その他人事みたいな言い方????
と、言おうとしてもう既に口と体が勝手に動いていた事に気付いた。
怒って立ち上がったあたしは、一馬を睨んでいた。
「はっきり言って、あんなのその場限りのただのジョークかと思ってた。み、みんなに広めちゃうなんて何考えてるの?!あんたが勝手に政輝にそんな発言しちゃったんじゃない!」

ピクリ、と一馬の顎が強張る。
「さっきも言ったが噂を広めたのは俺ではない。まあ、道弦の策略なんだろう。それにてっきり俺はお前があの若殿を嫌がっているのかと思っていたのだが。助けたつもりだったんだが、あのままあの城に残ってあの殿の玩具になっていたかったのか?」

「んなわけないでしょ!あーんなクソガキ絶対嫌だし、あんたが助けてくれたのには感謝してるけど、夫婦って、そんな風に簡単になっちゃっていいの?好きあってる者同士じゃなきゃいけないと思うし、あたしの時代では…。」

「お前の時代など知らん。」
ぴしゃり、と一馬はその一言をあたしに叩きつけた。
「な…。」

「知りたいとも思わん。だが、これだけは言っておこう。俺はお前を助ける為に言ってやった。考えても見ろ、全ての原因は、お前にあるだろう?俺は最初からお前を連れて行く気は無かった、だが、お前はついて来た上に俺のいう事を聞かず殿の気まぐれに巻き込まれてああいう事になった。違うか?」

一馬は口の中に含んでいた草を吐き捨てると、突然立ち上がりあたしの手首をきつく掴んで、せっかく人込みの中、花火見学用に見つけた場所から連れ出した。
「痛い!離して!!いてーよ、馬鹿、クソ一馬!!!ウンコ、アホ!!!」
花火見物人があたしの罵声をもの珍しげに見つめている中。
注目など一向に気にしていないらしい一馬はあたしを引っ張って人気のない近くの雑木林に連れて行った。

あたしを大木の下に連れて放り投げると、腕を組んであたしを見下ろした。

怖い…。

一馬の顔つきは、今まで見たこともない位に怒っていた。
流石のあたしもいつもみたいな馬鹿な事が言えない程、緊迫した空気が流れる。

「ん…何よ?」
かろうじてあたしの喉から掠れて出た言葉はそれだけだった。
「これからどうしたいかは、お前次第だ。この時代に残るか否か。お前が…もといた時代に戻りたいと望むのなら…。」
手を貸そう。
と付け加える。
あたしは息を飲んだ。
それって、もしかして、もしかしなくても…。

それ以前に、あたしはどうしたいのか?
と、改めて考えた。
ついさっきまでは、戻りたいと思っていた。
思っていたのに…。

一馬をみあげる。
男らしい、精悍な顔。
現代ではあまり見られない、
野生的なカッコよさを持ち合わせてて、適度に…だけどしっかりとした骨格に筋肉。
片方は潰れているのに、意思の強そうなもう片方の目。
こいつと嫌というほど一緒にいるのに、未だに鳴るあたしの鼓動。
まるで、まるで、少女漫画の主人公みたいじゃんっ。
って、何考えてんの、あたし!

一馬は。
細田さんの時とは違って…何というか…憧れとは違って、
安堵感と混同している緊張感を感じる。
わけわかんない…。
でも。

「戻り…たい。」
あたしの居る場所はここではないような気がした。
こいつと。
一馬とは一緒にいてはいけないような気がした。
「分かった。」
一馬はそれだけ言うと、あたしを抱きかかえて、雑木林の奥のほうへ連れて行く。
やがて自分の羽織を脱いで地面に敷き、あたしを横たえると、一馬は真面目な顔のまま、あたしの上に乗っかった。
腕で支えてあたしに体重をかけないように気をつけながらも、あたしのお腹から下は彼の固い筋肉が密着する。
太腿のあたりには、一段と熱い塊を感じる。

何かの儀式みたいに。
ぎこちなく、唇を合わせる。
だんだんと湿り気が帯びてくると、
一馬はあたしの唇の中に舌を差し入れた。
あたしも、一馬を引き寄せて彼を味わう。
キスしながら、あたしは泣いていた。


未年の朝 13    07.31.2007


 一馬はあたしの顔を両手で包んで熱くキスを繰り返しながら、自分の足を使ってあたしの膝を割る。
普段だったらそういう手馴れた感じがムカついてた所だけれど、今はそれどころじゃなかった。

恐らく、一馬とは最初で最後の…。

そう考えると、何故か涙が出てくる。
「本当に、いいんだな…?」
泣いているあたしの涙が唇の方に流れ落ちたのに気がついて、一馬が顔を上げた。
暗くてよく見えないけれど。
心配そうな、怒っているような、悲しそうな、それでいて何にも感じていないような、複雑な表情。
「ん…。」
頷きながら、あたしは霞んでいる視界を覆いかぶさっている一馬の上へ移動させた。

雑木林の木々の隙間から夜空と、現代では想像も出来ない数の星が垣間見える。

返事の代わりに、一馬はまた接吻を繰り返す。
それに答えながら。

何十年、何百年経っても男と女の愛の表現って変わらないんだなぁ、とか考えていると。
一馬の手があたしの裾に入り込んだ。
最初はふくらはぎのあたりを行き来していた暖かい手は、
そろそろと上へのぼっていき感じやすい太腿の内側で止まった。
あたしは一馬の首の後ろに手を廻して、催促するように腰を上げる。
一馬はそのまま直にあたしには触れず、それを覆う薄い茂みに触れた。
 
分かっていた。
時間を無駄にせず、ただ一馬を受け入れれば、それで終わりなのに。
多分一突きであたしはここから消えていなくなる事が出来るのに。
何故だか一馬に時間をかけて欲しいと思うあたしがいて…。
それに応じるように、一馬もこの“儀式”を特別なものにしようとしているみたいだった。
前回の時とは違った、優しい手つき。

前回…。
うわあああああああっ(/////////)
前回の事を思って、あたしの顔が真っ赤になった。

今よりも荒々しかった一馬の愛撫。
一馬の体。
一馬の…熱くて…大きい……。
途端にあたしの足に当たっている彼の下半身に、あたしの神経全てが集中した。
瞬間、あたしの女の部分もキュッと反応する。
一馬はそれに気づいたのか、
今にもとろりとあふれ出しそうなあたしの蜜壺を指でそっと撫でた。
「あん……っ!」
もっと、と催促するように、あたしはさらに腰を上げ足を広げる。
着ていた着物の裾はあたしの腰まで捲れ上がった。
開いた蜜壺の切り込みに、彼の指が侵入する。

「あ……かずっ…お願い…っ!!」
一馬は体を起こし、あたしの目の前に両足を抱えるようにして持ち上げた。
あたしは恥じもなく、彼の前で自分を曝け出した。
「ここか?」
探るように指があたしの襞を掻き分けて上下に移動する。
「ん……あっ…そ、そこっ。」
彼の指が二往復した所で、あたしは彼の指を掴んで感じやすい真珠へと導いた。

「はああああっ!!」
敏感なそこを、一馬はつまんだりかるく擦ったりして弄ぶ。
弄んだまま、彼の他の指は…多分中指だと思うけど、あふれ出しているあたしの蜜壺にツプリ、と差し入れた。
くちゅっ、くちゅっ、と卑猥な音を立てながら、小さな円を描くように指を出し入れする。
2箇所を同時に弄られて、あたしの下半身はいう事を聞かなくなった。
彼の愛撫に、蕩けそうになる。
一回大きな波に体を震わせると、一馬はあたしの腰をさらに持ち上げた。

「お前をもっと…味わいたい……。」
一馬はあたしの足の間から顔を上げながら、低くかすれた声でそう呟いた。
彼の隻眼は今まで見たことが無い程、情熱的な何かに捕らわれているようだ。
彼の暖かい息があたしの湿った場所に吹きかかる。
と、思ったら、今度は湿った彼の舌があたしの蜜を舐め取った。

「ふぁっ…か、一馬!!」
チロチロと、彼の舌はあたしの蜜を舐めとりながら、今度は舌を使って襞をかき分け上部の真珠の部分に辿りつく。
つっつくように舐められただけでも体がブルッと震えるのに、一馬はそれを器用に捉えて軽く吸った。

チュウーッ、と小さな音が鳴る。
「ああああああああっ!!!」
ビクリ、と一段と大きな波があたしをさらって行く。
電撃に打たれたみたいな大きなショックがあたしを襲うと、ぐったりとそのまま倒れた。

一馬は器用に褌を脱いでいた。
一馬の愛撫にノックアウト…と、言うより「イって」しまったあたしは、
仰向けに倒れたまま足元の一馬の動作を大人しくジッと見つめていた。
思い出すのは、前回見た大きい…彼の…。
やがてそれが白い布の隙間から顔を覗かせると、あたし食い入るように見つめた。

「これが、欲しいか?」
あたしの視線に気づいたのか、一馬が薄笑いを浮かべながら自分自身を指差した。
空に向かってそそり立つそれを見て、思わずゴクリ、と喉が鳴る。
体を起こして足元に跪いている一馬に近づくと、無言であたしは手を伸ばした。

前回は触らせてもらえなかったそれは、あたしの手の中で暖かく脈打つ。
一馬はあたしの頭を掴むと、自分自身をあたしの鼻面に擦り付けた。

汗と、男の匂い。
根元は血管が浮き出てグロテスクに光っているのに、先端は柔らかそうな傘で覆われていて…。
一番先っちょの小さな穴はすこし湿っていて、
そこから傘の窪みまで伸びている割れ目に沿って、おずおずと、控えめに舌を這わせた。

一馬の、味。

どこかで覚えがあるような……?
(注:彼女は朧月城での出来事を覚えていません)

一馬は耐えられないといった風に、ちょこっと荒々しくあたしの髪の毛を掴んで、押さえる。
いつもだったらぶッ切れてるとこだけど…。
でも、あたしもはやく彼を味わいたかった。
彼の先端を咥えこむ。

「………ぁあっ。」
舌で転がしたり、強く吸い付いたり、喉の奥ぎりぎりまで口の中に入れると、一馬が苦悶の声を漏らした。
腰を突き上げて、もっとあたしに催促する。
あたしも夢中で舐め続けた。
太い根元、小さな皺と薄い毛に覆われた袋、その裏まで丁寧に彼の全てを舐め尽すと。
一馬はあたしを押し倒して上に覆いかぶさった。

ついに、その時が来た。

一馬に両足を掲げ上げられながら、どんどんとあたしの視界が滲んでくる。
それに気付いたのか、一馬はあたしのほっぺたやオデコにキスしながら、
自分を持ってあたしの入り口に宛がった。

「本当に…?」
いいんだな、と一馬がもう一度訪ねる前に。
返事の代わりにあたしは彼の首に手を廻して引き寄せた。

 
つぷっ、と。
軽く一馬が侵入した。
あたしは強く目を瞑ってその時に備える。
 
ドオーンッ!
と、花火が打ち上げられる音がした。
空が光った瞬間、暗くて見えずらかった一馬の顔が明るく照らされる。

一馬は。
苦悶の表情を顔に浮かべていた。
今まで、見たこともないような…。
でもそれは一瞬の事で、また辺りは暗くなる。
またあたしと一馬の息遣いしか、耳に入らなくなった。
体が硬直した。
「……いくぞ……。」
そういうと、一馬はいっきにあたしの奥まで突き進んだ。











 
それなのに。


何も起きなかった。





 
一馬を受け入れた体勢のまま、あたしは顔を上げた。
暗闇の中でも彼の表情は読み取れた。
明らかに混乱しているらしい一馬と目が合う。


どれ位その体勢のままだったか分からないけど、あたしはニッコリと一馬に微笑みかけた。

一体何がどうなっているのかわけわかめだけど。
混乱して、頭が空白になっていて何にも考える事が出来ないけれど。
 

一つだけ分かる事があった。


あたしは、このまま一馬に止めて欲しくなかった。
一馬は小さく頷くと、ゆっくりと腰を動かし始めた。
 


何度も花火は打ち上げられた。
 




第一部、終了!
未年の朝 2-1    07.31.2007


 「そりゃあ、お前ら本物の夫婦(めおと)だなあ。俺も噂を広めた甲斐があったってもんよ」
かっかっか、と道弦さんは豪快に笑いながらそう言い放った。
あたし、一馬、道弦さんは一馬のボロ小屋の囲炉裏を囲んで座っていた。
一応道弦さんは道弦さんなりに、この神妙な雰囲気を和ませようとしているみたいだけど。
笑い事じゃねえよ。
ギロッ、とあたしと一馬と挟み撃ちで睨まれて、
「おっと。失礼!」
と大袈裟に咳払いした。

そう簡単に、「夫婦」とか言って欲しくない。
結婚式だってしてないのに。
てかその前に、婚約指輪どころかプロポーズの言葉すらもらってないんですけど。

あたしの、あたしの夢は……。
ワイハの海辺のチャペルで夕日を浴びながら、椰子の木の隣のハート型のバラのアーチをバックに、神父様の前でと愛しのダーリンと永遠の愛を誓い合う!
……はずだったのに。

「明日香は、戻れなかった」
はあ……。
とあたしの大きなタメ息を聞いてか聞かずか。
腕を組んで眉間にシワ寄せて一馬が呟く。

一馬……。

あ、あ、あ、あ、あたしたち、ヤッちゃったんだよね。
しかも、な、な、な、生で。
一馬を見て、全身が一気に火照る。
心臓が、バクバク鳴り出した。
ヤバイ。
だって本当にキモチ良くって、人生初のアオカン(ひゃあぁぁ~!)だったのに何度も何度もイっちゃって...。

あたしは他の事を考えようと、努めた。
そうだ。
一馬が言ったとおり、あたしの身体に前に起きたような異変が無かった。
と、いう事は……。

「あたし、帰れない……?」
その一言を吐いたら、突然目頭に熱いものが込み上げてきた。

お父さん、お母さん。
お父さんとは普段あんまり話をしなかったけど……ちゃんと大学まで出してくれた。
お母さんのご飯……肉じゃががもう食べられないの?
恋愛の相談とか、出来ないわけ?
クソ生意気な弟の昭夫。
最後の一個のお菓子の奪い合いや、切ったケーキの大きさで意地汚くよく喧嘩したけど、あ、会えないんだよね?
独り身同盟仲間の優子や孝子とも金曜日の合コンに行けないし、水曜日のレディースデーに映画観れないんだ…。
同僚の細田さんの笑顔も、ヅラの課長も、お局様の加藤さんも、全部……。

もう、戻れない…。

涙が滝のように流れ出てきた。


「泣くな」
ぴしゃり、と冷たい声がした。
言うなり、一馬は立ち上がる。
「泣いてどうこうする問題では無いだろう」
感情の無い声で言い放つと、ツカツカと戸口に向かう。
直後、ガラン、と戸が閉まる音がした。


「ほらよ。顔ぬぐえ」
道弦さんが懐から空手拭いを取り出して、あたしに放った。
「…ありがと」
顔を拭こうとした途端、あたしの鼻腔に異臭が襲った。
「クサッ!」
とその異臭の根源たる手拭いを放り投げる。
カッカッカ、と道弦さんは笑い出す。
「わりぃな。もう一月も洗ってねえや。俺の色んな“汁”が染み付いてるみてーだな」
色んな汁?
どんな汁じゃ!
お、おそろしーっ。

仕方なく着物の袖で涙を拭うあたしの背中を、道弦さんは撫でながら、
「あいつも、色々と思う事があんだろーから、気にすんな」
と優しく言ってくれた。


その夜、一馬は小屋に戻って来なかった。
あたしは眠れない夜を独りで過ごした。




 翌朝。
早朝から、戸を叩く音がした。
「増子明日香殿はおられるか?」
居留守使おうと思って寝返りを打つと、ドンドンドンッって戸を叩く音が永遠に鳴り響く。
んだよ~。
朝っぱらから!!
あたしは泣き腫らしたお岩さんみたいな目を擦りながら、戸を開けた。

「…………」

あたしの眠気まなこに映った光景。
それは、ずらーーーーーーっと並んだ甲冑の男の人たち。
甲冑が朝日に反射して、眩しーぜ。
ってか、これは特殊部隊(S.W.A.T)か何か??
なんでこんなゴキブリちっくに黒光りしたおっさん達が朝っぱらから居るのよ??
その中の先頭に立っていた、中肉中背の男の人が、一歩前に進み出た。
深々と頭を下げる。
「それがしは、吉田藤十郎と申す。我が朧月藩藩主細川政光殿のご嫡男、細川政輝殿の命でお迎えに参りました」
「政輝ぅぅぅ~?あのクソガキィ?」
お迎えって……まだあのクレイジーなお城から戻って間も無いじゃん。
「そのお言葉、失礼ながらも今回は聞き逃す事に致す。明日香殿、早速ですが、荷造りをして頂きたい」
「荷造りってったって……今?」
ちょっと……寝不足な上、頭がガンガンする。
普通だったらお鈴さんが来てスパルタレッスン開始まで、HP養う為にも、ダラダラ寝てるのに。
えええ!!
マジで、今ぁぁぁ???
「今、でござる」
藤十郎とか言う人は、にべもなくハッキリとした口調でそう告げる。

暫しの沈黙。

あたしが「うん」って言うまでテコでも動かないつもりね。
「わかった。ちょっとだけ時間ちょうだい」
根負けしたあたしは、そう言って戸を閉めた。



さて、どうしよ?
あたしはヘナヘナと床に崩れ落ちた。
一馬は戻ってこないし、このまま勝手に出て行ってもいいのかな?
はあ……。
昨夜、何度も考えた。
一馬の事。
きっとあの花火の夜の事なんて、一馬にとってとるに足らない出来事だったに違いない。
だって、この時代一夫多妻制とか、男の人が複数の女性(や男性)と関係を持って当たり前なんでしょ?
ムカつくけど。
元々、あたしを元居た時代に帰してくれる為だって言ってたし、きっと火遊びとしか思ってないんだろうけど。

「ああああああたしだって、別に初めてってワケじゃ無いしっ」
そう言いながら、何となく苦しくなった胸をおさえる。

一馬の、ぬくもり。
一馬の、左眼…。
一馬の………。

「だああああああああ!!!やめやめ!!」
パンパーン!!
と、両頬を両手で叩く。
頭を冷やそう。

そうだ、用意をしよう。
うん。
それがいい。
あのクソ生意気な政輝の相手でもしてやるか。


あたしは勢いよく立ち上がった。





 『桃花楼』と書かれた暖簾を捲って、外に出た。
「またいらっしゃってくださいねー」
店の中から、女将らしき女の声がする。
後ろ手に手を振って、一馬は店を出た。
数歩歩いた所で、立ち止まる。

「言いたい事があるなら無言で後をつけずに言ったらどうだ?」
「いやあー、バレちまったか?」
長屋の角から巨体の坊主が姿を現す。
「お前ほど体躯の良い禿げなど、嫌でも目に入る」
一馬は少しも視線を上げず、再び歩き出した。
道弦も後ろからついてくる。
「一晩中飲んでたみてーだな」
「お前には関係ない」
「女は抱いたか?」
「知らん」
「羨ましーなぁ。仏門に入っちまうと、それだけが辛い所なんだな。女なんて長い間抱いてねえや。もうどれ位になるんだろーなあ。昔は俺もよくお師匠様に内緒で……」
「黙れ」
ピタ、と銀色の刃の切っ先が、道弦の腹の前で光る。
一馬は道弦に背を向けたまま、いつの間にか鞘から抜いた刀を腰の横で構えていた。
「おおっと。危ねえもんちらつかせるなって。俺はただお前に知らせる事があって呼びに来ただけなんだからよ」
格別驚いた風でもない、落ち着いた声音の道弦は、大袈裟な身振りで両手をあげる。
出した時と同じ速さで刀を仕舞うと、一馬は再び歩き始めた。
「あいつの事であろう」
歩きながら、後ろの道弦に声をかける。
「いやあ。相変わらず勘がいいねえ」
「何だ?」
ややぶっきらぼうに、苛立ったように一馬は訊ねる。
「いやなあ…」
ボリボリと坊主頭を掻きながら、道弦は決まり悪そうに声を出した。
「今朝、お鈴ちゃんが寺に来て、明日香さんの姿が見つかんねえって騒いでたんだよ。お鈴ちゃん、まだ色々と教えてんだろ?……ってオイ!」
道弦が話し終える間も無く、数歩前を歩いていた一馬は駆け出した。


「遠くて近きは男女の仲、ってな」

その場に取り残された道弦は、まだ頭を掻いたまま、カッカッカと笑い出した。





 『政輝に呼び出されたので、朧月藩に行って来ます』

「……読めん」
一馬は小屋の明日香の布団の上に残されていた、走り書きが残して有る懐紙を取り上げた。
汚い字である。
「これがあいつの時代の文字か?」
かろうじて読めるのは、「政輝」「朧月藩」「行」という三文字。
それだけで、充分だが。
一馬は大きく息を吸いながら、紙を折りたたんで懐にしまう。
心の臓が早鐘を打つのは、ここまで駆けて来たせいであろう。

いや。

消えたわけでは無かった。
息を吐きながら、安堵している自分に気づく。
「何故いつも大人しくしておれんのだ?」
言いながら、苛々が募ってきた。
手の内に収まったかと思うと、指の間から零れ落ちていく水のような女だ。
掴めない。
俺では。


昨夜、小屋を出た一馬は久しぶりに花町へ来た。
帰れない、と悟り泣き出した明日香を放ったまま。
そして、酔いつぶれた。

あいつは、元居た時代に戻りたがっている。
無理も無い。
誰だって生まれ育った故郷は捨て難い。

あの夜。
あの女と繋がる事が出来たと思った。
消える事の無かった、あの温い柔らかな肢体に幾度も己の跡を残した。

思い出すと、己の分身が疼く。

が。

あいつには大事では無かったようだ。
生娘でも、無かった。
きっと誰か他に契りを交わした相手でも居るのだろう。
「…………」
不快感が込み上げてくる。

ならば、道弦が言っていたように仮の夫婦にでもなって、繋ぎ止めるか?
体で、繋ぎ止めてみせるか?

廓で商売女に酒を注がせ、飲んで飲んで飲みまくり、最後潜在的に辿りついた結論が、それだった。


「道弦。そこにおるのであろう?」
一馬は背を向けたまま、戸口の方の影に声をかける。
「おうよ」
戸が開き、巨体が現れる。
「また暫く留守にするが、道場の方をお前に頼んでよいか?」
「俺に選択の余地はねえんだろ?」
道弦は大げさに肩を竦める。

が、口元には人の良い笑みを浮かべていた。




未年の朝 2-2    07.31.2007


 相も変わらず、煌びやかで趣味の悪い城…。

朧月城に戻ってきたあたしは、前回見た事のない客間……みたいな大きな部屋で待たされていた。
襖障子には金の鶴と亀の絵巻物。

つーか、呼び出されて数日旅した上に、何時間も待たすか??
客人を?

イライライライライライラ……。
ったく、礼儀ってもんがなってないね!
お姉さんが一発教えたげるわ。

などと悶々と考えていた所。

ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ………<<<

と回廊を走る音がした。
次第に大きくなっていく。

「明日香!」
バンッ。
と、さっきまで眺めていた鶴と亀が真っ二つに割れて、政輝が姿を現した。
後からお付の家来が数人息を切らせてついて来る。

政輝は、あたしの姿を見るなり目を見開いた。
「明日香、お前……おなご(女子)の格好をしてる…」
「おなご?」
ああ、そういえば。
前に会った時は一馬の小姓って事で男の格好してたんだっけ?
政輝の顔が真っ赤になる。
「あ、相変わらずお前の顔は泥かぶらだなと思って。お前」
目線を逸らしてどもりながら、政輝はぶっきら棒にそう言い放つ。
泥かぶら?
泥かぶらって、ブスって意味よね?
違った?
「ど、泥かぶらですってぇぇぇ??あんた人がどんだけ待ったと思ってんのよ?人を待たせちゃいけませんって、言われた事無いの?人を待たせるって事はねぇ、その人の管理能力を表してる上に、待たせた人の時間も無駄にしてるって事なん……」
「これ!」
あたしの言葉を遮って、政輝が小さな絹の袋を投げてよこした。
正座してるあたしの膝に当たる。
「イタッ」
ちょっと大げさに言ってから、その包みを手に取った。
「城下町へ行って買ってきたやったぞ。喜べ」
喜べ?
相変わらず聞き捨てならない事ばっか言うわね~~~とか思いながら、包みを開ける。

ちりめんでお花をあしらった、銀の簪が入っていた。

へえ~、案外、趣味いいじゃん。
これなら現代でも使えそう。
「お前、ものすごいオカメだから、それでもしたらマシになるんじゃないかと思ってさ。うちの銀山で取れた銀細工だ。くれてやる」
オカメってのは余計だよ!と思いながら、
でも素直に
「ありがと」
と伝えた。
政輝はまた真っ赤になった顔をプイっと横に向けた。
「お前の夫は来なかったのか?」
夫?
おっと?
「天羽殿だ」
ああ、そうだった。
確か前来た時(と、言ってもついこの間)一馬とはそんな仲になってたんだよね。
こいつのお守り避けるための咄嗟の嘘とは言え…。
あたしは適当に、
「一馬は色々忙しくて来ないんじゃない?」
と答えた。

そのまま、布団の上に置いてきた手紙の事を考えた。
一馬、読めたかなぁ?
なんせ、あたしこの時代の字書けないし、一馬だってひらがなやカタカナ読めないだろうし。
いや、その前に小屋に戻ったのかな?
ふう……。
「何怖い顔しているんだ?」
眉間に皺を寄せてたらしい。
やばいヤバイ。
シワは女の大敵だわっ。
無表情無表情…。

政輝は、いつの間にかあたしの目の前に来てちょこん、と胡坐をかいて座っていた。
お付きの家来は部屋の隅っこでずっと平伏してる。
「お前に頼みがあって呼んだんだ」
政輝が突然、真顔になった。
「え?は?あ、何?」
「実は明日、父上が隣の海山藩に寄港している南蛮人を客人として城に招く事になっている」
海山藩。
聞いた事ある。
もちろん、学校の歴史の授業でだけど。

政輝って、ホントは一体幾つなの?
15、6で成長止まっちゃってるんじゃないのかな?
だって普段はただ生意気なガキだけど、政治とか真面目な話になると、表情が変わる。
大人びた顔になる。

「お前、南蛮の言葉が少し分かるのだろう?技術者の通訳をしろとは言わないけど、ちょっと俺の手助けしてくれる?」
「しないと切腹なんでしょ?」
「そうだよ。晒し首だね。拷問も加わるかも」
さらりと言うな!
うううううっ。
NOと言えない日本人のあたし…。
政輝は右手をあげて、部屋の隅っこの従者に退室を命じた。
「あんた、何か企んでるときは良い顔してんね」
「父上がああだから、俺がしっかりしないといけないんだ」
ふうっと息を吐きながら、政輝は横になった。
「膝枕しろ。詳しく話するからさ」
って、人の返事も待たずに勝手にあたしの膝に頭を乗せてきた。
「それとも、俺の夜伽の相手をする?」
あたしは大声で
「結構で御座います!」
と断った。

政輝によると。
海山藩は、主に漁業、貿易で成り立っている藩らしい。
ただ、朧月藩に比べ、重い税、藩主の悪政で良い評判は聞かない「貧乏国」だそうだ。
「前の役では、豊臣方についていたし」と、政輝はあまり好意的な意見を言わない。
「その南蛮人の今回の目的は?」
「表向きは銀堀の指導、視察だそうだ」
目を瞑ったまま、政輝は答えた。
こうやって大人しくしてれば、結構可愛いのに。
弟の昭夫みたい。
「あいにく俺は、この鳥かごの中から出られないし、うつけ者の父上は老中の言いなりでなーんも分かってないみたい。まあ、いい暇つぶしになるとは思うし、調べてみようかなと思っただけだ」
鳥かごの鳥…。
そっか、そうだよね。
政輝くらいの身分ともなると、そう簡単に遊びに出かけたりとか無理なんだ…。
けっこうこいつも苦労人じゃん。
「だからさ、この哀れな鳥かごの鳥(俺)に代わって、色々探ってきてくれるかな?」
あたしが同情したのを即座に悟ったのか、政輝は悲しげにそう問いかけてくる。
こいつ、劇団ひ〇わりに入れる!!
なんて演技力!!
「政輝、あんた口元笑ってるよ」
「南蛮の菓子にかすていら~ってものがあるのを知ってるか?」
「え!!!!カステラ?!!!」
「噂ではとても美味いらしいぞ」
マジ?
カステラ??
あの文〇堂とかのカステラ?
毎日大根とか根菜の超質素なサバイバル生活送ってたあたしの口元にヨダレが……。
はっ。
やべえ。
ぐうぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~っとお腹まで鳴ってしまう。
じゅ、重症だわ。
「じゃあ、決まりだね」
フフフっと笑いながら、政輝は続けた。
「俺の所に来てたら、かすていら~も唐菓子も好きなだけ食べさせてあげたのに」
今からでも遅くないよ、と付け足す。
「てか、あたし独りでどうしろっていうの?」
「まさか一人で何かさせるわけないだろ!」
政輝はちょっと間をあけてから、
「絣(かすり)」
と声をかける。
カタっと音がして、部屋の回廊側とは反対の襖が開く。
跪いた、忍者ハ〇トリ君みたいな格好の男が姿を現した。
げぇぇぇぇ~~!!
時代劇さながらの、風車の何とかってのみたいな登場にちょっくらビビッてるあたしを無視して、天井を見つめながら(まだあたしの膝枕中)涼しげに政輝はその「絣」って人に話しかける。
「俺達の話聞いてたでしょ?こいつ一人じゃ危険だから、一緒についていってあげてよ」
「御意」
頭を上げず、下を向いたまま「絣」って人は頷く。
「ちょっ、待って、あたしの意思はどうなのよ!!」
「かすていら~食べたいんだろ?だったら案内の視察団に紛れて探ってよ。そうだなー、父上の小姓ってのはどう?それに明日の夜の宴会は、矢絣(やがすり)と一緒に居ればいい」
よし、と言って政輝は起き上がる。
「えええええええええ!!!!」
とあたしの非難の声は聞かないで、
「大丈夫だよ、絣がいるから危険な事にはならないから」
と、片目を瞑って(って、現代語でウインク?)半ば強引にあたしを引っ張り起こす。


また、何か起きそう(ってか、起きたらイヤダ!)な予感………。







 若殿。
つまり、時期藩主たる細川政輝殿とのお目通りの許しを願っただけなのだが。

なのに、今、一馬はなにやら風雅な部屋に通され、芸姑の舞を「無理矢理」見させられている。
左右には、香の匂いの強い色気漂う遊女らしき女達がしなを作って一馬に絶え間なく酒を注ぐ。

よく見ると。

一馬を取り囲んでいる数名の遊女達は、皆似た姿形の者ばかりだった。
陶磁色の肌、濃い睫毛に縁取られた切れ長の、黒曜石のように潤んだ瞳。しっかりと塗られた赤い紅。

なるほど。

あの若殿は確かに噂どおり「ただ者」では無いかもしれない。
この藩を影で動かしているのは、あの若殿だと聞く。

一馬を囲む女達は、皆一馬の女の趣味趣向を存分に兼ね備えていた。
武者修行に出る前。
まだ女を知り始めた若かりし頃の彼は、楼閣や遊郭に通うとこのような陰の色と、女の色香を持った女ばかりを抱いていたものだ。

色気のイの字も無い明日香とは、全く異なった風情の女達......。

あの若殿は、俺に関して色々と情報を集めたのだろう。

明日香。

そうだ。
一刻も早く、あの若殿から話を聞かねばならぬ。

あのじゃじゃ馬の行方を。

一馬はおもむろに立ち上がった。



未年の朝 2-3    07.31.2007


 今回の視察団は、宣教師のサンチェスさん、同行者の商人数名と、あっちの通訳、隣の海山藩の付添い人が数名。
この間会ったドミンゴだかフラミンゴだかってピエロの格好した(あたし視点)太鼓ッ腹で赤毛の商人は現地(つまり、銀山ね)に居るから来ないって情報はキャッチした。

この時代通訳はドミンゴって人が居ない場合は
スペイン語→オランダ語→日本語
なーんて面倒くさーい事やってるみたい。

あたしは、朧月城の中で政輝いわく『一番豪勢な客間』で南蛮の客人をもてなす為、普段じゃ到底着られないよーな、超重たいゴージャスな着物に着替えさせられた。
白粉や紅......いわゆるゲイシャ風メーキャップまで施されて、モノホンの舞妓やら芸姑さんやらのお姉さま方に紛れ、大事な客人の到着を部屋の隅っこにずらーーっと並んで待っている。
明日香さん、大へんしーーーーんっ!!!(←バカ)

部屋の中央には客の人数分らしき食べ物とお酒が載った盆が置いてある。

ってか、着物重いし、メークは顔がつっぱるし。

「私めがお助けいたしますので、ご安心下さい」
あたしの隣に座っていた芸者さんが、そっと耳打ちしてきた。
「え?」
ふと横を見ると、あたしの時代でもバリバリモテそうな目鼻立ちの整ったきれいなお姉さんと目が合った。
「矢絣(やがすり)と申します。政輝様の命で参りました。ここでは寧々とおよびください」
矢絣......さん?
えと、昨日の男の人は「絣」さんでぇ......。
もしかして、もしかする?
「明日からは、双子の兄の絣が明日香様のお供を致します」

やっぱ、兄妹(しかも双子!)だった!!!
この兄妹、一体何者なんだろ?
とか、お隣のきれーなお姉さんをレズビアンちっくに眺めていたら、
「お客人のおな~~~~り~~~~」
との一言が。
皆一斉に、大奥さながら、
「ははあ~~~~~!!」
と平伏する。
あたしもつられて、ははあ~~。

ドスドスと畳を踏む音。
長い部屋を横切って客達は皆指定されたお盆の前に座る。
全員が着席したところで、あたし達は面を上げることが許された。
そして近場に座っているお客様の横にそそくさと進み出る。
あたしも皆のマネして、誰かさんの隣に座る。

へえ~~。
前回はドミンゴって赤ら顔のおっさん見たけど、今回また改めてその『南蛮の客人達』を観察する。
部屋の奥......つまりあたしの傍に居る人は、歴史の授業で習った宣教師のザビエルクリソツなカッコしている。
あまり目立たない黒い毛に、大きい鉤鼻、30代...か40代。中肉中背の男の人。

じいいぃぃぃぃぃーーーっと。

ザビエル又は波平ちっくに剃ってある頭のてっぺんに目が......。
あ、波平は一本へにょ毛が生えてたっけ?

矢絣...じゃない、寧々さんの隣は商人らしき人。
あたしの前に座っている人も、多分商人なのかな。
と、思ってチラッと見ると。

あ。
目が合っちゃったよ。
っていうか、あれ???

このひと。
濃い青色の目をしてる。

「コンニチワ」
杯を口に持っていき、その男はあたしにニッコリと微笑みかける。
だけど、何かがゾクッてする、冷たい笑み。
「こ、こんにちわ」
他に4~5人居る他の南蛮人と違って一人だけ......ハチミツみたいな長い金髪を一つに束ねていて、あのヒラヒラ襟+提灯パンツみたいなド派手な格好じゃなくて、これまた一人だけ着物を着ている。
『面白い髪の色ですね』
「け、えぇ??」
「〇×&*$@~~~」
「娘、奇抜な髪の色じゃ、とそこの御仁が申しておる」
「あたし?」
スペイン語→オランダ語→日本語で、やや間遅れして通訳される。
ふう~~~っ。
やばいやばい。
スペイン語で即答しそうになったよ。
『この国では見かけない色ですね』
「&%#$@!*~~~」
「何故ゆえそのような色をしておるのか」
疑問系に変化しちゃってるし。
通訳いいの?そんなんで?
「あ、あのー、産まれた時からこんな色で...」
うっそーーーーーーーっ。
美容院で一回1万円かけたカラーリングに決まってるじゃない!
「&@$!%*~~~」
『家族代々このような髪だと』
をいをい!!
そんな事言ってないっつの!!!
『南蛮人の血が流れているのかもしれませんね』
ディープブルーの瞳を細めて、独り言のようにその人は呟いた。
「こちらは、商人のろぺす殿。明日香殿の横がさんちぇえす殿。このお二人が軸となっておられるそうです」
矢絣さんが小声で素早く解説。

スペイン人って、原住民が侵略されたメキシコ人と違って、まあ白人の国だけど、一応ラテン系......じゃなかったっけ?
それにしてもこのロペスって人......なんて言うんだろ。
北欧系?
ゲルマン系?
って感じ。
多分この時代の人には区別できないんだろうけど。

あたしのお隣の宣教師のサンチェスさんは、あたしがお酒をすすめても一口も口にしないし、とってもシャイ.........てか、この場がとっても嫌そう。
まあ、聖職者だしね。

そうこう思っているうちに、琵琶だの何だのって楽器を持った芸者たち(って、あたしも一応ゲイシャの一人だけど)が歌を歌って踊りだした。

あたしはじっと、南蛮の客人たちの会話に耳を傾ける。
『この国の女はサルのような顔ばかりだな』
なんですってぇぇぇ。
あんたに言われたく無いよ、胸毛もじゃもじゃゴリラヤロウ!
『いや、俺の好みもいるぜ』
あ、この男矢絣さんの事、鼻の下伸ばしながら見てるし。
ヨダレ垂れてるよ、おっさん!
『酒と女を持って帰るか』
お持ち帰りは、あたしと矢絣さん以外にしてね。
『ああ、採った銀と一緒に......』
『パンチョ!』
突然青い瞳のロペスとか言う人が声を張り上げた。
その鶴の一声で、大の男達が一斉に静まる。
『サンチェス、貴方もそろそろ「おやすみ」になられた方が宜しいのではないですか?』
杯を口に運びながら、ロペスがサンチェスに冷たく声をかける。
何、この緊張感……ってか、気まずさ。
あたしの隣の宣教師さんは始終無口だったけど、
『ええ、そうします』
と小さく頷いて、ヨロヨロと立ち上がる。

宣教師のサンチェスさんが従者と共に部屋を出て行った後。
ロペスさんが小声で
『気の小さい男だ』
と呟いたように聞こえた。





 「一馬様、わたくし今宵はとことんお付き合いいたします」
一馬を取り巻いていた女達の中でも一際美しい酒盛り女が最後まで一馬の酌をしていた。
誘惑しろとでも命をうけたのか、着物の襟元を下げ、白いうなじと首を惜しげもなく晒している。

あのじゃじゃ馬のおかげで多少の理性を保てるようになったのだろうか。
この婀娜めいた女を前にしても、ちっとも食指が動かない。

いや。
政輝殿にお目通し願うまでは、酔うも酔えなかった。

「あつっ!」
ガシャンっと陶磁器の割れる音。
そして、湯気の出ている液体が、その女の足元で飛び散る。
しなだれかかった女の肩を抱えて支えながらも、一馬はその行為がやけに手馴れているように思え、僅かながら眉をひそめた。
「わたくしったら......ああ、どうしましょう」
言いながらも、手を一馬の首に回してくる。

............成る程。

一馬はそのまま女を押し倒した。

「.........ぁあ」
首筋に唇を押し付け、女の着物の合わせを広げる。
豊満な乳房がその間からこぼれ出た。

自身の体で女の体を拘束し自由を奪い、片手で熟れた果実のように揺れている白い胸を揉みしだく。
喉元に唇を押し当てながら、反対の手を艶やかな髪の中に差し入れる。

これだな。
まさぐり当てた物を一気に引き抜いた。

刹那。
ふわり、と女の髪が舞い、焚きこめていた香の香りが広がる。

「政輝の居場所を言え。お前が素人ではない事は気づいていた」
女の喉もとに光る簪。
いや、簪の形をした、小刀。

「くっ.........!」
目にも留まらぬ速さと身軽さで、女は一馬から飛びのく。
半裸を腕で覆い隠しながら、肩で息をしていた。
「ま、政輝様はあなた様がわたくしを抱くまでお会いになりませぬ」
一馬は目を細めた。
「ほう?これは若殿の新しいお遊びか?」
「そんな事!ただ、わたくしのお役目はあなた様と床を共にする事。さもなければ、わたくしの命も、あなた様の大事なお方のお命も無いかもしれませぬ」
一馬の独眼がキラリと光る。

「ならば.........」
一馬は静かに立ち上がり、女に詰め寄る。

手を伸ばし、裸の白い肩を掴んで引き寄せた。
女をそのまま壁に押し付ける。
彼の硬い身体が女のしなやかなそれに重なった。

「お前を抱くまでだ」



二つの影が、一つに重なった。


 
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