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未年の朝 2-4    08.01.2007


 はああ~~~~っ。
キンチョーした。
ぐぅっっっっっっっったり。
の、あたしは政輝が用意していた部屋に戻って、地球の重量をまざまざと感じさせられるこの重たい着物を脱いだ。
一息ついた所で、顔の「そ〇子」みたいな白メイクを落としたい衝動に駆られた。

「一晩つけっぱなしのメイクは、一週間分の肌の老化~♪」
気を利かせてくれてたのか、幸い水を張った桶が部屋の隅っこに手拭いと一緒に置いてあったけど。
これって、洗顔用でいいのよね?
それとも、体拭き用とか?
まさか、飲み水???
桶の中に?
うーむ。
ま、いっか。
一応それで顔を洗った。

ずっときんちょーしてたからトイレにも行きたくなった。
トイレ、どこだろ?
「矢絣さん?」
返事なし。
「絣さん?」
応答なし。
右隣の障子戸を開けると、矢絣さんがうたた寝してる。
疲れたのね。
うーん。しょうがない。

あたしはとりあえず部屋を出て、薄暗い回廊を歩き出した。
スペインからの視察団。
あたしの想像では「パイレーツオブザカリビアン」みたいな奴らだったんだけど(海渡って来てるし)、だいぶ違った。

特に、あの、ロペスって人。
冷たぁぁい感じの。

あの宣教師さんが出て行った後、ずーーっと静かだった。
結局、政輝のお父さん(=お殿様)がお目見えしても、会話が弾んでなかったし、すぐお開きになっちゃったけど。

それにしても、あの通訳面倒じゃない?

油断も隙もありゃしない。
日本→オランダ→スペイン→オランダ→日本でしょ?
気づいたら誤訳しまくってるし。
あれは伝言ゲームなのかな。

あれ?

「ってか、トイレ(厠)どこだろ?」
真剣に考えてたら、道に迷ったよ。
このお城は、迷路か何かか!!
似たような部屋がありすぎっだっつーの!

と独りでキレて、ふと思い出す。
「ああ、そういえば厠って普通外にあるんだよね、この時代。じゃあ、外に出ればオッケーね」
そういうが早いが庭に出てみると、幸い中庭の見張り番みたいなお兄さんがあたしに気づいて、外の厠まで連れてってくれた。

用を足した後、見張り番のお兄さんについてお城の中に戻る途中。
『殿ご自慢』(=政輝のオヤジ)の池のほとりに人影が見えた。
後姿だけど、腕を組んでただひたすらそこに佇んでいる。
「このような時間にどちら様でしょうか。不審者かも知れませぬので、姫様はこちらでお待ち願います」
姫様?
ポッ///////。
あたしの事よね?

ちょっと照れてるあたしを無視して、お兄さんはその背の高い人影に近づく。
不審者だったら、足音で逃げるだろ普通??
丸腰みたいだし、やけに正々堂々と池を観賞してるし、一人で城になんて乗り込んで来ないんじゃないのかな?

とか思いながら、見張り番のお兄さんとその不審者を見守る。
二人は何か話し出したけど、その不審者はこっちをチラリ、と振り返って.........。


「ええええええええええええええ??????」

二度見した。

あたしもそいつも目を見開く。

だって......。
「一馬」
「明日香」

一馬は見張り番のお兄さんを振りきって、ズカズカこっちに進んでくる。

げっ。
てか、顔こえええええぇぇぇ。

あたしがおびえたのが分かったのか、あたしの顔を見て一馬は一瞬躊躇った...みたい。
けど、
「何をしておった。ワケの分からん書置きを置いて行きおって!」
と怒鳴るなり、あたしを引き寄せる。
あたしの体は一瞬にして一馬の広い胸の中に納まってしまった。
何か、いいにほひ......。

「全く、人に迷惑しかかけられんのか!」
言いながらも、あたしをぎゅう~~ってしてくる。
「先に出て行ったのは一馬でしょう?そっちこそこんな所でなにやって...」

......あ。

満月が雲間から顔を覗かせて、うっすらとした光が辺りを、池を照らし出す。
一馬の精悍な顔がハッキリ見えた。
それに......。

「何、それ?」
一馬の首筋に無数に残っている紅い斑点を指差す。
「ああ、これか。ただの虫刺されだ」
首筋をボリボリ掻きながら、一馬は軽く受け流す。
「お前こそ、何故俺に一言の相談もせず小屋を出た?何用でここに呼ばれた?まったくもって......」
とお説教し続ける一馬そっちのけで、あたしの視線は一箇所に集中していた。


じーーーーーーっと。


だって、だって、一馬の着物の袂に、


真 っ 赤 な キ ス マ ー ク


がついてたから。

じゃあ、もしかして、もしかすると首筋のは......。
「ヒッキー?」
「ひきい?何だそれは」
「あ、あのう~、お二人はお知り合いのようで御座いますが」
完璧に間に入る機会を失っていたらしき見張り番のお兄さんは、おどおどしながら会話に入ってくる。

ってか、何?
なんで一馬はここに居て......ってまあ、多分あたしを探しに来たんだろうけど、でも、なんで?



何故にきすまーく????



何か、嫌だ。
誰か、女の人と一緒だったの?
そういえば、お香みたいな良い匂いもした。

一人で考え事しているあたしを差し置いて、一馬と見張り番のお兄さんは勝手に会話を進めてる。
「若殿に用事を言いつかいまして行き違いになっておりましたが、こいつは『妻』の明日香です」

『妻』って言葉にハッとするあたし。

「つ、妻なんかじゃありません!」
とてつもなく嫌な気分のまま、何故だか一馬に反抗したくなって口から勝手に声が出た。
「おい、どうしたのだ?明日香、ここでは......」
そういいながらあたしを掴もうと右腕を伸ばしてくる。




それが、決定的な瞬間だった。




「イヤ!来ないで!」
あたしは一馬を押しのけて、走り出す。
走りながら目頭が熱くなるの感じた。
泣きたくない。


あたしの目に映ったもの。
それは、一馬の上腕についていた歯型と、無数のキスマークだった。


「おい、待て!」
一馬の声が後ろから聞こえる。
裸足で良かった。
下駄なんて履いてたら、上手く走れなかった。
あたしは、運動会でも出した事の無い位、本気で走った。





走れ、メ〇ス!!......じゃない、明日香!



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