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万雀一鷹 Ⅱ    06.02.2007
 それは、月に一度の慣わしだった。

パークホテルの最上階のフレンチレストランに赴き、名目上の婚約者、石田さくらとディナーをとる。

「わざわざこんな事して頂かなくても良いんですよ?本当に形ばかりの婚約なのに……」
俺は『婚約者』を前に、静かに食べ物を口に運ぶ。
「申し訳なくて……」
彼女の視線を感じる。
「石田先生の御容態は?」
ワインに口をつけながら、俺はさくらに問う。
「全然良くならなくて…多分、もう長くは…」
1ヶ月前に倒れた彼女の父親の容態は、思わしくないらしい。
彼女の声が消え入るように小さくなり、小さな吐息が漏れる。
俺は頷きながら、
「ならば、まだ続ける必要が有りますね。私の父の名誉と、貴方の恋人の為にも。それに……」
俺は意図的にそこで一度言葉を切る。
「私はこの月に一度の逢瀬を結構楽しみにしていますが」
そういって笑みを零しながらワイングラスを持ち上げる。
さくらも一応の愛想笑いを浮かべて、同じようにグラスを持つ。
「翠さんはちゃんとモデルの仕事をしていらっしゃるのかしら?」
「ええ。一度起用してから、うちの広報担当がえらく彼女を気に入りましてね。今彼女はちゃんとした事務所を通して仕事をしていますよ」
「モデル事務所?」
さくらは驚いたように聞き返す。
「彼女、月曜日のボランティアは欠かさないのだけれど、そういったお話は私に一切してこないから……。でも、良かった。翠さん、お金が必要と言っていたし、モデル業が少しでも足しになるといいですね」
お金、という言葉をさくらが口にした時、俺はタルタルステーキを咀嚼していた口を一瞬止めた。
が、平然を装う。
「よく、ああいう娘を見つけましたね。あなたも」
「うちの貴重なボランティアです。日本人はボランティアって定義がいまいち分かっていないみたで、皆見返りを求めてすぐ辞めてってしまうけれど、彼女は大学で取っていたボランティア活動のクラスが終わっても続けてくれているんです」
「見返り、ですか?向こうはボランティア以上の事を貴方に望んでいるように私は見えるのですが?」
「どういう意味でしょう?」
さくらは笑顔で小首を傾げる。
頭の良いさくらの事だ。分かっている筈である。
「そういう意味ですよ」
俺はまた彼女に微笑みかける。
「うちの社の女子どもはあの娘が来る度にキャーキャー騒いでいます」
「でしょうね。とても中性的で魅力的だものね。翠さん」
さくらも俺に負けじと微笑み返してきた。

月に一度彼女と会い、食事をして、他愛ない会話をして、それきりである。

食事を終えると、その後のスケジュールが詰まっている俺は、待たせていた車に乗り込み次のアポへ向かう。

親が勝手に決めたこのくだらないゲームに、親父の面目の為に一応付き合ってはあげていた。
ここ5年以上も。
だが、そろそろ終止符を打つ時期にさしかかっていた。




 「社長。こちらが6月から各店一斉展開予定の夏のスイムウェアの広告のコピーです。ビルボードや雑誌に載せるそうです」
秘書課の社員が俺のオフィスをノックし、中に入ってきた。
茶封筒を俺に手渡して、さっきまで飲んでいたお茶を片付ける。
「ご苦労。あ、森尾君。金曜の予定はどうなっている?」
俺は明らかに俺より年上の秘書課のお局と呼ばれている森尾に確認する。
「金曜の朝出張先の大阪から新幹線で戻られましたら、2時から今期の棚卸の件で各部門担当者とミーティングで御座います。6時はボウフラックス社の横峰様と打ち合わせを兼ねたご夕食が有り……確か、以上で御座います」
「宜しい。有難う」
俺はそう笑顔で伝えると、彼女がオフィスを去ったのを確認して置かれた茶封筒を手に取った。

紅が撮影した、夏の水着の広告。
モデルは言わずもがなあの女だ。

だが、写真を見て思わず唸り声が出た。

前回始めてモデルを経験した時は、ユニセックス物だったからかあまり化粧気が無く、ほぼあの佐々木翠のままだった。

が、今回の水着では、他のモデル達に混じり海を背景に楽しそうに微笑んでいる。
しかも、エクステか何かの長い髪の毛。
若い客層をターゲットにした柔らかめの化粧。
フリルのついたビキニの水着。

まるで、女だ。

勿論、他のモデルに比べ胸も無いし、割れた腹や腰のライン、内腿には筋肉がつき過ぎている。背も一番高い。

だが、彼女が一番人目を引く何かを持っていた。



写真を眺めながら、佐々木翠との夜を思い出す。



2度目は確か、俺の家だ。
「うおーーーーっすげーーーー!!!」
タンクトップにジーンズ、ブーツ姿の佐々木翠は、サングラスを外すと俺の家を眺め回す。
「紅のマンションもすげーと思ったけど、あんたの所は更に輪をかけてすげーよっ。ここって噂の…億ション?」
「俺の寝室はこっちだ。シャワーを浴びるか?」
いちいち反応を示す猿のような小娘に苛立ちを覚え、俺は腕を引く。
「うわっ、あの人お手伝いさん?」
台所を片付けている人影を指差しながら佐々木翠は俺に尋ねる。
「そうだ。俺の…シェフだ」
言いながら、女を寝室に連れ込む。
「うおーーーーーここもすげーよっ!!!」
俺の閨の中でも、家具一式を眺めながら感嘆の声を漏らす。
「なんだこれ?カーテンか?」
ベッドの上の天井から釣り下がっている帳を指差しながら佐々木翠は部屋の奥に置かれたベッドの周りを一周する。
俺は
「シャワーを浴びるぞ」
と言って着ていたスーツを脱いだ。

シャワーと言っても、寝室のベッドからガラス張りで丸見えのものだ。
俺はシャワーを浴びながら、俺の寝室を珍しそうに確認している佐々木翠を眺めた。

未だに、俺の体には一切の魅力を感じないらしい。
こちらを振り向く気配も無ければ、彼女からは緊張感すら感じられない。
タオルを腰に巻いてシャワーから上がっても、壁にかかっている絵画に目を向けたままだ。

「お前も脱げ」
との俺の命令を聞いて、やっとこちらを振り返る。
「門田…鷹男。えーと、まず、金を振り込んでくれて有難う」
頭を掻きながら、照れたように佐々木翠は俺に礼を言った。
呼び捨てなのが、この女らしい。
「何度も言うが、残りの500万は契約期間を終えた…つまり20ヵ月後だ」
「分かってる」
「週に一度『男』に抱かれ続けるのに、慣れる事が出来るかな」
フッと俺は鼻で笑う。
「慣れるしかねえんだろ?」
サングラスを手近にある箪笥の上に置くと、服を脱ぎ始めた。

さて、今日は何をしようか?
俺は頭の中でこの女をどう料理しようか考える。
そうだな。
イッた所を見せてもらおうか。

俺は裸の佐々木翠を見やる。
「こっちへ来い」
聞き返しながら、彼女を薄青緑の帳が垂れ下がったベッドへ誘う。
「まだ、泳げるのか?」
何故かふと思いつき、佐々木翠に問う。
「筋トレと交互で一日おきに。もう前みてーに一日5時間とか出来ねえし」
俺は質問を変えた。
「今付きあっている奴は居るのか?」
「何でそんな事聞くんだ?お前に関係ねえだろ」
佐々木翠は煩わしそうに答える。
「性的関係を持つ相手から病気をうつされたくは無いからな。相手の閨事情を知る権利は一応あると思うが」
「ゴム無しでこの間は俺を犯った癖に」
「まさかとは思うが、妊娠したなら私生児1人養う財力は持っている。悪いが、これからはつけさせてもらう。互いのためにも」
女の顔が更に不快気になる。
「今は、2人しかいねえよ。俺はタチの方だから......」
言っている意味を即座に理解し、俺は頷く。
「なら、良い。断っておくが、俺も2人、お前以外に相手が居る」
「ふうん。俺にも変なもんうつすなよ。んで、今日は何?さっさと済ましちまおうぜ」
俺は、腰に巻いていたタオルを取った。
「さて、と。ではそうだな。自分で自分を触ってみろ」
「はああ?」
佐々木翠は眉を顰め口を開けて俺を食い入るように見つめる。
「聞こえなかったのか?」
俺は片方の頬を引き上げる。
「聞こえた。それで?」
「俺の前でイってみろ」
女の顔がみるみる赤くなる。

恥かしがりながらも、怒っているな。
面白い。
いい案だ。
この女は羞恥系には弱いらしい。
いい事を知った。

佐々木翠は唇を噛み、ベッドに横たわる。
「出来ねえよ。お前に好き勝って触られた方がましだ」
「そうか」
俺は足元に移動して、女の両足首を掴む。
「なら尚更お前の自慰行為が見たい」


そう言って、長い足を押し開いた。
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