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Set It Off     05.31.2007
 今思えばあれは一目惚れなんかじゃなくて、単なる憧れだったのかも知れない。


大学の授業の一環で、非営利団体のボランティアをする事になり、たまたま俺のグループのボランティア先が、さくらさんこと石田さくらが運営する「ラブパープル」だった。

「はじめまして、石田です」
と、大きな瞳で真っ直ぐ射られ、片手を差し出されて俺は一瞬面食らった。
その正直で意志の強そうな瞳に釘付けだった。
「あ、握手は変か。ええーっと、3ヶ月お願いします」
俺よりも10センチは背の低いさくらさんは、ペコリとお辞儀をする。
長い黒髪がサラサラと零れる。
「あー......佐々木翠です。こちらこそ、お願いします」
俺もペコリと頭を下げた。

大体俺に会った人間は、俺のナリでドン引きしちまうか、反対に興味丸出しで質問の嵐を浴びせかけてくる。
だが、このさくらさんはただ俺の目だけみて微笑み、
「それなら、こちらへ」
と『作業所』と呼ばれている場所へ誘った。

仕事は主に寄付で集めた要らないオモチャの梱包と、それを各国の似たような団体に送って恵まれない子供達に使ってもらう、という単純なものだ。

何よりも驚いたのは、さくらさんが28歳という若さで人を集い、この団体のリーダーとしてボランティアや人を動かし運営していたという事実だ。
もちろん、元政治家だったという彼女の父親の財源やコネがあったおかげでもあるだろうけれど。

彼女はよく
「お金や物はある所から分けてもらうのは当然だわ!」
と豪語している。
なるほど、お嬢様だっていう自分の立場を弁えて、それを最大限に利用している。

大した女だな、と思うと同時に、もう少し彼女のことが知りたくなった。

「水泳やってるんだって?」
ある日、同じような梱包作業中さくらさんは俺に問いかけた。
「あ、はい、あたしは競泳の方なんすけど」
あたし、の一人称を使用しながらもどかしさと違和感を感じる。
「ふうん。その体、ものすごく鍛えられてるわよね。絶対運動何かやってると思って他の子に聞いたら、水泳選手だよって教えてくれたから」
細身で、上品な外見にも係わらず、長い髪を結い上げ、ホコリがついたTシャツとスウェットパンツ姿の桜さんは、そう言って「ふう」と軍手で汗を拭う。
そんな姿も育ちの良さか、上品だ。
ドキッと俺の心臓が大きく打つ。
やべえな。
「私、知り合いで...あ、知り合いって言うか、この団体のスポンサーの一つで、まあビジネスパートナーみたいな友人が居るんだけど、その人が今モデルを探してる、って言ってたのを思い出してね」
「モデル...ですか?」
背がなまじ高いせいか、こんな俺でも町を歩いていればたまにモデルやら何やらのスカウトは来る。
「あたし別にモデル業には...」
興味ないし、と言いかけた所で
「BREEZEって会社知ってるかしら?スポーツ用品の」
とのさくらさんの言葉に先を越されてしまった。
「え?BREEZE?」
知らない筈は無い。知り合いの競泳選手も何人かスポンサーとしてついている、日本一のスポーツ用品会社だ。
「そう。BREEZE。何か来年の夏向けようにユニセックスなスポーツウェアを開発したらしくって、そのモデルを選考中って言ってたのよ」
「はあ」
うーんと考えて、さくらさんはポン、と手を叩く。
「翠さん、今週の木曜日の夜、時間取れるかしら?」
「え?あ、は?」
彼女の可愛らしい仕草に目が奪われてしまった俺は、素っ頓狂な返事を返してしまう。
「も、もちろんっす」
突然、さくらさんに誘われた、という現実に舞い上がり、二つ返事で即答した。







「何おしゃれしてんのお?」
木曜の夕方、授業と筋トレが終わると俺は、約束の時間の3時間以上も前から鏡の前で入念なチェックを入れていた。
ドアをノックもせずタメの山田が棒付き飴を舐めながら寮の俺の部屋に入ってくる。
こいつのアホ面に皆騙されるが、俺は最初からこいつの本性を見破っていた。
しつこくて、負けず嫌いで、物凄く頑張り屋だって本性を。
この大学では俺の親友だ。
「決まってんだろ、女と会うんだよ」
「佐々木ホンメイ出来たの?」
目を見開いて、山田が驚く。
「ちげーよ。でも、大事な女」
「翠の女第3号?4号?」
こいつ、俺が三股四股かけてるの知ってるし。
「うるせえよ。お前、練習ねえのかよ?」
「来月から1ヶ月合宿だよう。ミーナに会えなひ~~~~」
うううっと大げさに声を上げる。
ミーナ、とは山田が約一年前から付き合っている年上の彼女だ。
「じゃ、俺がミーナさん面倒見ててやる」
「駄目ーーーーーーーーーっ」
即答。
「さ、佐々木フェロモンすごいとかミーナ言ってたからぁ、絶対近寄らせないもーんっ」
はあっ、と俺は息をつく。
「結局お前らラブラブじゃねえか」
山田はへへへっと嬉しそうに微笑む。
犬みてえ。
「プロジェクトジュニア発動中だよ~ん」
「プロジェクトジュニア?」
俺は鏡の前でムースを髪につけ整えながら、適当に聞き返す。
「そ。次のオリンピックで金メダル駄目だった時のヨボウ線!その名も出来ちゃった婚ケイカクーーーーっ」
「ミーナさん知ってんの?」
「知るはずないよう~~。俺のしーくれっとプロジェクトっ!」
俺は頭を振って山田をしっしと追い払う。
ミーナさんも大変だ。
こんなデカイ子供1人でも大変なのに、孕まされて2人目できちゃったら。
ルンルンで鼻歌を歌いながら部屋を出て行く山田に
「今年もFINA頑張れよっ。行けなかった俺の為にも」
と声をかける。山田からは、
「らじゃ~~~っ」
とピースサインが帰ってきた。
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