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ココロは雨模様 Ⅱ    05.20.2007
はあ?」
「あ、やっぱ山田の勘違いか。いえ、大学でもあいつ有名なんで、4月にここに通い始めてから何度か告られてんですけど、皆に『俺、コンヤクしてるから~』って断ってて、その度にフラれた子達あたしの所に来て『本当ですか?』って。笑止千万ですよね。あたし、男に全然興味が無いのに、よくつるんでるから皆があたしと勘違いする」

今、さらりとすごい事言ってなかった?
でも、やっぱり...と言うべきか......この娘、どう見てもヲトコ(漢)でしょ?

だてにゲイシティーで有名なサンフランシスコで14まで育ってないわよ、あたしも。
ゲイを見分けられるゲイダー(レーダー?)は普通の日本人より敏感だと思う。

「それで、山田に問い詰めたら『俺はミーナヒトスジだよ』って。12年も想ってるとか言ってましたけど」
翠さんは、はっはっはっはー、とまた女子プロレスラーみたいな笑い声をあげる。

「あ、ホラ、ここの階。突き当たりの406号室。アクアマンって書いてある部屋」
エレベーターの“開”のボタンを押したまま、突き当りの部屋を指差す。
「アクアマン…?」
いつだったかのメルアドも“アクアマン”だった。
「アクアマンって、アメリカのスーパーヒーローらしいんですけど、ほら、スーパーマンみたいな。あいつ偉く気に入って、ずっと自分で名乗ってるんですよ」
へえ。スーパーヒーローだったんだ。
アメリカに住んでいたけど、そういうのに全ッ然興味ないから、知らなかった。
やっぱ男の子だね、タロは。

「翠さんは一緒にタロの部屋に行かれないんですか?」
ずっと“開”のボタンを押している翠さんを不思議に思って、訊ねる。
「あたしは結構です。毎日顔あわせてるし、体が資本なんで、風邪うつりたくないんです。ああ、このケータイ山田に渡しておいてくれますか?他の寮生に迷惑かかるから、あいつ月曜からずっと隔離されてて、返しそびれてるんです」
カーゴパンツのポケットの中からタロの携帯を取り出して、あたしに手渡す。
「あの翠さん、色々有難う御座いました」
あたしは深々と頭を下げる。
「いえいえ。今度山田と3人で一緒にご飯でも食べに行きましょう」
翠さんは、女のあたしも思わず見入ってしまうフェロモンたっぷり魅惑的な笑みをこぼすと
「それじゃ」
とエレベーターで再び階下に降りていった。


“406 あくあまん”
と、ひらがなで大きく書かれた表札がかかっているドアの前に立つ。

なんでだろ。
胸が早鐘を打ってる、ってこんな感じなのかな?

心臓のドキドキが止まらない。


トン、トン、とドアを叩く。

「ふええ~~~~?」
と中から相も変らぬ間抜け声。
「タロ?あたし。入っていい?」

しーん。

え!?ミ、ミーナ?!ちょ、ちょっと待って!!ゴホッ」
ゴホゴホという咳の音と、ガサゴソと大きな物音がする。

エロ本でも隠してんのか、ヲイ?


と突っ込みそうになるのを抑えて、
「入るよ?」
とドアを開けた。


う......。




いつかTVのワイドショーで見た、ゴミ屋敷かココは!





タロの寮室は、漫画雑誌や作りかけだか部品が欠損しているプラモデルやらビデオゲームやらダンベルやらあちこちに脱ぎ捨てられたやら競泳用の水着やらゴーグルやら紙くずやら教科書らしき本やらコンビニの袋弁当やらそれらの食べかすやらで埋もれていた。

この部屋の主は、ジャージの上からハッピを着た格好に、顔の半分をマスクで覆って、ヨロヨロフラフラしたまま部屋を片付けている。

手遅れだっつーの。

「もう遅いよ。あんたの部屋が汚いのは昔からよーーーーっく知ってるんだから、病人は大人しく寝てる!」
「うう......」
と唸りながらタロはヨロヨロとシングルサイズのベッドの上に引き上げる。
体が大きいので足がベッドからはみ出てる。

「何しに......来たのお...?俺、あの日のことは謝んないかんね......」
ゴホゴホゴホッ!!
と咳き込みながらタロは呟く。
マスクの下の顔も真っ赤で、苦しそうだ。
「あんたの忘れ物、届けに来たよ」
「......それだけ?」
タロの眉が八の字になっている。
また捨てられたワンコの顔。

「......看病もついでにしたげる」
あたしはバックの中からハンカチに包んだメダル2つを取り出すと、授業のプリントなり紙幣なり走り書きされたメモなりのあらゆる紙束が乱雑に置かれているタロの机の上に置いた。
「.........ありがとぅ」
弱っているタロは、蚊の鳴いたような小さな声で礼を言う。
「あの...あいつは?眼鏡のアキ......ッゴホッゴホ!」
「ああもう喋らない!坂口さんの事だったら、アレ以来会ってないよ。えっと......洗面所は?」
部屋の中を見回す。
「......共同キッチン.........か...ゴホッ......シャワールームぅ...」
そうだった。
寮でしたここは。
「ちょっと待ってて、今タオル濡らしてくるから」
あたしは床に落ちていた“清潔そうなタオル”を拾い、共同キッチンとやらに行って水につける。
それをよく絞って、部屋のベッドに横たわっているタロの額に乗せた。タロが大人しくしているのを確認すると、窓を開けて陰気な空気の入れかえをしたり、床の上のゴミの山を片付けたりと、テキパキ動いた。

「ミーナ...やっぱ......やさし......ゴホッゴホッ」
一通りのことを終えると、タロのベッド脇に勉強机の椅子を持っていって腰掛ける。
「だから喋るなって。大人しくしてなさい!」
「......あい」
ベッドの布団の中のタロは少し嬉しそうに微笑む。
「何か欲しいモンとか必要なモンある?食べ物とか、ジュースとか?」
「......みーなが必要」
「ミーナ以外の物!」
「......ぶうぅ」
タロはマスクの下の口を尖らせて、つまらなそうな顔をする。


「あの、さ...」
タロが目を閉じているのを良い事に、あの日から言わなければ、と思っていた事を口に出す。
「この間カフェでタロが大声で言ってたこと...ずっと考えてたんだけど」



「タロはさ、やっぱタロで、あたしの幼馴染で弟みたいな存在でさ。だから....たの事......」
♪ジャンジャンジャンジャンジャーーーーーーーーーーーン♪!!!!!!!!


突然ステレオから大音量のハードロックが流れ、あたしの語尾がもぎ取られた。

気づくと、タロがステレオのリモコンをベッドから操作していた。

ジャンジャンジャンジャンジャジャジャーーーーーーーーーーーーーーンッ♪
「タロ、うるさい!人の話を......」(←音楽で聞こえない)



ピタ。

と音楽が止む。

タロは上半身を起こして、あたしに向き直った。
「......じゃあ、1回ッゴホゴホッ...1回デートしてよ。それで...駄目だって......ミーナがゴホッ...言うなら......俺考える...ゴホッ...よ」

ああ、この眼に弱いんだわ、あたし......。
『捨てないで』と言わんばかりの寂しげな表情。
タロの大きな目がウルウルしてる......ように見える。


「いいよ」
「え?!ゴホゴホゴホッッ」
「いいよ。1回だけなら。あんたがこんな風に風邪引いてんのも、どうやらあたしのせいみたいだし」
「うそ?ホントにぃ~~~~?!やったあっゴホゴホゴホゴホゴホッ!!オゲエ~~~~~~!!
パッと目を輝かせた後、辛そうにゴホゴホ咳を吐いたタロは体を捻ってあたしの首に抱きつく。

風邪を引いているせいか、とっても熱いハグ。
「ううぅ~~~。ミーナ俺、ゴホッ…うれじい"~~~~~大好き!」

あーあーあーあー。お姉さんこういうダイレクトな告白に免疫無いからっ。
「風邪うつっちゃうよタロ。離れなさいっ」
タロを押しのけ、立ち上がる。

顔が真っ赤じゃありませんように。
大人の余裕を見せて......。

コホン、と小さく咳払い。
「とにかく安静にして、治ったらあたしにTELしなさい。番号はあんたの携帯に載ってるから。OK?」
ポンッと翠さんから預かったタロの携帯を放り投げる。
反射神経でパッとキャッチしたタロは、
「おっけーいっ!ゴホッ」
と大きなタロスマイルをあたしに返した。





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