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リメンブランス Ⅱ    05.21.2007
 それからだった。

太郎......ことタロという少年が、毎日毎日毎日毎日あたしの家へ遊びに来るようになったのは。

小俣家に上がりこんでは、珍しいアメリカの小物や食べ物、本やビデオを見つけ、あたしを質問攻めにする。
やがて全てを見尽くすと、今度は裏山やら川原やらお寺やら神社やら、果ては駅前の買いものにまで、毎日あたしの後にくっついてくるようになった。

「すいませんねえ。太郎は水名子ちゃんが気に入っちゃったみたいなんですよー。『ミーナは何でも知ってるゾぅ』って、まるで自分の話みたいに水名子ちゃんから聞いたアメリカの話を家に帰って自慢してるのよ」
流石に申し訳ないと感じたのか、タロのおばさんはある日タロをうちまで迎えに来るがてら、あたしと母親にお詫びの挨拶をした。

あたしはほくそ笑んだ。
もう来なくなるだろうと。

でも、大違いだった。

タロのおばさんはうちの母に
「うちは共働きだし、じいちゃんはもう歳で面倒見切れないから、水名子ちゃんに子守りをしてもらえないかしら?」
と改めて相談しに来たのだった。
月給4万円。
田舎の高校生にはけっこうな額だ。

その日から、あたしは正式にタロの子守り係になった。



子守り、と言いながらもあたしはタロを放ってあたしの好きな事をした。
駅前に買い物へ行って、小物を買ったり、本屋でずーっと新刊の漫画を立ち読みしたり、ジャングル隊と称して裏山の林の中で木登りしたり、川原で大人しく手紙を書いたり。

タロはどこへ行くにも、ついてきた。

はっきり言うと、14、5歳の少女に6歳の子供は『面倒』以外の何者でもなく、あたしは裏山の木の上にタロを置きっぱなしにしたり、川原でのザリガニハントの匹数ノルマをこなせなかったタロを川へ突き飛ばしてバツゲームしたり、子守りなんてやる気なしで思いっきり存在無視か、まるでドラマの姑みたいな意地悪でタロをしごき抜いた。


タロはへタレなアホの外見とは裏腹に、あたしが思った以上に辛抱強い負けず嫌いな子だった。

あたしは、こんな金魚のフンみたなガキ子供に四六時中追い掛け回される、プライバシー皆無の子守りなんて一日も早く辞めたくて、タロがおばさんにあたしの意地悪の数々をチクッてくれればと密かに願っていた。

なのにタロはどんなバツゲームにも、意地悪にも、冷たい仕打ちにも大人の誰にも愚痴一つこぼさなかった。

あたしの期待は大きく外れた。




高校が始まると、あたしの日課は週5日、学校が終わるとタロを『太勝軒』まで迎えに行き、夜の9時半まで面倒を見る、というルーティーンになった。







「今日、ジャ〇プ発売日だから、本屋行くよタロ!」
隣の家からタロを引き取ると、あたしはそのまま自転車に乗って制服姿のまま駅へ向かった。
「売り切れ前に絶対ゲットしてやるっ!」
毎週月曜日の午後は意気込んであたしの鼻息が荒くなる。
なにせ、隣町の住人も利用する田舎の本屋なので、本や雑誌の入荷数が少ない。
ゆえに、週刊誌は激戦を潜り抜けた勝者のみ手に入る(だけど後で学校でまわし読みされる)貴重品なのだ。
その日も、クラスメイトの男子達と悶々とした激しい心理戦(誰が今週ジャ〇プを手にするか!)を繰り広げていたあたしは、家に着くと着替える時間も惜しんで駅前に直行する。

「隊長、らじゃあ~~~~っ!!」
タロはあたしが自転車に飛び乗ると、りんどう町ジャングル隊(ミーナ命名)用の敬礼をしてあたしの後についてくる。

マッハで自転車を漕ぎながら、川原の横を通り過ぎると。

「ねえ、ミーナぁ。ユキオ君があっちでブクブク言ってるよう~~」

と、隣でポケ〇ン柄のミニ自転車を漕いでいたタロが、川を指差した。

心は既に駅前の本屋に飛んでいるあたしは、
「は?え?何?」
と反応に時間がかかってしまった。

タロの指差す方へ首を向ける。






キキキキキキキキキ~~~~~~~~~~っ!!!





と自転車を停める。
「ちょっと、あの子溺れてんじゃないのっ?!」
「ええ~~~?」
あたしは自転車を投げ捨てて、全速力で土手を駆け上る。

ユキオ君とか言う子供は、野球のボールを手にしたまま、水の中でバタバタやっていた。
あたしは周りを見回す。

大人は誰も居ない。
しかも、一緒に遊んでいたらしき子供達はユキオ君無視でカード遊びに熱中している。

あたしは迷わず、川の中へ飛び込んだ。

そしてその翌日、あたしの武勇伝は町内新聞に載った。



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