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 とりあえず退院が許されたあたしは、、あの場にいた門田さんの計らいで、抜糸まで仕事のお休みを頂いた。
鏡を見ると、髪の毛で隠されてるけど、思いっきり剃られてる。

それにしても。
暇、だぁぁぁぁぁぁぁ。
傷口開くといけないから、運動は控えろって言われてるし、平日だから友達はみーーんな仕事中だし。
楽しみは、笑って〇いともと昼のワイドショー?
自宅療養3日目。
抜糸は2日後。

お父さんはあたしの無事と退院を確認すると、会社でトラブルがあったのか、次の即行東京の本社に寄って、とんぼ返りでアメリカに戻ってしまった。
お母さんはと言えば、別にあたしの面倒を見るわけでも無いのに、再来週まで日本に居残るらしい。
今日は朝からヨガのプライベートレッスン。
その後、美容院行って買い物行って、お友達とお茶して帰ってくるそう。
……散らかすし(女王気質だし)、我が侭だし(女王気質だし)、あたしのファッションチェックうるさいし(女王気質だし)、作れないくせにあたしのご飯の批評ばっかするし(女王気質だし)。
はあ……。
あたしはパーカーとジャージって室内着の決定版みたいな格好で、酔っ払ったお母さんがつけたらしきカーペットのワインのシミを(怪我人だってのに)拭いてた。

健人は意図的にあたしに会わずにいるのか、はたまた何かを企んでいるのか、それともおかあさんがうざいのか、お父さんを家から空港へ車で送ると、さっさとホテルかどっかへ行ってしまった。

たまーにうちに物を取りに来たり、服を着替えたりして、あんまりあたしと会話もせず、出て行っちゃう。

なんか、不満。
てか、寂しい。
  
    
カップラーメン食べながら録り貯めておいた韓国の歴史ロマン風ドラマを見ようかと(お母さんが見ろ見ろとしつこく勧めるので)ソファーに腰掛けると。  
   

ピンポーーーーーン。


と滅多に鳴らないうちのインターホンが鳴る。
ったく。
新聞とか宗教の勧誘とか、迷惑なんだよね~とか思いながら、戸を開けた。

「あ」
  
えと、ちょっとびびった。
   
「差し入れ」
と訪問者はあたしに塩大福の包みを差し出す。
「……門田、さん」
なんでうちに来てるんですか?
とつい言い出しそうになって、ぐっと抑える。
   
「何?お見舞いに来たのに、入れてくれないの?てか、すごい格好だね」
ちょっと拗ねてる仕事場の先輩は、あたしを上から下まで眺めると、松葉杖で家の中の方を示す。
すっごい、強引。
「ああっすみませんっ。あの、汚いところですけど」
と、あたしは玄関のドアを開けて、門田さんを通した。


「思ったより、家大きいね。朝倉さん、実はお嬢様なの?」
「いや、別にお嬢様ってほどでは……」
「だよね。お嬢様とはかけ離れてるもんね。態度とか見た目とか性格とか」
う゛。
ちょっと一瞬照れたのに、冷たく門田さんは一言で片付けた。
とりあえず居間に通すと、門田さんは絵だとか(一応家宝の)壷だとか色々品定めする。
「へえ。装飾品は全てアールヌーヴォーで統一されてる。いいね。誰の趣味?」
はあ……。
あーるぬーぼー。
ワインの種類ですか?
芸術についてあたしに訊ねないで欲しい。
「多分、お母さん?」
「そう。喉乾いた。気利かないね。お茶あったら持ってきて」
また人の話軽く聞き流してるよ(泣)。
「はい」
と先輩の命令を断れない(社外でも)体育会系のあたしは、足早で台所へ向かった。
  
  
お茶とお茶菓子を持って帰ってくると、ソファーの門田さんは、居間のテレビを勝手につけて観ていた。
人んちなのに、結構くつろいでる。
「間に合った。これ、朝倉さんと観ようと思ってさ」
言いながら、リモコンを操作しながら音量を上げる。
若いアナウンサーが、
「次は今話題の大物カップルの真相に迫ります!」
と告げると、VTRに画面が切り替わった。

「あ……」
翠さんの、画像。
  
画面の下には『佐々木翠、緊急婚約記者会見!』と書かれてある。
幾つものマイクと、何人ものレポーターの前に設置されてる台の後ろに、背筋ピンと伸ばして翠さんが座ってる。
しかもいつも見慣れてる、楽そうなスポーティーカジュアルじゃなくって、女の子らしい......いや、モデルっぽい今流行りのアニマル柄のドレス。
ちゃんと口紅まで塗って化粧してるし。
ってか、いつもより濃い。
目を見張る程、カッコいいしキレイ。
でも、よく見ると、目がちょっと腫れているというか…。

「佐々木さん、婚約したというのは、本当ですか?」
いきなりその一言でVTRは始まった。
    
はあああああああああああああああああああああああああああああああ?
   
ってか、婚約?!?!
翠さんは、上品にニコって微笑んだ。
   
いつもの大口開けてるガハハ笑いじゃないし。
「ええ。今日皆様にお集まりして頂いたのは、婚約のご報告をしようと思ったからです。プロポーズはずっと前だったんですけど、でも、今が皆様にお知らせするにはいい機会かと思いまして」
言いながら、左手を顔の横に掲げてどでかいダイアモンドリングを見せつける。
キラッキラに輝いてるよ。
  
ってか、この人、誰?
あたしの知ってる翠さんは、こんな喋り方や物腰じゃないし。
ぶりっ子この上ない。
   
「やはりお相手は、噂になっているあの方でしょうか?」
よくワイドショーや芸能関係のコメントとかで見かけるおっさんが、身を乗り出して聞いてる。
「あの方?」
翠さんはわかってるくせに、焦らしてる。
「ああ、いえ、宇田川さんは仲の良いお友達、です。あの記事は全くの誤報で、お相手は一般の方です(にこっ)」
  
ええええええええええええええええええええ?
良いお友達って、思いっきり殴りかかろうとしてたじゃーーーん。
喧嘩腰だったじゃーーーん。
てかその前に、初対面だったじゃーーーーん。
  
しかも「お相手」って、門田…さん?
あたしはチラリ、と門田さんを目の端で捕らえる。
美貌の上司は、真剣に画面に見入ってる。
「宇田川さんではないんですか?」
何人ものリポーターが一斉に質問攻めにする。
「いえ。断じて違います。良いお友達、です」
うわあ。良いお友達強調してるし。
「あの、そのお顔のお怪我はやはりあの記事の通りの?」
違うリポーターが質問した。
やっぱ、怪我を隠してたんだ。
カメラマンと格闘してた時の、怪我だよね?
「いえ。家で転びました」
と翠さんは白々しく答える。
嘘付け~~~。
転んだらそんなんにならないだろー!って会場の皆さんと視聴者さんみんな思ってると思うけど。
「そのお相手なんですが、どのような方なんでしょうか?」
また違うリポーターが質問した。
翠さんが余裕綽々笑顔でにっこりする。
「とても頭が良くて、男らしくて、私を甘やかさない、憧れというか、尊敬できる方です。日々学ぶ事がいっぱいで」
   
 男らしくて?
あたしは再度ちらり、と門田さんを目の端で素早く見る。
いや、ぜんっぜん男らしくないよね。
超顔整ってるけど、ある意味女性的っていうか、中世的っていうか、ぶっちゃけ、なよなよしてるってか(あたしは好きだけど)……。
  
「じゃあ、あの週刊誌は全くのデマなんですか?」
「ええ。ガセです。あの場には私の友人が他に何人かおりましたから」
また違うリポーターがしゃしゃり出る。
「佐々木さん、貴方同性愛者説が出ていますけど、それに関してはどうお答えするんですか?」
うわっ。
単刀直入。
あたしの脳裏に、白昼堂々、写真撮影の合間に他のモデル(♀)といちゃいちゃしていた翠さんの映像が過ぎる。
「人が人を好きになるのに理由やいい訳はいらないと思います。そういう方達の権利をもっと日本の社会は尊重するべきですね」
「じゃあ、今の質問に関して否定はしない、という事ですか?」
リポーターが食い下がる。
「婚約者は、男性の方です。これでご質問にお答えしておりますか?」
グレーの瞳を眩しげに細めながら、翠さんは白い歯を見せて極上の笑みを零した。
わー。
ちょっとあたしも今の笑顔にはドキったかも。

その言葉を最後に、翠さんの「VTR」は終わってしまった。
ワイドショーの司会者さんは、「オメデタイんだか何だかよくわかりませんねーーー」とかコメントしてる。
あたしも……いきなりの展開についてけなかった。
そして、「それではこの件に関しまして上海から帰国したばかりの宇田川さんにコメントを頂きましたので、ご覧頂きましょう」
と、画面が切り替わる。
  
あ。

宇田川だ。
 
空港かどっかなのか、グラサンかけて、ちょっとオサレ(お洒落)な格好をして、肩にブランド物の旅行バック掲げて空港の動く通路(?)を歩いてる宇田川に、何本ものマイクとリポーターが押し寄せてる。
ああ、芸能人っぽい。
いつもの宇田川じゃない。
なんか改めて……違う世界の人間のような気がしてきた。
  
「宇田川さん、佐々木さんの婚約会見に関してのコメントを頂けますでしょうか?」
レポーターの集団を無視して、真っ直ぐ前進してる宇田川とリポーターの間にマネージャーらしき男の人が身を差し入れて頭下げてる。
「すみません、一言だけで宜しいので」
「宇田川さん!」
あまりにもしつこい一斉の質問に、動く通路から降りた宇田川が、足を止める。
んで、リポーターの方に振り返る。
と同時にカメラがズームアップ。
「おめでたいですね。佐々木さんの婚約は、友達として、心から祝福します。以上」
そう一言、完結にコメントすると、宇田川は歩き出す。

そしてそのVTRもそこで終わってしまった。
なんか……。
すごっ。 
ぼーっとしてると。
パチン、とテレビの電源が切れた。
  
  
リモコンを持っている、隣の門田さんを、見る。
うわっ。
遥か彼方を見つめてるし。
消えたテレビを見つめながら、門田さんは呟く。
「って事で、翠からの伝言。新聞社を傷害罪で訴えたかったら、一緒にやるけどだって」
「いや、別にそこまでは…あたしより、翠さんや宇田川の方がとばっちり受けちゃってるみたいだし……」
門田さんは、リモコンをコーヒーテーブルに置くと、腕を組んでソファーの背もたれにもたれた。
「俺、BREEZE今月末で辞めるから、まあ、前々から決めてた事だし、一応直属の部下には言っておこうと思って」
   
は?
   
「突然、どうしたんですか?」
ちょっと、驚き。
「翠は、拠点をヨーロッパに変えるよ。ヨーロッパのショーを中心に活動するんだってさ。あと、婚約したってのは本当だから」
え?
ってあたしは門田さんの左手を見てしまう。
いや。
なーんにも光ってないし。
「俺じゃないよ。兄貴。兄貴と翠は、婚約した」
    
「えええええええええええええええええええええええええええええええ?」
   
兄貴って、兄貴って……。
   
   
「うちの社長?!?!」
「会長、だね。一応」
「じゃあ、じゃあ………」
門田さんと、同棲してたんじゃないの?
付き合ってたんじゃないの?
あたしがあんぐり口を開けてたのか、門田さんが苦笑する。
    
「ま、俺と翠は大人の関係ってやつ?朝倉さんもいつか分かるといいね。でも、仕事の事は心配しなくて良いから。いくら朝倉さん使えないからって、リストラとかは無いし。企画部には俺の取り計らいで置いておいてあげる」
使えない……グサ。
ちょっと高圧的にそう言うと、門田さんは立ち上がる。
「あの、全然関係ないあたしが口を出すのもあれなんですが……門田さん、悲しくないんですか?翠さんが他の人のものになっちゃうのが?」
伸びをしながらも、ちょこっとだけ体が硬直した?
ように見えた?
「うーん、翠は鳥だから、籠の中に入れてちゃいけないんだよね」
鳥?
「はあ……」
「それに俺ら別に別れたわけじゃないし」
「はあ?」
それこそ、わけわかんない。
「言ったでしょ。俺と翠は、世間一般の常識で分かるような関係じゃないから。そんな柔な信頼関係で成り立ってないし」
  
信頼関係…か。
   
「それで……門田さんは、会社辞めてどうされるんですか?一緒にヨーロッパへ?」
語学堪能みたいだし、翠さんと一緒に行くの…かな?
門田さんはフロアに置いた松葉杖を拾い上げる。
「ううん。俺は日本。ファッション系の写真撮るの止めて、ネイチャー系に転身」
「ネイチャー系?植物、とか?」
門田さんがうん、と頷く。
「そっちの方が性に合ってるし。話変えるけど、今の会見で、翠は翠なりに朝倉さんと宇田川光洋って男を擁護しようとしてるんだ。ケリつけようとしてる。だから、それなりに気持ち汲んでやってよ」
あ。
そういえば、お花を何度も送ってくれてた。
「あの、翠さんにお花ありがとうって伝えて頂けますか?」
あたしも立ち上がって、玄関に向かう門田さんについて行く。
「わかった。伝えとく。翠、ああいうふうに見えて結構繊細だし、マメなんだよ。苦労してきたから、人間としての基本が、ちゃんと出来てるんだ」
門田さんがまるで自分の事のように得意気に語る。
やっぱ、門田さんは翠さんの事、好きなんだなぁ~~~と改めて感じる。
なのに、自分のお兄さんと婚約しちゃうとかって、なのに別れてないってどういう事?
  
てか、何でわざわざあたしの所に来て、一緒に観たのかな?
  
うーーーん。
あたしが頭を捻ってると、門田さんは玄関で靴を履いた後、松葉杖を持って振り返る。
「何腑に落ちない顔してんのさ。まあ、恋愛の形は色々あるからね。世間一般が認めなくても、理屈がかなってなくても、幸せならそれでいいでしょ?」
「そ、そうですけど……」
上目遣いに門田さんを見ると、透き通ったヘイゼル色の瞳が優しげにあたしを見下ろしてた。
「そーいう頭の回転悪くて融通利かないところがバカっぽくて結構気に入ってたんだよね。じゃ、月曜日からちゃんと仕事来るんだよ。ってか、引継ぎしてもらう事いっぱいあるから」
そう最後に言うと、フフッと笑って去っていった。
   
   
   
   

家に静けさが戻った。
あたしは約2日ぶり?に携帯をチェックする。
てか、こんなんだからテクノロジーの最先端走ってる健人に「原始人」だの「化石」だの言われるんだよね。

「げ」
2日チェックしてないだけで、着信が7件、メールも10件入ってる。
知らない番号だったけど、メールを見て納得する。
「宇田川じゃん」
ってか、最後に宇田川と話したのって、入院前だし。
あの陽気な着メロ流れないし、最近連絡無いとか思ってたけど。

さっきVTRのいかにもゲーノー人って感じの宇田川が頭をよぎる。


大丈夫か、生きてるか?今アジアツアー中。今日は香港、明日は上海
から始まって
腹下した。屋台の飯危険度大。死ぬ。日本食恋しかりけり。
と腹下し系の話題が続いて、
-今上海から戻った。そして空港でうっざいのに絡まれた。
と(多分さっきの)状況の話題になり、
-俺様の新しい番号だっつってんだろ。さっさと電話しろ(怒)
と最後はプチ切れで終わってる。

どさっ、とソファーに寝そべった。
   
もうあたしのトンネル工事(脱・処女!)が終わってから、1ヶ月も経つ。
宇田川のミニ如意棒チラ見事件(と、勝手に命名)で恐喝されてたのも、そんな昔の話じゃないし。
   
時が経つのって、はやーーーーーいっ。
   
でも、その間の分、健人との心の距離が、気になる。

前までは「愛理愛理愛理愛理」ってうるさくつきまとってたのに、最近めっきり静かだし。
てか、でも、あたしが病院いて意識失ってた時は結構面倒見てくれてたみたいだけど。
もう、健人が何考えてるんだか、わけわかんない!

健人のマジ告からも、1ヶ月経つんだよね。



って、待って。

1ヶ月?

あたしは慌てて飛び上がる。
「……ってて」
と、同時に傷がちくって痛む。

  

遅い。

うん。遅すぎる。

あたしの周期、きっかり21日だし。

まさか、ねえ?
ありえないし。
うん。


トンネル工事だって、たったの2回だよ。

たったの………。


って、ゴムつけてなかったし。



さああああああああああって、顔が青くなるのが分かった。
  
   
ノーメイクなのもみだれ髪なのもださださジャージなのも気にせず、あたしはお財布引っつかんで玄関でサンダルを履く。
   
そのままダッシュで近所の薬局に向かった。






あたしの不安は、的中した。

「こんな早くに判明するもんなの?」
だーれも居ない家の洗面器に手をついて、独り言を呟く。

ありえない。

間違ってるに違いないと思って、違う会社のも試してみる。
  





 
だって、だって、だって…。
   
   
妊娠検査薬が、全て陽反応を示してた。


 
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