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 「この、メガネ男が、宇田川光洋?この、嘘つき男が、宇田川光洋?この、%@#短小……ふがっ」
あたしがもう一言付け加えようとすると、宇田川の手が口を覆った。
「ほらほら、鼻血すげーよ。生理みてーにドバドバ出てんぜ?とっととトイレに行った方がいいんじゃねーのか?」

はっ。

あたしはどんどんと真っ赤に染まっていくボロキレ(=宇田川光洋のハンカチ)で鼻を押さえたまま、一応スタッフの人達に頭を下げて女子トイレのある1階下まで降りていった。


会議中。
あたしを襲った事などずえーーーんぜん覚えてない門田さんの隣(しかも彼は会議中ずっと舟漕いでるし)で、撮影の手取りや順序、場所などの最終確認と調整を聞いていた。

たまーに、あたしに鼻血を噴かせた男と視線が合う。
アイドルらしく気取っちゃって、企画の人の、
「いやあ、夏の爽やかイケメンは、やっぱり宇田川さんでしょう?」
とか
「その美貌と肉体で、我が社の小売も伸びますよ、きっと!」
とかおべっかいだか社交辞令だかに
「はあ」
だとか
「いいえ」
だとか無愛想に返してる。

んで、時たまあたしと目が会うと、メガネ越しに白目向いた夜叉みたいなすんげー恐ろしい顔であたしを睨む。

あたしは、ふふーーーーっんてせせら笑ってやった。

だって、これってネタもんじゃない?
この周りからチヤホヤされてるイケメンアイドルが、あーーーんな頼りない%@*の持ち主だなんてさ。
しかも、うちの水着のキャンペーンモデルだよ?
中にティッシュとか詰め物でも入れるんですか?って聞きたい。
もうポークビ〇ツっでしたって、噂広めちゃうよ?
週刊誌に売り込むよ?

とりあえず撮影日程の最終確認が行われると、会議はお開きになり、あたしは宇田川の腹立つ視線から逃れる事が出来た。





 家路に着く途中。
電車の中で、健人に話しかけられた。
あたしが黙ってお金を貯めてた事に腹を立てていたのか、ずーーっとしかとされてたのに。
『愛理、今どこ?』
帰宅ラッシュの電車の中は、真冬だってのに暖房と熱気で熱い。
つり革に摑まって揺られる電車のバランスをとりながら、返事を返す。
『〇〇線。家に帰るトコ』
『お父さん達、今日仕事がらみの会食があるから家に帰れないってさ。どっかでご飯食べない?』
『ふうん。いいよ。駅前にする?』
『いや……K駅の焼肉屋は?おごるよ』
『うそ。いいの?じゃあ、7時ごろK駅前でね』
やったね、焼肉♪しかも弟のおごりだし。(←姉の立場は忘れてる)
と、昼間のスプラッタ惨劇の事などすーっかり忘れて、あたしはルンルン気分で電車を降りた。

健人は、ホームの切符売り場の前であたしを待っていた。
黒いジャケットを着て、黒デニムのジーンズを穿いて、いつもの癖でポケットに両手を突っ込んで下を向いて立っている。
全身黒尽くめで目立たないはずなのに、通り行く人が彼を見ていくのはやっぱその美貌だからだと思う。
立ってるだけで、全然サマになる。
もっと顔を見たくなる、通行人の気持ちも分からなくない。
『健人』
あたしが頭の中で声をかけると、パッと健人が面を上げた。
キョロキョロとあたりを見回す。
改札越しにあたしを確認すると、無表情だった健人の顔に笑顔が広がった。

う。
弟ながら、可愛いじゃん。

でも、あたしが近寄ると。
突然眉間にシワを寄せる。
『鼻が乾燥してる…。ちょっと上向いて』
鼻が乾燥?
グイッて顎を摑まれ上向かせる。
『鼻毛見える。…ってか、これすんごいアングル』
見てんな!!
『でも、中は赤い。鼻血が出たみたい』
この子は、ほーんと聡い。
多分、聴覚が無いから視覚とか触覚とか味覚とかが普通の人より優れているんだと思う。
『鼻血は出たよ。転んだ』
健人は、はーーーーって頭を振りながら、溜息する。
『愛理は愚図でのろまの亀だな、相変わらず』
ふぎゅってあたしの鼻を摘むと、
『気をつけなよ』
ってぶっきらぼうに言い放って、あたしの前をスタスタ歩き出した。


適当にカルビやらタンやらロースやらを頼んで、あたし達はビールで乾杯する。
一口飲んでぷはーーーってしてると、早速健人が切り出してきた。
『家から出るの、愛理?』

しーーーーーーん。

咄嗟に返事が出来ないあたし。
『な、なんで、そう思うの健人?』
健人はビールを置いて、じっとあたしに視線を注ぐ。
『やっぱそうなんだ』
『ちちちちっがうよ。老後の為に……』
『二人の食卓での様子が変だって思った母さんが、父さんから聞きだしたんだって。それで、俺も母さんから聞きだした』
っち。
お父さんはお母さんの言う事なら何でも聞いてしまう。
それが25年培った夫婦愛がゆえだって言いたいけど、SMでの主従関係の命令により、従ってしまった……てのが本音だと思う。
お父さんにとってお母さんは、女王様のような崇高な存在だからだ。
「椿さん(お母さんの名前ね)は、私には高嶺の花だったんだよ」
が、お父さんの口癖だから。
つまり、お父さんはお母さんの、奴隷。
でも。
バレたんならしゃーないじゃない。
『はあ~~。そーだよっ。あたし、一人暮らししたい』
『良いんじゃない?』
へ?
あっさりと同意する健人に、あたしは一瞬ポカンとする。
『俺もそろそろ一人暮らしすると思う。まあ、やろうと思えばデイトレーディングだとか、プログラミングだとか収入は有り余るほどあるし、今からでも出来るけど。愛理も自活を経験する必要があると思うし、これから男が出来たら実家だと面倒だろうし、良いんじゃない?』
テーブルにお肉が届くと、健人はテキパキとそれらを炭火の鉄板に乗せていく。
『なんか……健人が同意してくれるなんて、驚き…』
思わず本音を口にしてしまう。
『俺が怒っていたのは、愛理が俺にそれを言ってくれなかった事だよ』
『いや、だって言ったら怒りそうだったし』
『何で?』
『何でって…あんた心配性だし。その、あの……極度のシスコンだから』
『俺、愛理の自立を邪魔するほど心の狭い男じゃないよ』
自立はともかく、何度もあたしの恋路邪魔してるだろ!
とは言わず、あたしは一応礼を言う。
『それより……焼肉ありがと。この焼肉屋って、ほーんと美味しいよね!』
『どういたしまして』

静かに焼けたお肉を口に運ぶ、健人の口に自然と目が行く。
厚くも無く、薄くも無い形の良いその唇から、これまた矯正したかのような完璧な歯並びの白い歯が見え隠れする。

たまーにだけど、健人とのキスはどうなんだろーか?とか想像しちゃう自分が居て……。
だけど、駄目駄目!!って自分を戒める。

でも目の前の弟を、たまに男の人って意識しちゃったりする瞬間もある……。
アレしてる時の、色っぽい健人の顔が、目の前の健人の顔に重なる。

やばっ。
何弟相手に発情してんの、あたしは!
いや~ん、まいっちんぐ!(←古っ)
……。

重症だよ。
笑えないジョークを自分の頭の中で飛ばしながら、激しく凹む。
深~く嘆息すると、健人と目が合った。

慌てて、逸らす。
『………』
健人は何も言わず、あたしのお皿を取って焼けたお肉を取り分けた。

『こうしてるとさ……やっぱ傍から見ると恋人同士とかに見えんのかな、俺達?』
ナムルとかキムチとかの添え物とレタスもあたしのお皿に載せながら、健人が呟く。
『恋人同士?見えないでしょ~~』
見られても、困るし。
『見えないよね、やっぱ』
『せいぜい、友達同士とかじゃないの?』
『そうかな…』
意味ありげに頷いて、またタレにつけてあるお肉を鉄板に載せる。
『健人…さ、ちゃんと病院に行って診てもらったら?』
『診てもらうって、俺の勃起障害を?』
う。
ハッキリ言われてもねぇ。
『必要ない。だって、勃起障害あるけどインポじゃないから。愛理にはちゃんと反応してるし』
『そこが、おかしいんだよ。あたしお姉ちゃんとして心配してるんだよ?もう本当に姉離れした方が……』
『これ、デートのつもりなんだけど』
不意に、健人があたしの言葉を遮った。

『へ?』
でえと?

ええっと……今の声は、ピョン吉?
おおーいヒロシー、みたいな。
あたし、黄色いカエルのTシャツ着てたっけ?
思わず確認の為、胸元を……。

『俺、じゃなきゃ女に飯とか奢らないし』
や。あの、姉を女とか言ってる時点で、変ですぞ。
『多分さあ、あたし達があーゆー事し続けてるから、健人そんなんになっちゃったんじゃないの?』
あたしはがっつり肉を頬張りながら、そう言ってみる。
健人が「違うよ」と反論する前に、
『もうあーゆー事やめて、本気で他の女の子と付き合ってみたら?あたしも本気になれる彼氏を作ろうかと思ってる。ってか、やっぱ周りの友達は結婚し始めてるし、あたしも24で未貫通だし、トンネルに蜘蛛の巣はってるっていうか……でもまあこの際、処女とか無しでさ。そろそろ本当に、男の人と付き合えなかったら…彼氏出来なかったらヤバイんじゃないかって、正直焦ってるの』
ちゃーんと目を凝らしてなければ分からないほど小さくピクリと反応すると、健人は白米を口に運ぶ。
『へえ~、愛理も人並みに結婚したいとか、思ってるんだ。その前に、愛理本気で彼氏とか出来ると思ってるの?作ろうか、じゃなくて、そもそも作れるか、ってのが問題でしょ?無理だね。未貫通とか色気無い事平気で口にしてる、ジャ〇子の愛理が』
ぶっきらぼう且つ嫌味を含ませて、健人が返す。
『しつれーね!出来ますとも!あんたさえ邪魔しなければっ』
『ふうん。……じゃあ、勝手にすればいい』
健人はそこで言葉を切って、沈黙する。
……怒ってる証拠。
触らぬ神に、崇り無し、っつー事で、あたしも無言で焼肉を頬張る。

もともと周りからすれば、静かにもくもくと焼肉食べてるお客さん(頭の中で会話中だったけど)なんだろーけど、それからあたし達は頭の中でも会話を取りやめ、静かにご飯を食べ続けた。


『一応、焼肉ありがと。ってか、家はそっちじゃないっしょ?』
支払いを済ませ、お店から出ると実家とは正反対の方に向かって歩き出そうとしている健人に、慌ててあたしは声をかけた。
彼は静かに振り返る。
『俺、仕事の〆切り近いし、母さん達家に居るから騒がしいし、これから数週間ホテル暮らしするから』
感情を消した顔であたしを見つめながら、そう小さく返してきた。
そして、ジーパンのポケットに手を突っ込んで、前かがみの姿勢のまま歩き出す。

あたしは暫くその場に立ち尽くしたまま、健人のその後姿を見送った。

なぜだかちこっとだけ、冬の冷たい隙間風が体の中に入り込んだような寂しさを覚えた。





 撮影用の水着は、競泳用のぴちーーっとしたビキニパンツではなくて、トランクスとかハーフパンツ型の若者らしいデザインのものだった。
前回会った時は確か、白い帽子の下の髪は黒かったのに、今日は夏っぽくアッシュの効いたライトブラウンになっている。
多分、撮影用に染めたんだろうけど。
もちろんメガネもしていない彼は、やっぱりブラウン管の向こうの人物だけあって、華がある。

健人とか門田紅さんみたいな、中肉中背の中性的なカッコよさとは違って、このアイドルはキリッとした眉毛が印象的で、男らしく整った姿形が女の子に人気…らしい。

「俺のハンカチ持ってんだろ?返せよ」
門田さんについて撮影現場入りしたあたしは、早速今日の撮影のメインの男に捕まってしまった。
体中日焼け風のドーラン塗って、多分ジム通いの、最近のアイドルにしてはまあまあな筋肉がついた上半身裸の彼は、あたしを見つけるなりメークさんを振り切って、ズカズカと近寄ってくる。
「あんな屑捨てちゃったわよ。良かったね。今日の撮影ビキニパンツじゃなくって」
返せ、と言わんばかりに差し出された手を見下しながら、あたしはふふんっと笑ってやる。
「屑…だと?貸してやったのに、す~て~た~だあ~~?」
「ごめん、だって必要だってこの間は言ってなかったじゃん」
「じゃあ、弁償だな。あんたそれが、助けてやった白馬の王子様宇田川様に対する礼儀か?」
「助けてって……あんたのせいで転んだんだけど!しかも平手打ちされたんだよ?自分で白馬の王子とかっ言っちゃって……恥ずかしくないか、普通?@%#みじか……」
「ぶぶぶぶっ殺すぞ、女ぁぁぁぁ~~~~!!!」
流石に険悪な雰囲気と気づいたのか。
「あ、汗かかないでね~~」
慌てて彼を追いかけてきたメークさんが、彼の額にパウダーをパフパフふりかける。
「朝倉さん、喧嘩なら俺の機材の無い所でやってくれる?」
カメラを調整しながらあたし達の口論を隣で聞いていた門田さんは、絡まれているあたしを助けるどころか、にべも無い。
門田さんは、翠さん以外のモデルの撮影だと結構やる気ナッシングなのがバレバレ。
今日もアクビしながら機材セットしてるし。
でも、こんな調子なのに仕事は一応完璧で、出来上がりの写真もやっぱりプロだけあって、舌を巻いてしまう。

「覚えてろよ、女!」
あたしに悪役お決まりの捨て台詞吐くと、短小$#*のアイドル、宇田川光洋はスタイリストとメイクとメガネのマネージャーに連れ去られていった。


 撮影も順調に進んで、休憩に入った所だった。
スタジオの自販機にいつもながら門田さんのパシリで飲み物を買いに行く途中。
いきなりT字型になってる通路の陰から、手が伸びて引き寄せられた。

「んぐっ」
パシャッ。
と、フラッシュがたかれた。

はい?
今……柔らかい何かが顔面を覆って……って。

「ばーーーっちし撮れた♪」

いつの間にか、まだ水着姿=上半身裸の宇田川光洋が携帯を右手に掲げて、あたしの目の前に立ちはだかってた。

こんな時まで、頭の回転がニブイあたし。

今、今、今……。

「!!!!!@#$@#$%@%^^@#$*!!!」
声にならない叫び声が出る。

宇田川の携帯の画面には、あたしと(上半身裸の)宇田川光洋が思いっきりキスしてる画像が載ってる。
しかも宇田川はちゃっかりカメラ目線。
ウインクまでしてるしっ。

思わず、口を手で覆う。

「ななななななっなっがっでっすっのっ」
だあ~~~っ!またスタッカートでどもっちゃってるし。
「これで、おあいこだな~」
「おおおおおあいこ??わわわ分けわかんない事言わないでよ!」
あたしは壁の方へ、後ずさる。
「俺のあそこのサイズとか、俺のギョーカイでのイメージあるし巷で公言されたら困んだよなー。事務所も俺のスリーサイズは知ってっけど、あれのサイズまでは調べねーだろ?だから念のために俺も、あんたの弱み握っとこーと思ってさあ」

はっ。
そーゆー事!

「そんな、あんたの$%&がどんなんだか何て、べっつに言いふらすつもりなんてハナから無かったわよっっ。ってか、サイズが恥ずかしいとか自覚してんだったら、何こーんな水着の広告とかに出ちゃってるの?」
あたしは背伸びして、男の手の中の携帯をかすり盗ろうと手を伸ばす。
が、空しくあたしの手は宙を切る。
がぁぁぁーーーーー!
このやろう!
「俺は仕事が選べねーし。事務所が勝手に入れた仕事だし。それに画像は消さねえ。ってか、消してやんねえ」
「ど、どういう意味よ?」
「あんたが変な行動起こしたら、この写真週刊誌に送りつける」

はああ~~~~~~~???
ちょっと、立場が逆じゃないっすか?
脅すとしたら、むしろ一般人のあたしの方だろ?

思いっきりしかめっ面でクビを傾げるあたしに、宇田川光洋はフンっと口の端を持ち上げる。
「知ってっか?アイドルとの熱愛報道あると、ファンとかがすげえ嫌がらせすんだぜ?レポーターとかパパラッチもすげえし、あんたの仕事場、友人知人、親兄弟、挙句は遠い親戚までとばっちり受けるだろーし、凄まじーこの上ねえんだよ。うちのメンバーの山本の前の女なんて、暴露されて親が職場クビになった挙句一家離散、果てはブラジルへ強制移住……」
「ってか、そんな事したらあんたの人気も落ちるんじゃないの?」
あたしは延々と続きそうな宇田川の言葉を遮る。
「あ、俺芸能生活10年目だけど、そーゆー噂一個もねえんだよな。事務所もそろそろホモ疑惑出る前に1つ位ウワサ焚きつけとこうか、とか言ってっし」

言ってっし、…って。
「あのねえ、あたし、出来る事ならあんたみたいな芸能人と関わりあいたくないんだけど。別にあんたのそこのサイズとか、言いふらさないって誓うし、こんな事する必要ない……てか……」
あたしが困った顔をしてたら、宇田川も表情を緩めた。
「じゃあ、言いふらさねーって、血判押せ」
「血判!?あんたは借金取りのやくざか!!」
思わず、突っ込む。

こいつ、ちょっと変だ。

「撮影開始しまーーーす。宇田川君、どこですか~~??戻って~~」
廊下の先のほうから、どこからとも無く声が聞こえる。

「ちっ、もう時間かよ」
爽やかアイドル、宇田川光洋は唇を噛んで毒づく。

もうそこからして、お茶の間の皆さんのイメージと違うっつーか……。

踵を返そうとして、止まる。
あたしを振り返ると、
「今日これ終わったら、7時にこのビルの前のカフェで待ってろ」
と言い置いて、声のした方へ駆け出していった。


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