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波乱万丈初デート    10.01.2007
“波乱万丈初デート”


 場所は横浜元町。
中華街のすぐ傍にある高級洋食屋で、あたし達は夕食を取った。

お見合い後これが初デートなのであーる。

「これを…受け取って頂けますか?」
ポロシャツにスラックス、肩にセーター(しかもそのセーター胸の前で結ばれてる完璧80年代ファッション)という金持ちの定番ファッションで、今日も美しい笑顔を振りまきながらジエイさんはテーブルの上に小さな小箱をチョコンと置いた。

大きさからして中身は見なくても明らか。
あたしは小さく溜息をついた。
「はあ…。」
 
この間あたしはこの人、国本慈英さんにプロポーズされた。

どう考えても間違いとしか思えないお見合いみたいな紹介を無理やり受けて、すんごい恥ずかしい思いもしたのに、お見合いの翌日即効彼から返事が来たのだ。

誰もが断るだろうと思ってた。

なのに、皆の予想を裏切ってジエイさんは「結婚を前提に付き合ってください」と言って来た。
それから、毎日定時にTELが来て(メールは苦手らしい)、デートしろデートしろデートしろとしつこくせがまれて(実際にはもっとやんわりとした言い方だったけど)、しょうがなく承諾して今日に至ったのだ。

だから、今日は初デート。
 
「開けないのですか?」
テーブルの上の小さな小箱を見つめたまま、何にもしないあたしを見てジエイさんは小首を傾げた。

そりゃあ…きっと高価な指輪が入ってるんだろうけど…。
開けちゃったら絶対貰っちゃうのが目に見えてる。
欲しい!欲しい!!欲しーい!!!!
でも…。

「ごめんなさい、頂けません!!!」
あたしはダンっ、とテーブルに両手をついて頭を下げた。
「どうかしましたか…?僕が何か?」
落ち着いた声でジエイさんは尋ねた。
あたしは顔を上げることが出来なくって、下を向いたままである。
「あたし、言われるままにお見合いしちゃったけど、やっぱり好きでもない人とは結婚出来ないし、付き合うことは出来ません!!!」
ジエイさんは無言で、言葉を返してこない。
あたしは構わず続けた。
「ジエイさんも、好きな人が出来たらその人と結婚するべきです。だってこんなにカッコいいのに、あたしじゃなくても全然オッケーな筈だし、ただお見合いを勧められたからってあたしと無理に結婚しなくってもいいんですよ。それにだいたい結婚なんて紙切れ一枚の問題であって、今の時代結婚なんてしなくてもいいんじゃないかとあたしは思うんです!!」

言っちゃったっ。
ついに言っちゃったよぉ~。
だったら最初から見合いなんてするな、って突っ込まれたら何も言い返せないんだけどさっ。

「ごめんなさい!」
「そうですか…。」
心なしかジエイさんの声音が低い。
ひえ~っ怒らせちゃった?
怒らせちゃった?
顔を上げらんないよ~う。

「顔をあげてくれませんか?」
ジエイさんはあたしの手首を優しく掴んだ。
あたしはソロソロと顔を上げる。

ジエイさんは、笑顔だった。
ま、眩しい!!
アングラの世界の女(あたし)には眩しすぎる笑顔だわ!!

「つまり、僕に対して里美さんは恋愛感情が全くないのですね。」
うっ。
ハッキリ言われた。
なるべく遠まわしに言った筈なのに…。
「え?あの…えっと…。」
シドロモドロのあたし。

「里美さんはすぐ顔に出ますね。ではお聞きしますが、僕には1%のチャンスもないんでしょうか?」
じっとあたしを見つめる。
睫毛長-い!!
…なんてそんなもん見てる場合じゃないわ!!

「そんな事ないですっ。ただ、ジエイさんはあたしじゃなくっても身分相応というか、ちゃんとお似合いの人が現れると思うから…。」
「身分相応というのは、僕が自分で判断します。でも、そうですね…それでは、お試し期間というのはどうです?」
「はあ?」

お試し期間?

「僕は今まで女性と真剣にお付き合いした事がないんで、あまり自信がないんですけど、一ヶ月試しに付き合ってみて、お互いに駄目だと思ったら別れるというのはどうですか?うん、それがいい。いいアイデアですね。」

オイオイ、何一人で納得してるんだい、お兄さん?
あたしの気持ちはどうなるの?

「駄目でしょうか?」
ジエイさんは捨てられた子犬みたいな瞳であたしを見つめる。
あーもうそんな顔しないで!!
「それなら…。いいですけど。」
まあ、今別に付き合ってる男もいないし、好きな人もいないから別にいいか…。
「でも、ジエイさんは何であたしにこだわるんですか?」
それが納得できない。
こーんなデーハー女のどこがいいの?
どう見たって釣り合わないよねぇ?

ジエイさんは再び笑顔に戻って小首を傾げる。
「言ったじゃないですか、面白い方だと思ったって。」
っていうかそれって…あたしはあんたのオモチャかっての!

「今まであまり恋愛には興味がなかったんですよ。うちの姉があっちの気があるのかと心配して探偵まで雇って僕をつけたこともある位でね。女性が嫌いなわけじゃなくって、僕の興味をそそる方が現れなかっただけの話で、好きな研究が一生出来るのならば別に結婚相手なんて誰でも良かったんです。」

恋愛に興味が無かったですって?
それって…。
変わってる!!
あたしなんて幼稚園で初恋してから何十人も好きな人出来たのに、絶対それっておかしい!!

いや、あたしは単に惚れっぽいだけなのかもしんないけど。
でも確かこの人二十五歳よね?
「あの、今まで付き合った方とか…?」
「ああ、いません。」
キッパリ。
こんな王子様みたいな美形なのに?
あたしより美人なのに、何かの間違いじゃないの?
「でも、言い寄ってきた人とかはいるでしょう?」
ジエイさんは眉根を寄せて不快そうな顔をした。
「ええ。殆どは僕の財産目当てでしょうけどね。そんな方達には興味も時間もありません。」
厳しぃ~っ!!
でもあたしはオッケーな訳?
その基準がいまいち…。
「里美さんのような飾らない性格の方は初めてです。」
それって…褒め言葉?喜ぶべきなのかな?
正面に座っているジエイさんはニコニコニコニコしてる。
あたしは妙に照れちゃってまともに顔が見れなかった。

っていうか…そんな優しい目で見つめられても…困るんですけどぉ…。

「あの、あたしのどこがいいんですか?」
という恥ずかし紛れの質問をした途端ガッシャーン!!
とグラスが砕けた音がしてあたしの左側の上半身に水しぶきがかかった。

ゲッ…。
あたし、またやっちゃった?

「ああっ、お客様、申し訳ございません!!!お洋服に赤ワインがぁぁぁ!!!」
ウェイトレスの声がした。
ああ良かった。
今回はあたしじゃない…。
って、ええ?
赤ワイン??

「里美さん、上半身が真っ赤に!!」
「あの、ソーダ水を!!」
ウェイトレスとジエイさんが同時に叫んだ。
あたしは恐る恐るお気に入りのベージュ色のニットセーターに視線を移動させた。

「ぎゃああ~~~~~!!!」
殺人事件の被害者の如く、左側が血のように真っ赤に染まっている。
これはニットだし、ソーダ水じゃ無理なんじゃ…。

「申し訳ございません、申し訳ございません!!!クリーニング代は出しますので…。」
ウェイトレスは平謝りに謝った。
涙目である。
あたしは彼女が可哀想になって、
「別にいいですよ、この位。大した事ないですから。」
と笑顔で言った。
「里美さん、お手洗いに行かれた方が良いのでは?」
ジエイさんは真面目な顔であたしにハンカチ(女のあたしがたまたま持ち合わせてないものを彼がなんで?!)を差し出した。
「ありがとう、ジエイさん。」

席を立つとあたしはトイレへ向かった。


あたしのニットセーターに大きくついたワインの染みはドライクリーニングじゃないと落ちなさそうだったけど、コートを着れば隠れる位置にあった。
ついでに化粧直しもしておく。
もう前回のような恥はかかないもんね~。
今回はしっかりメイクアップ道具が入ったポーチを持参した。

トイレから戻って席に着くと、ジエイさんは携帯片手に話をしていた。
っつーか携帯ストラップに付いてる黒キューピーちゃんに見覚えが…。

「ああ!!!それあたしの携帯!!」
「あ、里美さん。貴女の携帯が鳴ったので出ました。ちーさんという方からです。」
あたしに気づいたジエイさんは何事も無かったかのように携帯をあたしに手渡してきた。
っつーかあんた…。
鳴ってても人の電話に勝手に出るか、普通?

「もしもし?」
「ちょっとー里美!!!あんたデートするなんてひとっことも言ってくれなかったじゃない!!!しかも声だけ聞いてると、なんかセクシーでいい男っぽいじゃん!!!キャア~~~~!!!!!」
電話口でいきなり叫ばれた。
「後で言おうと思ってたのよ。で、どうしたの?」
「ああ、あのね、ジエイさん…だっけ?彼にも言ったんだけど、今夜六本木の『HELL』に行くから、十二時にマックの前でね♪」
えっ、ジエイさんにも言ったって…。
なんか嫌ーな予感がする。
「彼も誘ったからねっ。里美のデート相手がどんなんか、あたしらチェック入れるから。」
どっひゃぁ~~~!!!
絶対連れてけない!!
どうみたってこの人クラブ系の男じゃないし(カッコいいけど服装ちょっとお坊ちゃま系だし)、あたしの好みからは百八十度違ってるし(美形で髪の毛サラサラの天然茶色だけど、今時のヘアスタイルじゃないし)…。
ちらり、とあたしは横目でジエイさんを見てみる。
彼はあたしの会話を聞きながらも相変わらず笑顔で微笑んでいた。

「で、彼は何だって?」
あたしはジエイさんに背を向けて小声で友達のちーちゃんに聞いてみた。
「是非とも里美さんのよく行くクラブとやらを拝見してみたい、って言ってたよ。あんたなんか好かれてるじゃーん!!!」
嗚呼。
神様仏様~。
オーマイガッ!!
何て事になってるの!!!
一人で焦っているあたしも何のその。
「じゃあ里美、待ってるよ~。十二時マック前だかんね~。ばいび~。」
ちーちゃんの暢気な声がして、ぷつりと電話は切れた。

十二時!!

あたしは携帯を切るとそのまま時間を見てみた。
八時三十分だ。
残るは三時間半!!!

「ジエイさん!!」
あたしは電話に勝手に出られた事などすっかり忘れて、キッ、とジエイさんに向き直った。
「今からあたしの友達のサロンに行くわよ!!!彼女サロンの上のアパートに住んでるから。」
「は?」
ジエイさんは突然興奮しだしたあたしについて行けないらしくて、その整った顔の眉間に小さな皺を寄せる。
「その7:3分けを何とかするのよ!!!」
あたしはグイッと彼の腕を引っ張った。
「あと、そのセーターを肩の前で結ぶファッションは百年前に廃れたの!!服もどっかから調達しなきゃね!!」

そう、忘れてたけどあたしはメイクオーバーの女王!!
人様をクラブ系に、お洒落でカッコよく仕立てるのがあたしの職業。
カリスマショップ店員の意地を見せてやろうじゃないの!!!

「里美さん?突然…どうしたんですか?大丈夫ですか?」
会計を済ませたジエイさんは鼻息荒いあたしを心配そうな顔で覗き込む。
「ジエイさん、あたしとクラブに行くんでしょ?一日だけあたし好みの男になってくださいっ。お願いします!!」
あたしは大きく一礼すると、ジエイさんの腕を引っ張りながら店の外で待機している彼のリモに向かった。
 
外はもう既に真っ暗である。

あたしの戦い(って何の?)の火蓋は切って落とされた。
 


<ひとこと> 
とうとう連載してしもうた、天然男。里美さん突っ走ってくれてます。お陰で慈英さんの影が薄っ。波乱の一晩になりそう
です。この新連載もにがみどうと合わせてお楽しみください!!



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