スポンサーサイト    --.--.--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
タイムリミット    11.27.2007
“タイムリミット”

「What the Fuck!!」

女の大声がダンスフロアに響いた。
アフロのウッキーこと、宇治木芳彦は
「ほえ?」
と間の抜けた声を出した。
女は通り過ぎようとしたウッキーの腕を掴んで睨んでいる。
『あんたあたしにぶつかっておいて謝りもしないの?』
その澄んだ声の持ち主は、褐色の肌に黒々としたロングのストレートのヘアをした、小生意気そうな黒人の女の子だった。


先ほど何者かにチョークスリーパーをかまされ、里美に逃げられ、そのままクラブのトイレの前で暫く眠っていたウッキーは、探しに来た仲間に起こされフラフラしながら彼らが陣取っているダンスフロアの目の前のテーブルに戻る途中であった。

が、嵐を巻き起こすのがこの男である。

力なくヨロヨロになって歩いていたせいか、飲み物を持って歩いていたこの少女にぶつかってしまったのだった。

『あんた、そんなアメリカナイズされた格好なのに英語も分からないの?』
少女はグラスの中身の大半を溢してしまったらしく、恨みがましくウッキーを睨んでいた。
「ちょっと、弁償しなさいよ。」
女の子はウッキーが英語を理解していないらしいと判断し、日本語に切り替えた。
「あぁ?」
ウッキーは少女が日本語で喋りだした途端、先ほどまで放心状態だったにも関わらず、
「テメーがぶつかってきたんだろ、ボケッ。」
と、でっかいアフロを整えながら突然方眉を上げて睨んだ。

情けない事に弱そうな者には限りなく強いのがこの男である。

が、その一言と共にパシャッと彼の顔面に水しぶきが上がった。
「あんた、口の利き方を習った方がいいわよ。シスター怒らせるとこわいんだからね。」
持っていたドリンクをこのアフロ男にぶっかけ、小柄ながら腰に手をあて、アーモンド形の瞳で睨みながら少女はウッキーなんぞに全然動じず啖呵を切った。



「おまえさあ~、ちょっと変なんじゃねぇの?」

ウッキーと一緒に来たクラブ仲間のボビー(日本人)は、翌日ウッキーから新たな恋の病に侵されていると聞かされ呆れていた。

「ドリンクぶっかけられて啖呵切られてハイヒールで思いっきり足踏まれて消えた女が気になるなんて、変わってるとしか言いようがねぇよ。前の里美といい、ちょっとお前Mの気があるんじゃね?」
「そんなことはねーよ。俺はぶりっ子とかは嫌いなんだよ。」

そういいながら櫛でアフロを梳いているウッキーは、ずっとあの褐色の少女の事が気になっていた。

あの夜、ウッキーに啖呵を切った彼女は一緒に来たらしき友人に
「やめなよ、ニベア。基地の外で問題起こすとまずいからこんな奴置いて行こうよっ。」
と、止められそのままクラブから姿を消した。
米軍基地の人たちも御用達のヒップホップを流す有名なクラブなので、シスターやブラザーはよく見かける。
なので毎週毎週イベントがあれば同じようなクラブに出現する可能性はあった。

が、またあの黒真珠(ブラックパール)ちゃんと会える可能性など万に一つあるか無いかだ。

所で。
このウッキー君なのだが、こんなこてこてのBボーイファッションでごっついアフロをしてはいるが、素顔は某有名大学の法科で真面目に勉強している、なかなか男前で健康な男子なのである。
だがしかーし、その「来るものを拒んで去るものを追う」アブノーマルな変態的性格と、本人しか気に入っていないでっかいアフロがネックとなっていて、女運に恵まれていないらしかった。


まあ、それはともかく。

ウッキー君の新たなターゲット探しはその日から始まった。
毎週末彼女と出合ったクラブに顔を出した。

彼はクラブの前で下手なイラスト付きでニベア用の尋ね人のビラまで配った(まあ、そこまでする辺が彼が普通の人と違う所なのだが)。

効果が何も無いと思いながら虚無的に一ヶ月過ごしていたある日の事。

幸運は突然やってきた。
例の彼女、ウッキーの夢の黒真珠ちゃんことニベアが彼の大学のある〇王子駅の雑踏の切符売り場に居たのである。

褐色の肌と長い黒い髪はその場の人間が全てぼやけて霞んでしまうほど美しい輝きに満ちていた(ウッキービジョン)。

「うおうっ!!マイブラックパールベイベー!!!運命だぜ!!!」
と、彼はスキップしながら改札口へ向かった。

案の定…というか、彼女はウッキーを一目見るととても嫌そうな顔をした。
「あんた…。」
〇王子で買い物をしていたらしく、彼女は買い物袋を幾つか下げていた。

「よう、俺達赤い糸で結ばれてるんだな。また会っちまったぜ。」
ウッキーはアフロをポリポリと掻きながら照れている。
「この前は悪かったな。俺別にお前に悪気があったわけじゃねーんだぜ。」
少女はふっくらとした唇を尖らせて眉根を寄せた。
「運命って……あんた幼稚園児が書いたみたいな、変な似顔絵付きのビラをクラブで配ってたでしょ??そのせいで友達からは笑われるわ、基地の中で顔が知れ渡っちゃうわで大迷惑してんだからねっ。」
「あ、わりぃ…。俺も必死だったんでよー。」
とのウッキーの言葉を聞いてか聞かずか。
プイっと顔を背け彼女はそのまま彼の横を通り改札口へ向かった。
ウッキーは無言でついてくる。
彼女が駅の構内で電車を待っていても、ずーっと後ろに立っていた。

「んもうっ、何?何で付いて来るの?あたしに何の用?あんたと話せばあたしを解放してくれんの?」
苛々の頂点に達したのか、彼女は向き直った。

「っつーか、話してーんだよなー。」
「……電車が来るまでだったらいいわよ。」
困惑気な表情をしているウッキーを見て溜息をつくと、彼女は近くにあったベンチに腰を下ろした。

「俺、ウッキー。宇治木芳彦ってんだけど。」
「ニベア。ニベア・真理子・ガーナー。」
自己紹介してきたウッキーに不精不精な声音でニベアは答える。
「んで?話って?」
さして興味もなさそうにニベアは驚いた表情のウッキーを促す。
「いや、日本語うめーなって思って。」
「名前聞いてなかったの?あたしのママは日本人だし。ずっと横田で生まれ育ったから。……あんた幾つ?」
「俺?23。」
不器用そうにウッキーは答える。

こういう普通の会話となると、実は外見に似合わず真面目になってしまうのだ。

「へえ~。あたしは17。今年の5月でハイスクールは卒業。」
大人びた色気のある肢体に喋り方だったので、自分と同い年くらいだと思っていたウッキーは、年齢を聞いて驚いたらしく眼を丸くしている。
「お前、まだ高校生だったのか?」
「お前って言わないで。あたしの事ニベアって呼ばなきゃ話さないから。」
ニベアは言いながら長い髪の毛をかきあげた。
「わ、わりぃー。ニベア。」
「よく出来ました♪」
ウッキーは横目でチロチロと隣のニベアを観察した。
クラブの薄暗い光の中では良く見えなかったが、こうして昼の太陽に照らされてみると思った以上に美少女である。
高めの頬骨と小さめな鼻は、彼女にアジア人の血が流れている証拠であった。

その頬を可愛らしく吊り上げてニコリとニベアは微笑んだ。
ウッキーはその姿が眩しくて目を細める。

もう、彼の頭の中では結婚を通り越し将来の明るい家族計画が進んでいた。
彼女に似た息子はきっとハンサムに違いないなどと勝手に妄想していると、構内に電車が来るとのアナウンスが流れた。

「はい、時間切れね。電車が来るわ。」
ニベアは持っていた手荷物を再び持って細身の体になだらかにラインを描く肉付きの良い腰を上げる。
それを見てウッキーは鼻血が出そうになった。
鼻を押さえているウッキーをニベアは顧みる。
ふっくらとしたグロスの輝く唇がウッキービジョンには100倍拡大されて映った。

いつか、キスしてみてぇ…。

「もし、私にまた会いたかったら、あのクラブに今週金曜日行ってあげてもいいわよ。ただし…。」
ニベアは、ぐわしッ、と乱暴にウッキーのアフロを掴む。
「お願いだから、うざったいこれ編むか何かしてね。その方が似合うと思うし。」
「お、おうっ。」
電車の中で手を振るニベアにつられて電車が通り過ぎるまで手を振っていたウッキーがその直後、知り合いのサロンに駆け込んでいったのは言うまでも無いだろう。

嵐を巻き起こす男が再び一騒動巻き起こしてくれそうであった。





あとがき:もっち、ニベアちゃんのモデルはクリ〇タル・ケイちゃんでしょう!OSEIお気に入りのキャラだったので…番外編書いてしまいました。
サーバー・レンタルサーバー カウンター ブログ