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There 4 me Ⅳ    06.11.2007
 「佐々木、ゆうじゅうふだんな日本人のテンケイだあーっ」
山田のガラクタで溢れかえった部屋で、俺は山田の椅子に凭れていた。

笑える事にこの足の踏み場の無いように見える宝(ゴミ)島の床は、部屋の入り口から机とベッドに向かってだけ約10センチ幅の通り道が出来ていて、下のベージュ色のカーペットが顔を覗かせている。

悶々と一人で考えていた俺は、気分転換も含め、大会から戻ってきた山田に今の状況を相談した。
いや。
相談て言葉は使用法を間違っているかもしれない。
なにせ山田は俺の話を聞きながら、ベッドの上で新刊の『BR〇ACH』を読み耽っていて
「ふーん、ほげー、むううう」
の3語しか発していない。
やっと1言以上のことを言ったかと思えば、「優柔不断な日本人」だとかぬかしやがる。
俺は頭を振った。
1千万円の借金から昨日の紅との出来事まで包み隠さず全てを打ち明けたのに、発された第一声がコレだ。

「つか、ちゃんと聞いてたのか人の話ぃぃぃ?」
俺は青筋立てて山田を見下ろす。
「あはははは。イ〇ゴすげえや。......え?何?」
聞いてねえし。
俺は
「もういいっ」
と腰を上げた。

そこで山田はやっと漫画を横に置き、不思議そうな顔で俺を見返す。
「あのさあ、考えすぎだと思うぞー」
「何がっ」
俺は腕を組んで振り返る。
「山田てめえ、所詮他人事とか思ってんだろ?」
俺はメドューサも顔負け、山田を石にでもしかねない恐ろしい視線で射る。
うっ、と体を硬直させ、山田は遠慮がちに続ける。
「だからあ、男じゃ駄目だとかあ、女じゃなきゃ寝れないとかあー、そんな事にこだわり過ぎてるんだよぅ、佐々木はっ。佐々木はレズビアンじゃなきゃ駄目って佐々木以外だーれも決めてないじゃんっ。人を好きになったり、惹かれたりするのに理由とか言い訳とか要らないでしょぉ?」

むむっ。

「人が人を好きになる。たったそれだけの事じゃーん。なんでこうも難しく考えるかなぁぁ?どーして理由とか、性別とか必要なのかねえぇぇ」
オーバーに肩をすくめると、山田は首を振る。
「何だよ、その外国人みたいなジェスチャーは!」
「ミーナみたいな国際人のジェスチャーだよっ。見てわかんないのぉぉ?ワタシはアキレテモノがイエマセーーーーンッ!!」
「あーむかつくその喋り方!!」
俺はいよいよ愛想をつかせてドアに向かう。
「佐々木は過去に囚われ過ぎてるよ~。人生の前半女の子が相手だったからってぇ、別に今からの人生もそうしなきゃいけないなんて決める必要はないゾっ。レズでもバイでも別にいいじゃーーんっ」
ガラクタに躓きそうになりそうになりながらも、俺はドアにたどり着く。
一体どうやって生活してんだ、こいつは!!
「男が好きでも、女が好きでも、佐々木は佐々木だよう」
苛々しながらも、山田の部屋を出る前に聞いたその最後の一言が、俺の中にスッと入り込んだ。
重たかった何かが少しだけ軽くなったような錯覚に陥った。


自分の部屋に戻ってベッドに仰向けになると、山田の言葉を反駁してみた。
「人が人を好きになる......かあ」
良い事たまには言うじゃねえか、山田も。
カテゴライズされるのを嫌ってるくせに、そういう自分が一番こだわってたのかも、と今更ながら思い知らされる。
「ムカつくけど、やっぱ山田ってすげえよなぁ.........」
小さく呟くと、俺は寝返りを打ってベッドの上に突っ伏した。

俺は、別に鷹男が......いや、男が好きになったわけじゃない。
ただ、男と寝ても嫌では無いと気づかされた。
と、思う。
じゃあ、何で俺山田の言葉に納得してんだ?

ただ、あいつとのキスに過剰に反応示しただけ、だろ?
俺は自問自答してみる。

それとも、俺......好きなのか?

誰を?

「何考えてんだ、俺は!!!」
頭の中で思い浮かぶあの傲慢な顔を首を振って(意地で)消し去り、俺は放ってあった求人雑誌を手に取った。







 まず手始めに、居酒屋でバイトを始めることにした。
割が良くて、俺の生活サイクルに合う職種がたまたまそれだった。
この学校の最寄り駅の1つ先の駅前の和風居酒屋だから、別に障害は無い。週3日以上出勤可能なバイトが少ないのか、「毎日でも大丈夫です」と言ったら即OKだった。

足は重たかったけど、俺はさくらさんにボランティアを辞めると告げに言った。


さくらさんは、
「えっ?」
と驚いた顔をして、でもあの可愛らしい笑顔で
「バイト、頑張ってね」
と励ましてくれた。
その上、仕事中だというのにさくらさんは
「ちょっとお茶でも一緒に飲みに行こうか」
と俺を作業所の近くのコーヒーショップへ誘った。


初めてだった。
さくらさんと、2人だけで、こんな風に向かい合ってお茶を飲んだりまったりするのは。

多分、6ヶ月以上前の俺だったら、舞い上がってさくらさんの不快に思うことを口にしたり、行動に表していたかもしれない。
いや、ぶっちゃけあの『彼氏』との熱々ぶりを目撃した日以前の俺でも、隙あらばと同じ事をしていたと思う。
なのに、今彼女を目の前にしても、前のような眩暈を覚えるような息苦しさとか、触れてみたいとかいう不純な考えは起きなくなっていた。

俺は、頼んだコーヒーに口をつけながらさくらさんに微笑んだ。
「あの武藤さん、いい人そうっすね」
さくらさんはホットミルクティーを手に持って、暖かい笑顔を俺に返す。
「ええ。あっちの大学で知り合ったのよ。もうかれこれ10年近く前」
「10年......ですか。長いですね」
ってか、元から俺の出る幕なんてなかったんじゃねえか。
「大学一年の時、同じディベート......討論のクラスを取ってね。いつもいつも私と反対のグループやトピックを選んで私を論破しようとして、嫌味な奴だったの。最初は」
そう言えば、国際弁護士とか名刺に書いてあったな。
私は大学2年の時、ソーシャルワークに専攻を変えたんだけど、最初は弁護士目指していたから、ブライアンとは取るクラスがいつも重なって、その度にライバルみたいに成績競い合ってた。なのに、いつの間にかお互いの事が気になっていたのよね」
おいしい、と呟きながらティーカップをコトリとソーサーに置く。
「あの、鷹男......とは?」
「鷹男さんとは、5年前から婚約しているわ。親の都合で.........。でも、それももうそろそろ終わると思う」
「えっ?」
俺は驚いて目を瞬かせる。
「私の父が、多分もう長くないみたいなの。父が亡くなったら、婚約解消よ。とても複雑な気分」
はあーっとさくらさんは大きな溜息をつく。
「鷹男は、さくらさんに失礼な事とか......してないんすか?あいつ、えばり散らしてるし、嫌味な奴だし、いっつも命令口調だし」
さくらさんはキョトンとした顔で俺を見つめる。
その態度が如実にNOと言っていた。
「鷹男さんは、私にはとても良くしてくれるわ。ここだけの話.........私達の婚約は仮のものだけれど、私一度だけ鷹男さんと寝たことがあるの」
ぶぶぶっっっ、と口からコーヒーを噴き出してしまった。
「ええええ?」
「内緒よ。もう4年以上前の話だけれど、一度BREEZE社主催のチャリティーパーティーに招待されて参加して、ベロベロに酔ってしまったの。あの当時、ブライアンはアメリカのロースクールに通って遠距離だったし、あの、魔が差したって言うのかしら......お酒の勢いもあって一度だけ.........」
鷹男、そんな事ひとっことも言ってなかったぞ。
俺の胸が何故かきゅうーっと締め付けられた。

なんだ、この感触?

「それ以来、何もなし」
さくらさんはニコッと笑って再びカップに口をつける。
「あの、鷹男って......どうだったんすか?乱暴とかしてませんでしたか?その......ベッドの上での話なんすけど......」
「乱暴?!まさか鷹男さんが!」
さくらさんはさも愉快気に笑い出す。
え?え?え?
「あんなに優しくされたの、初めてよ」

優しく?!

俺は思いっきり顔を顰めた。
なんだこの違いは?
俺なんてプロレスもどきの体位強要されて、恥かしい事とか命令されて、服従求められて、体中痣とか打撲とか出来まくってんのに。
優しくなんてされた事ねえよっ。

「鷹男って......や、優しいんすか」
「ええ、とっても私に気を使ってくれていた」
「はあ......」
「でもね」
さくらさんは、そこでフッと複雑な表情をする。
「鷹男さん、いくら私が誘惑しても絶対キスしてくれなかったの。キスだけは、本気の相手としかしないって言われちゃったわ。もしあそこであの言葉を言われていなかったら、私ブライアンを捨てていたかもしれない。鷹男さんに傾いていたかもしれない。鷹男さんのあの一言が、あの夜私の理性を引き戻してくれたの」




ゴオーン、とゴングで頭を殴られたような気分になった。





つか、今、さくらさん何て言った?




『キスダケハ、ホンキノアイテトシカシナイ』




鷹男が?




じゃあ、俺とのキスは?






俺の頭の中がクラクラと霞みだした。
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