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紅色吐息 Ⅱ    06.03.2007
 俺はスタッフに色々と指示を出しながら自分のカメラを弄っていた。

夏の水着の撮影。
撮影第一段階は、スタジオで。
モデルは佐々木翠の他に、3人。
水着と言っても競泳用なんかではなくて、一般向けな柄物やビキニが中心だ。
数年前からBREEZE社は女性用の水着の開発に力を入れてきた。それが、アメリカの有名なファッション雑誌で取り上げられ、日本に逆輸入する形になり人気に火をつけた。

「うわああああ!!こんなんぜってームリっすよ~~~」
着替え室の奥から翠の絶叫がこだまする。
「これズラっすか?え?えくすて???」
相変わらず、煩い。
俺は不機嫌な顔でカメラの位置を定めると、モデル達の用意が出来るのを待った。

自分はラッキーだったと思う。
父親は有り余るほどの金を持っているし、腹違いとは言え兄貴が会社を継いでくれているし、自由気ままに好きだった写真に打ち込む事が出来る。
去年卒業したアメリカの大学ではフォトグラフィーを専攻したし、インターンで向こうの会社で経験を積む機会にも恵まれたし、それに日本に帰ってきた今も兄貴や親父のコネで仕事は簡単に入ってくる。
BREEZE社の専属フォトグラファーとして、春夏秋冬の新作の企画制作に携わり、ショーやウェブサイトの管理も手伝っている。


モデルの用意が出来たらしく、俺は再びカメラを弄った。


が、一瞬呼吸が止まった。


佐々木翠がセット入りした途端、俺は彼女から視線がそらせなくなってしまった。


俺の知っている男らしい佐々木翠ではなくて、その日の彼女はエクステで編んだらしいロングヘアをフワリとカールさせ、女の子らしい化粧をして、セクシーなビキニを着用している。
その顔に浮かんでいる仏頂面さえなければ、明らかに他のモデルより整った目鼻立ちで目を引いた。

佐々木翠の引き締まった尻から腿のラインを見てしまい、俺の股間に一気に熱が集まるのを感じた。

「ジロジロ見てんじゃねーよっ、紅!!」
翠は俺に指をさして睨む。
「なかなか、女の子らしくなったじゃん」
俺は高鳴る心臓をを抑えながら、からかう様に言葉を返す。
少し声が掠れた。
「ゲロ吐きそーだぜ」
翠は更に不快そうに眉をしかめる。
「仏頂面は、カメラの前では止めてよね」
俺はそう言うと、プロらしく指示を出した。


その日から、オトコオンナとばかり思っていた俺の翠を見る目が少し変わった。気づくと悔しくて恥かしい事に、俺はあの日の翠の肢体を連想して自分の熱いものを夜な夜な扱くようになっていた。

それだけでは無く、翠の事をもっと知りたい、もっと近づきたいと感じ始め、その感情がいつしか彼女に抱かれてみたいと思うものに変わっていった。

普通男なら女を抱きたい、と思うのが道理のはずなのに、自分でもその発想はおかしいなと首を傾げた事もあった。

佐々木翠が同性愛者という事実があったからなのか、
あるいは俺が産まれ持った性癖なのか。

とにかく、俺の中の妄想はどんどんと膨らんでいった。

気づくと、その人のことを考えている。
そんな単純な行為が『恋』だって気づくのに、何ヶ月もかかってしまった。


そしてついに数ヶ月経ったある日、俺は駄目もとで翠に訊ねてみた。

俺を抱いてみてくれ、と。





 昼間だっていうのに、新宿は蟻地獄の蟻みたいな人でごった返っていた。
よく器用に人をぬって通っていくよ。
俺は新宿に到着して3分しか経っていないのに、既に人酔いして気持ち悪くなっていた。

今日俺と翠が向かったのは、歌舞伎町にあるそういったモノを扱う風俗店。
通販で買っても良かったけれど、翠と一緒に買い物が......デートが出来るっていう事実が俺は嬉しかった。

「なあ、紅って家から出る事あんの?」
翠は今日もジーンズにパーカーを羽織っていて、セクシーのセの字の欠片もない。
でも、俺達のルックスはかなりの人目を引くらしい。
「あの子達、カワイイ!」
とか、
「一人怪我してるみたいだけど、あの二人モデルかなあ?」
やらの会話を通りすがる度に耳にする。
いつもは不快に感じるそういう視線も、翠となら嫌な気分にならなかった。

「たまにでかけるけど、滅多にない。全部ネットで事が済むしさ」
「じゃあ、俺の買い物にも付き合え。疲れたら休憩取るからさっ」
「翠使える金あるの?」
満面の笑みだった翠の顔が一瞬にして悲しげなものに変わる。
「……ねえよ。ウィンドーショッピングしかねえな…」
俺は苦笑しながら、翠の後についていく。


「ここだっ」
と翠が入っていった店は、路地を曲がった所にあって表通りからは見えない場所に隠れて建っていた。
如何にも、というコテコテ装飾に、店の中のマネキンの衣装が……かなりヤバイ。

「味付きのコンドームも買うか?」
店の中の際どい商品を眺めていると、翠がカウンター横の小さな箱からコンドームを何枚か取り出す。
「それが必要なのは翠でしょ?」
と、言いながらも興味をそそられて俺も幾つか手に取った。


「紅さあ、ぺニバンなら俺幾つか持ってんぜ?」
色んな玩具を手にとって眺めていると翠が俺に話しかける。
「翠が他の女に使ってるのなんてキモくて使って欲しくない」
俺は顔を顰めながら答える。
「ふうん。それならしょうがねーけどさ。でも、細めの買えよ」
「細っ……」
俺は真っ赤になって周りを見回す。レジの店員には聞こえなかったようだ。
「お前まだ慣れてないし。なるべくならあんま拡張とかもしない方が良いぞ」
しごく真面目な顔で翠は俺にアドバイスする。
「し、しないよっ」
と言って、俺は細めのバイブと翠用のぺニバンを購入した。



「あ、アヤ?わりいわりい。やっぱ明日無理だわ。そ。バイト。え?分かった。日曜日ならいいのか?ああ。じゃあなっ」

翠は店から出ると、女の1人に電話をかけていた。
こういう時、翠が遠い人間のように感じる。
俺の知らない世界の住人だって、再確認させられているような気分になる。
「またアヤって子?他の子に比べてよく電話してくるね」
俺は嫌味を含んだ声音で言う。
「うざくないの?」
「うーーーーん。ちょっとだけな。多分もうアヤとは長くないと思う」
珍しく翠が溜息をついていた。

と、その時。
ドンッと俺の体に誰かがぶつかった。
俺はバランスを崩してそのまま転んだ。

「どこ見てんだコラぁ~~~」
不良崩れの男が、俺に向かって啖呵を切ったらしい。
らしい、と言ったのは、俺は転んで下を向いていたから。

「てめえこそどこに目つけてんだああああ!!!」
と、俺の頭上で翠の声がした。
「あああ?何だこのカマやろうはぁ?」
「カマじゃねえよ、ハゲ野郎っ。こいつが松葉杖ついてんの見えねえのかアホンダラ!!」
俺の頭上で二人が言い合っている。
「翠っ。いいよっ」
立ち上がった俺が止めようとするのも聞かず、翠は男に啖呵を切り続ける。
「紅は黙ってろっ。この礼儀知らずに礼儀っつーのを教えてやんねーとなっ!!」
「でも......っ」
「〇×〇×〇×だからって道を譲るなんて規則はねえんだよ!!」
男が俺を差別的な名前で呼んだのが引き金になったらしい。
翠が見た事もない程真っ赤になって怒って、男に飛び掛った。

うわあ。殴り合いになっている。
確かに筋肉はあるけど、翠はああ見えても女だ。
男の繰り出すパンチを器用によけてる。

が、気付いたら翠は一瞬のうちに男へアッパーカットを決めてぶっ飛ばしていた。
「紅、逃げるぞ!俺に掴まれ!」
翠は俺の前で屈む。
俺は恥もプライドも捨てて、翠にお姫様抱っこをしてもらった。

翠の首にしがみついているとはいえ、俺の体重と松葉杖と買い物した玩具とで、かなりの重さになっているはずなのに、翠は物凄い速さで走って路地を突っ切っていく。

俺は向かい風を感じながらここぞとばかりに彼女の見た目より柔らかい体にしがみついた。

翠の鼓動が聞こえる。
俺以上にその鼓動が早鐘を打ってる。

首筋に顔を埋めた。
彼女の肌は暖かくて、スムーズで、汗なのか適度に湿っている。

心地よい。
それに、何故だかとても愉快な気分になって、笑い声が自然に出てきた。



花園神社に着くと、翠は俺を下ろしてはあはあと肩で息をついた。
「これ、すんげー運動量だわ。ちょ……つれえ。腕ツルかと思ったっ」
俺はさっきの勇ましさとは打って変わって泣きそうな顔で舌を突き出しながら呼吸を整えている翠をみて、再度笑い声を上げた。
「あの男、翠のアッパーカットで泡吹いてたよ」
「まじ?ヨワッチかったな~」
翠もあははと笑っている。
「翠、走れメ〇スみたいだった」
「何だよそれ!!全然嬉しくねえよっ。ゴールしたら死んじまうじゃねえかっ」
「ほめ言葉のつもりなんだけど」
「なってねえんだよっ」
言いながら、俺達は腹を抱えて笑い転げた。

その笑いが突然「あ」と止まった。


俺は翠の視線の先を追う。

「あ」
俺も声が出た。

男と手を繋いで神社の境内を歩いている美人がこちらを振り向いたからだ。



翠は小さく呟いた。
「さくらさん……」
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