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未年の朝 2-2    07.31.2007


 相も変わらず、煌びやかで趣味の悪い城…。

朧月城に戻ってきたあたしは、前回見た事のない客間……みたいな大きな部屋で待たされていた。
襖障子には金の鶴と亀の絵巻物。

つーか、呼び出されて数日旅した上に、何時間も待たすか??
客人を?

イライライライライライラ……。
ったく、礼儀ってもんがなってないね!
お姉さんが一発教えたげるわ。

などと悶々と考えていた所。

ドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタドタ………<<<

と回廊を走る音がした。
次第に大きくなっていく。

「明日香!」
バンッ。
と、さっきまで眺めていた鶴と亀が真っ二つに割れて、政輝が姿を現した。
後からお付の家来が数人息を切らせてついて来る。

政輝は、あたしの姿を見るなり目を見開いた。
「明日香、お前……おなご(女子)の格好をしてる…」
「おなご?」
ああ、そういえば。
前に会った時は一馬の小姓って事で男の格好してたんだっけ?
政輝の顔が真っ赤になる。
「あ、相変わらずお前の顔は泥かぶらだなと思って。お前」
目線を逸らしてどもりながら、政輝はぶっきら棒にそう言い放つ。
泥かぶら?
泥かぶらって、ブスって意味よね?
違った?
「ど、泥かぶらですってぇぇぇ??あんた人がどんだけ待ったと思ってんのよ?人を待たせちゃいけませんって、言われた事無いの?人を待たせるって事はねぇ、その人の管理能力を表してる上に、待たせた人の時間も無駄にしてるって事なん……」
「これ!」
あたしの言葉を遮って、政輝が小さな絹の袋を投げてよこした。
正座してるあたしの膝に当たる。
「イタッ」
ちょっと大げさに言ってから、その包みを手に取った。
「城下町へ行って買ってきたやったぞ。喜べ」
喜べ?
相変わらず聞き捨てならない事ばっか言うわね~~~とか思いながら、包みを開ける。

ちりめんでお花をあしらった、銀の簪が入っていた。

へえ~、案外、趣味いいじゃん。
これなら現代でも使えそう。
「お前、ものすごいオカメだから、それでもしたらマシになるんじゃないかと思ってさ。うちの銀山で取れた銀細工だ。くれてやる」
オカメってのは余計だよ!と思いながら、
でも素直に
「ありがと」
と伝えた。
政輝はまた真っ赤になった顔をプイっと横に向けた。
「お前の夫は来なかったのか?」
夫?
おっと?
「天羽殿だ」
ああ、そうだった。
確か前来た時(と、言ってもついこの間)一馬とはそんな仲になってたんだよね。
こいつのお守り避けるための咄嗟の嘘とは言え…。
あたしは適当に、
「一馬は色々忙しくて来ないんじゃない?」
と答えた。

そのまま、布団の上に置いてきた手紙の事を考えた。
一馬、読めたかなぁ?
なんせ、あたしこの時代の字書けないし、一馬だってひらがなやカタカナ読めないだろうし。
いや、その前に小屋に戻ったのかな?
ふう……。
「何怖い顔しているんだ?」
眉間に皺を寄せてたらしい。
やばいヤバイ。
シワは女の大敵だわっ。
無表情無表情…。

政輝は、いつの間にかあたしの目の前に来てちょこん、と胡坐をかいて座っていた。
お付きの家来は部屋の隅っこでずっと平伏してる。
「お前に頼みがあって呼んだんだ」
政輝が突然、真顔になった。
「え?は?あ、何?」
「実は明日、父上が隣の海山藩に寄港している南蛮人を客人として城に招く事になっている」
海山藩。
聞いた事ある。
もちろん、学校の歴史の授業でだけど。

政輝って、ホントは一体幾つなの?
15、6で成長止まっちゃってるんじゃないのかな?
だって普段はただ生意気なガキだけど、政治とか真面目な話になると、表情が変わる。
大人びた顔になる。

「お前、南蛮の言葉が少し分かるのだろう?技術者の通訳をしろとは言わないけど、ちょっと俺の手助けしてくれる?」
「しないと切腹なんでしょ?」
「そうだよ。晒し首だね。拷問も加わるかも」
さらりと言うな!
うううううっ。
NOと言えない日本人のあたし…。
政輝は右手をあげて、部屋の隅っこの従者に退室を命じた。
「あんた、何か企んでるときは良い顔してんね」
「父上がああだから、俺がしっかりしないといけないんだ」
ふうっと息を吐きながら、政輝は横になった。
「膝枕しろ。詳しく話するからさ」
って、人の返事も待たずに勝手にあたしの膝に頭を乗せてきた。
「それとも、俺の夜伽の相手をする?」
あたしは大声で
「結構で御座います!」
と断った。

政輝によると。
海山藩は、主に漁業、貿易で成り立っている藩らしい。
ただ、朧月藩に比べ、重い税、藩主の悪政で良い評判は聞かない「貧乏国」だそうだ。
「前の役では、豊臣方についていたし」と、政輝はあまり好意的な意見を言わない。
「その南蛮人の今回の目的は?」
「表向きは銀堀の指導、視察だそうだ」
目を瞑ったまま、政輝は答えた。
こうやって大人しくしてれば、結構可愛いのに。
弟の昭夫みたい。
「あいにく俺は、この鳥かごの中から出られないし、うつけ者の父上は老中の言いなりでなーんも分かってないみたい。まあ、いい暇つぶしになるとは思うし、調べてみようかなと思っただけだ」
鳥かごの鳥…。
そっか、そうだよね。
政輝くらいの身分ともなると、そう簡単に遊びに出かけたりとか無理なんだ…。
けっこうこいつも苦労人じゃん。
「だからさ、この哀れな鳥かごの鳥(俺)に代わって、色々探ってきてくれるかな?」
あたしが同情したのを即座に悟ったのか、政輝は悲しげにそう問いかけてくる。
こいつ、劇団ひ〇わりに入れる!!
なんて演技力!!
「政輝、あんた口元笑ってるよ」
「南蛮の菓子にかすていら~ってものがあるのを知ってるか?」
「え!!!!カステラ?!!!」
「噂ではとても美味いらしいぞ」
マジ?
カステラ??
あの文〇堂とかのカステラ?
毎日大根とか根菜の超質素なサバイバル生活送ってたあたしの口元にヨダレが……。
はっ。
やべえ。
ぐうぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~っとお腹まで鳴ってしまう。
じゅ、重症だわ。
「じゃあ、決まりだね」
フフフっと笑いながら、政輝は続けた。
「俺の所に来てたら、かすていら~も唐菓子も好きなだけ食べさせてあげたのに」
今からでも遅くないよ、と付け足す。
「てか、あたし独りでどうしろっていうの?」
「まさか一人で何かさせるわけないだろ!」
政輝はちょっと間をあけてから、
「絣(かすり)」
と声をかける。
カタっと音がして、部屋の回廊側とは反対の襖が開く。
跪いた、忍者ハ〇トリ君みたいな格好の男が姿を現した。
げぇぇぇぇ~~!!
時代劇さながらの、風車の何とかってのみたいな登場にちょっくらビビッてるあたしを無視して、天井を見つめながら(まだあたしの膝枕中)涼しげに政輝はその「絣」って人に話しかける。
「俺達の話聞いてたでしょ?こいつ一人じゃ危険だから、一緒についていってあげてよ」
「御意」
頭を上げず、下を向いたまま「絣」って人は頷く。
「ちょっ、待って、あたしの意思はどうなのよ!!」
「かすていら~食べたいんだろ?だったら案内の視察団に紛れて探ってよ。そうだなー、父上の小姓ってのはどう?それに明日の夜の宴会は、矢絣(やがすり)と一緒に居ればいい」
よし、と言って政輝は起き上がる。
「えええええええええ!!!!」
とあたしの非難の声は聞かないで、
「大丈夫だよ、絣がいるから危険な事にはならないから」
と、片目を瞑って(って、現代語でウインク?)半ば強引にあたしを引っ張り起こす。


また、何か起きそう(ってか、起きたらイヤダ!)な予感………。







 若殿。
つまり、時期藩主たる細川政輝殿とのお目通りの許しを願っただけなのだが。

なのに、今、一馬はなにやら風雅な部屋に通され、芸姑の舞を「無理矢理」見させられている。
左右には、香の匂いの強い色気漂う遊女らしき女達がしなを作って一馬に絶え間なく酒を注ぐ。

よく見ると。

一馬を取り囲んでいる数名の遊女達は、皆似た姿形の者ばかりだった。
陶磁色の肌、濃い睫毛に縁取られた切れ長の、黒曜石のように潤んだ瞳。しっかりと塗られた赤い紅。

なるほど。

あの若殿は確かに噂どおり「ただ者」では無いかもしれない。
この藩を影で動かしているのは、あの若殿だと聞く。

一馬を囲む女達は、皆一馬の女の趣味趣向を存分に兼ね備えていた。
武者修行に出る前。
まだ女を知り始めた若かりし頃の彼は、楼閣や遊郭に通うとこのような陰の色と、女の色香を持った女ばかりを抱いていたものだ。

色気のイの字も無い明日香とは、全く異なった風情の女達......。

あの若殿は、俺に関して色々と情報を集めたのだろう。

明日香。

そうだ。
一刻も早く、あの若殿から話を聞かねばならぬ。

あのじゃじゃ馬の行方を。

一馬はおもむろに立ち上がった。



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