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他人のヒミツ    05.20.2007
 家で翻訳用のレポートのメモを取っていると、陽子から久々に電話が来た。

「最近どうなってんの?男達とまだデートしたりちちくりあったりしてるの?」
「ちちくりあうって何さ」
「色々イチャイチャやってるか、って事よ」
休憩、とばかりにあたしはペンを置く。
「今は坂口さんとしか連絡とって無いよ。彼とは今週末に会う予定だけど」
「坂口さんって?」
「M男の後、今デートしている研究者」
「研究者?何の?」
「ミジンコとか微生物」
「へえ」
陽子の反応があまりにもあたしのものと似ていて、思わず忍び笑いがもれる。
「つまんなそうでしょ。でも、会ったら結構良い人だった。顔も、眼鏡なければ美形。カッコイイよ絶対」
「それでその人とはデートだけ?」
「それも、まだ1回。たまにお互いオンラインだったらチャットするけど、ホントにそれだけ」
「ふうん。あたしさ、最近ちょっと思い始めたんだけど...」
陽子はもったいぶったようにそこでとめる。
「何?気になるじゃん」
聞き返しながら、あたしはデスクの上に開いていた辞書や書類を片付け始める。
「水名子“わざと”深い関係避けてんのかなーって。だから男コロコロかえてんのかなー、って」

いや、単にまともな男が居なかっただけで、別にコロコロとは...。

「そんな事ないよ。良い人が見つかったら、もう出会いを求めたりチャットしたりなんてしないよ。あたし、尽くしちゃうタイプだし」
「そうだったわ。あんたがシングルになってもう何ヶ月も経つし、忘れてたけどあんた一途だったよね、惚れた男には。惚れた男以外にも、尽くすというより老若男女いろんな人におせっかいやいてたけどね。昔から」
陽子は「それならいいんだ」と電話口から安堵の溜息を漏らした。

「そういえば、タロがうちに来たよ」
「ええ?あの太郎君?W大に行ってるんだよね?」
「そうそう。うちから20分くらいなんだけど、最初は「ハラ減った~」ってやって来て、2回目は......」

そこで、あの時の場面が蘇る。
嗚呼、今でも不快。

「2回目は?」
「ううん、何でもない。なんか携帯買ったとか言って来た。とにかく、全然変わってなくて、アホのままっ」
「案外、水名子の事狙ってたりして」
う。鋭い。
「さあ?あの子思考回路がミジンコの宇宙人だから解らない」
「支離滅裂だよ。思考回路がミジンコの宇宙人て何?単細胞は思考回路なんて無いから単細胞なんでしょ?」
「何でもない!あーあ。あたしにも、ヒカルさんみたいな男の人現れないかなー」
ゴロリ、とベッドの上に寝転がる。

タロの意味不明な行動はもう忘れよう。うん。
別に電話番号貰ったからって、連絡する必要はないし、タロも人の体タダ見して悪いと思えばとっとと謝りに来るなり何なり行動を起こしているはずだ。


「きっと水名子だったらついて行けないと思うよ、ヒカルの趣味趣向に。あいつ、性格悪いしひねくれてるし、自分が一番可愛くて、自分に一番注目が集まってないと生きていけない哀れな男だからね」
陽子の声でタロの事が頭から吹っ飛ぶ。
ヒカルさん、とは陽子と同棲している彼女のフィアンセだ。
「そう?」

巷で言う“アイドルグループ”出身のヒカルさんは、芸能界という雅で煌びやかな世界に人生の半分以上身を置いているだけあって、大変なナルシストさんだ。

「ちなみに、“歌手俳優芸人司会者”なんていう超不安定な職業だし、明日はもうあの世界から抹殺されて、過去の栄光を頼りに地方のキャバレー(今時)で営業とかだってありうるからね。怖いよ」
「でも超売れっ子じゃん。愛されてるし、羨ましいよ」
「どうかね。一緒に出かけるにもコソコソしなきゃいけないし、神経磨り減るわ。禿げ上がっちゃう。あ、噂をすれば何とやら。帰ってきましたよナルシストが」
「また電話するね」と言って陽子は電話を切った。


あたしはゴロリとベッドの上の体を反転させてうつ伏せになると、坂口さんの携帯にメールを打った。
『日曜日にお会いできるのが楽しみです』
数分後、返事が来た。


『今から会えますか?』
予想外の返事だった。




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