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リメンブランス Ⅲ    05.21.2007
 高校2年の春。
あたしは学校の体育館裏で1つ学年が上の茶谷先輩から「つきあってください」と告白された。

数日後、「いっしょに下校しませんか」と茶谷先輩から誘われたあたしは、ヒューヒューと同級生の冷やかしを浴びながら、一緒に帰宅した。



あたしを家まで送ってくれた茶谷先輩が「また明日」と、踵を返そうとしたその時。


「イタッ」
ピシッ、と音がしたかと思うと、先輩が身を捩って小さなうめき声を漏らす。

ピシッ、ピシッ、と何処からともなく何かが先輩に向かって飛んでくる。


あたしは、すぐに犯人が誰だか見当をつけた。

「やめなさい!タロ!!!」
小俣家の塀の角にかくれているタロを見つけ、首根っこを持って引っ張り出す。

タロの手にはオモチャのBBガンが握られていた。
ホホを思いっきり膨らませて、茶谷先輩を睨む。
「ミーナ俺の“かのじょ”だぞぅ~~~~」
と目の前の先輩に銃を構える。

「違うでしょ!!何考えてるの、タロは!先輩、この子、隣の家の子で......」
「ちがうも~~~んっ。俺、ミーナの“おとこ”だもーーーんっ」
タロはあたしの言葉を揉み消す。


どこでそんな言葉覚えたんだ、このガキはぁぁぁぁぁ!!!



「何がオトコよ!泳げもしないくせにっ。先輩、この子、バイトで子守りしている家の子で...」
「ふええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇんっ」
と、説明しようと焦るあたしの言葉を再び消し去り、タロが大声で泣き出す。

弱り果てた先輩は、「またね」と言い置いて、そそくさと逃げ帰ってしまった。



その翌日、あたしは(つきあう前に)茶谷先輩から「やっぱりこの間の事は無かった事に...」と振られた挙句、学校中に『小俣水名子はショタコン』との噂を広められた。

そしてその後2週間、病気を理由にタロの子守りを断った。

タロはその間、寂しそうにうちの家の周りをチョロついたり、自宅の窓からあたしを眺めていた。









3年の夏。あたしは密かにアメリカの大学へ行くと決心した。

高校を卒業した年、運良くNYの行きたかった大学に出した願書が受理された。
こんな小さな町じゃ、そんな事も大ゴシップになってしまう。
母親が友人の一人に打ち明けた数日後、タロがあたしの家に駆け込んできた。

鼻水垂らして泣きまくったあとが顔に残っている。
「ミーナぁぁぁぁぁぁぁ、母ちゃんが、ミーナがアメリカの大学行っちゃうって!嘘だよねぇ?ねえっ?!」
「あんた、すっごいブサイク顔だよ」
洗面所から雑巾を持ってきて、ゴシゴシとタロの顔を拭ってやると、やがて落ち着きを取り戻して、タロはあたしの顔を覗き込む。
「行っちゃう......のぉ?」
「うん。ニューヨークの大学」
「にゅーよーくぅ?」
タロは「どこだそこは?」と言わんばかりに首を傾げる。
「タロの知らない所」
あたしは意地悪く、フンッとせせら笑う。
「ミーナの意地悪っ」
タロは不貞腐れたようにツンッと横を向く。
「あたしもあんたなんか大嫌い。弱虫なんだもん。ホラ、男は泣かないの」
再び泣き出しそうな目であたしを見上げる少年を見て、ちこっとだけ良心が痛んだ。

「帰ってくる~~~~?」
「そりゃ、帰ってくるわよ。年に1回位は」
「えーーーーーーっ。そんだけーーーーー?!」
タロの耳をつんざくような大声。
「帰ってきたら、タロんとこに遊びに来るから。良い子にして待っててね」
あたしはポンポン、とタロの坊主頭を撫でる。
「俺、待ってるぅ~~~~。ずーーっとずーっとミーナの事、待ってるかんねぇぇぇぇっ」
また大きな瞳をウルウルさせながら、泣くまいとタロは唇を噛む。
ププッ。猿みたいで可愛い。
「約束ね」
「指きりだよっ!!」
あたしとタロは指きりげんまんをした。



大嘘だった。


学校の休みに帰国しても、東京や京都や大阪へ遊びに行ったり観光したりして、実家のある田舎へは滅多に戻らなかった。
両親も何度かアメリカに来てくれたし、東京や大阪までわざわざ出てきてあたしに会ってくれたので、田舎に帰る必要は全く無かった。


戻ったとしても、町をあげての歓迎会なんてしかねない大田舎だったので、ゴールデンウィークの時のように、親にもギリギリまで内緒で帰郷して何度か周りを驚かせた。

アメリカの就職セミナーを通して受けた東京の外資系翻訳会社に職を得て東京に住み始めてからも、もちろんタロの事なんて一切頭に無かった。すっかり存在を忘れ果てていた。


......2年前に帰郷するまでは。







「小俣さん、この翻訳書類はどこへ送付すればいいんですか?」
名前を呼ばれて、ふと顔を上げる。
後輩がPCを前にぼんやりと呆けていたあたしの横で書類を抱えて立っている。
「あ、ごめんなさい。今会社のインフォ取り出しますね」
あたしはそう言って、席を立った。


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