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未年の朝 2    07.29.2007
 
 
 あたしが手拭を桶の水に漬けている間、一馬はごそごそと何かをしていた。

「擦るよ~。」
ごしごしと、目隠ししながらも丁寧に背中付近から擦る。
手拭越しに、蚯蚓腫れのような痕が幾つかあるのを感じた。
「痛そうな傷跡があるよ。」
「それは、この間の練習試合の時に負ったものだ。大した怪我ではない。」
「ふうん。」

傷を優しく撫でたら、一馬が少し動いた。
「あっ。」
弾みで肩付近を拭いていた手拭が、するりと落っこちてしまった。
思わずキャッチしようとして手を伸ばすと、とある異物に軽く触れてしまった。

「お前…今どこを触った?」
思わず手を引っ込めようとすると、一馬はあたしの手首を掴んだ。
「ししししし知りません!!」
感触からして、褌越しにアレに触れてしまったらしい。

いつの間に褌姿になったの????

っつーか、ちょっと…熱かった…?

「丁度いい。そこも拭け。」
「はあああああああああああああああああああああああ????????」
「見えないのだから、構わないだろう?」

この人、あたしを試してる!!
絶対試してる!!


「嫌です。そこなら自分で出来るでしょう?手が届かないのは背中だけじゃん!!」
「ならば、ここから出て行くか?俺に奉公するんじゃなかったのか?」
「むうぅ。だからって、こんなセクハラじみたこと、嫌です!!」
「せくはら、とは何だ?どうでもいいが、奉公するということは賃金の引き換えに主人に尽くす、という事だ。お前の時代がどうなのかは知らんが、それも出来ないようではここで生きていくのは難しいぞ。」
意地悪い返事が返ってきた。
あたしが弱者なのを知ってて言っているんだ。


「それに、減るものでもないだろう?」
「うっ。」
確かに、減るもんじゃない。
それに昔おじいちゃんのお風呂の世話をしてあげた。
それと同じと思えば、大したことない…。

「だあああああああ!!!もう!!」
気合を入れるとあたしは聞いた。
「じゃあ、どうすりゃいいわけ?」
「俺が仰向けになってやるから、足の先から拭いて行け。」
相も変わらず命令口調だ。
「へいへい。畏まりましたよーだ。」

あたしは奴の足を拭きながら思った。
やっぱこの時代って、お風呂とか貴重なのかな??
この一馬って男は、貧乏そうな所に住んでるのに、全然貧乏そうに見えない。
なんか、命令しなれてるし。

っつーかそれよりも、家に帰りたい。
どうやったら家に帰れるんだろう?

「また考え事をしているな。力が入っておらんぞ。」
だあ、もう、いちいち煩いな、この人は。
「わーったわーった。」
今度はゴシゴシと擦る。
言われた通り力を入れてあげますよー。

だんだんと上の方へ移動していった。

筋肉が盛り上がっている腿の所までくると、流石にあたしも緊張してきた。
目隠ししてて見えないけど、そこの存在を意識してしまう。

「あのー、褌(ふんどし)。」
「褌が何だ?」
「褌の上から拭いていいの?」
「何馬鹿をいっておる?それでは意味が無いではないか。」
一馬がまたごそごそと身動きした。
褌を脱いでいるようだ。


「さあ、やれ。案ずるな。変化があってもお前には手を出さん。」
変化ってそんな事言われても…。
ドキドキする。

そりゃ、男性経験が無いわけではないけれど、
彼氏でもない赤の他人の…あの…そこを触るのって、かなーり勇気が入る。
風俗で働いたこともないし…。

あたしは、おずおずとそこに手拭を置いた。
手拭越しに熱を感じるのに、柔らかい。
柔らかいのに、大きい。

サッと上を拭いた。
「終わりっ。」
と言ってパッと手を離そうとしたあたしの腕を彼が掴む。
「ふざけているのか?自分の仕事を何だと思っている?」
「わーったわよ!!」
ムキなったあたしは、再びそこに手を置いた。
心なしか、少し硬くなり始めているそれを左手で持った。
上下にササッと拭くと、ビクンと一気にそれの体積が増した。

あたしはちょっとビビッた。

「顔が赤いぞ。」
この男、善人ぶってるけど性格が悪い。
あたしは固くなり始めている袋とその辺りも、優しく包むように拭いてあげた。
触る度に、びくびくとそれは硬くなっているようだ。
「自分こそ感じてるくせに…。」
ボソッと溢すと、自分からやれと命令したくせに一馬は突然あたしを強く押しのけた。
「分かった。もうやらなくても良い。お前は役目を果たした。」

何?
逆切れされたの?
む、むっか~っ!!!

怒った声で強引にあたしから手拭を奪い取ると、着物を羽織る音と桶を掴む音がした。
そして、どすどすと足音を立てて外へ出て行ってしまった……。

 

「一体、なんなのよっ?」
茫然と、あたしはその場に座り込んだ。
目隠しを取って、薄暗い畳の上に仰向けになる。

今日は半日色々な事があった。
川で溺れて死にそうになって、それからこのエロ侍に拾われて、奉公する事になって…。
ふうーっと溜息をつくと、一日の疲れが一気にあたしを襲う。

瞼が重く感じられた。
「ふわーっ。ねむっ…。」
あたしはひとつ欠伸をした。そしてそのまま一気に眠りに落ちた。
 



 「一体何なのだ、あの娘は?!」
桶の水を捨てた一馬は小屋の前の切り株に腰を下ろした。
「非常に奇妙な娘を救ってしまった。」

今日、川沿いを歩いていたら、女のどざえもんを見つけたと思って近寄ってみた。
女はまだ息をしていた。
当然の如く、奇妙な衣を着ていたその女を助けた。

先の時代から来たという、馬の毛のように茶色い髪、不思議な身なりと言葉の娘。
実の所、元々粉黛臭い楼閣の女たちには興味も無いし、武者修行をしていて長い間女を抱いていなかった。
良い欲求の捌け口と暇つぶしなるという下心もあって、身寄りのないその女を連れてきたのだ。

一馬ははだけた襦袢から覗く熱を持った自分の分身を眺める。
あのまま続けさせても良かったが、歯止めが利かなくなりそうだったので止めさせた。
躊躇い無く、既に女の手で熱くなっていたそれに手を添えた。

思い出すのは、今日助けたときに見た、あの女の傷ひとつ無い裸体。
太くたぎった自身を握って上下に動かす。

「…ッ…。」
白いうなじ、桃色に色づいた大きめな胸の頂。
細くて柔らかい腿の辺りを思い出しただけで、彼の男は達しそうになる。
事実、あの女の濡れた体を拭っていた時、凍える身体を温めていた時、何度欲望のまま抱こうと思った事か。
流石に意識の無い女を抱いても面白くも何とも無い。
が、それ位昼間の彼はギリギリの所にいた。

白い乳房が自分の胸に重なっていた温かみ。
柔らかい桃尻が彼の膝に乗っていた時の感触。

久々に嗅ぐ、春の花のような女の匂い。
先端が濡れてきた。
はあはあと荒い息をたてながら、一馬の手の動きは速くなってく。
その時が来るのを感じた。

「ぁあっ…。」
ビクン、と大きくそれが跳ね上がった瞬間、先端から白い欲望が飛び散った。
闇夜に空を切ってそれは大量に放出される。
本当に何ヶ月ぶりかの自慰行為。
最後の一滴まで出し切ると、一馬は手拭で自身を拭った。


 小屋に戻ってきたとき、女は無防備な姿で寝入っていた。
一馬は暫く彼女を眺めると、そのまま隣に横たわって眠りについた。




 
 何かがあたしを力強く抱いていた。暑苦しくて、目を覚ます。
「ちょっと、離して!!」
あたしはすっぽり一馬の腕の中にいた。
いくら動こうとしても、腕を離してくれない。
渋々抵抗するのを諦めて、彼の顔を眺めた。

そういえばこの男の顔…。

顔半分に大きな太刀傷が入っている。
その傷は片目を通っていて恐らく潰れたか何かで開けられないらしい。
と、いう事は片目だけで生活してるのかぁ。

あたしは片目を瞑ってみる。
半分の世界。
「なーんか変なの。」
片方ずつの目を開けたり閉じたり、パチクリパチクリとバカな事をやっていたら一馬が目を開けた。

「……何をやっておる?」
げっ。
起きやがった。起きて欲しいときに起きないで、
何でこんな時にタイミング良く起きるわけ、こいつは?
「何でもないよっ。っつーか離してくんない?」
あたしは一馬の逞しい二の腕を押しのけた。
ああ、開放感!!

「今日は町まで行くぞ。知り合いの所から女物の着物を譲ってもらう。
 生憎うちには俺の物しかないのでな。」
伸びをしているあたしを見つめながら仰向けに寝返った一馬は、そっけなく言い放つ。
「だが、その前にもう少し寝かせろ…。」
再び目を瞑って彼は寝息をたて始めた。
 


 江戸時代。

一馬は徳川が天下を取って間もないって言ってた…。
っつー事は江戸初期、よね?

あたしは顔が洗いたくなって、フラフラと外に出た。
ううっ。
寒い。
ホ〇カイロが欲しい。
小屋の前で、井戸を発見した。
でも、使い方が解らなかった。

「うーん…。」
寝ている一馬を起こすのも可哀想だし、あたしが溺れていた川まで行ってみるか。
あたしは昨日来た道を逆に歩きだした。
今の東京からはかけ離れた、田舎町のような殺風景な風景。

途中百姓か商人のような人達何人かとすれ違ったが、どの人もあたしを奇妙な目で見て通っていく。
「何かあたし、変なのかな?」
どうやら通り行く人たちは、あたしの茶色い髪の毛を見つめているようだ。
この時代にはカラーとかないもんねぇ。
皆黒々とした髪の毛だ。

その上男の人の殆どは時代劇で見る、青々と頭の上を剃った髪型をしている。
時代劇を見るといつも笑っちゃう、あの髪型である。
そういえば、一馬は頭のてっぺんを剃っていなかった。
だから、片目なのに抵抗感がないのかも。

「あんたらこそ変な髪形だよ~。」
と小声で言ってやった。

昨日あたしが溺れた川は、一馬の小屋から徒歩十分弱の所にあった。
川縁まで来て、しゃがみ込む。

「また溺れてみたら帰れるかな?」
一馬から与えられた草履を脱いでちょこっと水に足を入れてみた。
「つ、つめたっ。」
これ、氷水みたいじゃんっ。
思いっきり後ずさる。

「あっ!!」
後退した瞬間、小石につまづいて派手に尻餅をつきそうになった。
グラッと傾く景色。

次に来るだろう衝撃を覚悟した。

「あれっ?」
痛くないぞ???
体が後ろに倒れそうになるのを何かが止めた。
「またも入水自殺か?」
タンゴか何かを踊っているカップルのような、バラを加えたら様なっちゃう体勢のまま、あたしは男の顔を見上げた。

「天羽一馬…。」
傷の走った隻眼があたしを見下ろしている。
「主人に向かって呼び捨てとはふてぶてしい女だな。まあ、許してやろう。こんな所で何をしておる?」
「何って、井戸の使い方が分からなかったから顔を洗いに――。」
「顔を洗いにわざわざ川まで来たのか?」
呆れた顔で一馬はあたしの言葉を遮った。

よく見ると、髪の毛をひとつに結っていない。豊かで真っ直ぐの黒髪が肩に垂れていた。
もしかして、起きて髪を結う時間もなく、あたしを探しに来てくれた…とか?
あたしは体を起こして一馬をジーっと見る。
彼は驚いたように片眉を上げた。

「どうした?」
肩にかかった黒髪を一房掴んで引っ張った。
「いや、頭のてっぺん剃ってないなぁーっと思って。」
「月代の事か?」
「そうそう、あの、奇妙な髪形。」
「痣隠しだ。母親が俺を孕んでいた時火事を見たので、生まれながらにして赤い痣が頭にある。」
いいながら一馬は髪の毛をかき集め、一つに結んだ。
そして、強引にあたしの腕を掴んで引っ張った。

「痛っ。」
「今から町へ行くぞ。それから……これからは、どこかに行くのであれば、一言俺に告げてからにしろ。」
あたしは、一馬に引き摺られるように歩き出した。
 

 城下町のとある呉服屋に連れて行かれた。
一馬はどうやらそこの主人と知り合いらしく一言で話をつけると、
あたしは奥のほうに案内された。
二、三着シンプルで可愛らしい柄の着物を貰った。
ついでに、女物の着物を着せてもらう。
髪の毛も結ってもらった。


四十がらみの、小太りの主と会話をしている一馬は、奥から出てきたあたしをチラリと見て、視線を逸らした。
えええっ??
ちょっとこの時代風にお洒落したのに、お兄さんそれだけですかい?


まあ、色仕掛けなんてしても意味無いか…。
それより、成人式以来の着物だぜい!!
でも、なんか帯がきつくて苦しい…。
気分はフランスの社交界デビューのお姫様の気分だわ。
コルセット着てる感じ……って、着た事無いけど。
ご飯食べたら吐きそう…。

でも着せてもらったので、今更そんな文句も言えない。
苦しみを億尾にも出さず、あたしは一馬に駆け寄って耳打ちした。
「ねえねえ、なんでただで小袖がもらえるの?」
「前にここの主の娘が悪漢に襲われたのを助けた。それ以来、世話になっている。」
小声で返してきた一馬は、主人に礼を言って、足早に店を出た。

「もう一つ寄る所がある。」
見慣れない珍しいものばかりできょろきょろしているあたしの手をしっかりと握って引っ張りながら、一馬は大股で江戸の町を闊歩した。


 また一悶着ありそうな予感がするのは、あたしの気のせいなのかなぁ…。
 
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