「あ…も……だめっ!!」
激しく腰を打ちつけながら次宗さんは休む間も与えずあたしを攻める。
あたしは、思わず彼の背中に廻した手に力を入れて爪を立ててしまう。
指先を這わせる度に、硬い筋肉質の体中に走った蚯蚓腫れのような刀傷跡の感触を感じる。
これも…道場でついたのかな?
痛そう…。
いつかだったか弟の惟宗さんが、次宗さんは有馬流の道場では二番目に強い、と言っていた。
ゆとりのある笑顔の下の、負けず嫌いで正義感の強い人間性は一緒に居ればすぐ分かる。
きっと武人として、幾つもの戦いを経たに違いない。
あたしは快感で朦朧とした頭の中でそんな事を考えていた。
お互いの汗でべっとりと吸い付く素肌を。
熱く重なる呼吸を。
お互いの鼓動を胸に感じながら、あたしはつかの間の幸せを感じていた。
けれど。
今日は、何かが違った。
直感で、分かった。
次宗さんは、いつもより時間をかけて一つ一つの行為を確認するようにあたしの体を堪能しているようで。
そう確信したのは、彼のこの一言だった。
「お前の中で…果てたい……。…いいか?」
あたしの髪に顔を埋めながら、次宗さんは哀願した。
どんな事があっても避妊処理を欠かさなかった次宗さんが、だ。
抱かれながら、あたしはぼんやりと考えた。
今日は本当にどうしたんだろう?
あたしが無言でいると、彼はそのまま体を大きく硬直させ、そして吐息を吐きながら弛緩した。
その瞬間、あたしの中で熱いものが弾けた。
それは長いことあたしの奥で逆流して…。
「ありがとう。」
呟くような小声が聞こえたと思ったら、暖かいものが一滴ポタリと上から落ちてきてあたしの頬を掠った。
「…え?」
汗か涙か。
それが何であるか確認する前に、彼は頭をあたしの黒い髪に埋めてしまう。
ぎゅっと抱き寄せて。
そして一言呟いた。
「木蘭…お前を愛している。」
心の臓が、口から飛び出すのではないかと思った。
「え?次宗…さん?」
アイシテ・・・ル?
胸の中で、彼の言葉を反芻した。
次宗さんはあたしの髪の毛に熱い口付けを這わせながら、もう一度呟いた。
「愛している。……お前は…俺の事をどう思っている?」
唐突な質問に、あたしは戸惑いながら。
でも、はっきりと。
「木蘭も、次宗さんに始めてお会いした日から慕っておりました。」
ついに長いこと内に秘めていた想いを告げることが出来た。
「そうか…良かった…。」
大きくついた溜息があたしの首筋に生暖かくかかる。
彼がどんな顔をしているのか見たくて、横を向こうとすると。
「暫くこのままでいてくれ…。」
あたしの髪の毛に顔を埋めたまま次宗さんは切ない声で頼んだ。
「お前が…俺の息子とそう変わらない歳なのも知っている。…いい歳こいて歳若いお前に熱を上げている愚か者だという事も知っている。だが…。今の問題が片 付いたら…俺が松田屋の主人に話してお前の借金のカタをつけよう。その為だったら何でもするつもりだ。だから…俺の所に来い。いいな?」
まだあたしの中に入ったままの彼はぴったりと体を密着させ、あたしを強く掻き抱いたまま微動だにせず耳元で熱く囁いた。
今の問題……?
どういう意味なんだろう…?
あたしは、何か引っかかりを感じながらも、それ以上の喜びに押しつぶされそうになりながら返事をした。
「はい。」
その言葉を聞いて、彼はやっと顔を上げてくれた。
印をつけるかの如く、あたしの唇に熱い接吻を落とす。
あたしたちは、舌を絡ませながら暫しお互いの味を味わった。
唇が離れると。
次宗さんは至極真面目な顔であたしに問うた。
「お前の髪を一房くれないか。守り代わりに持つ事にする。」
あたしの髪を一房手に取って、愛しそうに口付けた。
「髪?守り?何で?今日の次宗様ちょっと変だよ?」
と心配声のあたしを無視して。
次宗さんは再びあたしの中の熱い自身を動かし始めた。
長いようで、短い夜だった。