とある平日の夜。
「水名子あんた聞いた?」
久々、且つ突然母親から電話が来た。
その日はタロがあたしの家にお泊りする日で、2人でご飯を食べた後、あたしはレモンチューハイを、タロは麦茶(彼はまだまだ未成年)を飲みながらテレビを観てまったりしていた時だった。
「隣の山田さん所の太郎君、東京で彼女が出来たそうよ」
ブーーーーーーーーーーッ。
思わず鼻から口からチューハイが噴出す。
「ごほっごほっごほっ」
「ミーナぁ?!ど、どうした......フガッ」
鼻から液体を垂らしたまま、大声を出しそうになるタロの口を押さえる。
じょ、情報早すぎだしっ。
「しかもそのお相手、年上の女性だそうよ。山田さん大喜びで赤飯チャーハンなんてものまでメニューに出して、近所でもその噂でもちっきりなのよ」
「へ、へえ......」
あたしは鼻を拭って、再びチューハイを口にする。
「水名子、あんたどこの誰だか心当たり無い?」
「さ、さあ。タロって年上が好みだったんだ」
「やっぱり東京は魑魅魍魎とした大都市じゃない?誘惑も出会いも多いでしょ?きっと太郎君もチェ・〇ウみたいな素敵な女性と東京タワーとか六本木ヒルズとか、表参道ヒルズとかでドラマチックな出会いをしたのかしら?」
おばさん、日本と韓国のドラマの影響受けすぎだよ。
しかもその『素敵な女性』はあんたの娘だし。
「そうかもね。あたし知らなかったけど」
「しかもここだけの話......もう婚約しているらしいわよ」
ブホッ。
またまた鼻からチューハイブーのあたし。
「そこまで......話が進んでるの?」
あたしすら知らなかったよ。
「あら、山田さんがそうおっしゃってたわよ。でも太郎君、お相手のお名前を絶対言わないそうなの。お母さん、実は誰か有名な芸能人かモデルじゃないかっ、て踏んでるんだけどね。ホラ、太郎君TVにもたまに出てるみたいだし」
いや、それあたしですから。
と、言いたいのをグッと抑える。
「だから水名子、情報集めておいて頂戴。一応お母さん心当たりあるタレントさん何人か居るけど......わかった?太郎君に会ったらそれとなく聞いておいてくれる?あんたも早くいい人見つけて、お母さん安心させて頂戴ね」
「はいはい。またね。おやすみ」
と、超勘違いな母親にさっさと別れを告げて、あたしは隣で話を盗み聞きしていたタロに向き直る。
「タ~~~~ロ~~~~~~!!!あんた余計な事を~~~~~(怒)!!」
青筋立てて電話を握り締めているあたしを見ても、タロはケロリとしている。
「うちの母ちゃん赤飯チャーハンなんて先走ってんねぇ」
ソファにもたれて、頭の後ろで手を組んでいる。
「先走ってんねぇじゃないでしょ。あんな釣りと昼のメロドラマとワイドショーしか娯楽がないど田舎は噂話しか楽しみないんだよ?ある事無い事言わないの!」
「俺もう少しして、ホトボリが冷めたら言うよー。ミーナと付き合ってますっって母ちゃんにぃ。ホントは今すぐ皆に言いふらしたいくらいだゾ」
「でも、婚約なんて所まで話飛んでるよ?先走りもこの上ないよ!」
「だってしたじゃん」
「は?」
いつ?
「忘れちゃったのぉ?もう12年以上前から、俺がヲトコ(漢)になったらミーナは俺と結婚するって話になってたじゃーんっ。もー俺ミーナのおかげで大人のヲトコの仲間入りだし。俺の純潔ミーナに捧げちゃったからねぇ。責任とってねーーっ」
にかあ、とタロは破顔する。
「婚約指輪買わなくちゃ♪」
「ヲマエはいつの時代の処女みたいな事言ってんじゃーーーーー!」
タロはあたしの飛び蹴りをかわして抱きしめた。
完