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鷹視狼歩    06.17.2007
 ここ数週間で、佐々木翠の様子が変わった。

相変わらず減らず口を叩くし態度も悪いが、ふとした瞬間恥じらいを持った女のような表情をする。

ベッドに括りつけ、目を隠し、手足を拘束し、身動きの取れない彼女を味わう。
角度を、位置を変え、彼女の奥深くまで堪能する。
彼女の身体が波打ち震え俺を求める吐息を口から漏らすまで、執拗に焦らし続ける。
時には俺の目の前で自慰行為を強要し、芳醇なワインを嗜みながらその淫らな姿を目に焼き付ける。

彼女の、眼の縁を赤くし、呪い文句を吐きながらも恥辱に満ちた表情に、堪らなくそそられる。
だから余計に、無理難題をつきつけたくなるのだ。

彼女のその顔を見るために。



10年ぶりに、キスをした。
その代価が鉄の味が充満した血まみれの口と、射殺しそうな佐々木翠の銀の瞳。

あの時の事を思い出し、俺はくっくっくと皮肉めいた笑い声を上げる。
上等だな。
だが、隣で安らかに寝息を立てている女から、恥じらいを含んだ色の有る表情(カオ)を引き出せるようになったのならば、功を奏したと言えるのだろう。

まさか
弟の紅と、トレーナーとして紹介した翠がそういう関係になるとは露とも思わなかった。
この女が、俺と紅を秤にかけていたとは。
紅からその事実を聞かされた時、思わず声をあげて笑ってしまった。
やってくれたな、と。


紹介した当初、紅は翠をオトコオンナと呼び不快感を露にしていたし、今までの紅の女と翠は180度違っている。
そして、翠は女にしか食指を動かさない同性愛者だと思っていた。

どうやら、俺の誤算だったようだ。

キスも、ある意味その反動だった。
今までの女は、俺の思い通りに動いてくれる。
まるで彼女達の頭の中が透けて見えるように、手に取るように分かるのだ。
この女も例外ではない。
彼女の思考回路が、脳から口まで伝達するその仕組みまで透過しているかの如く容易く理解出来る。
大概の場合は。

いや、今回の事を除いて。

俺は頭を腕で支え、隣で猫のように眠りこけている女を見下ろす。

週5日、居酒屋でバイトを始めたと言っていた。
昨夜も朝方まで働いていたという。
疲れているらしい。

俺との情事の真っ只中、2度目の行為の『最中』に、眠り込みやがった。
こんな慇懃無礼で不躾な女は抱いた事も見た事も無い。
俺との性行為は退屈だと身体で体現されたも同然だ。

だが、面白い。俺を飽きさせない。
紅が気に入るはずだ。


紅。
門田家の、問題児。
弟の紅が抱えている問題は、兄の自分でも計り知れない。
数々の自傷行為を起こし、一時は手がつけられない状態だった。

女のような柔和な容姿とは異なり、感情的で情熱的な弟。

長年のカウンセリングの成果か、はたまた足に障害を負ってから得た経験か、10代の頃に比べたら紅にもそれなりの良識と落ち着きが備わったように見える。
現に20代になってからは、前ほど狂気めいた眼を見せなくなった。
この女が、そして俺との関係が、紅に悪影響を及ぼさない事を願いたい。
俺のオフィスで啖呵を切った紅の姿を思い出す。
もし、何か起きるならば、俺は迷わず弟を取る。

それは間違いの無い事実だろう。




俺は、隣で静かに寝ている女に顔を近づけ、彼女の唇に自分のそれを被せる。
暫く押し付けた後、唇を離して、フッと笑う。
柔らかい。
ふと、舌を突き入れて味わいたい衝動に駆られる。
あの時のように。
「アディクションだな」
小さく自嘲する。

その声に、隣の女は「んんっ......」と目を覚ました。
気だるそうに身じろぎすると、はっと起き上がる。
「わ、悪い。俺、寝てた?」
佐々木翠は、頭をクチャッと掻き数度瞬きする。
「事の最中にな」
俺は嫌味を含ませ冷たく言い放つ。
「う.........」
ベルベットの布団で胸を隠しながら、佐々木翠は眉根を寄せる。
俺は仰向けになりながら、女を笑顔で見上げる。
佐々木翠が体を堅くした。
学習能力は有るらしい。
俺のこの笑みに裏が有るのも解っているようだ。

「そこの棚の下に花瓶がある。取ってこい」
俺は腕を頭の後ろで組んだまま、佐々木翠に命令した。
「花瓶?何の為だよ」
「小便がしたい」
「はああああああ?????」
心底呆れたような声が返ってくる。
「トイレはすぐそこだろ。てめえで行って来いよっ。病人か!!!」
俺は心の中で笑った。
「それとも、お前にかけてやろうか?」
「へ、変態オヤジ!!!俺そういうプレイに興味はねえからっ」
「言っただろう、お前の趣向など鼻ッから考慮していない。先ほどの行為は誰かさんのせいで、中断されてしまった。どう責任を取る?」
「わかった!わーったよ。取りに行く」
全裸の佐々木翠は、花瓶を抱えてベッドに戻ってきた。


このホテルの一室は、私用の為にわざわざ数年前に購入した。
成〇の自宅よりも、仕事場に近いここをよく利用する。
心なし、色々な人間が出入りする自宅よりもこちらの方が人目も気にせず、落ち着く。
仕事も、その他個人的な用事も、大概はここで済ませていた。



「お前が持っていろ」
俺は寝そべったまま悠々と、柔らかくうな垂れたモノを手に持つ佐々木翠を観察した。
眉間と鼻の頭に皺を寄せている。
明らかに、不愉快そうだ。
口の端を引き上げながら、女の反応を心の中で密かに楽しんだ。
俺が湯気の立つ黄金の液体を放ち終えると、佐々木翠はぎこちなく数回張り出した先端を絞り、花瓶を突き出す。
「ほら、望みどおりの事をしてやっただろ。自分で捨てろよ」
俺は笑顔のまま、
「飲め」
と命令した。


「のっ......!?」
さーっと佐々木翠の血の気が引いていく。




思わず、はっはっはと声を出して笑ってしまった。
佐々木翠の困惑顔が、面白い。
今にも泣き出しそうな表情をしている。
「お前、自分の顔を鏡で見てみろ」
久しぶりに、心の底から笑いが込み上げてくる。

こんなに愉快な気分になったのは、何年ぶりか。

冗談を、真に受けている。
俺はただ、彼女の反応を楽しみたかった。


暫く笑い続けていると、視線の端で佐々木翠が花瓶を掲げているのが見えた。







笑いが止まる。
俺は飛び起きた。







ゴクゴクと、まるで水でも飲むかの如く喉を鳴らして花瓶の中の液体を一気に飲み干すと、佐々木翠は腕で口を拭った。
花瓶を床に置く。
「まっじい......」
言いながら、挑戦的且つ艶かしい顔で俺を見据える。
「.........言っただろ。金の為なら何でもするって」




俺はそれには答えずベッドから降り、裸のまま翠を浴室へ引っ張っていった。
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