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 あたしのベタなモノマネは坂口さんのツボにはまったのか、最初は抑え気味だった笑いもだんだんエスカレートして、しまいにはお腹を抱えての大笑いになった。

「あたし、アメリカに居た時、母がよく日本のビデオレンタル屋で日本のビデオ借りてて、金〇先生も一緒に観ていたんですよ。いいですよねー、ああいう熱血教師。アメリカであんな学校外で生徒の私生活に関与したら、即、クビですけどねー」
「僕も昔観ていましたよ」
笑いからやっと開放された坂口さんは、ワインでのどを潤す。
「ああ、本当に水名子さんといると楽しいです」
コトン、とグラスをテーブルに置く。
「そうですかぁ?あたしの事、うざがっていませんか?」
あたしもグラスを持ち上げて、ワインを味わう。

「そんな事ありませんよ。あの、改めて......なんですが」
坂口さんが、眼鏡の中央を指で押し上げた。

心なしか、落ちつかな気だ。

「あんな見苦しい姿を晒してしまったのに、今更ながらの話なんですが......その、改めて僕とお付き合いしていただけますか?




ぶほっ。




口から鼻からワインが吹き出す。
あたしは慌ててナプキンで口元を拭った。

お付き合い......?
「お付き合い......ですか?え、それは...ちょっと買い物に付き合って、みたいなお付き合いですか?それとも、男女のお付き合い......の方ですか?」

ああああ、あたしったらアホな質問を!
答えわかってるくせにぃぃぃぃ。

「もちろん、お互いそれなりの年齢ですし、結婚を視野に入れた男女のお付き合いの方ですよ。その...最後に水名子さんにお会 いした時、確かに僕はもし違う時期にあなたと出会えていたなら、と思っていました。恵の事もありましたし......。でも気付いたんですよ。もうこだわ る必要が無くなった、と。僕の中であの...あなたにあんな事をしてしまった夜から、既に何かが変わっていたんです。肩の荷が下りたと言うか、呪縛が解け たというか、何かがスッと軽くなっていた。もし、今からでも......この申し込みが遅くなければ、の話ですが」
坂口さんは頬を染めて、気まず気にコホン、と咳払いする。

「あの、えーっと......」
あたしも気まずくなって、下を向く。


こんな、こんないきなりっ!!!


女として冷静な目で坂口さんを見る。

容姿端麗もあって、髪の毛もフサフサで、引き締まったボディー大学院出の頭だったら中年太りリストラからは程遠そうだし、ちょっと暗い過去とかあるけど、それもまたそれで魅力的だし、良いパパになりそうだし、恵さんの事もそうだったけど、きっと死ぬまで一生大事にしてくれそうな、結婚相手には何一つ不足無い、ミスターパーフェクトだ。

ただ、あえてあたし達に欠けているものと言えば......燃え上がるような恋心?


「僕は水名子さんに惹かれています。男として、精神的にも......肉体的にも」

ああ、そうだ。
この人は読心術に長けてるんだった。

でも、肉体.........。

かあああああああああぁぁぁぁぁ//////

あの夜の色っぽい坂口さんの顔と声があたしの脳裏をかすめる。

はあ、はあ、落ち着け、あたし。
あたしの方は...まだ心の準備が出来ていない。
それは明らかだった。

でも何で?
あたしはこういう男の人を探していたんじゃないの?
ずっとこういう言葉が欲しかったんだよね?
だからネットで色々と出会いを求めていたんだよね?

.........坂口さんみたいな男性を。


エステとジムに巨額の富投じて通って(ローン返済組んで)、心も体も、この時の為に準備しまくってたじゃん。あたし。

ああ、混乱してきたっ。
「正直申しますと...タロとの事もありましたし、あまりにも性急で......」
「水名子さん、…そうだな、明々後日の8日辺りは空いていますか?」
「え?」
明々後日?
坂口さんは電子手帳を開いて予定を確認する。
「8日の金曜日です。夕方、仕事の後にお会いできますか?」
8日は何かあったような...?


タロの大会だ。


「夕方以降なら多分......」
何故かもうタロの大会に行くと心の中で決まっていて、その為に会社に在宅勤務願い(=仕事ばっくれ)を出してしまっていた。

タロとはあんな事になってしまったのに。
今更......。

「良かった」
坂口さんはそう微笑むと、緊張から解き放たれたように椅子の背にもたれた。





車で坂口さんに自宅まで送ってもらった。
車内では、仕事の事から恵さんの話まで、他愛無い会話で盛り上がった。
なるべく、お互いの動揺や感情を押し殺して。


「8日の金曜日、楽しみにしています」
家の前で車を停めると、坂口さんは真摯な顔で、あたしを見た。
「おやすみなさい」
とあたしは笑顔を作って、車から降りた。


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