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三人の賢者    10.01.2007

“三人の賢者”


ジエイさんの支度も整って、みーちゃんを家に送って、結局マック前での待ち合わせをクラブの中に変更したあたし達は、ギリギリセーフで六本木のクラブ『HELL』に到着した。
やっぱ金曜日の夜だけあって、混んでる。
入り口の前に人が一杯並んでいた。
あたし達もクラブの前で並ぶ。
横にいるジエイさんは、いつものお坊ちゃま系のファッションから180度変わって、結構いい男になった。

いや、ホントの事言うと、めっちゃ…イケてる。
 
「クラブが嫌いでも、あたしがいるから大丈夫ですよ。きっと楽しい思い出の夜を過ごせますって。」
横のジエイさんは何故か困った顔でそわそわしていたので、声をかけてあげた。
「里美さん、いいですか?」
あたしが返事をする間も無くジエイさんはあたしの手をとる。
「はいいいぃぃぃぃ???」
「何故か緊張してしまって…すみません。」
「こんな事で緊張してるんですか?」
お手手繋いで仲良しこよし~…みたいな、ってちがーう!!!
ジエイさんの手はさらさらで暖かい。
年中べたべたギトギトに汗かいてるあたしの手と大違い。
そうよ、汗っかきなのよ、悪かったわね!!
なーんて。
でも、な、なんか気のせいか体の神経全部が繋がれてる手に集中してる…ような。
あたしが何故か妙にドキドキしていると、列の後ろの方でひそひそと声がした。
「ちぇっ、ブスの女付きだよ~。もったいなーい。」
「女けばーい!!」
「シーッ。声が大きいよ。聞こえちゃうよ。」
っつーか…。
丸聞こえなんすけど。
ブスですって?
ケバイですって?
なんなの小娘たちがぁ~~~~。
キィィ~~~!!!
後ろでこそこそ、あたしに直接言ってくるだけの勇気がないのね。
ふんっ、まあ言ってきたら宣戦布告とみてこっちも受けて立つつもりだけど。
でも、確かにさっきからジエイさんは女の子の視線を集めていた。
それに気づいているのかいないのか。
多分、気づいてるけど嫌みたい。
だから妙にそわそわしてるんだと思う。
その時、びゅううぅぅぅぅ~~~~っとビルの冷たい隙間風が思いっきり通り過ぎていった。
「うわっ、さぶっ!!!」
思わずジエイさんに身を寄せてしまった。
それが、まずかった。
あたしの手を離すと代わりにふわり、と皮のコートでジエイさんがあたしを包んでくれた。
っていうか、包んじゃった。
「こうすれば、風が防げますから。」
ジエイさんの落ち着いた声音が頭の上から降ってきた。
ひえぇぇぇ~~~っど、ど、ど、ドキドキしてしまう。
変身したジエイさんを見てから妙に心拍数が上がってて、あたしの調子はさっきから狂いっぱなしだった。
 
スリーワイズメンをお願いします。」
大音響で音楽が鳴っているクラブに入ると、あたし達は真っ直ぐバーに向かった。バー付近でちーちゃん達と合流する為だ。
バーテンダーに謎のドリンクをオーダーすると、ジエイさんはあたしに何が飲みたいか聞いてきた。
あたしは見かけ倒しで(強そうに見えるらしい)お酒に弱い。
だから、お子ちゃま風のカルーアミルクを頼んだ。
ジエイさんはバーテンダーに支払いを済ますと、グラスに入った金色に輝く液体を手に持って優雅に揺らす。
か…かっこいい…。
見かけだけは、どこからどう見てもクラブ慣れしたいい男。
手に持ったお酒を飲むだけでもサマになってる。
お願い、喋らないで黙ってて…。

~5秒経過~
~10秒経過~

はっ、しまった!!!
また暫く見惚れてしまった。
もう、さっきからこんな調子!!
「飲んでみます?美味しいですよ。」
あたしの視線に気づいてジエイさんはグラスを差し出してきた。
「何ですか、これ?」
思わず受け取っちゃったので、試しに一口飲んでみた。
うげっ、まっず~~い!!!
吐き出したい。
それに、あたしには強すぎ…。
「な、なかなか大人風味の味ですね。は、ははははっ。」
にっこり微笑むとジエイさんは説明する。
「これはスリーワイズメンという飲み物で、ジョニー・ウォーカースコッチと、ジム・ビームウイスキーと、あと…何でしたっけ?忘れてしまいましたがもう一 つのウイスキーを1/3ずつ入れた飲み物なんですよ。僕は結構好きなんですが…里美さん大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ?」
っつーかアルコール度強すぎ!!
この一口であたしゃやられたよ…。
苦い顔をしていると、あたしの背後で声が聞こえた。
「あれえ??里美じゃん。やっと来たんだぁ~。遅いぞ!!」

うわあああぁぁ~~ついに来た!!!

「ちーちゃん。」
あたしは何事も無かった顔で振り向く。
ジエイさんもあたしにつられて後ろを振り返る。
そして笑顔で一礼した。
「ああ、貴女がちーさんでしたか。先ほどはお電話で失礼致しました、国本慈英です。宜しくお願い致します。」
はうぅ!!
いきなりお堅い挨拶ですかい!!!
そのファッションでそのやけに丁寧な挨拶はねーだろっ!!!!(←いいことだけどさ)
あたしと同じ系統の派手派手クラブファッションに身を包んだちーちゃんは、一瞬きょとんとしてから返事をする。
「あ…ハイ、里美の友だちのちーです…けど。」
ほら、固まってる。
「あはははっ。ちーちゃんこそ何時にここに来たのさぁ??」
変な空気が流れ始めているふたりの間にさっと割り込む。
「あーんVvv里美来てたんだ♪」
もう一人、高めの声がした。
「あれ、よし子じゃん。」
一応笑顔。
でも心の中では絶叫していた。
なんでこいつが来てるのぉ!!!
来るって知ってたらあたしは今夜パスしてたわ。
安藤よし子。
A・K・A・(also known asの略)オッパイ星人
特技:谷間攻撃、ぶりっ子、作り話、同情をかう事、ETC。

…つまり、あたしは彼女が嫌い。

「おひさしぶりぃ~~っ♪あれ、この人例の里美の見合い相手?」
屈託の無い笑顔のままよし子は素早くいい男(=ジエイさん)を発見した。
彼女のいい男アンテナは普段からビンビンに張り巡らされていて、何百メートル先の豆粒大のいい男も発見できるのだ!!

「はじめまして、里美さんのお友達ですか?慈英です。」
ジエイさんは2万ワットの激眩しい笑顔で返す。
「きゃあ~~、超カッコイイですねぇ。はじめまして、よし子でぇーっす。あれぇ、それ今月発売されたばっかのグッチじゃないですかぁ!!いやーん、見せて見せてぇ!!!」
気づいたらよし子は零コンマ一秒の速さで、あたしとジエイさんの間に体を滑り込ませていた。
す、すっごい速さ…。
目にも留まらぬとはこの事を言うんだわ。
っていうか…背の高いジエイさんに見えるように胸を寄せてる…ぺチャパイのあたしには出来ない高度の技だわ!!!

隣のよし子とジエイさんの話を聞いていると(といっても大音響の音楽がうるさくて耳元で話さないと全然聞こえないけど)、後ろのちーちゃんがあたしを突付いてきた。
「あんたの好みとはちょっと違うけど、ジエイさん、顔と服はばっちしじゃん。一体どこでひっかけてきたの?ちょっと抜け駆けはないんじゃな~い?」
エクステの髪をいじりながらちーちゃんは聞いてきた。

ちーちゃんもあたしと同じ渋谷マルハチビルでショップの店員をしている。
ビルの休憩所で知り合って仲良くなったのだ。
店員だけあってファッションは非の打 ち所が無い位、カッコイイ。
彼女のカッコは1、2ヵ月後必ず流行となって巷のあちこちで見かける。
皆が今日着ている服は、彼女が昨日着ていた服なのだ。
兎 に角、ちーちゃんはそんな感じで進んだ感性の持ち主なのであーる。

ちーちゃんは申し訳なさそうな顔をしてあたしに耳打ちしてきた。
「ごめんね、よし子が来たいって言って断れなくって…。他の皆は今夜忙しいみたいだし、一人でクラブ来て男連れのあんたと合流ってのも何だったし。許してね。」
「知ってたら来なかったわよ。ちーちゃんも人がいいんだから!!」
あたしは心底嫌そうな顔をした。
ちーちゃんは苦笑しながら、もう一つ嫌な情報をくれた。
「あ、そうそう、あんたに忠告しようと思ってさぁ。さっきトイレ付近でウッキー見たよ。仲間とたむろってた。見つからないように気をつけてね。」
「は?ウッキーが??う、嘘、どうしよう。」
やばっ!!
よし子だけでなく、ウッキーまでも今日クラブにいるなんて…。

ちょっと今日は早めに帰ろうかな…。

あたしは、ちらりとジエイさんを見た。
よし子にニコニコと笑いかけながら相槌を打っていた。
楽しげに話している。
人嫌いなんて言ってたけど、結構満更でもないみたい。
あ、なんかムカムカしてきた。
ムカムカしてる自分にもムカムカしてきた。

丁度流れていた音楽が変わった。
あたしの好きなラップだ。
うがーっ!!!
もう、踊るっきゃないっしょ!!!
「ちーちゃん、踊ろっ!!ジエイさん、よし子、あたしらちょっくら踊ってくるからここで待ってて。」
「はぁ?何?」
「え、里美さん?!」
「あ、いってらしゃーい、ごゆっくり♪」
3人3様の返事が帰ってきた。
ちら、と垣間見たジエイさんは困惑顔だった…ような。

知らざる聞かざる見ざるだわ!!!
ちーちゃんの腕を掴んであたしは有無を言わせずダンスフロアに引きずって行った。

 
「あの二人あそこに置いてきて平気なの??ジエイさんはあんたのデート相手でしょ?」
暫く人が一杯のフロアの、キラキラと光るミラーボールと照明の下で踊っていると、ちーちゃんは大声であたしに聞いてきた。
「いいのいいのっ。だってどう見たってジエイさん踊るようなタイプじゃないし、あたしはバーでちびちび飲んでるの嫌いだしっ。」
「ふうん、ならいいけどね~。あっ。」
ちーちゃんがあたしの背後を見て、唖然とした顔のまま凍った。

あたしの真後ろで体を密着して踊っている輩が一名。

ま、まさか…。

「ウッキー!!!!」
「よお、ベイビ~☆」

どわぁぁぁ~~~!!!
っつーか見つかんのが早い!!!
早すぎるっつーの!!

ウッキーこと宇治木芳彦は、あたしの元彼のB系男 である。
半日付き合って、即効別れた(彼の中では1週間らしい)という交際期間最短記録男なのである。
理由は、あたしが我慢できない俺様的性格と、大勘違 いと、図々しさと、でっかいアフロと神経の図太さ等々だ。
最近あたしに迷惑メールやTELをして来なくなったと思って安心してたのにぃ~~。
「とうとう耐え切れなくて俺に会いに来たのかあ?久々だな~。やっぱり今頃になって逃した魚はでかかったと気づいたらしいな。しょうがない、俺の愛で今夜も……。」
「ちげーよ、馬鹿。踊ってるんだからどっか行ってよ!!」
あたしがお尻で突き飛ばしてもめげずに体を寄せてくる。
「いやだよ~ん。せっかくこうやって久々に二人で熱くヒートアップ出来そうなのによぉ。」
っつーかあたしの腰に合わせて踊るな!!!
密着するな!!
ああもう血管が破裂しそう。

「里美は男連れなんだから、早くどっかいった方がいいよ~。」
助け舟を出してくれたのは、ちーちゃんだった。
なのに、馬鹿ウッキーは女の子のちーちゃんにメンチ切った。
「うるせーな、黙ってろボケ!!てめぇに用はねーんだよ。」
ああああ、もうムカつく!!!!!
「何ちーちゃんにメンチ切ってんだ、ボケはてめーだよ!!!ちょっと面貸しな!!!!」
せっかく踊ってていい気持ちだったのに。
「えっ、里美?!」
「いいのいいの、ちーちゃんはここで待ってて、すぐ戻ってくるから。」
あたしはウッキーの耳を引っ張って、(周りが見たら大男の耳を引っ張るなんて笑えただろうけど)トイレ口付近へ連れて行った。

ウッキーは今日もトレードマークのアフロにピンク色のお子様のオモチャのような櫛を一本さして、ダボダボのバギーパンツにレイカーズのでかジャージを着て、悪を気取ってる。
気分はすっかりBADBOYだわ…。
「何だよ、俺と二人っきりになりたければそう――。」
「単刀直入に言うけど、彼女が言ったとおりあたし今夜は男と来てるから、このクラブでは…このクラブ以外でも、金輪際あたしに関わらないで!!」
バチンと、平手打ちを一本ウッキーに食らわす。
いつも悪ぶってるけど、こいつの扱いには慣れていた。
「なんだよ~~。久々に会えたってのによぉ…。ハグぐらいくれよ、里美ィ~~~!!!!」
狭いトイレの通路で、半泣きのウッキーはあたしに覆いかぶさった。
いや、正確には覆いかぶさろうとした。
「ちょっちょっちょ、やめてよ!!!!」
股間に膝蹴りを食らわそうとして、あそこに狙いを定めていたら…。

ウッキーが一瞬止まって、それからその場に崩れ落ちた。

は?何が起きたの????

「里美さん!!!」
ウッキーの巨体が沈むと、背後にジエイさんが立っていた。
ウッキーは泡を吹きながら倒れている。
「ちょっ、まっ…。ジエイさん何やったんですか?」
フロアに伸びているウッキーを踏みつけて、ジエイさんが目の前にやって来る。
チョークスリーパーですよ。大丈夫、時期に起きるでしょうから。…それより、里美さんは大丈夫ですか?何かされませんでしたか?」
茫然としているあたしの目に、心配顔のジエイさんの表情が映る。
「ちょーくすりーぱー?」
それって、格闘技じゃない?
ジエイさん、インドアの男(機械オタク)じゃなかったの???
「あ、駄目駄目、真似しないでくださいね。これは僕でも結構リスキーな技ですから…。」
言いながらあたしをギュッと抱き寄せる。
あれっ?
気づかなかったけど、微かなコロンの匂いがする…。
これ、V・Sのベリーセクシーだ…。
真似も何も、チョークスリーパーなんか普通の人には出来ないけど…意味がわかんないぞ??
いつ、どこで、どうしてジエイさんはあたしがここに居るって分かったんだろう??
「生憎踊れないもので、バーでずっと里美さんの様子を見ていました。怪しげな男が言い寄っていたので心配で心配で…。」
こーんな暗闇の人ごみの中であたしが見えるなんて…ジエイさん、あなたは一体何者!!!!
「あ、あの…よし子は?」
「ああ、ダンスフロアのちーさんの所に行ってしまいましたよ。僕が里美さんの事ばかり聞いて、彼女の話に適当に相槌を打っていたのがいけなかったみたいです。ああいうタイプは苦手なもので…。」
また一段と強く抱きしめてきた。
い、息がぐるじ~~っ。

っつーか、突然何なんだろうこのシチュエーション//////////。

「僕としては、もうこんな人ごみは充分なんですけど…。里美さんはまだ踊り足りないですか?」
超至近距離でジエイさんはあたしを見下ろしてきた。
瞳が潤んでいる。
あああああ~ちょっとその小さい整った顔がぁ~~~!!!
心臓がバクバク鳴っている。

そんなあたしをよそに、ジエイさんは突然ハッとした顔になった。
「ああ、今頃思い出しました。ジャック・ダニエルズですよ!!ああ、ずーっと思い出せなくて気持ち悪かったんです。これで三人の賢者の名前が揃いましたよ。ジョニー・ウォーカーとジム・ビームとジャック・ダニエルズだったんですね。」
あたしを抱きしめたままのジエイさんは一人ブツブツと呟きながらも満足気である。
それより、ここから早く脱出しないと、ウッキーの仲間に見つかったら大変!!!
「はあ…思い出せて良かったですね。それより、やっぱりちょっと外を散歩してみますか?」
あたしの心臓はまだドキドキしていた。
っつーか、こんなに意識しちゃって…。
実は、もしや??


信じたくないけど、心臓はあたしの理性より正直だった。



<用語集>
スリーワイズメン(三人の賢者) ⇒ ジョニー・ウォーカースコッチとジム・ビームウイスキーとジャック・ダニエルスウイスキーを開発した“3人の酒造者=賢者”という意味。この三つを三分の一ずつ混ぜて作るお酒です。
B系 ⇒ ブラック系の略
V・Sのベリーセクシー ⇒ 日本にも進出した(らしい)アメリカ大手下着会社Victoria’s secret社が発売しているメンズコロン。甘くて上品な香りにOSEIもメロメロです。
チョークスリーパー ⇒ 喉を絞めて気絶させる格闘技。真似しないように。

<ひとこと>
またもや展開の速さについて行けなかったらゴメンなさい。今回キャラ多すぎだわねぇ・・・でもこの小説はルール無し!!で突っ走ってますから。一応山場は越しました。どきどきしっぱなしの里美さん。次回は最終回です。

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