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 『あ、あるわけないじゃーーーーんっ。健人の声なんてしょっちゅう頭に届くし。たまに聞きたくない事まで聞こえちゃうし。もう、真〇子先生、まいっちんぐ~~~っ』
なんとかこの雰囲気をくっだらないジョークで乗り越えようとするあたし。
が、その努力も空しく健人が静かに頭を振った。
『わかるわけないよね。デフ(聴覚障害)の俺の生活なんて。音が聞こえない世界がどんなものなのか……健常者の愛理が考えるわけない、か』
『なっ……何でそんな事言うの?』
『何でかな?』

いきなり健人が手を伸ばして、あたしを抱き寄せた。
『うあっ……健人?!』
グリグリって、あたしのお腹……下腹らへんに、硬質なモノが押し付けられる。
これって、この感触って……っ!
健人の手があたしのスカートの上に添えられる。
その手が、そろそろとスカートの下に入ってくる。

ちょっ……いくら人気の無い通りだからって、こんな野外はカンベンしてもらいたい!
『やめてよ!!』
と、押しのけようとすると、更に強く抱きこまれる。
細身の体して、どっからこんな力出してるの。
「やっ……やめっ…ちょっ!!!」
思わず、声に出して、身をよじる。
だって、健人の手があたしのパンツの中に忍び込んできて……。
『もっと声出しなよ。弟にこんな事されてるのに……ここは熱い』
オシリを両手で左右に広げられて、その溝に沿って両方の指が入り込む。
湿り気のあるその部分をわざと掠って、蜜を出すあの場所に軽く触れる……。
「やだっ!!やめて、健人!!」
『やめない。愛理に感じてもらうまでは』

いつ人が通るか分からないこんな所で、酷い。
いくらなんでも、度が過ぎてる。

だけど健人の細い指は容赦なく、あたしの体に触れ続ける。

ちゅっ、って指が一本入った。
「んあっ……」
『ねえ、愛理。愛理が反抗すると、俺もっと意地悪したくなる。捻くれてるよね』
指を抜き差ししながら、股間の硬いものをあたしに強く擦り付ける。

だけどあたしは、この唐突なシチュエーションと場所に、濡れるなんて状態からは程遠くて……。
「やめて。お願い」
あたしは手を伸ばし、両手を健人の顔に挟んで、目を覗き込んだ。
うつろに視線がさまよって、あたしを映す。
ちょっと涙目なってるあたしと目が合って……。
健人のアーモンドみたいな瞳が少しだけ哀しそうに細まった。
手をあたしのおしりから離す。

『ごめん』
でも代わりに、開放してくれたその手があたしの首に巻きついてきた。

むぎゅーーーって力いっぱい抱きしめられる。

髪の毛に健人が顔を埋めて、彼の息遣いが熱くかかる。
ドクドクと、早鐘を打ってる心臓の音が聞こえる。
『ちょっと、安心した』
安心?何が?
一体……どうしちゃったの?
『家まで送っていくから、ちょっとの間こうしてて。………愛理を、感じてたい』

返事の代わりにあたしはコクリと頷いた。



『やっぱりホテルに戻っちゃうの?』
『そっちのが、仕事はかどるからね。母さんや愛理が、DL中のパソコンのプラグ抜いちゃったりとか、飲み物ぶっかけちゃったりとかのアクシデント起きないし』
『お母さんはともかく、あたしもですか』
あたしもアクシデントの原因にちゃっかり入ってるし。
確かに何度か…あったような無かったような……。


あの通りから家までの数百メートルの間、健人はずっと無言だった。
スタスタとあたしの前を足早で歩いて。

家に着くと、健人は自室から必要な機材を幾つか鞄に詰めて、そのまま出て行った。

あたしに、
『愛理さっきはごめん……』
と短くメッセージを送って。

健人が出て行くと、あたしは早速携帯のメールを開いた。
着信は4件。
全て健人からのメール。

>愛理、今どこ?悦子を今駅まで送っていった。メールでも頭の中でもいいから、連絡入れて

>愛理、駅で待ってるから

>来るまで、待つよ


あたしは、最後の一件に、思わず息を呑んだ。

>俺を見捨てないで

何となく切羽詰った健人のその一言に。
道端であーんな事されたってのに、ちょっとだけ胸が痛くなった。






 宇田川光洋からメールが来たのは、翌日の事。

>今度の月曜、この間タクシーで降ろした駅前、同じ場所午後4時。
夜露死苦!

って、ワケわかんない内容だった。
今時の人がこの夜露死苦使うかあ??
しかも、午後4時って、あたしまだ仕事中だし。
帰宅時間は……8時を過ぎるだろ。

最近は、撮影後の写真選びから修正まで、色々とキャンペーンの準備に追われていた。
体育学部のあたしも、何故か門田さんのお手伝いで修正作業やらをコンピューターでやらされている。
おかげで結構上手くなった。

「あのう……」
眼鏡かけて真剣な顔でスクリーン睨んでる隣のデスクの門田さんに声をかける。
「何?」
彼の肩越しにスクリーンを覗くと。
筋肉少女〇の大槻健〇ばりに額から雷模様の血を流し、水色(今時水色!)の鼻水垂らしている宇田川光洋の写真。
ってか、この人仕事中に遊んでるし。
「月曜、はやく帰宅してもいいですか?」
あたしが覗き込んでいるにも関わらず、根詰めた顔で今度は毛の生えたホクロを書いている。
こ、この人……。
「ああ。いてもいなくても同じだからいいんじゃない?」
とあっさり冷たいお返事。
ってか、いてもいなくても同じ……って、ひどくね?
最終チェックは門田さんだけど、だけど、さっきから修正作業してるのはあたし一人なのにぃ~~~!!
プンプンと一人キレながら、再度デスクに戻る。
「その代わり、今日は徹夜だよ。このキャンペーンの修正終わったら、来月の通販用のカタログの写真ぜーんぶチェックしておいてね」
お、鬼だ。
キレイな顔して、門田さんは鬼だ。
だけど結局
「はい」としか言えない立場の弱いあたし。

結局この日は11時近くまで徹夜した。




 また、髪の色が変わっていた。
駅前で待っていると、黒くて地味なト〇タの車が横付けされる。
少しだけ窓が下ろされて、手招きされる。
駅から現れるのかと思ってたあたしは、少しだけ驚いた。
今日も帽子被ってグラサンかけて……って、変装してる。
正直もう変装か私服かわかんない。
あたしの中の宇田川光洋はこういう格好だから。
ただ、帽子からはみ出た髪の毛は、また黒色に戻っていた。
「早く乗れ!」
人ごみや人の視線がイヤなのか、宇田川はあたしを急かして助手席に乗せた。
「髪の色、また変わってるし」
「え?そうなん?前はどんな色だったっけ?」
自分で気づいてないのか!!
「次は、紫か緑色に染めるの?地肌に悪いんじゃないの?すぐ禿げるねきっと。禿げたアイドル宇田川光洋~~♪」
「禿げたくねーーーーっ。ってか、映画撮影してっから、あと1ヶ月はこの色。あんたんとこの撮影の時は特別に染めたんだよ。ところで…あんた今日、ちゃんと現れたな。いい事だ」
「メールしてきたの、そっちじゃん」
「あんた返事返してなかっただろ?」
あれ?してなかった……。
慌てて携帯を取り出す。
電源切れてるし。
あれ?
ってか、充電し忘れてた。
ってか、いつから切れてたんだろ?

ま、いいや。

「ドタキャンしたら血判どころか指詰めてもらおーと思ってたけど。よっし決めた。釣り堀センターな」
「は?」
「行き先だよ、行き先!釣りしよーぜ」
突然、なんだ?
「今、決めたの?おたくさん、釣りなんて出来るの?」
「そ。今決めた。つか、のんびりだらーーーっとしてえ」
「家で寝てればいいのに」(←小声でぼそっと)
「は?俺、まだ血判もらってねーんだけど」
まだそれを言うかこの男は!
し、しつこーーーーーーーーーい。
「確か証書はここにしまって……」
「はいはいはいはい、行きます。行きましょ!釣り堀センター!わーー楽しみぃぃぃ!!」
とキャーキャー言いながら写真撮るパー子並みのテンションで、一応返事をする。

釣り堀センターははじめて来た。
粘土みたいなえさを針につけて、竿を持ちながら糸を放る。
……。
けど、反応なし。
隣の宇田川も、板張りのフロアの上に胡座かいてぼーっとしてる。
あたしが隣を見てたら、宇田川もこっちをみた。
「あのさ、この間は何かしんないけど、元気付けてくれたみたいでありがと」
一応、前回のバッティングセンターのお礼を言っとく。
「礼には及ばん。まあ、これでどんどんお前の借りが増えてってんけど」
宇田川は、ジロジロとあたしを上から下まで眺め回すように観察して、思いっきり首をひねる。

……って、首をひねる?
なんじゃその行為はああああ????

「ねえ。てか、あんた遊ぶ人居ないの?」
そもそもなんでこいつがあたしを誘ったのかが不思議。
てか、ヒマなあたしもあたしだけど。
「遊ぶ人も何も、遊ぶ時間すらねーよ。昨日も睡眠時間4時間オンリー。あんたこそ」
「平日の月曜の夜は普通出かけないでしょ、パンピーは。出かけるとしたら金曜の夜とか、土曜日じゃない?それに、%@#小さくてもその知名度だったらあんたと遊びたい女の子わんさか居るんじゃないの?」
「%@#の部分には触れてくれるな。まず俺、ファンの子とは付き合わねーし。キャピキャピうるせーし。かと言ってギョーカイの女だと、リポーターとかパパラッチまくのが2倍の難しさになるから、避けてる」
今度はあたしが首をひねる。
「あんた、一応アイドルよね?こーんな変人でも、一応もてるんだよね?」
帽子の下の口がニッと笑う。
「もてるよ。モテモテ。バレンタインのチョコレートはちなみにトラック1台分」
す、すげーーーーーーーーっ。
健人ですら、買い物袋に2個分とかだぞ。
「なんかよくわかんねーけど、バット振ってたら突然異変感じたんだよなー」
「異変?お腹でも下したの?」
「ああ。頑固ながらも元気のいい赤ん坊が俺の腹から産まれたよ。……って、ちげーーよ!バッティング終わってタクシー捕まえるまでの間、なんかあんたが前よりきらめいてみえてよ。なんでだか、わかんねーんだよな。つか、めっちゃ面白くて、また遊びてーと思って、んで、お前去った後なんかさびしーって不覚にも感じたってか、悟った」
「はあ……何わけわかんない事悟ってんの。あんた一休さん?」
「あせらない、あせらない……って言わせんな!!」
「あっ!今動いた!」
「マジ?引けっ、引けーーーーーーっ」
「引け?何を引くのっ???全軍退却~~~って命じてる武将みたいな言い方だ……あっ」
釣竿を抱えたあたしの後ろから、宇田川が手を伸ばして引っ張る。
「うわっ。ちっせーーーーーっ。大したシロモンじゃねーな。ま、初めてには上出来か」

あのですね。
ちょっと体勢が……触れ合っちゃってるっていいますか。
ETとの接触みたいに指と指とが軽く触れてるみたいな…じゃなくて、体全体がですね、ええと……未だ持って後ろ抱きの状態でして……。

何て思っていると、宇田川は獲った魚をあたし越しにひょいと捕まえる。
あたしから離れて、しゃがみ込んで針を口から取り去った。

「ちっせーけど、お前の初戦利品!やったじゃん」
ピチピチはねてる魚を素手で掴んで、あたしに見せてくる。
グラサンと帽子の下でニイって笑顔が覗いた。
あたしより、喜んでるし。
あたしもつられて微笑んだ。

なーんだ、やっぱ悪い奴じゃないのね。
ちょっと……変わってるけど。


あたしがまたえさをつけて糸を投げると、宇田川は胡坐かいて隣に座る。
「俺、前に真剣に付き合ってた女……て言ってもデビュー前後だから10年以上前なんだけどさ、それ以来真剣な彼女って作ってねーんだわ」
「ふーん。それが?」
「&@$の問題は切実なわけよ」
手を下の板の部分について、足を伸ばしながら宇田川が続ける。
ってか、あたしには話の先が読めない。
「んで、最後に最後までヤッた女が、その前の彼女で…つまり俺のナニを最後に見た女がそいつで、それから俺ぜんぜん女とやってねーんだわ」
「バット振りながらやりてーとか叫んでたよね、確か。ゴメン、てか、話の先が読めないんですけど」
「だから、あんたは俺の最大の弱みを握ったわけだ」
「はあ…」
だから?
血判押せとか絡まれるわ、変な写真撮られるわ、そのせいで迷惑被ってんですけど。
「俺、メンバーにブス専とか言われてんだよね」
「へえ。ブス専なんだ~」
隣を見ると、真っ直ぐ釣堀池を見つめてるらしき宇田川光洋。
グラサンではっきり見えないけど。
横顔も、きりっとしてて、男前。(←本人には言わないつもり)
「だから、俺の言ってる意味わかる?」
「意味?」

全然わかんないんですけど。

訝しげな顔で激しく首をかしげるあたしに宇田川は、はあ~~~~って溜息をついて首を振りながら下を向く。

「だ~か~ら~、俺が抱いてやろーかって言ってんの」
「抱く?何を?」
「お前を」
「あたし?」
……を抱く、ですと?
「俺の如意棒も、サイズはアレだけど、一応処女膜破る位の破壊力はあるぜ」

破壊?
は…………。
「どっわっはっはっはっはあああああ??????」
いや、笑ってるわけじゃないのよ。
ちょっと、言葉に詰まったっていうか、びっくらこいたっていうか、心臓が止まったっていうか……。

「はははは破壊力なんてななななな何言ってるの!!!!!!!」
お、驚いた。
今のは、誘いの言葉だったの?

つつつつまりは、このこのこここいつの、よ、夜伽の相手をしろって事よね?
そーゆー事よね?

ってかブス専って……あたしの事?
しつれーじゃないか???

サングラスを取って、宇田川光洋が振り向く。
自信有り気な顔で、口元が笑ってるけど………。
目が、マジだ。

「俺、本気なんだけど」




あたしは健人以上のブリザード攻撃をくらい、こっちこっちに固まってしまった……。



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