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 <わたくし__________は、宇田川光洋の下半身のひみつについて公言いたしません。>
平成__年__月__日  ㊞


きったない字で書かれたその紙を見て、あたしは絶句する。
マジで持ってきやがったし、この男。

15分も遅れて指定したカフェにやってきた宇田川光洋は、いつもの変装用の格好(帽子、メガネ、地味なパーカー)で、あたしの居るテーブルに着くなり、
バンッ。
とこの紙切れを叩き付けた。
「血判押せ。したら、開放してやる」
言いながら、腕を組んで前の席に座る。

「ねえ、何でそんなに心配してんの?前に何かあったとか?下半身スキャンダル、とか?」
「言っただろ、他のメンバーはともかく、俺はスキャンダルとか一度もねえよ」
借金取りのやくざばりに、腕組んで偉そうに踏ん反り返ってる宇田川は、多分あたしが判を押すまでテコでも諦めないつもりだ。
「血じゃなきゃ……駄目?普通の印鑑じゃ駄目なの?」
「駄目」
プイっと横を向く。

ぐああああああ~~~ムカつくの通り越して、殺意が沸いてきた。
なんでこやつの為にあたしがわざわざ血をだして判を押さなきゃならないの!!
「てか、もういいよ。その写真好きにしなよ。あたし血なんて出したくないし」
「じゃあ何?血判押す代わりに金が欲しいの?幾ら?100万?1千万?」
「ひっ……そんな軽々しくお金を口に出す?やくざですかあなたは?どーせ子供銀行のお札とかで支払おうってんでしょ?」
「……バレたか……って、ちげーよ!!和解金、マジで出してやるっつてんだけど」

「お金なんて要らないから、もう絶対言わないから、血判だけは……あ」

突然、窓の外に視線が吸いつけられた。

なんで、こんな所歩いてるの?

あたしのよく見知った人物と、ショーウィンドー越しに、目が合った。
ここ一週間、ずーーっとあたしとの脳内会話を避け、実家にも戻っていなかった健人を、まさかこーんな所で見つけるなんて。

女の子と一緒に歩いていた健人も、一瞬息を呑む。
そして、歩みを止めてこちらを凝視していた。

多分、普段無表情の彼の小さな変化は、あたししか分からない。

だけどきっと、かなり、動揺している。

だって、現に、瞬きしてないし。
あたしと宇田川を交互にじーっと見つめてるし。

隣の清楚な感じの女の子は、確かT大の手話研の悦子ちゃん。
彼に一生懸命手話で話しかけているから。

「誰?」
宇田川は、あたしの視線を追って窓の外を見る。
「あ……弟」
「ふうん。うちの事務所の社長が気に入りそうな顔してんな。ってか、似てねーーーーっ」
言いながら宇田川が、一応の礼儀で小さく頭を下げる。

ガラス越しに、なんか緊張感を感じるのは……あたしだけ??
ガラス越しに、ブリザードもどきの寒気を感じるのは……あたしだけ?

健人は宇田川の挨拶を無視して、女の子を置き去りにしたままお店の中に入ってきた。


『こいつ、誰?何してるの、愛理?』
お店に入った瞬間から、あたしに話しかけてくる。
『仕事場の人。ちょっと仕事がらみで、話があった』
健人の後から、慌てて悦子ちゃんがお店に入ってくる。
“どうしたの、健人くん?……あ、愛理さん。こんにちわ”
耳の不自由なご両親を持つ悦子ちゃんは、あたしを見るなり手話をしながら、声を出して挨拶する。
“こんにちわ。……お二人は、デート?”
あたしも一応、手話で返す。
「へえー、あんた手話できんだ」
宇田川があたしたちを見ながらぼそっと呟く。
『デートじゃない。たまたま学校の課題を一緒にやってただけ』
“まあ、そんなものですかね~~。でも、学校の課題を助けてもらってて…”
悦子ちゃんが手話と言葉で返す。
『悦子ちゃん、否定して無いじゃない。何恥ずかしがってんの、健人は?』
『違うっ。デートじゃない。ってか、こいつ誰だよ?』
あたしは健人の声を無視して、皆さんを紹介する。
あくまでーも、ニコヤカに。
「あ、えっと宇田川さん……これが、えっと、弟の健人です。見てて分かったと思うけど、聴覚障害持ってます。こちらが彼の大学の同級生で、悦子さん。んでこちらが……宇田川さん」
「ちわっす」
「こんにちわ。お姉さんこそ、デートですか?」
「違います!」「ちょっと、ね」

否定しろよ、阿呆!

と、毒づきながら、健人の顔を伺う。
ああ、やっぱ、瞬きしてない。
漫画にしたら、縦線が顔の額辺りにいっぱい入ってる感じ。
「そ。仕事関係の話があってね。まあ、何ていうか、打ち合わせ?」
あたしはフォローを入れてみる。
健人はじーーーっとあたしの口の動きを眺めていた。
小さな仕草の違いで、嘘かどうか判断しようとしてる。
“それじゃあ、邪魔しちゃ悪いですね。朝倉君、行こうか”
悦子ちゃんは、そう言うと健人の腕を取って引っ張る。
『この話は、後でゆっくり聞かせてもらうからね』
そうメッセージをあたしの脳内に送り込んで。
帰り際、すんごい視線をあたしと宇田川さんに送って、挨拶もしないで健人はその場を後にした。

な、なんか嵐が過ぎ去った感じ。
一気に疲労があたしを襲う。
気が抜けて、テーブルの上にべしゃあ~~~って突っ伏した。
「ところで、あんたの名前なに?」
名前??
ああ、そういや言ってなかったっけ。
「もう今更なんですけど」
「ああ、でも、あんたの弟と弟の友達の名前先に聞いちまったし、名前聞いといた方が、訴訟起こす時とか、暴露された時とか見つけやすいし」
ああ、結局はそれに繋がるのね。
信頼されてねーーーーっ。
「朝倉愛理」
「愛理。名前は可愛いんだな」
「「は」は余計だっつーの!」
「あんたさあ、ブラコン?」
「ブラコン?違います!!ぜーんぜんブラコンなんかじゃありません!」
「じゃあ、あんたの弟がシスコンなだけか。すんげー顔で俺睨まれてたんすけど。変な姉弟だな」
あんた程変じゃないですよ。
下半身ごときで躍起になって、大騒ぎして。
「もしかしてお前、処女?」
「しょっ………ちっなっどっはあぁぁぁ??」

嗚呼、思いっきり動揺してるし。
ってか、思いっきり肯定してるも同然だし。

宇田川のメガネの奥の瞳がキラリと光った。
「分かりやすいねー、あんた。そうなんだ。処女なんだ。歳幾つだっけ?30?」
「30!!し、しつれーね!まだ24ですっ……て」
はっ。
ばらしてるし。
罠にひっかかってるし。
あたしのアホ!馬鹿!単細胞!!
「お前見た目通り、阿呆な女だな~。自爆してんし」
くはははははっってお腹抱えて笑われる。
「悪かったわね!あたしなら巫女にだって生贄にだってなれるんだからね!!処女を馬鹿にすんじゃないわよ!」
「それ、えばる事じゃねーだろ。ってか…生贄って、何だよ。お前、変な女~~~~っ」
「下半身で大騒ぎしてるあんたに言われたくないですっ」
「お前も下半身問題抱えてんじゃねーか。同士だな、同士っ」
「同士?あたしは別に問題にしてませんっ」
「嘘だなー、それ。お前、男もいねえだろ?あーんな心配性で見た目整ってる弟がいちゃあ、目が肥えて普通の男じゃ無理だわな~~」
う゛う゛っ。
こいつ、鋭い!
「意地張ってねーで、言っちゃえば?」
コーヒーをスプーンでかき混ぜながら、宇田川はあたしを煽る。

健人の腕にしがみついてた悦子ちゃんの顔が、恋してる女の子の顔が、ずっとあたしの脳裏に焼き付いていた。
あの子は、健人が好きなんだ。
そして、多分健人も勃起障害さえなければ姉のあたしじゃなくって、ああいう女の子と一緒になりたいはずだ。

あたしも、普通に恋がしたい。
彼氏の大き目なYシャツ着て、コーヒーカップ持って、朝を迎えたい。
月9みたいな、ロマンチックな恋がしたい!

「………ってか、正直、大問題だよ。もう、あたしの中では核問題に次ぐ、大問題。苦節24年、処女で、彼氏無し。Aはともかく、BもCも経験した事無しっ」

半分ヤケクソで、あたしは目の前の男にそう言い切った。

何故か、涙が出てきた。
何でこんな事、親友にも話した事無いのに、この目の前の赤の他人に打ち明けてるの、あたし?
こんな男に言ったって、あたしの気持ちが分かるはずないのに。

アイドルで、小さい頃からチヤホヤされて育って、女に苦労した事なさそうで、ドラマとか映画で色んな女優さんにチューチューしてるスケベ男に。

宇田川光洋は、ボタボタと涙(と鼻水)垂れ流すあたしを見て、静かにテーブルに置いてあるナプキンを差し出す。
そして、テーブルの上に身を乗り出して、顎を腕で支えた。
「あのなあ、セックスってただの生殖行為だぜ?愛とか恋とか無くても出来るんだって、知ってるよな?」
「し、知ってるわよっ」
じゅるるるる~~~って鼻水吸いながら、あたしは強く返す。
「あんたは、セックスがしてーだけなのか?処女を破瓜するために?それとも、彼氏作って、恋がしてーの?」
「あたしは………」
「ってか、目立つからココ出ようぜ」
宇田川は言うなりあたしの袖を引っ張る。
確かに、隣の席の人達があたし達をチラチラ見ていた。
宇田川光洋だってバレたんじゃなくて、多分傍から見たら女を泣かせてる男の図…てトコだろーけど。

お会計を済ますと(もちろん、奴のおごり)、あたし達は通りに出た。


「今、何時?」
「え?えーと、8時近くだけど」
「俺、10時になったらロケ収録あっから、それまで付き合えよ」
ロケ収録?
宇田川は大通りに出て、タクシーを拾う。
「どこ行くの?」
あたしは奴に腕を摑まれて、一緒にタクシーに乗り込んだ。
「ストレス発散できるトコ.。一緒に汗流そーぜ」
ニイって笑顔付き。

ひいぃぃ~~~~~っ!

一緒に汗って……。
と、一瞬(乙女ちっくに)青くなったあたしの横で宇田川光洋は、近場のバッティングセンターの名前をタクシーの運転手さんに告げていた。








バッティングセンターなんて、超久しぶり。
しかも、このハイテクぶり。
自分が初めて文明に触れたネアンデルタール人かなんかなような気がしてきた。
だって、あたしが小学生に行った時なんて、こーんなスクリーン無かったぞ。

あたしは、スクリーンに映し出された投手がボールを投げるサマに圧巻される。
ってか、驚いてるヒマ無いし!
ヒュンッって飛んできた球めがけてバット振って……。
もちろん、空振り。
「鈍いのは頭だけじゃねーのか、あんた。くはははっ」
あたしの前のボックスで同じく球を打ってる宇田川がネット越しに声をかけてくる。
「うるさいわねっ、集中出来ないでしょ!」
ボフッ、ってネットに当たる音。
また、空振り。
「あらあら。文句だけは一人前ね」
クスって宇田川が女言葉で笑う。
「むかつく!!!がーーーーーーーーっ!」
次は、がむしゃらにバットを振った。

カキーーーーーーーーンッ。
って、いい音。

「き……きっもちいい………」
「やるじゃねーか。次は、声出してみろよ」
「声?」
「そ。大声で叫ぶと、気持ちいいぜ」
「宇田川はクソ男ーーーーーーー!!!!」
カキーーーーーーーンッ。
コツを掴んだのか、また打った。

「山中のくそったれーーーーーー!!!!」
カキーーーーーーーーンッ。
今度は宇田川が叫びながら、打つ。

「山中って誰よ?」
「今撮ってる映画の監督。すんげー注文多くて怖えーの」
「ふうん。あ、来た。処女がなんだああああーーーーーーー!!」
ボスッ。
空振り。
「ぶぶぶぶっ。あんた叫びながら、空振りしてんの。かっこわりー」
「うるさい!」
「睡眠時間くれーーーーーーーーーー!!!!」
カキーーーーンッ。
「宇田川光洋の、ホモ疑惑ーーーーーーーーー!!」
「んなん、大声で言うなよ。サイズがなんだーーーーーーーーー!!」
「未貫通だからなんだーーーーーーーーーー!!」
「やりてえーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「……あんた溜まってんの?」
「悪かったな」
「彼氏ほしーーーーーーーーーーーーー!!!」
「星一徹ーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「わけわかんないんだけど、それ」
「なんか突然、巨人〇星思い出してよ」
「やーーーーーまだーーーーーーーーーーっ!!」
「そっちこそ、わけわかんねー」
「ドカ〇ンのキャラの真似したのっ」
「阿呆だな~~~~」
「あんたも、馬鹿アイドル~~~」

あたし達は、9時頃までずーーーっとバットを振ってた。
途中で叫ぶの止めて(他のお客様の迷惑ですから、とセンターの人に注意されて)、それでも明日筋肉痛確実って位、バットを振り続けた。

ストレス発散し終えると、あたし達はまたタクシーを拾った。
車の中で、宇田川はマネージャーに電話を入れていた。
これから現場に向かうとの旨を、ちゃんと伝えている。

なんか不思議。
だって、今朝まではあたしに鼻血噴かせた位の認識でしかなかった……しかも、ちっさな如意棒持ちの男と……明らかに2時間前まであたしに敵意抱いてた(リピートアフターミーで、ミニの如意棒付き)男と一緒にストレス発散で、バット振って叫んでたり。

隣の電話してる“爽やかアイドル”を思わず眺める。
窓の外を眺めながら、やる気なさそうにだらーーーって格好で背もたれにもたれてる。
全然、爽やかじゃないし。
この人、変。
……ってか、不思議。
ただの、お節介野郎?
それとも、天然?
だけど、ブラウン管越しじゃないのに、オーラ消してるのに、存在感ある。

あたしがジロジロ見てたら、電話を切った宇田川光洋が振り向いた。
「あんた、こっから一番近い駅で降ろすけど、いい?俺このままこのタクシーで現場直行すっから」
運転手さんに最寄り駅へと指示すると、あたしに向き直る。
「これでまた俺に、借りができたな」
「借り?また…って、他にあったっけ?あ……ああ、ハンカチの事?お金払うよ。弁償する。幾らだったの?」
「金なんて要らねーよ。けど、メルアド教えろ。お前にもあの画像送ってやる」
「画像?今日のあの画像?要らないから捨てなよ。それでおあいこでしょ」
宇田川は帽子のつばを弄って下に下げる。
顔が影になって、見えない。
「おあいこ?俺まだハンカチの弁償してもらってねーし。てか、また俺様と遊びに行きたいとか思わねーの?」
「遊びに?さっきまで血判血判ってあたしを恐喝してた人と?」
その誘いはあまりにも、高利貸し的っつーか。
脅しっつーか。
ぶっちゃけ、無謀っつーか。
「そ。下半身同盟。携帯貸せ」
貸せ、と言いながら勝手に人の鞄を引っつかむ。
「あっ。ちょっ、盗人!!!」
あたしの亀のストラップのついた携帯を制止する間も無く探し出すと、宇田川はあたしが掴み返そうとするのを器用に避けながら、ピッポッパって番号を押し出した。
「まあ、待て。今メール打ってんだからよ。あ、なんか着信あるぜ」
「読むなあああああ!!!」
「あらあら、イヤだわ。読まれたら恥ずかしい破廉恥な内容なのかしら?お兄さん、明日の円相場より気になっちゃう」
「きもいから女言葉やめてよっ。てか、メール勝手に打つなぁぁぁぁぁ!」

♪♪ユアーマイベイビー・オオー!・デーリシャスガールッ♪♪

って、いかにもアイドルが歌ってそうな、ダサダサな着メロが宇田川の穿いているカーキのパンツの中から聞こえてくる。

ってか、これあんたのグループの新曲だし。

「うわあ~~~、自分の曲着メロにしてるよっ。あんた恥とかって無いの?」
「恥なんてあったら、ギョーカイで生き残れねーよ。ってか、これであんたのメルアドわかったから、暇なときは俺様の暇つぶしになれ。彼氏もいねーし、弟離れするいい機会だろ。なっ?」

あたしを駅前で下ろすと、アイドル、宇田川光洋は口元に笑みを称え、あたしに手を振りながらタクシーで去っていった……。





 実家の最寄り駅の改札で、思わず足を止めてしまった。
改札口横のパン屋のシャッターの前に佇んでいる人物を見て、思わず駆け寄る。
『なっ、何やってんのこんなトコで??』
あたしが話しかけて、やっと健人は顔を上げた。

無表情。
黒のジャケットに触れると、かなり冷たい。
『やっと来た…』
『やっと来たって、まさかあたし待ってたの?』
どの位の間?
とか思ってると、健人の手が伸びてきて、あたしの手を掴んだ。
ひんやりしてる。
『俺が話しかけても、愛理ずっとしかとしてた』
うわっ、非難されてるし。
自分は一週間あたしをしかとしてた癖に。
『メールも入れたのに、返事無かったし』
え?メール?
『ごめん、気づかなかった』
そういや、宇田川が着信がどうたらこうたらって……。
『行こう』
健人は小さく息を吐くと、くいって、あたしの手を引っ張る。

何故だか健人に触れられると、その部分がじんとした。

『子供じゃないんだから、引っ張らないでよ』
思わず、手を振り解いた。
そんなに強く振り解いたつもりはなかったのだけど、健人は静かにあたしを振り返る。
『今日カフェに居たあの人……俺、誰だか知ってる。あの人、前に愛理が言ってた、夏のモデル?』
視覚も冴えてる健人は、忘れたフリをする事があっても一度見たり読んだりしたら、決してその内容を忘れない。
もちろん、人間の顔もきっと同じ。
その神童と言われた記憶力、羨ましい限りなんだけど。
あたしなんて、三歩歩いたら忘れちゃうし。
ニワトリか!(←ひとりで突っ込み)
『そう。宇田川光洋。あ、別にやましい事とか無いからねっ。あたしのタイプじゃないし、ちょっと仕事の話があっただけ』
って、何で弟に嘘ついてんの?
いや、嘘っつーか、やましい事が無いのは事実だし。
あたしの前をスタスタ歩きながら、健人は言葉を送ってくる。
『俺、愛理とあいつをあそこで見つけた時……すごい、驚いた』
『あたしも驚いたよ~~。悦子ちゃんとデートしてる健人とばったり、なんてさ』
『彼女とは、デートじゃない。けど、愛理あいつと、何を話してたの?いつからあいつと知り合いなの?』
背中越しで顔は見えないけど、訊ね方がいつもより自信無さげなのは気のせい?
『何って……仕事の話とか?色々と悩みを聞いてあげてたっていうの?』
ってか、弱みを握ったっていうか、握られたっていうか、借金取りばりに恐喝されてました、てか……。

いきなり目の前の健人が立ち止まる。
下を見て歩いてたあたしは、ボスッと健人にぶつかる。
『いったーーーーっ。急に立ち止まらないでよ!』
健人はポケットに手を突っ込んだまま、くるりと後ろを振り向いた。

街灯はスポットを外して、健人の足元しか照らしていない。
小さく健人が訊ねた。


『愛理さ、俺の声が聞けなくて不安だったり、寂しかったりする時ある?』



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