スポンサーサイト    --.--.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
未年の朝 8    07.31.2007


 朧月藩の朧月城。
現代じゃあ東京から車で2、3時間なんだけど、この時代は歩きで宿場とかいう休憩所を幾つか越して、やっと辿り着く距離だった。

城は建てられたばかりなのか、白く光っていて、
現代のものを写真で見るより(って行った事ないので)綺麗な感じ。

この藩主の細川政光って人が、一馬の剣術『神雷流』を見たいと言ってきたそうだ。
っていうか、そっち系の知識全く皆無のあたしには、その神雷流ってのが一体何なのか未だもって分からないんだけど、どうやら一馬が編み出した流派だそうな。
 


 「天羽殿ですな、よくおいでくださいました。長旅ご苦労。」
城門で暫く待っていたら、将軍の従者らしき小奇麗な格好をしたお侍さんがわざわざ門まで迎えに来てくれた。
一馬は予めもっていた、飛脚から受け取った藩主からの手紙をその男の人にみせた。
男の人はそれを一瞥すると、そのままあたし達を城の中に入れて、
「本丸表」とかいう大名様がパンピー達と謁見する部屋へ通した。
 

藩主はTVでよく見る癖のありそうないかつい爺さんか、はたまたバカ殿様みたいな頭の悪そうな奴だろうとのあたしの想像を裏切って、30代位の思ったより普通の若い男の人だった。
あたしは一馬の共の者らしく、彼の横に侍ってずっと大人しくしていた。
つーか男装してるもんで、胸を潰したサラシがきつい…。

「天羽殿、よくいらした。貴方の噂はたまに耳にする。」
奥に鎮座しているお殿様は、一馬にそう一言声をかけた。

一馬はこういう事が嫌いらしくって、いつもの怖そうな無表情で
「それはかたじけない。」
と短く返した。
「旅はどうだった?」
とか
「有馬道場をどうやって破った?」
などの長々としたつまらない社交辞令は果てしなく続く。
その度に一馬は頭を伏せたまま、完結明瞭な返事で終わらせていた。
おいおい、言葉のキャッチボールってもんがなってないっすよ。
などと思っていたら、やっと本題に入ってくれた。

「さて、全国でも名高い剣客…今まで無敗という天羽殿の提唱する神雷流という流派について聞きたいのだが…。さて、それはどんなものかな?」
あたしは頭を伏せながらチラリ、と隣の一馬を見た。
一馬も頭を下げたまま、低く呟くように答える。
「それは、言葉で表わすには難しいので、体で表現するのが一番分かりやすいと思いますが…あえていうならば、無駄な太刀は打ち込まずほとんど一撃で相手を倒す簡素な剣術です。」
お殿様は愉快そうに微笑んだ。
「剣術の無駄を省いた流派かね?それは楽しみだ。実は今から中庭で実践演習をしてもらおうと思っているのだが、その前にこの天羽殿とふたりで話がしてみたい。悪いが皆の者席を外してもらえんか?」

ま、マジ?
あたし一人でどうしろっつーの?

突然、不安が押し寄せてきた。
そんなあたしの不安を読み取ったのか一馬はあたしの耳に顔を寄せて
「案ずるな、どうせ仕官かなんかの話だろ。すぐ終わる。中庭で俺を待ってろ。」
と小さな声で言った。
この部屋に居た従者数名と、一馬の付き人のあたしは、
何故か部屋を追い出され、そのまま整備された中庭に通された。
 


 
 中庭には、素振りをしているお侍さんが何人もいた。
一馬はこの人達相手に戦うのかなぁ?
お殿様は一馬は無敗って言っていた。
ってか、負けた事無かったんだ…。すごっ。
だからいつもあんな偉そうなのかも。
「ま、どうでもいいけど目立たないように隅っこの方へ行こっと。」
あたしはそそくさと傍にある桜の木の陰に隠れた。

ここなら威圧的な侍のおっさん達と距離が保てる。
だって殆ど皆、一馬の従者(=下級武士)って事で、あからさまに下卑た視線をあたしに送って来るし。
「エッチそうな目であたしや一馬を見てきたおっさんも居たしね~。
 そっち系なのかな??」
とブツブツ独り事を呟いていた。

と、突然。
「おい、おまえ!」
何処からか甲高い声が降ってきた。
は?
何か聞こえた?
「お前だよ、そこの馬の尻尾みたいな髪のお・ま・え!!」
どうやら声は木の上から聞こえるようだぞ?
高めの声は明かに、まだ成長を遂げていない少年のもの。
あたしは、上を向いた。

「頭が悪そうな奴だな~。やっと俺様に気づいたか!」
木の上には、年齢が15、6の少年が座っていた。
顔は良く見えないけど、服装と口調だけでなんかお坊ちゃまって感じ。
「あんた何、失礼よ!!」
と言いそうになって、慌てて口調を直す。
あたしは今日は男装していたんだった。

男言葉、男言葉。
「うるさい、何か用か!!」
少年はスタッと地面に着陸して、あたしの目の前に立つ。
背丈はあたしと同じくらい。
顔は美少年系の、可愛い感じだった。
「俺に偉そうな口を利くな、貧乏侍の子の癖に。見ない顔だな、何処から来た?」
少年はマジマジとあたしの顔を覗きこむ。
っつーかあたしが、貧乏侍の子ですって???

このガキ何様!!!
「ご主人様(一馬の事)がここの藩主様に呼ばれて江戸から付き添って来ただけだよ。っつーか君こそ偉そうな口を利くね。」
少年は一瞬きょとんとしてから、プッと噴出す。
「お前、喋り方が変…。」
どきっ。
あ、あたしの男言葉変なのか?!
「そ、そうかなぁ~?江戸ではこれが普通なのに。それより、何か用?」
少年は腕を組んで、あたしの全身を上から下まで舐めるように見回した。
「お前、名前は?」

名前!!

名前なんて考えてなかった…。
咄嗟の事に、口が勝手に動いていた。
「ま、増子(ますこ)太郎っていうんだ。」

増子太郎!!!
よりにもよって、太郎!!
なんて情けない名前なんだぁぁぁぁぁ~~~っ!!
もっと気の利いた名前思いつかなかったのか、あたし!!!

「ふうん、太郎。お前さ、ちょっと俺に付き合えよ。」
少年は命令しなれているらしくって、可愛い顔に似合わず強引だった。
有無を言わせずあたしの腕を引っ張る。
「はあ?駄目だよ、僕のご主人様が剣術をお披露目するんだから、何処にも行けないよ。」
「すぐに戻ってくるって約束するからさ。お前にちょっと見せたいものがある。」
少年は、あたしを引っ張ってさっきお殿様が居た城よりも小さめな城のような建物にあたしを案内した。
 
この少年はここでは身分が高いらしくって、大人の侍達はすれ違う度に頭を下げていく。
少年はそんな大人をシカトして通り過ぎて行った。
お城の中の回廊を付き抜け、ある部屋の前で立ち止まると彼は
「この部屋を覗いてごらん。」

と不敵な笑みを溢しながらあたしに命令した。
「何?何があるの?」
あたしも不思議に思って聞いてみる。
「いいから、早くっ!」
急かされたあたしは、ガラガラガラっとゆっくり襖戸を開けてみた。


「!!!??????」
バタンッ。


と今度はちょっぱや(超早く)で閉める。
っつーか、今のって……。
や、や、やばいモノも見てしまった!!!!
いや、これは見てはいけないものなのでは???
少年はニヤニヤしている。
「あれ、皆俺の従者なんだ。」
少年は得意気に言う。

あたしが見たもの、それは酒池肉林の現場だった!!!!

酒を片手に、大の男と女十何人が、今で言う乱交パーティーをしていた。
「俺がやれって命じたんだよ。君も混じってみる??」
少年は悪びれもなく、あたしに聞いてくる。
「いや…結構です…。」

あたしは、何となく嫌な予感がして一応断っておいた。
少年は再び襖を開けながら、あたしに続ける。
「そうそう、言い忘れてたけど、俺は細川政輝っていうんだ。
 ちなみに君のご主人様とやらを招待したのは俺の父上だから。」
政輝はそう言ってあたしの腕を引っ張る。
やっぱこのガキ普通じゃなかった。
大名の息子。
…偉そうな筈だわ…。

「いや、いいよっ。ぼ、ぼ、僕はご主人様の試合を見ないとっ。」
嗚呼、あたしって何でいつもこんなんに巻き込まれちゃうんだろ??
少年はふうん、と呟いてあたしを省みた。

「これって命令だからね。嫌なら、切腹してもらうしかないかな~。」
まじっすか??
切腹なんて痛そうじゃん。
ってそんな問題じゃなくって、このガキまじで言ってんの?!
こんな時代の、こんな所で死にたくねー!!!!
青くなったあたしなんて眼中なしに、
「ほらほら、入るよ。」
と、このクソガキ政輝はあたしの腕を引っ張りながら
乱交パーティー会場(部屋?)に無理やり引き入れた。
 

政輝はあたしを引き連れて部屋を横切り、
奥の特等席に座って、男や女が入り混じってやっているのを満足気に眺めていた。
あたしは、彼らが発する喘ぎ声や唸りだけでも恥ずかしくって、顔が上げられないのに。
「ほら、見てみて。」
と政輝は酒を飲みながら指をさす。
「あの、大男の相手をしているのが俺の妻だよ。」
平然とした声で政輝は言った。
「妻?!」
ってあんた幾つよ!!!!
まだガキじゃんっ。
あたしは彼がさす指の先を渋々見た。
明かに彼より年上の、20代位のなかなか美人な女性が、苦しそうに声を上げながら大男の相手をしていた。
っつーかこの時代の早婚はともかく、大名の妻とかって大奥とかにいて姿を見せたりしないんじゃなかったの?

でも、こいつはまだ大名じゃないし。
うーん、よくわからん…。
「君…奥さんが他の男の相手をしてても構わないの?」
あたしは薦められるままにお酒を口にした。
下手に断ったらまた切腹とか言われかねないしね。
「別に。あの女は父上が勝手に決めた妻だし、俺、彼女みたいな女には興味沸かないし。」
「え?あんな美人なのに?」
「じゃあ、お前が相手にしてあげたら?」
はあ?

「いや…遠慮しておくよ。」
政輝は整った顔をあたしに向けて、長くて濃い睫毛に縁取られた黒々とした瞳であたしを凝視する。
「お前、貧乏侍だけど女の経験はあるのか?」
貧乏侍ってのは余計だよ、クソガキ。
っていう罵声は心の奥底に閉まっておいて、あたしも政輝に視線を向けた。
「ええ?!も、も、もちろんあるさっ。」

大嘘。

あたし女だもん。そんなのあるか!!
「ふうん、じゃあ、男とは?」
男としかやったことないです、ハイ。
あたしが沈黙していると、政輝はへえ、と呟き口角を引き上げて不敵な笑みを溢した。
「経験ないんだ。じゃあ、俺と試してみる?」
爆弾発言!!!!!

な、な、な、何ですとぉぉ~~~!!!

「俺、いつも年上の大人が相手で同年代の奴との経験が無いんだ。
 お前なら、やってあげてもいいぞ。」
こいつ、完璧あたしが男だと思ってる!!しかも15、6歳位の!!!!
ってか、こーんな美少年で、大名の息子で、女が選り取り緑なのに……。
男色家なの???
何故に???

「俺を喜ばせてごらんよ。」
ごらんよって……このませガキ、最初からそれが目的であたしを誘ったんだ。


ど、ど、どうしよ一馬ぁぁぁ~~~!!!



増子明日香22歳、タイムトリップ二度目(今度は男装中で下手すりゃ切腹になりかねない)の貞操の危機!!!!!


サーバー・レンタルサーバー カウンター ブログ