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 なんやかんやでもう5月も終わりに近づいていた。


メイクアップアーティストの陽子は、グラビアアイドルの撮影だかなんだかで長期出張中だし、あれ以来タロからも連絡が途絶えた。

かく言うあたしも、イベントやらコンベンションやらの通訳の仕事が立て続けに舞い込んできて、忙しい毎日を送っていた。

一度、地方のホテルに滞在していた時、再度タロのCMを目にした。
仕事を終えて、滞在先のビジネスホテルに戻って、ベッドに横になっていたある夜。
特にやる事も無かったので、ふとテレビのリモコンのスイッチを押した。

40代男やもめが20代のピチピチ美人と結婚して、ラブラブ新婚生活のはずが色々と邪魔者が入り...?!みたいな若者よりむしろ日本中の中年のおっさん達が憧れそうな内容の連ドラ観ていると、タロの『リフレッシュマン』のコマーシャルが流れた。

「......そういえば、あたしタロがプールで泳いでいる所、生で見た事無いかも」

テレビスクリーンのタロの顔を見つめる。
ああ駄目だ。
最後に見た、タロのマジな顔とダブって見える。
『俺の事、大人の男として見てた?ミーナ変わったよ』
タロが放った最後の言葉の数々が蘇る。


動悸が速くなる。

駄目駄目。忘れよう。


テレビの中のタロは、飛び込みの体勢をとっていた。
それにしても。

競泳水着って、面積少なっ。

......。

気づくとあたし、画面の中のタロの股間に釘付けだし。


ヤバイよ。
明らかに前と違う目でタロを見てる。

ある意味、アイドル水着合戦でおっぱいポロリを期待するおっさん的スケベ視点じゃないのーーーーっ。

あ、あ、あたし、この水着の下の怪物(モンスター)がどんな大きさや形してるか知ってるんだからっ。
もう、あ、あ、あーんな風になってるのとかも見ちゃったんだし、釘付けで何が悪いのよ。ねえ?

『リフレーーーーーッシュ!』
タロの笑顔がドアップになり、次のCMに移った。



あたしは麦茶でも飲もうと、キッチンへ向かう。
コップに注いでテーブルに腰掛ける。

気づくとまた過去にあたしの意識が逆戻りしていた。


昔、タロがあたしを追って初めて裏山の木に登った時。
「俺、やったどーーーー!!」
と喜ぶタロを見捨てて、あたしはさっさと木から降りた。
登ったはいいけど大木から降りられなかったタロは、泣きそうになりながら無言であたしにヘルプを請っていた。

あたしはそんなタロをシカトして、木の下でずっと漫画を読んでいた。

どれ位たってからだろ?
結構長い間タロを放置していると、頭の上から水が降ってきて、あたしは「うわあ」とその場から飛び退いた。

木の上のタロは、股間を押さえて泣いている。
トイレが我慢できなかったのだ。
あたしは慌ててタロを木から降ろした。
「俺、ジャングル隊やめるぅ。ミーナなんて大嫌いだぁっっっ
と恨みがましい声でそう叫ぶと、タロは家の方向へ走り去った。

その後数日間は「お腹が痛い」という理由でタロはあたしの子守りを断った。
おばさんの話によると、あんながっつきのタロがここ数日まともにご飯を食べていないという。

1週間後、あたしはタロの家へいつもどおり迎えに行った。

足の踏み場の無い汚い部屋で、独りプラモデルを組み立てていたタロは、あたしを見るなり困ったように眉をハの字型に下げ、「行くよ」と誘うあたしに大人しく押し黙ったまま、後をついてきた。

最初は、あたしの木登りの件での意地悪を恨んで不貞腐れた様子のまま、『無視』『しかと』のささやかな反抗で対抗していたタロも、1時間後には今までどおりの元気一杯なタロに戻っていた。



「なーーんで最近昔の事ばっか思い出しちゃうんだろ」
しかも、タロとの思い出ばっか

もう連絡も来ないだろうし、せいせいじゃない?
これでまたネットデートの世界に戻れるのよ?

渋谷原宿で徒歩デートなんかじゃなくて、あたしに合った、大人の男達とのめくるめく出会いが待っているのよ?

夜景のキレイな部屋の窓際のソファーで、ワイングラスくゆらせて白のバスローブ羽織った男と、寝室を数本のキャンドルで照らして、真っ赤なランジェリーとガーターで身を包んで花びらの散っているベッドの上で男を待つあたしとの、情熱的な恋のアバンチュールが待っているのよ?(←妄想しすぎ)


ぷはーーーーーーーっと麦茶を一気飲みする。

さ、PCでもつけようかな。
チャットでもしようかな。
ネットデートの世界に戻ろっかな。
ついでにエステの予約も入れとこっかな。
と腰を上げた時。

たんたらりっらたんらんら~~~~♪とあたしのテーマ『天国と地獄』が流れる。
これは...非通知コールだ。


もしかして......タロ?

何故だか、咄嗟に電話に出ていた。
「もしもし?!」
思った以上に上擦った声が出てしまう。
電話の向こうの相手は一瞬間を空ける。
「水名子さんですか?お久しぶりです、坂口です」



数週間ぶりに聞いた、坂口さんの声だった。


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