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思考回路宇宙人だし
人の話聞かないし
単純ミジンコだし
おまけに他力本願と来た。

タロはテレビ横のDVDを発見して、1つずつ手に取る。
「すっげーなあ。ぜーんぶ英語だあ」
その中の映画数本を取り出して、タロに見せる。
「コレとコレ。翻訳手伝ったの。こっちはメキシコ映画」
「メキシコ?メキシコって、英語?メキシコ語?」
「スペイン語です!」
「ミーナはスペイン語も出来るの?」
「あのねえ、こういう翻訳会社は最低3ヶ国語以上が完璧じゃないと雇ってもらえないのよ。バイリンガルなんて石投げれば道端にゴロゴロ転がってる時代よ」
うおーーー、すげーーーー!と感嘆の声を上げて、タロはまじまじとそのDVDを見つめる。

あたしは、そんなタロをそっと観察した。
ちょっと頬がこけて、顎周りがいちだんと男らしくなった。
相変わらず日焼けした浅黒い肌。
クチャクチャだけど、ちゃんとカットされた塩素で毛先が茶色くなっている黒髪。
スイマーだけあって、広くがっちりとした肩、上半身。
185cm?はいってそうな背丈。

成長したね。

「ねえミーナ。ちょっと寮に連絡しようかなぁ。した方がいいよねー?」
「当たり前でしょ。番号知ってるの?」
「うん。確かどっかに......あった」

スポーツバックを丸ごとひっくり返して、ガサガサやっているかと思うと青い紙切れを探し出した。

ああもう、床にゴミも屑も全部散らばっているし(泣)。
明日掃除しよう。

「俺ケータイ持って無いんだけど...ミーナ貸してくれる?」
「今時携帯持ってないの?」
「うん」

うんじゃないだろう。
何て不便な!
でも、野生児のこの子なら100%あり得る話だ。
彼のエージェントとやらも大変だ。
数々の失踪事件を起こしているこの子を捕まえるのは。

そういえば、この間のAQUAMAN7のメールも全部ひらがなだった。
きっと指一本でキー打って、変換とか使い方を知らないのだろう。
「いいよ、ホラ」
チャージしていた携帯をタロに向かって放り投げる。
オーブンの中のグラタンのタイマーがピピピと鳴ったので、あたしは再びキッチンへ戻った。


「ハイ。ハイ。ハイ。......多分そうす。あ、ハイ」
夕飯を狭いダイニングのテーブルに用意して、リビングのタロを呼びに行くと、彼はまだ電話中のようだった。
あたしが来たのを確認すると、電話の相手に「スミマセン」と断ってあたしに向き直る。
「ミーナ、ここって最寄り駅T駅だったけー?」
「そうだよ」
あんた電車使ってここまで来たんじゃないの?
と、喉まで出かかった言葉を抑える。
タロは再び電話に戻る。
「T駅だそうです。ハイ。ハイ。えっとー、多分10時までには行けると思うっす。ハイ。ハイ。分かりました」
すばやく会話を終えて、携帯をあたしに返す。
「ありがとーっ。助かったあ」
「何だタロ。あんたまともに喋れるじゃん。ちょっと体育会系っぽかったけど」
喋り方トロいし、常識無いし、いつも他人との会話がどうなってるのか疑問だったんだよね。
「当たり前じゃーーーー!!タテ社会で何年生きてると思ってんだよぉ!」

そうだよね。
スポーツの世界って上下関係厳しいもんね。

そう言えば、オリンピックのメダル取った時の記者会見も、口数少なかったけど“普通に”喋っていた。
「大人になったね、タロ。成長したよ。お姉さん感心した」
小さなアパートの中の、2人も居たらキュウキュウのキッチンへタロを呼んで、これまた小さなテーブルで2人ご飯を食べる。



こうやって2人でご飯も...12年ぶり?両親が外出時の留守番の時以来よね。
あの頃はあたしもピチピチのティーンネージャーだったし、タロはまだあたしの半分位だった。

テーブルの向こう側のタロを見上げると、相変わらずワンコのような垂れ目と目が合った。

にかぁ
愛嬌のあるスマイル。

「ミーナはずっと同じ。ずーっとずーっと、俺にとっては大人で遠い世界」
「そりゃああんたより8つも年上だもん。大人ですよ。8歳の差を近道されてたまりますか」
あたしは熱々のグラタンを火傷しないようにフーフーしながらゆっくり口に運ぶ。
「歳なんて関係ないよ。ただの数だもん」

数じゃないだろ。
数だったら、年々深くなる眉間の皺や張りの無い肌、ホウレイ線を説明してくれ

「でも、ミーナ全然変わってない。外も中も。俺のミーナのまま」
「うそ?ちょっとすっごい嬉しいんですけど。お世辞でも嬉しいかも」
「お世辞じゃないよーっ。俺、お世辞とか言えないもーん。......でも」
タロはグラタンも野菜もぺロリと平らげ、皿を突き出す。
「おかわりっ」
「おう。どんどんお食べ。お姉さん大サービスしちゃう」
「わーい♪やったね!」

再びグラタンと野菜を一気に食べつくしてしまったタロは、先ほどひっくり返したスポーツバックの(ゴミの)中から薬瓶のようなものを幾つか取り出す。
「それ、ビタミン剤?」
「そうだよ。あとー、アミノ酸。キンニクの素。むっきむきぃ~」
タロは水無しでゴクリと数錠の錠剤を飲み干す。

「あっ、そうそう、んで、俺が言いたいのはぁ~」
話......まだ続いてたの?
「でもあと少しでミーナの世界に行けそうだな~、って事」
「あたしの世界?」
「ミーナの世界」
はあ。

そうちんぷんかんぷんな事を言うとタロは
「デザート、デッザートォ~~♪」
と冷蔵庫の中を開けデザートの物色を始めた。



食事の後。
駅までの道順と乗り換え案内をわざわざ地図にまで書いてタロに手渡したあたしは、「帰りたくないよー」と愚図るタロの背中を押して、さっさと家から送り出した。

タロが寮に無事着いたかどうかが心配で、30分もの間ずっと悶々とすごしていたあたしは、食器洗いを終えリビングを片付けていると、テーブルの上に置きっぱなしになっている2つの金メダルに気づいた。

「こんっな大事なモン忘れて......。ほんっと馬鹿なんだからもう!おばさんに叱られちゃうわよ『また無くし物』って」
プンプンと怒った所で、溜息をつく。

ああ、馬鹿はあたしだ。
だって、なんかタロに会って、昔と全然変わっていなくって、タロはタロのままで......。

何故か安心した。




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