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フホウ侵入 Ⅱ    05.20.2007
ベイブリッジに行って、中華街でご飯を食べて、みなとみらいでショッピングがてらブラブラする。

と、いうよりむしろ「これ食べたい!」「ここ行きたい!」と我侭放題のあたしに、坂口さんが辛抱強くつきあってくれていた。

これよこれ、あたしの求めていたものは!


駆け引きもクソもない、普通のデート。


送っていくと言って聞かない坂口さんは、あたしの世田谷のアパートまでわざわざ横浜から運転してくれた。
「今日は、色々と連れて行っていただいて、本当に楽しかったです!」
なんて言葉が心の底から素直正直に言えたのなんて、久しぶり!
「僕も、色々な所に行けて楽しかったですよ」
「色々な所に引きずりまわされて、でしょう?」
「そんな事はないですよ」
くくっ、と坂口さんは苦笑いを漏らす。

ああ、やっぱ良い男!

「それなら、引きずり回されたついでにいいですか?」
坂口さんは顎に手をかけて、ちょっと言いずらそうに視線を落とす。
「はい?」

「また近いうちに、どこかへ遊びに行きませんか?」
行きますとも!宇宙の果てまでも貴方とならどこまでも!!!
なんて言葉を飲み込んで、
「もちろんです」
と極上の笑みで返した。


坂口さんとお別れして、ルンルン気分でアパートの階段を駆け上っていくと、自分の家のドアの前にでっかい物体が体育座りをして蹲っていた。
「タ、タロ?」
驚いた。また来た。
タロは元気なく面を上げて、捨て犬のような目でうったえる。
「ハラ減ったぁ...」
髪型は相変わらずピョンピョン跳ねまくっているし、まだ半渇きの状態だ。
泳いでいたのかな。
Tシャツにジャージズボン、それにサンダルという井出たち。
いつからここで待ってたんだろう?
「ここじゃ何だし...とりあえず、入んな」
あたしは、手で入るように合図する。
「えっ、いいの?」
餌を目の前に出された子犬みたいにパッと目を輝かせたタロは
「おっ邪魔しまーす」
と中に入ってきた。


「泳いでいたの?」
半渇きのタロの髪の毛を指差して、あたしは尋ねる。
「うん。さっきまで。毎日朝夕3時間練習の6時間っ。それか、筋トレのどっちかー」
「疲れない?」
「ちゅかれた~~~~~~~。でも、ミーナ待ってて良かった」
ニカーっと微笑んだ後、「?」みたいな顔つきになり、最後にちょっと不愉快そうに眉根を寄せる。

タロの表情3変化。面白いかも。

「あのさあ、さっきの車ナニ?あの眼鏡の男ダレ?ミーナ今日ナニしてたの?」
「何って、デートに決まってんじゃない。日曜日だよ?」
着ていた上着をハンガーにかけながら答える。
「ふうん」
あれ?もっと奇声発したり、オーバーリアクションを予期していたあたしは、不思議に思ってタロに向き直る。

「わっ」
タロは真後ろにいた。
口を尖らせながらも、“真面目”な顔であたしを直視している。
165cmのあたしは、20cmも背の高いタロを見上げる格好になる。

「あーいうアキバみたいな男、好みなの?」
ワントーン、タロの声が低い。
アキバって......確かに坂口さんは眼鏡をかけているけれど、それだけでアキバ系とは...。
「そうなのっ?」
タロは詰め寄る。
カオが真剣だ。

な、何だこの奇妙なシチュエーションは?!

「タロだって、デートくらいはするでしょ?彼女だって、居るんじゃないの?」
あたしはタロの横を通り抜け、キッチンに向かう。
「い、いないよ!」
「そう?でも色々と地元の噂は聞くわよ」
「そ、そりゃあ1回か2回は、あ...あるよ。でえとくらいは!」
タロも一緒にキッチンについてくる。
「坂口さんとは、今日初めてデートしただけで、ホントにそれだけ。別に好みじゃないし」
何でこの子に弁明してるんだろ?
全然関係ないじゃない。
「タロには関係の無い事だから......」

「関係大有りだよ!何年待ってると思ってんのさっ!」

タロが力づくであたしを振り向かせる。


タロが......怒ってる?
こんな表情(カオ)、初めて見る。

いや、競泳の中継をTVで観た時も、確かこんな表情をしていた。

ちょっと下唇を噛んで
顎に力が入っていて
そしてきっと、ゴーグルの下の双眸はこんな風に鋭いんだと思う。

勝負前の、獣の瞳
ハント前の、狼みたいな。


腕に食い込んでいるタロの指に力が入る。
「言っとっけど、12年も待ってんだからね!俺、すんごいシツコイよ。ギブなんて絶対してやんないかんね!!」
そう大声で突然宣言(?!)するなり
ガバッとあたしを抱き寄せた。

うわあ、何だ突然?!

いつかも嗅いだ事のある、塩素と男の体臭の匂い。
それに、タロの熱い体温があたしを取り巻く。

でっかいタロにすっぽり包まれたあたしは、身動きがとれない。

あたしの首筋に頭を埋めているタロは、そのうちクンクンクンとあたしの匂いを嗅ぎだした。

「ちょ、タロ?」
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!男のニオイがするう!!!」
今度はベリッとあたしを引き剥がす。
あんたは野生動物ですか。
犬ですか。

口の横をキュッと結んで腰に手を当て任王立ちのタロはビシッとあたしに人差し指を突きつける。
「ミーナ、俺今決めたっ。もう遠慮なしにするからねっ。覚悟しておいてよ!」
そう言うが早いか、タロはクルリと踵を返してドタドタとアパートから駆け出した。




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