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未年の朝 2-6    12.15.2008

……気まずい。

あたしと一馬は、一つしか敷かれていない布団の前に、向かい合って座っていた。

さっきのカラクリ部屋からずーーーーーーーーーーっと無視、シカトで仏頂面の一馬は、絣さんが寝室に案内して一通り説明をし終えると、とっととオイトマしてしまった。

「か、厠でも行こっかなぁぁぁ~~」

とそろそろと逃げ出そうとしたあたしを、普通より3オクターブくらい低い声で、

「話がある」

と一馬は呼び止めた。

びくぅぅぅっと振り返ると、腕を組んで胡坐をかいて、超眉間に皺寄せてメンチ切ってる(ってか、あたしにはメンチ切ってるようにみえた)。

っつか、二人だってのに、ロマンチックの欠片もないよ。

あたしは親に説教される子供のように肩を竦めてそろそろと向かいに正座する。

「視察団に紛れるとはいえ、お前は金鉱がどれほど危険な仕事か知っていて引き受けたのか?」

唸り声みたいな声のまま、一馬はお堅い表情一切変えずそうあたしに告げる。

危険?

危険なの?

デンジャラスなの?

あたしは頭をフリフリする。

はあぁぁーーーーーーっ、とイヤミったらしく一馬が呆れた溜息を吐く。

「鉱夫の殆どは元罪人か職にあぶれた両人の成り下がりだ。労働は過酷で、齢二十で働き始めた鉱夫は四十まで生きながらえん」

「…え………」

マジっすか。

って、言葉を失っているあたしを見て、また溜息をつきながら首を振る。

つまり、ハードコアな仕事の上、ハードコアな男共の集まりって事だよね。

えー、あのー、何か今更ながら怖くなってきたんですけど。

しかも、明日出発。

断っとけば良かった、なんて後悔先をたたず。

そーんなあたしをよそに、一馬は続ける。

「しかもお前が女と分かれば、いくら殿のご同行とはいえ、飢えた虎の中に兎を放り込むようなものだ。只では済まされぬぞ」

だーーーーーーーー!!!

もういいって!

レイプされちゃうんでしょ!!

今もんのすごぉぉぉぉーーーーく後悔してんだから、追い討ちかけないでよ!

「一馬も来るんでしょ?」

「当たり前だ」

自信なさそーに聞いたあたしに、一馬は間髪を空けずにぴしゃりと返す。

あ、ちこっと安心感。

「だが……」

あたしの目の前で腕組んでいる一馬は、すごみのきいた声で緩みそうになっていたあたしの気を引き締める。

「その南蛮人共の『手がかり』さえ掴んだら、とっとと江戸へ戻るぞ。よいな?」

あたしは、上下にあたまをフリフリする。

一馬は、一瞬顔を緩めて、また不快そうに眉間に皺をよせた。

「あの怪しげな小部屋で、お前は若殿と何をしておった?」

さっき以上に険しい声で、一馬はあたしを問い詰める。

「あれは、さっき言ったでしょ?一馬から逃げてたら転んで気づいたらあの部屋に来ちゃったの。そしたら、政輝が、その……太一って人と○×△してて……」

ジーーーーーーーーーーーーーーーーっと腕組んだ体勢のままあたしを伺っている。

こ、怖いっつの!!

朝帰りした娘の父親か、あんたは!

「ホントだってば!!絣さんも盗み聞きしてたから、聞いてごらんよ」

「忍びを生業としている男は、滅多な事では口を割らん。だが分かった。お前の言葉に偽りは無いようだが……若殿のお前に対する態度が気に入らん。隙を見せるのではない」

「見せてなんか居ないよ!自分だってさっきは……」

はっ、となって、一馬の首筋から胸元を見る。

うっすらと……。

「そ、そーーんなヒッキーまだくっつけて、へ、へ、変態!!種馬男!やりちん!!!!」

「種馬だと?」

「そうだよっ。腕にだって歯形がついてるじゃんっ」

一馬は袖を捲り上げて、腕をあたしにみせる。

「これの事か?」

「そうだよっっっ」

あたしは思いっきり嫌そうな顔をして、一馬のおっかない隻眼を半眼(ってか白目?)状態で睨み付けた。

「お前を探しにこの城に戻って来た。が、お前と会わせぬ為の若殿の策略であったのだろう。商売女のナリをしたくの一で時間稼ぎをさせられておった」

「そそそそそれでヤリたくてやっちゃったんでしょ?スケベ野郎!浮気者!!!」

浮気者?

思っても無い言葉が口をついて出たよ。

「最後まで、という意味ならば、案ずるな。途中で女の首の筋を外して逃れた。この歯形はそのときのものだ。それに……浮気者、と罵るのであれば、お前と殿はどうなのだ?」

「首の筋を外した??!女の人の?!?!?」

それ、女の人に暴力振るったって事?

明日香さん、暴力は反対だよ。

「相手は普通の女子(おなご)では無い。訓練されている、忍びだ」

「いやだからって、暴力はいけないでしょ?」

「少し眠らせただけだ。命に支障は無い。それより、俺の質問に答えておらんぞ」

うっ、鋭い。

話題逸らしたの、バレた。

「政輝が何考えてるかなんて、知らないよ。こっちだって、迷惑してんだから。あたしはただ……」

だって、元居た時代へ帰る方法が分かんないから……。

突然立ち上がった一馬はあたしの横に立って、ぽんっと手をあたしの頭に置いた。

「帰る方法なら、俺も一緒に探してやろう。何か他に方法があるかもしれん」

「……うん」

一馬の声が、さっきよりちょっぴり優しい響きを帯びた。

 

 どれ位たったんだろ。

いや、多分数秒だと思うけど。

突然、このだだっ広い部屋の中の、目の前の一組の布団が気になりだした。

「…………」

気まず~い、沈黙。

「あー、えーと、一馬、床で寝てよ。布団はあたしが使うから」

早いもん勝ち!と言わんばかりにあたしは布団の横を陣取った。

一馬は、フンッと鼻を鳴らした。

「悪いが、俺も長旅で疲れておる。江戸からここまでろくに休みもせず来た。それに、この城では夫婦(めおと)で通しておるのを忘れたか」

えっえっえっ??

って感じで一馬に押し倒される。

あっという間に、組み伏せられていた。

「なっ…やめてよ!花町の女の方がいいんでしょ?」

「今宵は、お前でも良い。それに、もう一度試してみようとは、思わんのか?お前の時代とやらに、帰れるかもしれんぞ」

う。

やっても駄目だろうってのは予測がついてるのに。

拒否すべきなのに、身体が一馬を欲しがってる。

お腹に押し付けられた一馬の分身が、どんどんと大きくなってる。

あたしの熱も、下肢に集中し出しちゃってるし…。

「お前は、これが欲しくないのか?…あの花火の夜、お前も楽しんでおったではないか?」

目と鼻の先の、一馬の熱い息を肌に感じる。

「い……痛くしないでよ?」

あたしは、真っ赤になった顔を横に逸らして、言い返した。

つか、ヤリたい。ヤッてください、って肯定してるようなもんじゃん。

最悪だよ。あたし。

「当たり前だ……」

耳元で低くつぶやくと、一馬があたしの首筋に顔を埋めた。

帯を解くのにそれ程時間はかからなかった。

あたしに激しくキスしながら、器用に片手で結び目という結び目を探り当てられて、解かれる。

あっという間に、合わせを広げられて、襦袢も取り去られた。

「えーと、灯り消して頂けると有難いんですけどーーー」

一馬の前で裸になったのが急に恥ずかしくて、今までそんなに明るいと感じなかった灯りが気になりだした。

「俺は、構わん」

一馬は言いながら、身体を離してあたしをじっと見つめた。

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