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デートin東京 Ⅱ    05.20.2007
 「ねえ、食べる時くらい帽子取ったら?」

30分並んでやっと入れた回転すし屋のカウンターに座った所で、あたしはタロの帽子を指差した。
「あ。コレぇ?オッケー。ああああっマグロ通り過ぎちゃったあ~~~~」
まだお茶すら出されていないのに、タロはもう1皿目のサバを食べ終えてマグロに狙いを定めていた。
帽子を取ると、毛先だけ赤茶けている
ペチャンコの黒髪をクチャッとかく。
「ミーナも食べなきゃソンだよー。せーげん時間30分だからねっ」
「はいはい」
超ハイペースで次々と寿司を平らげていくタロを横目に、あたしは何故か徐々に自分に集まりつつある視線に違和感を感じ始めていた。

あたし、もしかして今日眉毛書き忘れてる?
麻呂状態?
それとも、鼻〇ソが顔についてるとか?

そんな、あたしの女としてのプライドが……。
一応嫁入り前だし、いつ赤い運命の糸で結ばれた男が現れるとも限らないし、ちょっとお手洗いでチェックしなきゃ。


「ハイ。ミーナの好きなハマチっ」
ぼんやりと考えていると、タロがハマチをつまんであたしの口元に持ってくる。
「あ~~~~~~~~んだよ、ミーナっ」
「は、恥ずかしいでしょ、もう」
あたしはタロの手からハマチを奪うと、自分で口に運んだ。
「ミーナの恥ずかしがり屋さぁーん。でもいつか男のロマンの食べさせっこしよーねぇ。ミーナはメイド姿でぇ、俺の膝に乗ってぇ~~~~~~……」
「はいはいはいはい。それは永遠にないから。あ、アナゴだ。いただきっ」
こんなお馬鹿の妄想には付き合ってられません。

それにしても…。
お客さんのみならず、ベルトコンベーヤーの中でせっせと握ってる寿司職人まで、チラチラこっちを伺ってる。



あたしって、もしかしてそんな美人?



なーんてブスの大勘違い真っ只中で赤くなってるあたしを通り過ぎ、板長さんらしき人物が店の奥から色紙とマジックペンを持って横に居るタロに突き出した。

「山田太郎さんですよね?水泳の?サイン一筆いただけませんかね?ついでにお写真も…?」
「ホゲ?」
エビの尻尾が口から飛び出したマヌケ面のタロは、「いいですよぅー」と快諾する。
きったない字でサインをして、パチリと一緒に写真を撮ってあげていた。

「そう言えば、あんた有名人だったのよね」
その後、数人のお客さんと握手を済ませたタロに向き直る。

この注目は全てこいつにあてられたもんだ。
だから帽子を深ーーーーくかぶってたってワケね。
自分の大勘違いを深く恥じる。
「ミーナ、板長さんがタダにしてくれるってぇー。良かったねっ♪もーーーっと食べちゃおぅっと!」
隣で頭を振っているあたしをよそに、タロは15皿目に突入していた。




「おいちかった~~~~~。ちあわせ~~~~~♪」
お寿司屋さんから出ると、あたし達は再びどこへとなく歩き始めた。

タロはごく当たり前のように、あたしの手を探り当てて掴む。

……。
やっぱ図々しくなってるわ、コイツ。

何故か決まり悪くなり、照れ隠しのようにあたしは言葉を探す。
「そう言えば、よくこうやって2人で駅前の商店街まで遊びに行ったね。懐かしい。あんたなんてあたしの半分も背丈無かったよね」
チビだったタロは、あたしの歩調に合わせるのに精一杯だったのに、今はあたしがタロに合わせて早歩きしてる。

「ミーナ駅前の駄菓子屋でよく、う〇い棒とかラムネ万引きして……」
してません!!人聞きの悪い事言わないっ」
ガッ。とタロに蹴りを入れる。
「ううっ。暴力はイケませんヨゥ」
タロは泣きまねをしながらも、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

気付いたら、原宿に向かって代々木公園の横を歩いていた。

「タロさ、大学生活楽しい?この間タロが熱出した時、翠さんがあたしに知らせてくれたんだよ。いい友達持ったね」
「翠ぃ~~?佐々木の事ぉ?ああ、心配しないでミーナ。あいつ、れずびあんだから」
別に心配してないけど、それはモロ直感でわかりました。
メスを落とそうとするオスのにほひがぷんぷんしてましたから。

「今度翠さんと3人でご飯食べよう、って話したよ」
「むう」
タロは一瞬考えて、
「ミーナ佐々木に何か言われたっ?口説かれたっ?」
と、ちょっと焦った感じで問い詰めた。

「あー、ナイナイ。タロの事すごく心配してたよ、彼女」
ふうん、と呟いてタロはしばし押し黙る。
「他に…俺の事言ってたぁ?」
「別に。褒めてたよ。努力家だとか天性のアスリートだとか色々」
「他には?」
「他に?例えば?」
タロは「うっ」と言葉に詰まると、意味も無く帽子のつばを上げ下げする。

「ミ…ミーナの事……とかぁ?」
「うん。言ってた」
「え、ええええええええ??!!何て?何て??!」
タロはあたしに向き直り、手を握っていない方の腕を掴む。

面白い。
焦ってる焦ってる。

「あたしの事、色々と…」
「色々と?!」
「よく話してるって」


静止。



「それだけ?」
タロは間の抜けたように聞き返す。
「それだけ」
「そっかあ…」
ガクッと首がうなだれる。

ヲイヲイ。どんな事言ってんだ、あたしの事。
まあ、想像はつくけど、ね。

「公園歩こっか、タロ」
あまりにも公園の木々が爽やかなので、あたしはタロを歩道から公園内に引っ張った。
「うん。きっもち良いね~~~~~♪東京は公園の中も人がいっぱいだねぇ」
タロは大きく息を吸って伸びをする。
「ハナゲ伸びた?」
「伸びまっくり~~~~。この間“手入れ”したら俺、鼻の中切っちったぁ。鼻血ブーーーーのスプラッタ~~~!」
「馬鹿だね、相変わらず」
タロが鼻毛の手入れと格闘している場面を想像して、思わず噴出す。

相変わらず、握った手を離そうとしてくれない。
温かく、適度に湿っているタロの大きい手…。


ヤダ、あたし手の事考えてたら……全神経が手に集中しちゃってるしっ。
その上、ど…どきどきが……。



だああああああぁぁぁぁぁ~!!!!
こーんなコムスメコムスコごときにぃーーーーーーっ。

大人の理性、理性。
ふーっ、はーっ、と息を整える。

はっ。こんなシチュエーション。
幾度もの恋愛遍歴を誇る水名子さん(自称)には『中〇生日記』みたいに生っちょろいもんよ。

あたしなんて、日〇ロマンポルノ風エロロマン経験済みだしっ。
杉〇彩なんて目じゃないんだからねーーーーーっ。
ねーーーーーーーーーーーーっ。



しばらく公園内を歩いていると。
「ちょっとベンチで休もっかぁ?」
とタロが50m先の空いているベンチを指差した。


確かに……渋谷からずっと歩き続けていて、足が痛かった。





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