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Care 4 me Ⅳ    06.25.2007
<side Midori>




 「初めて見た、アヤって子。〇姉妹の妹みたいだったね。ちょっとどころかすごくケバくて怖かった」

1週間ぶりの紅は、俺とアヤとの別れ話を「修羅場が見たい」と言ってついてきた。
鷹男はどこかへ出張に行っていたらしく、この金曜は会わなかった。
鷹男専用の携帯の留守電に、
「今週は会えない」
と短くメッセージが入っていて、何故か俺は胸を撫で下ろした。



案の定、カフェで昼メロみたいな台詞を吐かれたり、紅とアヤが取っ組み合いの喧嘩を始めそうになったのを仲裁して、一応何とか騒ぎは収まった。
ったく。
「修羅場が見たい」って言った本人が修羅場作ってどうすんだって言いそうになった。

「もしかして、翠って巨乳好き?」
帰り道、タクシーの中で紅は俺の顔を覗き込む。
紅はカフェからずっと不機嫌そうに眉間に皺を作ってた。
「うっ......。そんな事ねえよっ。でも、無いよりあった方が......」
「あの人の、明らかに豊胸手術だよ?サイボーグみたいだったじゃん。それでも好きなの?」
紅は意地になって聞いてくる。
顔、赤くなるからやめろって!
「俺は別に胸なんてあっても無くてもいいのにな。翠だって全然無いし。それに、胸ってそんなに触り心地いい?」
俺の手を取って、ジーンズ越しに自分の股間に押し付ける。
「これよりも?」
「うわっ!!やめろって!!」
俺はとっさに手を引く。
あの、ふにゃっとした柔らかい感覚がじんと手に残る。
「お、お前の海綿体も、嫌いじゃない」
「海綿体なんて生物学的な言い方翠らしい。全然色気無いよ!!」
紅は隣であはははと笑いながら俺の反応を楽しんでいる。


あの夜以来、紅が急速に俺との距離を縮め始めた。
明らかに、前より大胆になってる。
気付くと、俺の手に紅の細くて白い手が重なってるし、話す時も前に比べて全然至近距離だし、それにたまに隙をついてキスしてくる。

はっきり言って紅とのキスは、嫌じゃない。

紅の柔らかくて優しいキスは、どっちかというと燃え滾るような緊張感だとかとは正反対の、安堵を覚える。

心が、和む。
もっと、味わいたくなる。

......って恥かしい事考えてんな、俺。

「なあ、その腕、どうしたんだ?」
包帯でぐるぐる巻きになっている紅の手首を指して訊ねる。
「そこって、お前リストカットしてた場所じゃね?」
「ああ......。これは違うよ。この間滑って転んで捻挫しちゃった。馬鹿だよね」
整った眉尻を下げて紅が肩を竦める。
「お前よく転ぶなあ。気をつけろよ」
「うん。所でずっと聞きたかったんだけど、翠の田舎ってどこ?」
俺の肩に頭を預けながら、紅は気だるそうに訊ねた。
「T県。行った事ねえだろ?」
「無い。高校は公立?」
「そ。水泳で有名なトコ推薦で入った。紅はやっぱ、私立のお坊ちゃん学校行ってたんだろ?顔が私立って書いてある」
「私立って書いてあるって何さ?俺、実家は鎌倉だけど東京にも家あるから、ずっと東京のインター通ってた」
「インター?」
「インターナショナルスクール。あ、でも高校はアメリカンスクールだったわ」
「ふうん。どっちでもいいけどさ。うちの田舎はいいよ~。田舎っつっても、山田の実家みたいな各駅が1時間1本しか通らないど田舎じゃねえけどさ。今度じいちゃんばあちゃんの家に遊びに来いよ」
「え、行っていいの?」
「もちろん」
「やっぱさ、翠って目立ってたでしょ、田舎で?俺はインターだったから、全然周りとか俺みたいのばっかで気にならなかったけどさ。逆に兄貴は私立だったし、翠みたいに東京の普通の高校通ってたから、結構大変だったみたい。色々と」
「東京でも?うちの田舎には、俺みたいなガキはいねーから、色々言われたりはした。それにまず、外国人なんて見ねえもんっ。英語の先公くらい」
「知ってた?兄貴って一応教職免許持ってんだよ」
「まじ?!鷹男が?」
「昔は先生になろうとしてたんだって。体育教師」
「鷹男、すっげーおっかなくて厳しそう。想像できるぜ。なんかあいつの弱み握った気がしてきた」

紅が、ふと真顔になった。

「あのさ、兄貴と話したんだ」
「いつ?!」
思わず身を乗り出すように聞いてしまってから、ハッと気づきゴホンと誤魔化すべく咳払いをする。
「さくらさんのおじさんの告別式の時」
「ふ、ふうん」
「兄貴、翠との契約打ち切ってくれるって」
「へ?」
俺は紅が早口で言ったその言葉が聞き取れなくて、聞き返す。
「だから、翠との契約破棄してくれるって言ってた。良かったね」

「紅が、話をつけたのか?」
ぐるぐると頭の中で何かが回転しているような錯覚に陥った。
かろうじて出た声が、掠れていた。

「いけなかった?」
「紅、これは俺の問題だから......」
「だったらなんであの夜俺の所に来たの?なんで俺に抱かれたの?」
紅が物凄い剣幕で、俺の言葉を遮った。
「はっきり言わせてもらうよ。翠が兄貴の事気になるのは、兄貴に勝手な男の理想像重ねてるからに過ぎないよ。それは愛とか恋とかそういう感情じゃなくて、単なる憧れだよ」
「あ、あんな変態男に憧れてなんかいねえよっ」
「ううん。じゃなきゃ、俺にあんなに反応しない筈でしょ。兄貴とのセックスにとっくのとうに溺れてるはずでしょ?なのに、翠は兄貴とのセックス別に好きじゃないって言ってたよね?俺に抱いてくれって頼んだよね?人ってね、一定の期間以上同じ人と一緒に居ると、自然と同情みたいな愛が芽生えるんだってさ。同情っていうのは、一緒に居なきゃいけないみたいな義務感だとか、自分が居ないとこの人は駄目になっちゃうとか、そういった勘違いで自己満足的な愛情の事」
一気に言い吐くと、紅は肩で息をしてにっこり微笑む。

俺は歯を食いしばりながら、その隙間から声を出した。
「紅、お前が心配してくれる気持ちは嬉しいよ。でも、これは俺の問題だ。俺が鷹男に会って、話をする。お前が迷惑だってんなら、もうお前に頼ったり迷惑かけたりする事はしねえよ。永遠にしねえ。だから、口出しすんな」

言い方が少しきつかったかもしれない、と思った。
でも、気付いたら自分でも驚くほど冷たい声が出てた。

紅は暫く驚いた顔で俺を眺めて、フッと視線をそらした。
「じゃあ、翠は兄貴とずっと関係を持ってたいんだ」
「そういう意味じゃねえよっ。でも、はっきり言う。もう、前みたいに嫌じゃねえんだっ。それに......」

鷹男の事が好きかもしれない、と再度言いそうになる前に紅が大声で遮った。
聞きたくない、と言わんばかりに顔を顰めて。

「それなら好きにすればいいよっ!!」


俺達は、初めて居た堪れないほど気まずい沈黙を体感した。


お互い無言のまま、車は紅のマンションに到着した。
俺は小さく「俺これからバイトだから。じゃあな」と告げて、紅と別れマンションのエントランスと正反対に向かって歩きだした。

午後の太陽が眩しくて目を細める。
背中に、紅の視線が突き刺さっているような感覚がした。






 「お前から連絡なんて、珍しいな」
鷹男がくれた真っ赤な携帯に記載されてる番号に電話をかけた。
呼び鈴が何度も鳴って、もうそろそろ切ろうと思っていた矢先、鷹男が電話に出た。
「なんだよ、嬉しいのか?」
「最近口調が偉そうになってきたな」
「誰の影響だか!」
電話ごしにフッと鷹男が鼻を鳴らしたのが聞こえる。
「単刀直入に言うからな。お前と話がしたい。いつなら時間作れる?」
「明後日、帰国する。いつものホテルに……そうだな、夜7時に来い」
「帰国って、俺どこに電話かけてんだ?!お前どこだよ!それに俺、バイトあるんだけど」
「何時に上がる?」
「10時」
「なら、お前のバイト先に迎えをよこす。今はニューヨークだ。俺に用があるのならば時差ってもんを考えてから電話をよこせ」

ブチッ。

と、挨拶もなしに、電話が切れた。

「クソ馬鹿鷹男!!!時差も何も、てめえがどこに居るかなんて知らねえよ!!」
一言何か言ってから切れ、とか思いながら俺はグルグルと寮の部屋の中を歩き回る。


1学期がそろそろ終わる。
この寮からも出ていかなきゃならない。

考える事が山ほどあるってーのに!!


紅とも気まずい。
鷹男の自信満々のあの顔が頭の中から離れない。
借金の返済。
アパート探し......なるべく安くていい物件。
バイトのメニューも完璧覚えなきゃなんねえ。


つか、それより何より期末だし。


たああああ~~~!!!やる事ありすぎ。





......泳ぐことに決めた。


俺の頭をクールダウンさせてくれるのは、これしかなかった。


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