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未年の朝 7    07.31.2007


 あれから一ヶ月近く経った。
あたしと一馬はあの事には触れないまま何となく毎日を過ごした。
相変わらずあたしは奉公人として、お鈴さんに定期的に来てもらい色々な事を習っている。
一馬は昼間剣術を教えにどっかへ行っていて、夕方にならないと帰って来ない。

 そうそう、変わった事といえば、一馬が田代なんとかって奴に打ち勝ったその日から、怪しくてむさ苦しい浪人っぽい侍たちがうちを訪れるようになった事だ。
ついさっきも外を掃いていたら(嫌々ながら…でも一馬の命令)、
「失礼。神雷流天羽一馬殿はおいでか?」
と超きったない格好のおっさんがやって来た。
「一馬はどっか行ってるみたいですけど…。あなた誰ですか??」
おっさんの方に向き直った瞬間、異臭が鼻を突いた。
うわっ!!
超くっさーい!!!

一体この人どれくらいの間お風呂に入っていないんだろう?
男の人は丁寧に頭を下げて名乗った。
「私は肥後から参りました坂本栄之助と申す者ですが、全国に名高い剣客、天羽一馬殿と是非お手合わせを願いたく参りました。…失礼ですが、貴方は一馬殿の奥方であろうか?」

はい??
今なんて??
「お、奥方ぁ???違います違います!!あたしはただ彼に奉公してるだけなんですけど…。」
勘違いされちゃぁ、困る!

「あの、ですね。はるばる遠くからお越しなのに悪いんですけどぉ~、
 一馬はどなたとも剣を交える気はないって言ってるんで、本当にご苦労ですけどお引き取りください。」

一馬は、誰か来ても戦うつもりは一切ない、と。
お引取り願うようにとあたしに散々注意していた。
事実、このおっさんで十何人目なんだろ??
「そうですか。分かりました。」
おっさんは残念そうに表情を翳らせ、渋々踵を返して行った。
 
 


 この一ヶ月。あたしは色々考えていた。
元の時代には帰りたいけど、もしあの方法が間違っていて、この世の中から消える事になってしまったら…??
それを考えるとどうしても怖気づいちゃうのだ。

それより、認めたくないけど…
一馬との生活が結構楽しくなってきたっていうのも原因だったりする。

一馬の事を意識しちゃっている…みたい。
一馬は何を考えているんだろう?
あれ以来、いつも通りに憎まれ口を叩いたりはするけど、あたしには触れてこない。
あたしは結構、あの時の事を考えちゃうのに…。

股の間が火照りだす。
「あーやばいやばい。あたしったら欲求不満だわ。」
慌てて頭の中で沸き立ちそうになった妄想を、取り消す。
「何が不満だって?」
「ぎゃっ。」
箒で地面を掃いているあたしの真後ろで、涼しい声がした。
「なんだ?」
「ああ…一馬。吃驚させないでよ!!」
「お前は隙がありすぎる。」
そういい捨てると、すたすたと小屋の中に入っていった。

「また変なおっさんが一馬と一本願いたいとか言って今さっき訪ねてきたよ。」
あたしも一馬の後を追って中に入る。
「そうか…。放っておけ。」
一馬は羽織を脱ぐと、あたしに笹の葉に包まれたものを手渡した。
「なにこれ?」
「町で売っていたので買ってきた。団子だ。美味いぞ。」
「まじっ、団子?」
開けてみると、みたらし団子らしきものが3本入っていた。
「超うれしーっ!!ありがと、一馬!!!」

早速一本頬張ってみる。如何にも手作りの、優しい味がした。
「うみゃい…。」
嗚呼、団子って時を越えても同じ味なのねぇ…。
ほんのり幸せ気分でいるあたしに、一馬は囲炉裏の火を起こしながら声をかけた。
「実は明後日からここを暫く離れるが、お前は独りでここの番が出来るか?」
「えっ?」
は?何突然?どっか行くの???
「んっあっんっん…。」
サ●エさん状態。団子を頬張りすぎて喋れない。

「朧月藩へ行く。」
朧月藩??
あの、現代でも観光名所で有名な朧月城があるとこ??
「藩主に呼ばれてな。」
藩主?
って事は城に行くの?!
「行きたい!!!!」
団子を飲み下したあたしは、大声で言った。
「行きたい行きたい行きたい!!!行ってみたーい!!!」

一馬は振り向いて、明らかに不快そうな顔をした。
「馬鹿を言うな。ついて来てどうする?遊びに行くのではないぞ。」
「そんな事分かってるって。城に行ってみたいの!!」
江戸時代の朧月城。
超行ってみたい。
「駄目だ。」
一馬はにべもない。
「朧月城ってね、あたしの時代にもまだあるんだよ!!行った事ないけど、行って見たい!!!」
あたしも引き下がらなかった。
「女の行く場所ではない。」
女の行く場所ではないですと??
なにそれ、男女差別?男尊女卑??
その冷たい一言にあたしはぶっ切れた。
「ちょーっと待ったぁぁぁ!!!」
「何だ?」
刀の手入れを始めた一馬は、背後の怒りの炎メラメラのあたしに気づかず続ける。
「はっきり言おう。お前が来ても足手まといになるだけだ。俺は剣術お披露目という名目で呼ばれている。来るのは武家の侍達だけだ。」
くうっ…ストライクショットだわ。

足手まといとまで言われちゃあたしのプライドが許さん!!!
まあ元からプライドもクソもないけどさ。
「じゃあ、男の格好する!!」
咄嗟に、そんな言葉が口から突いて出た。
そうだよ。
いい考えじゃん。
うん、それがいい♪
「一馬の従者とか何とかになればいいんじゃん♪」
ゆっくりと、無言で一馬は振り返る。

その顔は、怒っているっていうより、呆れていた。
「お前…そこまでして行きたい所なのか?」
「あったりきしゃりき。こんな小屋に毎日篭ってたくないもん。」
これは本音。
お城に行ってみたい!!
「……勝手にしろ。俺は知らんぞ。」
一馬は低く言い放つとまた刀の手入れを続けた。
 



 最近気づいた事があった。
あたしの爪が伸びないのだ。
爪だけじゃない。
髪の毛も。
いつもだったら一ヶ月経ったらプリン状態の髪の根元も全然そんな様子を見せない。
この時代に鏡なんてものは無くって
(あるのかも知んないけど、そんなもの一馬が持ってると思う??)、
いつも顔を洗うとき桶にはった水を鏡代わりにして自分の顔をチェックする。
丁度成長が止まったみたいな感じ。
有るのは食欲だけ。
あ、性欲も(自爆!)。

その事を裁縫を教えてくれていたお鈴さんに言ったら、
「気のせいですよ。」
と一笑された。
「でも、あれも来ないの。」
「あれ?あれとは何でしょうか?」
っつーかこの時代は、何ていうんだろう??

「生理。」
「せいり?」
「ほら、月経?うーんと、女の子の日…っていうの??」
言いづらいじゃん…。
一馬には言えないし、お鈴さん分かってくれよプリーズ!!!
「ええええええ!!!!!!!」
お鈴さんはやけにオーバーリアクションで驚く。
「あ、あ、明日香さまいつの間に一馬様と…そんな仲に……。明日香さまのお腹に、私の一馬様のお子が……嗚呼、なんて事!!!!」

「はあ??」
お子って…大いなる勘違いっすよ、お姉さん。
「大体、あの一馬様が若い女の方を奉公人として連れて来た事自体間違っていたのですわ!!あの、あの、分別があって、お強くて、素敵な一馬様に限ってそんな事…。ああああ~~~~!!」

お鈴さんはあたしの目の前でさめざめと泣き出した。
をいをい。
一馬って分別があって素敵だったのか??
お鈴さんのビジョンではなんかすっごい美化されてるよ。
確かに…まあカッコイイかなってとこはあるけど…。

「いや、そうじゃなくて…一馬とは何にもないけど、ただそれが来ないの。」
いや、正確には何かあったけど、でも何も無かったわけで…。
「本当でございますか?」
「本当です。」
ぼろぼろと大粒の涙を流していたお鈴さんがころっと一転して、笑顔になった。

「良かったわ。そうですわよね~。私の一馬様が奉公人などに手を出すはずがないですわよね~。」
何気に「私の」を強調してるわ、お鈴さんたら。
もしかしてあたし密かにライバル視されてる??
「そうだよ~。お鈴さんの一馬があたしなんかにねえ。はははははっ。」
あたしも「お鈴さん」を何気に強調する。

「良かった。」
お鈴さんは小さく呟くとホッと溜息をついた。
あ、やっぱ一馬の事本気なんだ…。
「お鈴さん…一馬の事好きなんだね。」
なんか恋する乙女って感じだわ。
「ええ。明日香さまには打ち明けますけど…初めて一馬様とお会いした時からずっとお慕いしております。」
顔を真っ赤にしながら、お鈴さんはきっぱりと言った。

「ふうん…。ねえねえお鈴さん、前から聞きたかったんだけど、
 一馬って何であんなに強いの??っていうか戦ったとこ見たことないけどさ、なんか変な人たちが一馬と一本手合わせしたいっていっぱい来るんだよ。」
「えっ。明日香様…一馬様がどんな御方かも知らないで奉公してらっしゃるの??」

お鈴さんは目をまんまるくしてあたしを顧みた。
「だって、一馬って自分の事全然話さないんだもん。」
教えてって言って教えてくれるようなタイプじゃないっしょ、彼は。
うーん、と唸りながらお鈴さんは顎に白い手を置いた。

「私の知ってる限りでは…一馬様は元々何処か地方の郷士のご嫡男で、何故だか分かりませんけど…多分恐らく先の東西合戦が原因で…
 今は家督を捨て全国を放浪しながら気ままに過ごしていらっしゃるみたいですわ。剣術は…この間も申し上げましたけど、
 あの有馬一門を倒してから名前があがって有名になったようですけど。」

一馬にも色々過去があるのねぇ。
「で、お鈴さんはどうして一馬に会ったの??痛!!!」
ブス。
針があたしの指に突き刺さった。
もうさっきからこんな感じ。

お鈴さんの真似してあたしも雑巾を縫っていたんだけど、思いっきり指先をぶっ刺してしまった。
手縫いなんて中学の家庭科以来。
しかも超嫌いだった。
糸がつっている不細工な雑巾を眺めながらお鈴さんは、クスっと笑い答える。

「実は弟が一馬様に剣を習っているんですよ。うちは…貧しい商家なんですけど、剣を覚えるに越した事はないからと…。一馬様は武家のみならず、貧しい子供達にも無償で剣術を教えて下さっているんですよ。」

弟…ねえ。
あ、そうだ。
そんな事より聞こうと思ってた事あったんだ。
お鈴さんは器用に指先を動かしながら、針をちくちくと縫っている。
「そうそう、お鈴さん。あたしに男の着物を貸してくれないかな?」
あたしはただのボロ布の塊となった雑巾をついに投げ捨てた。
なんでミシンがないのよぉ~~~。
お鈴さんは再び手を止める。
「え?男物をですか??いいですけど、でも、何のために?」
「あたしが着るの。」
「明日香さまが?」

訳が分からないって顔でお鈴さんはあたしを見た。
「一馬について朧月城へ行くんだ。」
「朧月城??一馬様…まさか仕官するおつもりなのかしら…?」
小首を捻ってお鈴さんは独り言の様に呟く。
「仕官?剣術お披露目って言ってたよ。ま、どっちでもいいけど、あたしはお城を見てみたいだけなんだけど。」
あたしはニッコリお鈴さんに微笑んだ。
本当に、その時はそれだけだと思っていた。
まさかあーんな事やこーんな事が起きるなんて夢にも思ってなかった。
 
 


 出発の前の晩。
あたしは一馬の目の前でミニファッションショーをした。
男物の着物を着て、袴をはく。
なんか気分は、侍。
「どうどう、イケてるっしょ??」
あたしはくるりと回って見せた。
旅支度をしていた一馬は呆れた顔で見下ろす。

「イケテルとはなんだ??どうでも良いが一体お前はどこからその着物を仕入れてきたんだ?」
「お鈴さんから借りたの。弟さんのだって。」
一馬は腕を組んで暫くあたしを眺めた。
「蘭丸のか。しょうがないが、これを貸してやろう。これなら軽いしお前でも持てる。」
そう言って一馬は、家の奥から埃の被った木刀を一本取り出してきた。
うわあ。
木刀だ、木刀!!!
かーっちょいい!!!
「でもホントは真剣がいいんだけど。」
ボソッと呟いてみる。

一馬は聞こえなかったみたいで続ける。
「大体おなごが男の格好や木刀を好むなんて聞いたことがないぞ。
いいか、忘れるなよ。お前は俺の従者だ。間違っても変な事に巻き込まれるな。」
「メーン、ドーウ、コテ!!!ああ、竹刀じゃないんだ、剣道と違うのね。とりゃあぁぁぁ~~~~っ。」
あたしは嬉しくってぶんぶんと木刀を振り回した。
その間も一馬は懸命に何かを話している。
ふと、一振りした木刀が止まった。
あれ?
動かん。

「お前は人の話を聞いているのか??」
片手で易々と一馬はあたしの木刀を止めた。
「ほげ?」
もう片方の手で力強く抱き寄せられる。
おかげで間抜けな声が出た。
2秒位?
時が止まったみたい。
「ちょっちょっちょっちょ、何すんのよ!!」
慌ててあたしは一馬を押し離す。
一馬は頬っぺたを吊り上げて、にやっと微笑んだ。

「こうでもしないとお前は人の話をきかんからな。」
「は、は、は、はあ?」
ああ~~、駄目だ。
間抜けな声がでちゃう。
「さっさと支度をして寝ろ。明日は早いからな。」
あたしの頭をくしゃくしゃと撫でると、さっさと一馬は自分の布団を敷きだした。
つーか何考えてんの、この男は???
ちょっとドキドキしちゃってるあたしに比べてなんか余裕って感じだし。
もう全くわけわかめ。


一ヶ月振りに一馬に触れた場所が熱い…。
あたしはへなへなとその場にへたれこんだ。


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