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Give 2 me Ⅱ    06.26.2007
<side Midori>



 午後9時50分に、俺のバイト先の居酒屋に眼鏡をかけたひっつめ髪で白いパンツスーツ姿の女性が現れた。

一目で鷹男の秘書だって分かる、ピリピリとした空気を漂わせていた。
見た目は落ち着いているのに、何故かその視線だけで人を落ち着かせなくする何かを持っている。

一旦店内に入って俺を見つけると、その眼鏡の女性は俺に軽く頭を下げた。
「秘書の森尾です。以後お見知りおきを。お話は社長からお聞きになっていらっしゃると思いますが、お迎えに参りました。車を待機させておりますので、10時まで外でお待ちしております」
愛想も何も無い事務的な顔つきで素早く述べると、彼女は「それでは」と踵を返してさっさと店から出て行ってしまった。


俺は仕事が上がると、制服のハッピを着たまま店の前に停めてあった黒いベ〇ツに乗り込んだ。
運転するらしいのは、森尾さん。
俺は後部座席ではなく、あえて助手席に座って隣の彼女を不躾にジロジロ観察した。
「私の顔に何かついていますか?」
「いや。おキレイなのに、眼鏡とその髪型もったいないなって思ったんです」
「なるべく簡素で清楚な格好を、と社長から言われておりますもので」
少しだけ含みを持たせて言ったつもりが、あっさりとかわされた。
「そうなんですか?」
年は......30代前半?鷹男くらいか?
細身で、スタイルは良さそうだ。
でも、そうとうキツくて細かそう。
「鷹男の個人秘書......なんですよね?何で運転までしてるんですか?」
「これも、仕事の一環ですので......」
「ふうん」
俺は無表情で運転する隣の女性に只ならぬ興味を持った。
「鷹男って......やっぱりやり手なんすか?ってか、性格はものすごく天邪鬼ですよね」
「社長ですか?もちろん、凄いお方ですよ」
「何が......どう凄いんですか?」
ただの変態オヤジじゃん。
床の上では。
と俺は心の中で付け足す。
「何が......と仰られても困りますが......例えばこの3年以上休日をお取りになっておられませんし......」
「ええ??!!休み取ってねえの?!」
「え?......ええ......」
俺の大げさなリアクションに森尾さんがちょっと引く。
「じゃあ、1年365日働いてんのか?!」
「そういう事になりますが?社長ほどエネルギッシュな方はお会いした事が御座いません」
今度は少し呆れた声だ。
俺との関係も、鷹男にとっては「仕事」のうちに入るのか?
そんな疑問が頭の中で渦巻きだした。
顎に手を置いて考えだした俺を横目に、森尾さんが話題をかえる。
「所で、もううちの夏コレの広告をご覧になられましたか?」
「夏コレ?いや、全然」
そういえば、この間撮影した写真はいつ使われるのだろうかとかちょっとだけ疑問に思っていた。
「もう数週間前からビルボードや雑誌に出ていますけれど」
「へえ」
別に、興味は無いし。
金さえ入りゃあ別にどうでもいい。
「広告が始まってから、水着とスポーツウェアの小売の売り上げが対前年で30%も上がっています。翠さんが撮影で着られていた水着は品切れで追加生産待ちだそうです......社長はこの件に関して翠さんに何も仰っていらっしゃらないのですか?」
「売り上げ?ぜーんぜん」
森尾さんはちらりと俺をみて、口を結び黙り込む。

そこで、売り上げやらの話題は終わってしまった。
が。
俺はホテルまでの道のり、森尾さんに色々と鷹男について色々と質問してみた。
彼女がどれ位の間鷹男の所で働いていて、どれ程鷹男の事知っているのか、あれこれ試して情報を得ようと試みたけど、思った以上に彼女の口は堅かった。

途中から俺も質問を諦めて、移り変わる窓の外の景色をぼんやり眺めていた。




鷹男は明らかに不機嫌そうだった。
「それで、何の用だ?長時間のフライトで疲れている。悪いが、お前の相手をする精力も気力も無い」
「精力っ.........ばーか、こっちだって仕事して疲れてるんだ。鷹男の変態行為にはつきあってらんねえよっ」
俺を見た途端忌々しげにそう告げた鷹男は、スウェットパンツとTシャツというアスレチックな井出たちで俺を迎え入れた。
俺のハッピ姿をジロジロ見て、意味深にフンと鼻を鳴らす。
「醤油臭い。さっさとシャワーを浴びるか、着替えてもらおうか。それで、何の用だ?」
ドカッとソファに腰掛けると、腕を組んで鷹男は単刀直入に切り出した。
「だからー、えーと、紅が契約の事を俺に言ってきて......」
ポリポリと鼻の頭を掻きながら、俺は切り出す。
「ああ、その事か。紅が俺に500万を出してお前との契約を破棄するようにと申し出た。俺は金を受け取り、お前は自由になった。それだけだ」

それだけ?

「いつ?」
「先週。残りの500万は紅が是非ともお前の為に出資したいと名乗りを上げている」
「ちょっと待て。おかしくねえか?何で俺を通さないで勝手に話が進んでるんだ?」
「お前はここで泣いて喜ぶはずなのだが?」
「ちっとも喜べねえよっっっ!俺の意思なんて全く無視じゃねえかっ」
俺は堪らなくなって叫んだ。
鷹男はニヤニヤして俺の反応を楽しんでいる。
「お前にとって、喜ぶべき話じゃないか。俺の夜伽の相手をしなくてすむ」
「俺が怒ってるのは、そういう事じゃなくて、何でお前らが勝手に俺の事決めちまうんだ、って事だよ!」
鷹男は膝の上で指を組んだ。
説教やレクチャーが始まる前の仕草だ、と最近覚えた。
「一言アドバイスをやろう。ビジネスとは、不確実な協定よりも確実な協定を選ぶ事。外交手段においてこれは鉄則だ。お前との不確実な関係をダラダラ続けるよりも、紅の金を受け取りお前との仲を解消する。これがもっとも確実で両者が喜ぶ方法だと思ったのだが?それとも、お前は俺から離れ難いのか?」
「ちがっ...............じゃあ、お前の言ってた『契約は最後まで守る』ってのはどうなんだ!」
「その契約が互いに別の利点を得られるのであれば、早々と解約するという手もある。それ以上に、弟と秤にかけられているというのは、気分のいいものではない」
「あんただって、俺以外の女と寝てるだろ?」
「それとこれとは話が別だ。話がこれ以上ややこしくなる前に手を打つと言っているのが分からないのか?」
「それはっ......」
「再度問うぞ。お前はこの関係を、俺との関係を続けたいのか?」
「ちがう」と再度否定しそうになって、俺は......俺の中の何かが奥底から突いて出た。
「ああっそうだよっっっ」


鷹男の笑顔が、張り付いた。
見る見るうちにその彫りの深い顔が険しくなっていく。
黒い目が細まる。


「自分で何を言っているのか分かっているのか、お前は?この間も、俺が頭から離れなかったやら何やらの御託を並べていたな」
鷹男の声が、低くなった。
その声音だけで、俺は後ずさりしそうになる。
それ程、鳥肌が立ちそうな冷たい響きだった。

「ああ。悔しい事に、お前の事が頭から離れねえんだよっ。あのキスも頭から離れねえ。責任取れよ、ボケナス」
俺も精一杯冷静な声を出す。

表情の無い眼に、少し微笑んでいる口元。
意図的に作られた、表情。
底冷えする声で、鷹男は俺に更に言葉を浴びせる。
「お前は最初から俺の金目当てだっただろう。その上、同性しか愛せないのではなかったのか。今更そんな御託が意味を成すとでも思っているのか?信頼性の欠片も無い」

その言葉が、何故か引っかかった。
が、鷹男の視線を受け止めながら声を出す。
「お前がそう思うのも仕方ねえよ。俺だって自分の気持ちの整理つかなくって、良くわかんなかったんだ。けど、俺は今、男が好きらしい。お前が好きらしいんだ」
言っちまってから、少しだけ後悔した。
鷹男は、「ほう」と笑いながら呟く。
「こんな色気の無い愛の告白は初めてだな。お前は前に、俺のテリトリーには俺が許さない限り入ってこないみたいな事をほざいていたな?はっきり言わせて貰おう。侵入は許さない」

拒絶された。
いや、また線を引かれたって言った方が良いのかも。

俺は拳を握り締め、鷹男に近づく。

鷹男は腕を組んだまま、真冬の夜みたいな暗くて冷たい目で、俺を見据えていた。

「臆病者」
「ああ、そうだ。何とでも言え」
「鷹男、あんた本気になれる女は居ないのか?」
「今のところは」
「何で俺じゃ駄目なんだ?」
「胸が無い。細すぎるし背がでかすぎる。負けず嫌いで減らず口も気に入らない。女の色気も無い。それより何より、俺は弟の幸せを誰よりも願っている」
「っ......!!いいとこ一つもねえじゃんか!!俺、一世一代の大告白したんだぜ?しかも男に......お前に!」

俺が真っ赤になって怒ったら、鷹男の堅かった表情がふっと解けた。
......ような気がした。

「とりあえず、そのハッピを脱げ。上のバーへ行くぞ」
鷹男は首を振りながら寝室の方へ大股で歩いていった。
俺がハッピを脱いで白いタンクとカーゴパンツだけになると、「ついて来い」と足早に部屋を出て行った。

俺も大股で、鷹男の後をついていった。





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