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 6月8日、金曜日。

C県にある県民総合体育館前には、あたしみたいな一般ピーの観客やら選手やらその関係者やらマスコミやらの人で溢れかえっていた。

この手の大会は来るのも見るのも初めてなので、一体どこへ向かったら良いのかわからない。
タロの指定した時間前に到着したあたしは、早速翠さんに電話した。

が、電話は直行で留守電になる。

あれー?
と思いながら携帯のディスプレイに視線を落とすと、知らぬ間に1件留守電が入っていた。
圏外だったのかな?

「ミーナさんですか、佐々木です。山田の馬鹿が一昨日あたしの携帯ぶっ壊しやがったんで山田の携帯から電話しています。会場着いたら山田の携帯に電話ください。お願いします」
とのメッセージを確認して、早速タロの携帯に電話をかける。

タロが......出たらちょっと気まずいかも。


「あ、ミーナさん!あたしです。今どこですか?」
良かった、翠さんだ
何故か安堵で脱力する。
「翠さん、お久しぶりです。あたし、えーと南口って書いてある入り口のそばにいるんですけど...」
「そうですか。じゃあ、そこで暫く待っててくれませんか?あたし急いでそっち向かいますから!」
相変わらず、シャキシャキして元気そう。

数分もしない間に、上下ジャージ姿の翠さんが建物の中から走ってきた。
相も変わらず、男らしい

「お久しぶりでーす、ミーナさん」
男の視線であたしを一回りチェックすると、
「今日もおキレイですね」
セクシーに微笑む

女のあたしにも、眩しい笑みっ。
きゃーーっ。
あ、あたしあっちの世界に行けちゃうかも......。
男なんてやめてビアンの世界でデビュー決めようかな。


「翠さんも相変わらずお元気そうで。一昨日はバタフライで優勝なさったんですって?おめでとう御座います」
「有難う御座います。自由形の400mは散々でしたけどね」
翠さんはあたしにW大の関係者用首かけネームタグを手渡して、中に誘導する。
「あ、前の時もそうでしたけど、今回もタロ...太郎君の事で色々とご迷惑おかけしてすみません。あたし、こういう所右も左もわからないものですから......」
「あ、いいんですよ。あたし山田には借りあるし。あ、でもあいつあたしの携帯ぶっ壊しやがったからもう無いか。聞きました?山田昨日の平泳ぎ散々だったんですよ」
「え?」
聞いてないよ。
「もう最悪。決勝最下位だったんですよ」
「タロ...が?」
「昨日は一日中沈んでたし、何かあったんですかねー。せめて1個位何か取っておかないと、日本代表の選考漏れちゃうし。まあでもあいつ強いから大丈夫だと思いますけど」

うっ。
何故にあたしが......責任感じてんだあぁぁ???

ポン、と翠さんはあたしの肩を叩く。
「ま、今日会えたら応援の言葉の一言二言いってやってくださいよ。あいつブタもおだてりゃ木に登る単純な男っすからー」
はっはっは、と破顔一笑の翠さん。



「あのー、試合前にタロに会う事って、出来ませんか?」
あたしは何となくタロに会わなきゃいけない気がして、駄目もとで翠さんに聞いてみる。
「え?今、ですか?」
翠さんも流石にちょっぴり驚いて、あたしを顧みる。
「あ、でもムリですよね。ムリならいいんですよ。ちょっと聞いてみただけなんで」
腕を組んで顎に手を置いて一瞬思案した翠さんは、
「うーん。ここの先の階段登ればすぐ座席なんだけど.........。じゃあ、駄目もとで控え室行ってみましょっか?」
ニヤリ、と意味深な笑みをこぼして、あたしの腕を引く。
あたしたちは座席とは正反対の廊下を走った。




翠さんは選手控え室用のロッカールームの前にいたスタッフらしき人物に一言二言話をつけていた。

やがてそのスタッフが控え室の中に消え、1分もしないうちにI P●Dで音楽を聴いて首にタオルをかけているジャージ姿の背の高い見知った青年が姿を現す。

タロだ。


「あ」

タロはあたしを見るなり、目を見開いて固まる。

あ、じゃねぇよこのヤロウ。
「タロ、鼻フックしていい?」
「ミーナ何してんのぉ?......ふごっ

あたしは背の高いタロの鼻に指を突っ込んで(汚っ)フックをかます。

いや、いかんせん背の高い男なので、フック状態にならずあたしの指が2本突っ込んだままの状態になっている。

最下位になってんじゃないわよっ。言ったでしょ?鼻フックかますからって!」
そう言って、あたしは指を引っこ抜く。
タロの首にかかっているタオルでその指をキレイに拭う。

一瞬凍りついた翠さんやスタッフも、一斉に忍び笑いをもらし始める。

「いきなり何なんだよミーナぁ~~!!!」
タロは鼻を手で拭いながら、あたしを凝視する。

驚いている。

「男は有言実行じゃなかったの?余裕とか言っておいて、失態さらしてんじゃないわよっ」
あたしは腕を組んで、タロを見上げる。

吃驚していた顔が、だんだんと笑みに変わる。
「ミーナ来てくれたんだぁ。あーんな事言っちゃったから今日は来ないかと思ってた」
「来てあげたわよ。来てあげたから、今日は1個位メダル取ってよねっ。じゃないと、あたし観に来た意味ないし」

「あのー、山田さんそろそろ50mの時間なのでご用意していただかないとー」

あたしとタロの間にスタッフが割って入ってくる。
翠さんも、あたしの袖を引っ張った。

「山田、頑張れよ。行こう、ミーナさん」
翠さんがタロに向き直る。
「そうだよタロ。頑張らないと......」

頑張らないと?
あたし何を言おうとしてるんだ。

「もう、除隊だからねっ。口利かないからねっ」
あたしはそう吐き捨てる。

「らじゃ~~~っ」
タロは大きなスマイルをあたしに返して、あたししか知らないりんどう町ジャングル隊の敬礼をした。



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