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人物紹介    09.29.2007
<あらすじ>

ショップのカリスマ店員、里美は伯母に頼まれて金持ちのおぼっちゃんとお見合いします。でも、彼はちょっと変わっていて、初めてのデートからして波乱万丈。一体二人はどうなる事やら??
ちょっとシリアスな本編『仁神堂シリーズ』と違い、ただのラブコメです。ちなみに慈英さんは、本編主人公の社長の弟さんです。
ガールズパワー炸裂!のラブコメ、是非お楽しみ下さい!!

<登場人物>
桐沢里美
年齢不詳、20台前半。ショップの店員をしている、明るくて正義感の強い女。ちょっとオトボケ気味で、おっちょこちょい。庶民の代表お姉さん。
国本慈英
25歳。独身。祖父が会長を勤める会社に研究者として勤務。里美とは紹介で知り合い、気に入る。そのお坊ちゃまぶり天然ぶりと趣味の悪さ(?)で里美を悩ませる。
みーちゃん
里美の友達の美容師。辛口はっきりモノを言う人。ちょい役だがいい事を言ってくれる。渋谷に自分の店を持っているバリバリのやり手レディー。
ちーちゃん
里美と同じビルの違うショップで働く。彼女が渋谷の流行をつくるカリスマ店員。
よし子 別名オッパイ星人。得意技は谷間攻撃、ぶりっ子、作り話、同情をかう事、ETC。つまり、里美は彼女が苦手。
伯母さん
里美の伯母で、慈英の屋敷のメイドとして働いてる。今回二人の仲介役として登場。
ウッキー
本名宇治木芳彦。里美との交際暦半日(笑)。アフロが目印の、傲慢、大勘違い野郎。典型的な脇役で登場します。
超天然記念男    09.30.2007
“超天然記念男”
 天然:人工の加わらない状態、自然。生まれつき、本性。ETC・・・⇔人造


 若者の町、渋谷駅から歩いて五分。
ビルの名前をずばり渋谷マルハチ。
関東地域に住んでいてこのビルの名前を知らない若者はいないと豪語できる。
なにせそこはハチ公に次ぐカップルの待ち合わせ場所としても有名なビル。
あたし、桐沢里美はそのビルの中にある『HHH(トリプルエイチ)』という店の看板カリスマ店員をしていた。
服は度派手なクラブ系。
もちろん、週末は毎晩クラビング。
「綺麗で可愛い」服よりも、「カッコイイ!!」と呼ばれる服ばっかり置いてある。


そーんなあたしにある日突然お見合いの話が舞い込んできた!!

いや、正確にはお見合いというより、紹介…みたいな感じだったけど。


 とある金持ちの家で家政婦歴ン十年という伯母さんは、噂では億万長者で大会社の会長と言うその家の主に、
「孫にいい娘さんを…。」
と必死に頼まれて、断れずに承諾してしまったそうだ。
伯母さんの話では、その孫は金持ちだけどかなりのオタクで、人間嫌いで、家からもあまり出ないという。
「なんであたしなの、オバサン!!妹の茜にでもすすめればいいでしょう??」
いきなりそんな事を頼まれてあたしはビックリした。

金持ちっていうのはオッケーだけど、オタクなんて死んでも嫌だ。
アジアのお洒落発信地のショップの、カリスマ店員としてのあたしの名誉にも関わる。
「だって、里美ちゃんなら向こうも一回お見合いをすれば断るかなぁ、って伯母さん思って…。」
伯母さんは悪びれもなく、そのままズズッとお茶を飲んだ。
ははーん、成る程。
あたしのような、お嬢様系とはかけ離れたデーハー女ならあちらさんからやんわりと、でも“絶対”に断って来ると思ってるのね。
「顔はそんなに悪くないのよ。間違っても里美ちゃんの好みじゃないだろうけどね。里美ちゃん、なよなよ系の美少年大嫌いでしょ?そうねえ…三万円でどう?」

ビクッ。
さ、三万円??
ほ、欲しい…喉から手が出るほど欲しい!!
なにせ今月は服を買いすぎた上に諸々の支払いが重なってスーパーウルトラ金欠状態なのであーる。
「うっ。」
それに拍車をかけるように、伯母さんは不敵な笑みを浮かべながら、
「お見合いっていっても、里美ちゃんが希望するならお見合い場とか堅苦しい所じゃなくって、気軽にマリナーズホテルの最上階でフレンチディナーとかも出来るのよ?笑って雑談するだけで、タダよ、タダ。他の女の子だったら体まで投げ出しちゃうくらいの、一世一代のチャンスなんだから!」
と言ってきた。

うっ。
マリナーズホテル…行ってみたい。フレンチ…食べてみたい。
もう、もう……。

負けた!!

「い、一回だけなら…。」
と、あたしは誘惑に勝てずに乗ってしまった。
これからどんな事が起こるのか、その時は思いもしなかったけれど…。



 
 お見合い当日。
もちろんその日は伯母さんが仲人になってくれるとの話だった。
時間は夜七時。
赤坂のマリナーズホテルの最上階の中華レストラン。
なんでフレンチから中華に代わったかと言うと、あちらさんの希望だったからだそうだ。
どっちにしろ、美味しいものがタダで食べれればあたし的には文句なし。

あたしがレストランに着いたときにはもう既に二人は席についてると思っていた。なにせちょこっとだけ遅刻してしまったからである。
仕事場から直行だったので、着替える暇もなく、豹柄で襟元にファーがついたコートに、スキニーな黒パンツ、ピンヒールのブーツを履いて急いでタクって来たのだ。

「げぇ!!」
『湖南』という看板がでかでかと飾ってあるレストランに一歩足を踏み入れた途端、奇声を発してしまった。

だって、だって、伯母さんはカジュアルレストランで、ドレスコードがあるなんて言ってくれなかったんだもん。気軽だって言ってたような…。
しっかりレストランの入り口付近で、係の人に止められてしまった。
「お客様、失礼ですが、ご予約は?予約のない方は全てお断りしております。」
中華料理屋なのに店員はきっちりとタキシードなんて着ちゃって……。
「え?予約?えっと…ここで待ちあわせの筈だったんですけど。中に連れがいると思うんで、ちょっと覗いてみてもいいですか?」
そう言って店に踏み込もうとするあたしを、店の男は通せんぼした。
「申し訳ございません。ご予約のないお客様はお通しする事が出来ません。」

ムッカ~!!!
ちょっと見るだけじゃない。

「ちょこっと見るだけじゃん。中にいるはずだから。」
その店員を押しのけて中に進もうとした時、後ろから声がした。
「あら、里美ちゃん、早かったじゃない!!」
ああ、聞きなれたこの声。
天の助け!!
…ってあたし以上の遅刻じゃない!!

「伯母さん、この店の人が通してくれないんですけど!!」
とあたしは怒りながらも後ろを振り向いた。
「あ。」
あたしに負けない厚化粧に、スーツなんて着ちゃってちょっとめかし込んだ伯母さんの隣には、黒いスーツを上品に着こなしたモデル並み超美形の細身の男の人が笑顔で立っていた。
「初めまして、国本慈英といいます。」
店の人に通せんぼされてる、へんな体勢のままのあたしに構わず、彼は笑みを称えながら一礼してきた。
「え、こ、こちらこそ初めまして。」
とあたしも慌ててペコリとお辞儀する。

「予約は僕が入れたでしょう?彼女は僕達の連れですので。」
と一言彼が店の男に告げると、常連なのか、通せんぼしていた男は頷きながらも渋々道をあけた。
「じえい」とかいうあたしの見合い相手は、そんな店員を無視してすたすたとレストランの中に入って行ってしまった。
あたしは横目でふん、とその店員を睨みながら伯母さんと見合い相手の後を追った。


 
 「じゃあ、私はここら辺で退散するわね。あとは若いもの同士で…。」
と、伯母さんは中華を殆ど食べて軽く会話をした後(と、いうより伯母さんがひとりでぺちゃくちゃ喋っていただけなのだが)、本物の仲人さんのようなお決まりの言葉を吐いて、そそくさと退散してしまった。

お、重苦しい沈黙…。

ちらりと相手の男を見ると、そんなあたしが独りで感じている変な焦燥感など気にもせず、女のような細い手で器用に箸を持ちながら無言で黙々と五目そばを食っていた。

「あ、あの……。」
あたしは堪らなくなって、声を出した。

ひえ~~、こういう男って超苦手!!
いくら寡黙で、女のあたしでも見とれちゃうような綺麗な顔で、モデルのようなスラリとした出で立ちであっても、あたしの好みのタイプはマッチョで、ごつくて、強くて、こう…懐に包み込んでくれるような熱ーい男なんですけど…。

「はい?」
彼はサラリと茶色の前髪を揺らして顔を上げた。
「美味しいですね。ここの中華。」
だあああぁぁ~~あたしったら、もっと気の利いたこと言えないの!!
「そうですね。」
彼は再び自分の皿に目を落としながら短く返事をしてきた。
っつーか、返事はそれだけですか…。
話しかけてみる?
接客のプロの話術(売り子ナンバーワンの実力?)、試してみる?
あたしは息を吸って、一気に吐き出した。
「えっと、確かジェイさんは、何かを研究してるんですよね?」
努めて微笑を浮かべながら聞いてみる。
きっとあたしの顔は不細工に歪んでるに違いない。
慈英さんは、視線を下に下げたまま、失礼に値しない程度の返事を返した。
「ええ、祖父の会社で電気工学の研究をしております。」
ふうん……研究ね。
そういえば電気オタクって伯母さんが言ってたような…。
「で、どんな事をしてるんですか?」
ただ、ちょっと興味があって聞いただけなのに、顔を上げた彼の目が、一瞬キラリと輝いたように見えた。
そしてゆっくりと彼はお箸を置いた。
「僕の研究分野は制御なんです。」

「制御?それって何ですか?」
あたしは思わず聞いてしまった。
ほんっとに、大した意味もなく。
これが、あたしの人生を大きく変える一言だったなんて、この時は思いもしなかったけど。

「例えば、エレベーターなどが制御の代表格で、行きたい階のボタンを押すとその階へ行くように制御されているでしょう?そういう事を研究しています。」
慈英さんは、嬉しそうに説明してくれた。
なのに馬鹿なあたしにはいまいちピンと来なくて小首を傾げていると、そのまま彼は続けた。
「うーんそうですね。エアコンなんかも制御のうちの一つで、温度を設定して、エアコン自体が温度を測定して設定温度より低ければエアコンを止めたり、設定温度より高ければエアコンをつけるみたいな事を、自動的にするようにしたりとか・・・。」
そこでうーんと唸る。
きっと一般人向けに優しく説明するのに慣れていないのだと思った。
「ファジー制御なんていうの聞いたことないですか?ファジー制御っていうのは、曖昧さを機械で表現しようとする制御の事で、このファジー制御もエアコンに例えて説明すると、夏場の暑い時期に二十三度って設定するとします。ずっとエアコンつけてるといつまでも冷たい空気が出てて寒くなったりしますよね?それはその二十三度までいつまでも、冷たい空気を全開で出してるからであって、それをファジー制御で制御すると、その曖昧さで大体二十三度ならいいかな、って機械が決めて、ある程度の温度になったら二十三度じゃなくても勝手にエアコンをとめたりしてくれる、そういう研究です。」
一気に長々と説明を終えると満足したようにニコっと微笑んだ。
「ふーん。成る程。難しそうだけど、面白い研究をしてんですね。でも、ジェイさんみたいな人が研究してくれてるから、うちらの生活も便利になってくのね~。」
と、感心して独り言を呟いていると。
「最初から最後まで説明を聞いてくれて有難う。」
慈英さんは、きっと美青年好みの女の子だったら蕩けちゃうような、飛びっきりの笑顔をあたしに向けてきた。
「そんな人に礼を言うようなことですかね?」
あたしは思わず聞いてしまう。
そりゃあ、そんな事普通の人ならあんま興味無いけど…。
「普通の女性の方は、必ず僕の家と会社ついてまず聞いてくるんですよ。だから、僕の興味がある事を一番に訊ねてくれたのは貴女が初めてです。」
「はあ…そうなんですか?」

「で、えーと…あの、失礼ですけど、お名前は何でしたか?」
「桐沢里美、ですけど…。」
ってあんた、紹介もしたし、何度も伯母さんがあたしの名前呼んでたのに、聞いてなかったの???
「ああ、そうそう、里美さん。」
「で、何ですか?」
「面白い髪型をしてらっしゃいますね。」
髪型?
ああ、そういえば今日は美容師のみっちゃんが昨日六時間もかけてくれたエクステのままだったっけ?
「ああ、このエクステの事?」
「服も…とても、ユニークで、派手で…。失礼ですけど、お仕事は?」
え?
伯母さん説明してなかったの?
「ショップの店員ですけど…。」
あたしが困惑顔で答えると、
「いえ、僕は登美子さん(伯母さん)からは「とても優しいお嬢さん」としか聞いてなかったもので…。」
彼は苦笑しながら説明した。
まあ、気乗りしないのに金持ちのお爺ちゃんって人に無理やり見合いさせられたのだろうから、しゃーないわね。と思いながら
「ええ、主に流行物の女性服を扱ったお店なんですよ。」
あたしもニコヤカに言った。
「僕は、そういう流行ものに疎い方なのでよく知らないのですが…。」
本当に疎いらしく、すまなそうな顔をして言葉を濁している。
苦笑しながら、あたしは続けた。
「あたしはお洒落に命かけてるんです。ジェイさんが電気関係好きなように、あたしも洋服が大好きで、自分の仕事にプライド持って生きてますんで。」
得意になって答えながら瞬きした途端、いきなり左目に激痛が走った。
だあぁぁぁぁ~~と、突然涙が流れてきた。
幾重にも塗られた厚いマスカラのダマがコンタクトレンズをつけた目の中に入ってしまったらしい。

「えええ!!あ、あの、僕、何か里美さんの気に障るような事言ってしまいましたか?」
「いえ、そんなんじゃ…。」
と言いながら膝の上にのっている筈のナプキンを手探りで取ろうとしたのに、そこには何も無かった。
どうやら知らない間に床に落ちたらしい。

ど、どうしよう。
左目から流れる涙は止まらないし、化粧ぐちゃぐちゃだし、ナプキンは床に落っこちちゃってるし…。
などと思っていると、突然ごしごしと黒い何かが近づいてあたしの顔を拭いてきた。
「黒い涙が流れてますよ!!!」
ジェイさんがテーブル越しに、自分のスーツの袖であたしの涙を拭っていたのだった。
「じぇ、ジェイさーん!!そんな高そうなスーツで!!!あたし、あたし、大丈夫ですから、トイレ行ってきますから!!」
ジェイさんが席を立って、あたしの隣に急接近した。
その、白馬に跨がせたら似合っちゃいそうな美貌が、あたしの目の前にあった。
「たかだか四十万です。大した事はありません。それより、上を向いてこっちを見て!!」
よ、四十万!!
そんなのが大した事ないですと??
あたしは強引に上を向かされた。
「これですね。涙と一緒に流されてます。…もうきっと大丈夫ですよ。」
ジェイさんはあたしの目元を再度袖で拭いてくれた。
そして、あたしの顔をまじまじと見てぶぶぶっと吹き出す。
「里美さん…失礼ですけど…貴女面白い顔していますよ。」
「ええ??!!ちちちちょっと失礼しまあぁぁぁぁぁぁっす!!!」
あたしは猛ダッシュでトイレへ駆け込んだ。
涙を拭いてくれたジェイさんには感謝するけど、見境無く拭かれたせいか、鏡の前には、顔の左半分メークなし(右半分は気合の入ったフルメイク)で麻呂眉毛の恐ろしい女が立っていた。
…ってあたしだけど。

 トイレから出ると、もう精算を済ませたらしいジェイさんが微笑みながら立っていた。
あたしの姿を確認すると、あたしの荷物とコートを手渡しながら、
「里美さんの目の調子もよろしくないようなので、今日はこの辺でお開きにしましょうか?僕は運転手を呼びますので、お家に送らせますよ。」
とあたしに告げた。
「あの、申し訳御座いません…気を使っていただいて」
ホテルの出入り口まで来ると、あたしは彼を顧みた。
ま、もう二度と会う事はないだろうし、こんなモンスターのような厚化粧で派手女とは関わりたくはないでしょうから、とりあえずあたしの三万円のお小遣いのための任務は終了ってところだわね、などと思いながら一応の社交辞令で、
「ジェイさん、有難うございます。楽しかったです。こんど時間があったらうちのお店を利用してみてくださいね。誰か、女の方の為の服が必要だったら、いつでも言ってください。」
と言っておいた。
まあ、こういう金持ちは死んでもうちみたいなクラブ系は利用しないだろうけど…。
ジェイさんは、絵本の中の王子様のような眩しい笑顔 を浮かべたまま、
「本当に楽しかったのですか?僕もです。今度いつか、利用させてもらいます。お会いできて良かったです。」
とリモ(きゃあ~~初めて!!)に乗り込むあたしに手を振った。










これで、終わりだと思ってた。










 家に帰ったあたしに、リビングでママとお茶しながら待っていた伯母さんはあたしの顔を見るなり、「まあまあ!」と驚きながらも、今日のお見合いの感想を求めてきた。
そういえば、お見合いって仲人さんを通して返事するもんだったっけ。
「伯母さん、あたしが断るまでも無くあっちが断ってくるに決まってるんだから、感想なんて聞く必要ないでしょ?それより、三万円!!」
伯母さんからしっかり三万円を受け取ると、あたしはその足で二階の自室へ駆け上がっていった。





 翌日、午後シフトのあたしが出勤すると、ショップのオーナーの恵美子さんが歓声を上げてあたしに抱きついてきた。
「ど、どうしたんですか?店長??」
「やったわよ!!里美ちゃん!!!あなたの知り合いという方から電話があって、この店に置いてある服全部買い取りたい、って。しかもキャッシュで!!!でかしたわ!!さっすが看板娘の里美ちゃんだわ!!!」

そのまま恵美子さんはラララ~とクルクル回って踊っている。
あたしには…何がなんだかさっぱりだった。
そんな事できるのって…。
ジェイさん???
女の人の為の服が必要だったのかな?

結局その日は店を閉め、ダンボール何十個に洋服全部入れる作業をして終わってしまった。

帰宅時間になりマルハチビルを出ようとした途端、あたしの携帯が鳴った。
伯母さんからである。

「もしもし?」
今日のお店での服買占め事件にジェイさんが関わっているかどうか訊ねようと思った矢先、伯母さんは興奮した黄色い叫び声を上げた。
「ちょっと、里美ちゃん!慈英さんが結婚を前提にお付き合いしたいって言ってきてるわよ!!おばさん嬉しくて、もちろん里美ちゃんも承諾しました、って言っちゃった。」
「はあぁぁ?何で?あたしあんなみっともない事したのに…なんかの間違いじゃないの?」
あたしは呆れながらもやけに冷静なまま聞き返した。
そんな事がある筈ない。
そして、そのまま視線を感じてふと顔を上げた…。

「げげげ!!!!」

渋谷のど真ん中。
マルハチビルの真横に芸能人ご用達さながらの大きな黒塗りリモが横付けされていた。
リモの前には昨日お見合いをした、美貌の男が手を振りながら立っている。

な、何?
どうなってるの??

あたしは電話を手に握ったままフラフラとその男に近寄った。
そこらにいた人達はあのリモに乗り込むのは芸能人か?
と明らかに期待を込めた目で注目している。
「里美さん!!」
あたしは眉間に皴を寄せながら、相手を見た。
ジェイさんは大声で叫ぶ。

「貴女の事、面白いので気に入りました。結婚を前提にお付き合いしてくれますか??」

そんな事…二人になった時とかに言えばいいのに。
なんでこの人はこーんな街中で言うかな?
つーかあたしのどこが良いわけ?
ジェイさんはあたしの好みとは全然違うし…。

色々考えながら歩いていたら、グキっと、こけそうになった。
ピンヒールがタイルの間に挟まっちゃったようだ。
「里美さん!!」
スローモーションで、あたしはベタリ、とジェイさんの目の前で転んだ。
見物客が大笑いしている中、あたしは温かい腕に抱かれて、リモの中へ運ばれる。

「もう、心配しましたよ。目の前で転んじゃうし。で、僕の言葉聞こえましたか?」
整いすぎた顔が熱心にあたしを熟視した。

マッチョな腕じゃないけれど、暖かさは一緒だなぁ…とか思いながら、
「聞いたわよ。」
とあたしは答えた。


 
 仕事場で一生懸命、しかも半日かけて梱包したダンボール全てがうちに贈られてきたのはそのまた翌日の事。

彼がこんな美形なのに彼女いない暦二十五年で童貞の、自然界の貴重な存在…天然記念物さながらの超天然男だという事実を知るのはもう少し後の事だったりする……。

 

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